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85 北の砦

「もう一度だけ言おう。この町を治めていたブルクス伯は、帝都の異変で生死不明。帝国も内乱でこの先どうなるか分からぬ。よって、砦の司令官たるこの私がこの街を統治してやろうと言っているのだ。これを断るならば、私は兵を連れ帝都に戻らせてもらう。その後、帝都から流れてきた貴族やその私兵、或いは盗賊などが町を襲っても、我らは一切関知せぬ。さあ返答は如何に」


中央大陸北部にある小国ブルクス。元は独立した都市国家であったが、帝国からの圧力に負け、自ら下って臣従したため、対帝国戦においては殆ど犠牲無く残った都市である。しかし、対魔法王国戦において従軍を命じられ、帝国戦で町の破壊を免れたにもかかわらず、帝国に徴兵された多くの民を失うことになった。帝国内戦期にあっては、帝都やその衛星都市との距離が離れていたため、戦火に見舞われる事無く徐々に力を取り戻し、一時は帝国の支配から逃れたこともあった。帝国の建て直し後には再度臣従を迫られ、再び帝国に下った。

帝国は治安維持の名目でブルクスの目前に砦を築き、北方への睨みと税の徴収をすることとした。ブルクスの目前に砦を築いたのブルクスが北方で最も与し易い都市であったからだ。

そして今、ブルクスの代官屋敷のその応接間で、3人の武装した兵士を従えた、砦司令官を名乗る物が、ソファーに座り先の言葉を吐いていた。太い腕、太い太股に、太い首、人を軽く圧殺できそうな重量を裏付ける腹、見るものを恐れさせる無駄に飾った衣装と、それは何かの武器かと問いたくなる、両手の指輪。砦司令官という肩書きだが、どう見ても武人では無いようである。そして、この司令官は代官に無理難題を吹っかけ、代官が対応を誤ればそれを理由に強制執行するつもりであり、話に言う私兵だの盗賊だのは、司令官自身が指揮して襲うという意味で言っていた。


「ですから、先程も説明させていただいた通り、私は代官と言っても決められた事柄を代行するだけで、そのような決定権をもっていません。どうかせめて明日の朝まで、他の者と協議するための時間をください」


代官の返答も何度目かの繰り返しでしかない。代官はブルクス伯家に仕えている家系の者で、税の徴収や町で発生する公的費用の支払いなどの、実務を領主に代わって行っていただけで、政治的な決断権など持っていない。ましてや、町の譲渡とも言える行為の決定権などあるはずも無く、如何にしたら司令官の要求を、一分一秒でも引き伸ばせるかと考えていた。


「そうか、ならばもうよい。こ」


ドドーーーーーーーーーン!!


司令官がなにやら決定的な言葉を吐こうとしたとき、轟音と共に屋敷が、いや大地が揺れた。


「な、何事だ」

「これは・・・まさか、投石器で町を攻撃して?」


ドーーン

ドーーン


代官は信じられないと言う顔で、砦司令官を見る。

中央大陸に限らずこの星には地震という現象が無い。そのため、この場の誰もが真っ先に考えたのが、投石器などの攻城兵器による攻撃と、それによる倒壊が原因の振動だ。そして、そのようなことが出来る戦力は、砦をおいて他には考えられない。


「馬鹿な、私が戻らぬうち攻撃するなど・・・まさか、ユダットの奴私を消して司令官、いやこの街の王になるつもりか!」


ユダットと言うのは砦の副官であり、兵士からの叩き上げという経歴をもち、司令官とは何事においても意見な合わぬ相手だった。普通であれば、町諸共司令官を殺して、その地位を奪うという方法が、仮にも軍隊で通用するものなのか、またそんな方法で部下を掌握できるのかという疑問が、浮かびそうな物だが、司令官の脳裏には“くっくっく、如何に優秀な司令官とて投石器を食らえば助かるまい。司令官が死ねば町は俺の物だ”などと言って、笑う副官の顔が浮かんでいた。

司令官は被害妄想ぎみの上に、自分の評価を無駄に高く考えている男だった。


「おのれ、ユダットゆ『た、大変です。砦が攻撃されています』るさ、何だと!」


司令官が副官への恨み言を言おうとしたところへ、ブルクスの兵らしき者が飛び込んできて、言葉を遮る。司令官は言葉を遮られたことにも気がつかず、兵の言葉に驚きの声を上げた。


代官と司令官が、すぐに外へ出て確認すると、防壁の先にある砦の形が変わっている。特に大きな違いは、砦の上部にあったはずの尖塔が無くなっている。先程の振動はおそらく、倒壊した尖塔が落下した際の振動なのだろう。兵が瓦礫に埋もれているならば、救助をしなければならないが、砦からは先ほどではないにしろ、今尚大きな音と振動が伝わってきている。


