82 休日
「これが、海ですか」
「ああ、ダンジョン内ではあるけれど、出来る限り外の海に似せて作った。まあ季節は固定だけどな。海水は川や池の水と違ってしょっぱくて飲めないから飲むなよ」
今俺たちはダンジョンの地下4階にある海洋フロアにきている。
フロアと言っても、俺のダンジョンの特徴として、平面空間ではなく地球同様に球体になっている。そして、この海洋フロアは大きく四つ季節に分けられている。
さて問題になるのが、この季節の分け方だが、例えばスイカを四つに切り分ける場合はどうするだろうか。普通は上から見て十字に切り分けると思うが、ここでそれをやると、極点となる上下の十字部分は、季節が四つ集まる異常事態になる。俺としてはどこぞの海のような異常気象で、無駄に難易度を上げる必要は無いと考える。ゆえに素直に輪切りで設定した。地球に4本横線を引いた感じになる。その結果、北から南に向って順に、冬春夏秋冬と並んでいる。冬が二つあるが、面積の配分は調整したので、他の季節の倍あるわけでは無い。
これにより、海上や空を移動しても壁にぶつかることが無く、いきなり冬から夏になるような事も無いわけだ。
「ここには池や川には居ない、魚や生物が居るわけですね」
「そうだ。ただし、海の魚にはヒレや体内に猛毒を持つものが居るから、最初は魚に触らないようにして“物知り博士”で調べてから触るように。もちろん毒のある魚は食べると死ぬから食べるなよ。写真を撮って名前を記録してから、海に投げ捨ててくれ。海草についても食べられるものや、干すと良い出汁が出るものがあるから、見つけたら記録してくれ。それと川と違って波があるし嵐といって海が荒れることがあるから、馴れるまではあまり外洋に出るなよ」
「分かりました。最近は川の漁も馴れましたから、新しい漁をしてみたかったのです。どんなのが獲れるか楽しみです」
「海は2mぐらいある魚も居るけど、人を食うような獰猛な魚も居るからな。一応各陸地から100mまでは安全地帯に設定されていて、人を害する生物は寄り付かないようにしてあるが、そこを超えたら魔物も出るからな。それとこれ持ってけ」
俺は木工職人に造ってもらい塗料で防水した木製の浮き輪を渡す」
「ライフジャケット着ていれば浮くけど、念のためだ」
「分かりました」
ドワーフ漁師のブルーノと数人の仲間たちは、10m程のクルーザーのような船をゲートで取り出し海に浮かべる。釣り船を作りたいと言うから、ネットで調べられるようにPCを複製して渡したけど、こんなでかいの作ってたのか。車輪は無いけど大丈夫なのだろうか。え、船体を朧ミスリルで覆ってんの? 草刈機とネットの情報を参考に船外機を積んだ? 内部の休憩室には水が入らない仕組みで、ブリッジに浮遊石が入っているから嵐でも絶対に沈まない? お前ら漁師なのに鍛治も出来たのか。鍛治木工はドワーフの嗜み? そうですか、じゃあ怪我しないようにがんばってくれ。
ドワーフの鍛治木工などの製造系の職人じゃないから、あいつらドルトンの指揮下で働いてなかったけど、船自作できるんだな・・・専門職以外でもこれだけの技術があるなら、暇なドワーフに頼めば仕事の分担も出来るよな。帝国から助けたドワーフも居るし、漁師連中に海上用の武装船の作成を指揮してもらおう。・・ドルトンのやつ水が駄目だし。
「漁師組みとの話は終わった。それではこれから海水浴について説明する」
「おう、待ちくたびれたぞ。ここで何をするんだ」
「最初に注意事項だけど、海は見ての通り波があって、危険もあるし注意していないと沖に流されてしまうこともあるので、あまり奥まで入らないこと。海に入る前に、準備運動してから入ること。子供は必ず大人の目の届くところに居ること。それじゃあここに、レジャー用の椅子やシートを並べて、パラソルを立てておくから、疲れたら飲み物を休んでむように。海の水は飲む前に味見すること。・・・味見だからな、いきなり飲むなよ。それとの辺りに、海の家という食堂を設置しておくから、腹が減ったら利用してくれ。今日の店主は街の食堂から来てもらってるから、利用してやってもらえると助かる」
「食堂か、随分壁が少ないんだな」
「海が見られていいだろう。次にボールやおもちゃを取り出し・・・遊ぶ」
ユリアンニに、やわらかいフライングディスクを飛ばし、ライムートに向ってドッジボールを投げる。二人はそれぞれ受け取ると友達と一緒に遊び始めた。
「ぶへ、しょっぱ!? 海の水しょっぱ!!」
そして、早速波打ち際で、味見しているやつが居る。ヨルンか、いいリアクションだ。
子供たちが釣られて、なめて騒ぎ出した。うんうん初海水浴らしくて中々いいぞ。
そして、スマホを構えて撮影する親たちは、まるで日本のようだな。ヨルンも騒いでないで、早く子供の写真なり動画なりとってやらないと、チャンスを逃すぞ。
「後はこれだな」
透明度の高いプラケースと、先程の浮き輪を装備し、俺は海へと向かう。俺はゴーグルだけあればいいんだけど、他のみんなは初めての海だからな。
「え、海に入るんですか」
「海水浴とはそういうものだ」
海に入り海中を覗き込む、おお、結構魚が居るな。
