84 温泉
「んっじゃ行くぞ、十字槍モード雷霆」
俺が十字槍の穂先をトロールに向け、キーワードを唱えると穂先に魔法陣が展開され輝きだす。雷霆とはギリシャ神話の主神ゼウスの主武器で、遺跡から発見された神像などによれば、密教法具の三鈷杵のような形状と考えられていたようだ。その威力はは世界どころか宇宙すら焼き尽くすと伝えられている。
「ロックオン、ショット!」
掛け声と共に十字槍から火炎弾が撃ち出され、トロールに当たり爆炎が弾けた。
そして煙の中から現れたのは、右半身を失ったトロール。だが、トロールを倒すには未だ足りない。トロールは常識離れした回復力をもち、放置すれば数分で体を再生してしまう。失われた半身もじきに再生されるだろう。
「モード、グングニル」
十字槍の魔法陣が消えて、再び小さな魔法陣が三つ展開される。一つは槍の先端、一つは俺の手甲。
「ショット!」
直後、槍は俺の手を離れ、魔法陣の最後の一つに向け飛翔していく。魔法陣の最後の一つがある場所は、トロールの胸だ。
グングニルは北欧神話のオーディンの槍で、一度投げられれば必ず敵に命中し、ひとりでに手元に戻るという。そのグングニルを魔道具として、俺なりに再現したのがこの槍だ。
槍はトロールの胸にある魔法陣を目指して勝手に飛翔する。槍に推進装置があるのではなく、穂先の魔法陣が的の魔法陣に向って、魔力で引き寄せられてい格好だ。
欠点は遮蔽物があった場合、刺し貫く恐れがあることだが、一応投げた後に手元に戻すことは出来る。
戻したら、必ず命中とは言えないが、味方を貫通しては大変なので、これは仕方がない。
トロールは身を捻って槍をかわすが、トロールを通り過ぎた槍は向きを変え、再びトロールめがけて飛翔し、背後からその胸を刺し貫いた。そして槍はトロールの体から消えて、俺の手元に再び戻る。
ゆっくりと、トロールが倒れながら消えていき、魔石が残った。
雷霆と名づけるには、少々貧弱すぎる気もするが、一応出力50%ぐらいで撃ったはずなので、最大火力なら一撃だろう。
「どうだ?」
モーブを見やると、大口開けて固まっていた。
「・・・どうもこうも何だ、その槍。以前は普通の槍だったのに、完全に別物になってるじゃないか」
「そうだな、ドルトンの手を借りて魔道具に改造した。新機能はこれだけじゃないんだが、その薙刀にも魔道具が仕込んである」
「なに?・・・どうやるんだ」
「薙刀をあの木に向けて、ブリューナクだ」
「ブリュウーナク・・・穂先が変わった!?」
「魔法の袋と召喚術を応用してる。古代遺跡の蔵書のおかげで、出来ることが大幅に増えたんだが、今は置いておこう。その状態で的に向けて発射とか、ショットとか言ってみ」
「・・・発射」
モーブの宣言で鏃が撃ち出されて真っ直ぐ飛んでいく。目標の固定機能は無いが代わりに・・・。
「なんか稲妻みたく光ってるぞ」
「ああ、雷霆と違って、ブリュウーナクは真っ直ぐ撃ち出すだけだが、威力と貫通力を増すために特殊な魔力光を放っているはずだ。ちなみに、装填やセットで再度、刃がセットされる。数は十発くらいで、柄の先端が魔法の袋同様に収納装置になっている。元の薙刀に戻す時は岩融だ。岩融もいくつか予備が収納されているから、欠けたり抜けなかったりしたら、破棄して新しい刃に付け替えられる」
「ドルトンが言っていた刃が生えるとは、そういう意味か」
バキバキバキバキ・・・・
「ミスリルといっても壊れないわけじゃないから、戦闘中駄目になることもあるだろ、そんな時容易に交換できるようにした。当然値段は跳ね上がるし、身内にしか提供しないけどな。ドルトン的には、壊れない刃を作るのが正道で交換は邪道なんだろうけど、カッターナイフとか便利だろ」
