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81 牢獄の亡霊

帝国と呼ばれる国は、かつては100万人を越える人口の帝都と、帝国に臣従する周辺の衛星都市を含めれば、平時においても優に2万の兵力をもち、中央大陸における最大国家として隆盛を極めていた。

しかし、その版図は大陸中央以北に片寄っておりその理由こそが、魔法王国の存在だった。

魔法王国は古代文明の遺産たる魔法や魔道具の技術を有し、国力こそ帝国に遠く及ばないが、いざ侵略となった場合その抵抗は、激しいものとなると考えていた。

そこで帝国は、あくまでも平和的な外交の一環として、魔法王国へ交易を持ち掛けて、生活用品魔道具の取引と生活魔法の技術移転を求めた。これに対し魔法王国は要求通り魔道具の供給と、何度かの技術供与を行った。

魔法王国から供与された魔道具により、帝国の暮らしは格段に向上した。それは僅かな間とはいえ帝国が侵略を忘れ平和な繁栄をした期間でもあった。だが魔道具はある程度の時がたつと、その機能を停止してしまい、機能を維持するためには高額な魔石を魔法王国から、買い続ける事になった。

そして魔法については、何度指導を受けても帝国人で、魔法を取得できたものはおらず、魔法王国は魔法を教える気が無いのではないかと、思い始めていた。魔道具を得はしたが、当初の狙いであった魔法による戦力強化は絶望的であり、一部の帝国貴族には“魔法王国は帝国を下に見ている”や“一度帝国の力を見せてやるべき”などと好戦的な意見が現れ始めていた。

やがて、帝国は魔道具による繁栄の影で深刻な財政難におちいる事になり、魔道具の維持ができなくなっていく。人は一度向上した暮らしを容易には下げられない。資金が枯渇し魔石が購入できなくなった時、帝国による魔法王国への侵略が始まった。王都の北側にあった町は瞬くに帝国に蹂躙され、多くの者が捕らえられ奴隷として帝国に送られた。

そして、魔法王国は対帝国戦で使用した魔法の暴発で地上から消滅し、侵略の大きな目的であった魔石も魔道具も二度と手に入らなくなった。帝国は責任の擦り付けあいから内乱に発展し、その国力を落としていった。


「と言うのが、帝国の歴史だ」


俺は、変声の魔道具とフードを目深に被ったローブ姿で正体を偽装し、牢獄の中にいる帝国の捕虜たちに、帝都を鑑定して得た情報を話して聞かせた。


「ばかな、そのような嘘が通じると思うてか」

「事実だ。付け加えれば、帝国人は魔力をほとんど持たぬから、魔法を扱えないのだが、神ならぬ魔法王国には、知りようもない事だ」

「ならば、なぜお前にそれがわかる」

「わかるとも。何故なら我は・・・・」


言いながらゆっくりと、俺はフードに手をかけゆっくりとめくって頭を露出する。フードにはベールのような黒い薄布がついていたが、牢獄の暗さもあって単に顔が影になって見えないのだろうと思っていたはずだ。だがフードが取り払われたその時、牢獄の灯りがふっと消えた。


「ひっ」

「ば、化け物」

「はうっ」

「ひー」

「た、助けてくれ~」


取り払われたフードの下から現れたのは、青白くぼんやり光るのっぺらぼうの頭部。あ、数人が気を失ったが、まあいいや。そして、羽織っていたローブをスルッと床に落とすとそこにあるのは、頭部同様に青白く光る人の形をしたなにか。


「我を化け物とな? かつての皇帝の命に従い帝国のために戦い命を落とし、あげく神の不興をかって今なおこうして、現世にとらわれている我を化け物と言うか」


俺の声は魔道具によって加工され、エコーのかかった声が牢獄に響きわたる。更に俺は両手を広げて、淡く光るからだを誇張して見せる。


「・・・もしやご先祖様なのですか?」


現皇帝の従兄弟である幽閉されていた男が、口を開く。


「ふん、何が先祖か。我の子孫の血など、帝国に一滴も残っておらぬ。・・・もっとも、神の不興を買いし貴様ら帝国の皇族に子孫繁栄などありえぬがな」

「か、神の不興とは、どういう意味です!?」

「決まっておろう。魔法王国消滅の一件に、神はお怒りだ」

「な!? おっしゃる意味がわかりません。魔法王国は神の怒りで滅びたのではないのですか」

「否、魔法王国が滅びたは、魔法兵器の暴発によるもの。だがそこまで追い込んだのは帝国である。跡地に現れし森は、帝国の凶刃から民を守るための物。森を襲えば帝国に未来はないと知れ」