俺は水陸両用自転車を召喚し、船上にゲートを開いてレオノールを呼んでやる。これはちょっと改造してあり、一部船底をくりぬいて透明なアクリルを、取り付けて海中を見えるようにしてある。
「その穴から海中が、見えるようにしたんだけどどう? 魚は見えた?」
「凄く鮮やかな魚がいっぱい居るわ、川の魚とは全然違うのね」
「そこに、鮮やかな草のようなコケのようなものが居るだろ、珊瑚と言う生き物だけど、川はこんなに鮮やかな生き物が居ないから、魚も地味な色だとか言われてるね」
「あ、大きな海老が居るわ」
「え、どこだ?」
「船の右下の方」
「よし、捕まえる。ちょっと船につかまってて」
このダンジョン、ホムセンと一体化したために、ダンジョン全てが店の領域になっている。逆に、店がダンジョンの一部ともいえるので、俺の死後、誰も後継者が居なくとも店は残るようだが、まあ今はおいておこう。
送還・・・よし獲った。
伊勢海老っぽい海老のいた場所だけ送還して無事捕獲した。まあ、海老のいた海底と上の海水も一緒に送還されたので一瞬波が立ったが、レオノールにも問題はなかったようだ。
「岩場ならサザエも獲れるのかな?」
「サザエというのはどんな魚?」
「いや、貝だよ。美味しいんだけどここには居ないね」
「ケント様うちの子にも船を貸していただけますか」
レオノールと海を堪能して浜に上がると、ヨルンがやってきた。後ろには奥さんと子供がいる。
「いいけど、お前泳げるか? 足が付かなくなるあたりで、海底の様子が変わって鮮やかな植物みたいな岩みたいなのが沢山居るあたりに、魚も居るからな。一応全員ライフジャケット着ておいてくれ。後スマホは防水の袋に入れとけよ」
「子供は見ていてやるから、ヨルンの後モーブも海を見てきたらどうだ」
「そうか、じゃあ暫く頼む」
「さて、海の家といえば・・・焼きそばだが、生麺はもちろん蒸し麺も無いから、カップやきそばだな。後はカレーとラーメン・・・チャーハンなんかもいいかな」
漁師が色々取れるようになったら、刺身なんかも、食べられるようになるかな。
「お館様、チャーハンとは?」
「あ、チャーハンはまだ街に伝えて無かったか」
臨時店主をしている食堂の従業員が尋ねてくる。名前は知らないけど、たまに厨房に入っている人だったと思う。ちなみに人族だな。
「分かった。俺がチャーハン作ろう・・・材料は・・・あるな。はい、まず卵を白身と黄身で分けて、白身に熱いご飯を投入してよく混ぜる。炒め用テフロンフライパンを熱して、フライパンに油を入れて表面に広げ、刻んだ肉とねぎを炒める。先程の白身ご飯に黄身を入れて再度混ぜたら、この卵かけご飯をフライパンに投入して、切るように良く混ぜる。少量のガラスープと醤油を加えて炒めて、塩コショウで味を調え完成だ。まあ素人料理だけどな」
「中々、美味しいです。これ店で出してもいいですか。それと、今使っていた卵分ける道具とフライパンで使っていた道具を、買いたいです」
「いいよ、後で他の料理も教えるよ。道具は店の調理道具売り場で売ってるんだけど、あまり知られてなかったのかな」
卵を分けるのは、くぼんだ金属の・・・アレで、いためるのに使ったのは、へらではなく指みたいな突起の付いた炒め物用のアレ・・・どちらも名前を知らないけど、日本じゃ珍しくも無い調理器具だから気にしなかったけど、この世界じゃ超便利グッズなんだな。
「ところで、ヨルン。海で生活している種族って知ってるか」
海の家で親子丼を食べていたヨルンに尋ねてみる。・・・その親子丼は普通に街で通用する味だから、海の家で食べるにはウマすぎるメニューだな。もっとこう今一な感じがいいんだよ。あまりうまそうに食うと、俺の膝の上のモーブの子が、食べたそうに手を伸ばすから少し顔を隠してくれないかなあ。あ、こらお前にはまだ早すぎるぞ。
モーブの息子は両親から一字とってナーブという名前になった。命名はモーブたちで俺じゃないので突っ込まなかったが、第二子が生まれた時にどうするつもりなんだろうか? でも女の子なら“モモ”もありかな。
「下半身が魚みたいな種族の噂は、聞いたことがありますね。森の南の海に行けば何か聞けるかもしれません」
「南かあ、北の大陸側に詳しい者がいれば、協力してもらいたいけど、そう都合よくは行かないかな」
「ところで今日は、どうして海に来たんです?」
「ん? 普通にレジャーだよ。モーブも子供と過ごしたいといっていたし。休日の過ごし方としてスポーツとか広めたけど、単純に遊ぶのもいいだろ。後は森で育った者は海を見たこと無いから、一度見せておきたくてね。折角作ったダンジョンだから、利用した方がいいしな」
「それはそうですね」
「後は漁師連中がだいぶ船になれたらしいから、海での漁も出来るかと思ったのもある。これからは海産物も手に入るようになるし、森には無い様々な資源が手に入る。生活は今より、もっともっと豊かになるぞ」
一度海で遊べば、この常夏の地がリゾートになるのもすぐだろうし、他のエリアも海洋資源を得るためには役立つだろう。・・・あ! 俺、前世で甲殻類アレルギーがあったから、伊勢海老なんて食べたことないし、蟹なんかのうまい調理法も知らないから、帰ったらすぐに調べなくちゃ。
次回14日です