ビーム・○ャベリンのような、実体のない刃は作れないので、カッターナイフやロケット鉛筆のように、刃が駄目になったら、新しい刃が中から出てくるようにしたわけだ。
「確かにそうだな。袋から出すよりも早いし、便利だ。・・・って、そうじゃない。あれを見ろ、威力ありすぎだろう」
モーブに言われて、ブリューナクが飛んでいった方を見れば、何本もの樹木が倒れている。あ、さっきの音は樹木の幹がブリューナクで消し飛ばされて、倒れた音か。
「見ての通りだから取り扱いには注意してくれ」
「試作品でこの威力って如何なんだ、正規品は威力増すのか? 減らすのか? 程ほどにしておかないと、魔法王国見たいに爆発するぞ」
「・・・そうだな、ドルトンにも言っておくよ。後はこれだ」
「まだ何かあるのか?」
「その薙刀の柄だよ。前世の俺が育った国の槍に“天下三名槍”といわれる槍があってな、その一つ蜻蛉切を真似て用意した」
「とんぼを切る槍?」
「いや、刃先に止まろうとした、とんぼがそのまま真っ二つに、切れたことから名前が付いたらしい。刃が鋭過ぎてとんぼも止まれなかったって事だな。その槍が6mと4mの柄を使い分けていたというので、真似たわけだ」
「なるほど、使い方は想像できた」
蜻蛉切は本田忠勝の槍で、東京国立美術館が管理しているらしい。
「このエリアに来たついでに、ちょっと探したいものがあるんだが、まだ時間はあるか」
「大丈夫だ」
「じゃあ2tダンプをだして、山へ向うよ」
「探しているものは何なんだ」
「山あいで川が流れているようなところだな。この山にあるはずなんだが、実際には見たことがない」
「例の設定か」
「ああ、設定したからあるはずなんだよな・・・モーブは地面の中の様子とか分からないよな」
「分かるぞ」
「だよな・・・え? 分かるのか」
「穴掘りしているうちに何と無く、地中の埋蔵物や水の流れを感じるようになった」
「じゃあ、ちょっと温泉を探索してくれ。温泉というのは熱い水だ」
その後モーブの探知を頼りに、温泉を探して2時間・・・。
「この辺にありそうな感じだ」
「そうか、じゃあちょっと黒足つれてくる」
街に戻って黒足を捕獲して戻る。
「あ~変な臭いがしますね、そこへ向うんですか」
「ああ、頼む」
暫くすると俺の鼻にも臭いが感じられるようになり、やがて白い湯気が見えてきた。
所々岩ころがるくぼ地に温泉が湧き出し、下流に流れている。ここが源泉だな。
「鑑定と素材スキャンして・・・ちょっと熱いけど冷ませばいいだけで泉質は問題ないな。よし、モーブはこの辺を軽く整地してくれ、俺がそこに小屋を出す」
とりあえず簡単な露天風呂を作っておこう。
「整地したぞ」
「わかった、次はこのあたりに直径10mぐらいで縁を少し盛ったくぼ地を頼む。深さは60cmぐらいで、表面は泥が溶けないように固めてくれ」
小型ログハウスや、居酒屋兼宿屋を設置して、周辺に魔物避けの魔道具を設置する。
モーブの作ったくぼ地の周りに、ブルーシートと、簀を引いて通路を確保し、シャワー室も設置する。浴槽の周囲も少し削って排水路も確保した。
「最後に向こうの湯が沸いているところと、このくぼ地をつなぐ溝が欲しい。多少湯を冷ましたいから深い溝ではなく、浅く広い感じで頼む」
やがてゆっくり、湯が流れ込んでくる。露天風呂にたまる頃には、日が落ちる感じかな。今のうち誰か呼んでこよう。
街に戻って、数人キャッチした。クシミールさんを捕まえたら、家族も付いてきた。露天風呂の仕切りがないんだが、どうするか。水着でも着てもらうか? ならもう少し女性を呼ぶか?