「敵は何物だ、どこから攻撃されている」

「・・・・あ、て、敵は魔物です」


司令官が、門を閉じようとしている、ひとりのブルクス兵を捕まえ、状況を聞く。だが、ブルクス兵は短く応えて、門を閉じる作業へともどる。


「おい、砦の兵はどうなっている。それに門を閉めたら兵が、出入りできぬではないか」

「無理です、すぐに閉じなければ魔物に入られてしまいます。それに砦は治安維持のためにあるのでしょう? その砦兵士が逃げてきてどうするんです」


ブルクス兵の最優先事項は町と自国の民であり、そもそも治安維持の名目でブルクスを見張るため作られた砦が攻撃されようと、そこに駐留している兵士がどうなろうとも、知ったことでは無いというのが、彼の気持ちなのだろう。


「な、貴様この私を誰だと思っている」


司令官にとって、砦は部下の居る自分の城だが、聞かれた兵にとってはそうではない。兵は悪い意味で偉そうで、そして、見るからにこの状況では役立たずと思われる司令官を無視し、門の内側に土嚢や木材などを積んで門を補強することにした。

だが、相手にされなかった司令官は、剣を抜き兵の背に向って叫んで斬りかかった。

ぼむ。


「え? はぶっぺ!」


駆け出そうとした司令官は、何かやわらかい物につまずいて、奇妙な声を上げて体制を崩し、顔面から地面に着地して転がり、動かなくなった。

司令官がつまずいた位置には、いつの間にか大きな猫が寝転がっていた。


「なぁ~ん」


猫はしばし足で耳の後ろをガシガシとかいた後、一声鳴くと自分につまずいた司令官元へと行き、その上着で爪とぎをする。刺繍の施されたマントや上着をバリバリとかいて、ぼろ布に変えて満足したのか、猫は町の奥へと歩いて消えた。


「・・・・何ですか今の猫は」


代官のつぶやきに応える者はなかった。


◇◇◇


「クシミール殿、八咫烏(やたがらす)が戻ってきましたぞ」

「長老殿、それで何か分かりましたかな」

「うむ。先ず北部の国というか都市を見つけたそうじゃが、都市の近くにある砦には攻城兵器などが用意されておるそうじゃ」


リリパット族のランデン長老が、八咫烏と呼ばれる偵察機の得た情報をクシミールに伝えている。八咫烏はそのイメージとは違い、大型の鷲を模したデザインで、機体カラーは地球の戦闘機同様にグレー系の塗装がなされた、リリパットなど小型種族用の機体だ。空を飛ぶなら青が保護色かと言うとそうではない。戦闘機や軍艦の殆どがグレーであるのは、それが一番視認されにくいからなのだ。また偵察機であるため、下方への視界を取る工夫として、操縦席下部に透明な素材が使われ、翼もガル(よく)にすることで後下方への視界を確保している。武装は両翼に取り付けられた小型魔道銃から打ち出される9mm実弾と機体先端から打ち出される火炎弾と、と対地攻撃用の投下装置を装備している。魔道銃は発射装置を魔法で代行した魔道具なのだが、八咫烏に装備されたものは火薬の代わりに圧縮酸素を使用するため、あまり威力は無いと思う。・・・名前を八咫烏にした理由は、偵察により見方を導く者という感じだな。やたがらすの“ やた”は大きいと言う意味で、日本神話では天照神が遣わした大きな鳥ということなのだが、中国にも三本足のカラス伝説があるため、これと同一視されたのかもしれない。


「砦は都市を攻めるつもりなのでしょうか」

「詳細はわからんのう。都市が帝国を裏切って、挙兵しようとしておるのか、単に砦が都市を威嚇しているのか、どちらにせよ危険な状態じゃな。争いが近いのかもしれん」

「やはり、潜入するしか有りませんかね」

「そうじゃのう。先ずはケット・シーに行って貰い、情報を得た後判断するのが良かろう」

「では、そのように進めましょう」



今、街の集会所は北方使節団の作戦会議室になっており、先程のようにクシミールやランデン長老が現場担当者からの報告を聞き、次の指示を出している。そして何故か俺は、そんな彼らの会議を横から眺めている。普通使節団と言えば出かけたきり戻らず、責任者の権限でその場その場の判断をしていくものだと思うのだけど、うちの使節団はまだ本隊が街に残っているので、俺は会議のオブザーバーを頼まれた。座っている位置は議長席っぽいんだけどオブザーバーだ。

そして、前世の俺の何倍も生きている二人が、方針を話し合いながら、ちらちらと俺を見てくる。・・・特に問題ないと思いますよ? でも折角使節団にしたので、俺は口を出しません。何か俺の能力が必要ならそれは手伝うけどね。


諸事情により更新が不規則になるかもしれません

とりあえず次回は20日です

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