「外で、男性と一緒にお風呂ですか?」
レオノールがジト目で聞いてくるが、やましいことなんて何もないぞ。
「まあ男女共に裸で風呂にはいる混浴という形式もあるが、今回は単に壁やら仕切りやらを設備する間がなかっただけだ。だから水着で混浴という事で、了解してくれ」
女性陣はレオノール、モーナ、ドワーフの女性と、クレマリアにユリアンニだな。ユリアンニは水着で露天風呂をあまり気にしていないようだけど、流石に他の人は少し戸惑っているかな。
「先日海に行ったばかりですから、かまいませんけど、このお湯変な臭いがしますよ。かえって汚れませんか」
「臭いは地中の成分が関係してるんだけど、肌の汚れを落としてきれいにしてくれたり、肌に張りがでたりと、美容効果もあるんだよ。店の商品に温泉の素があるけど、これは本物の温泉だよ。シャワー室があるから、そこで洗って温泉に入ってもらう。この泉質ならそのまま上がっても平気だと思うけど、気になるなら最後にもう一度軽くシャワーだね。でも温泉成分が残っている方が効果あるよ」
顔を見回すと女性陣の目が、光っているように見えた。
「それならば、仕方がありませんね、シャワーを浴びて温泉に入りましょう」
レオノールたちはうって変わって和やかにシャワーへと向った。
「ここも、急いで開発するようだな」
「帝国から来た人たちの仕事が出来てよくないか? 俺はここに温泉街を作りたい」
「わかった、それはキャサラに任せてもらってもいいか?」
キャサラ? 誰だっけ。
「さっき居たドワーフでわしの嫁だ」
「ああ、ブライアンの妹か。・・・水着持ってるか?」
「わしの分と一緒に服屋で買ってくるんじゃないか? 実は銭湯もキャサラに駄目だしされて、少し改修したし、女性に見させた方が不満も出にくかろう」
「そうだな、俺もそれでいいと思う。じゃあ俺たちも入るか」
「わしはキャサラが水着を買ってくるまで、待機じゃ」
「・・・・あ~・・・山の中腹で、こうして月を見ながら露天風呂に、入れる日が来るとは思わなかった」
森には山がなかったし、温泉も無さそうだった。
「ケント、飲まないか」
「いいね、じゃあちょっと待ってろ」
店にある木製のたらいを、いくつか出して徳利とお猪口を並べる。
「露天風呂で酒といったらこれだよ。肴は漬物で良いかな」
「ビールは無いのか」
「ビールか・・・じゃあ冷やすための氷と皆の飲み物と食べ物を頼むか」
女性たちにも希望を聞いて、俺は電話で居酒屋に注文を入れる。もちろん今まで出前サービスなんて無かったから、今回初めてのことだね。でも、配達はゲートで直送という“所謂、蕎麦屋の出前”が絶対にない早い宅配だ。一般にも許可すれば宅配産業が発展するかな?
10分程で、注文の品が届く。その際に居酒屋兼宿屋がある事を伝えておく。独立したい者がいれば、ここでの営業も検討してもらおう。
「しかし、ゲートがあればすぐ帰れますから、宿泊する方は少ないのでは?」
ヨルンが尋ねて来る。こいつは洋酒派だな。温泉で水割り飲んでやがる。
「確かに宿泊や食事に金はかかるけど、のんびり食べて風呂に浸かり、用意された床で寝て、また風呂に入てって感じで、休日を満喫できるだろ。特に女性は家事も休めるし」
女性たちも、お茶や酒を飲みながら、実に楽しそうだな。
「銭湯のような感じですか」
「そうだな・・・というか、元々銭湯というのは、風呂に入るだけなんだ。でも、色々サービスを増やした結果、今のような銭湯になったけど、風呂以外の事は温泉宿の方が先だったんだ」
「いやあ~温泉良いですなあ。実に素晴らしい」
声のほうを見ればクシミールさんが、娘と孫からお酌されて上機嫌だ。ヨルンは、目を見開いて“その手があったか“と小さくつぶやいている。日頃子供にかまいすぎるから、邪険にされてるんじゃないか?
次回18です