「そんな、では我々はどう・・・」

「神は平等だ。罪なき種族を滅ぼさんとすれば、帝国こそが神罰を受けるであろう。・・・これ以上は話せぬ、いずれお前たちも解放され帝国に戻るであろうが、その時どうするかはお前たち次第だ・・・」


ここで牢獄の制限を強化し、俺は撤収。牢獄の制限を緩めて俺が一瞬で消えたように感じさせた後、再び捕虜の意識を飛ばすして送還。


俺はがっくりと膝と手を床についた。全身から汗が吹き出て今更ながら、心臓の鼓動が跳ね上がる。俺頑張った・・・頑張った人にはN○AA、頑張れなかった人にもN○AAって昔あったな・・・ああ喉乾いた。


「・・・騙せたと思いますか」


蛍光塗料を塗った布で全身を包んで、牢獄のなかで発光させつつ、加工された声で人ならざる者を演出してみたわけだが、俺の演技力については正直自信がない。


「姿や声の加工は、よかったと思うにゃ」

「まあ、帝国人が光る亡霊を信じれば、話の内容も信じるんじゃないか」


あれ、皆さん俺の演技についてはノーコメントですか? いや、他の要素を誉めるということは暗に演技はダメだったと言うことですか?


「一応亡霊の設定以外は嘘をついてないですよ? 魔法王国が無くなったのだって、術式を反射されて吹き飛んだだけだし、森は俺を再生するための環境を整えただけだし」


反射したのは地球の神だが、爆発したのは魔法の過負荷みたいなものだ。地球を防衛した結果であって、神罰を意図したものではないらしい。


「事実がどうあれ、今更帝国の認識と考え方を変えられるとは、思えないけどな」

「まあ、そうかもしれないけど、少しは帝国のあり方に、疑問がわくかもしれないじゃないか」


一応あの親子は、穏健派というか侵略には否定的なようだったから、吹き込んだことを少しでも信じてくれれば、こちらに利があると思う。現時点でこちらに友好的な人々は保護済みなので、敵が内輪揉めで割れるならそれも俺たちに有利だし。


その後、帝国へと移動し捕虜を召喚する。その際に見た帝国は、町のそこかしこで煙が燻っているように見えた。

反乱というよりは暴動かな・・・やっぱり恨まれるかな? まあ本気で攻めてきたらその時は、物理的に退けるか帝国と森を物理的に遮断するしかないかな。


「とりあえず帝国の帝都はこれで良いんだろ?」

「次は北方の属国支援と聖光神国への対策かのう」

「聖光神国は天翔壱式改と大型飛空船が必要になるかもしれないな」


1万の兵力を用意できる大国なら、小手先の戦術は通用しないだろうし、かといって正面切って戦えるわけがない。地球での一般論として、軍隊の常備兵は1~2%で戦時に徴兵動員する人数は、通常人口の4~5% 人口の1割近くを動員ともなれば、これは国の存亡をかけた戦といえる。第二次大戦時の日本の動員数が9%弱、ドイツは13%程だったと何かで読んだ覚えがある。聖光神国の1万がはたして何%に相当するのか・・・。


「そうじゃな、完成を急がせよう。・・・北方の属国はいつから動く?」

「これも早い方がいいだろうな。現状で聖光神国の動きがあるとすれば、北方属国だからその辺りに探りを入れて、情報を得ることから始めよう」


まあ、これについては意外な才能を見せた、ヨルンが適任かな? 元々冒険者だから多少離れた場所に行ってもおかしくは無いだろうし、臨機応変に対応できるだろう。


「それでも暫くは、森は安全なんだろ? 近頃出張(ダンジョン探索など)が多かったからな、俺も少しは骨休めしたいんだが、休んでいいだろうか」

「・・・本音は?」

「息子が連続寝返りで移動できるようになったから、映像を残しておきたい。人族は成長が遅いと聞いていたのに、留守にしている間に随分アクティブになっていて驚いた」


まあ、確かに早いな。地球じゃ寝返りは生後半年位までに、できるようになる感じだったし、既にそれが移動手段になっているなんて、活発すぎるぞ。夜な夜な、魔法のトレーニングとかしてるんじゃないだろうな。


「分かった。二日くらいなら休んでいいぞ、ヨルンにも伝えておいてくれ」


ヨルンも子育て真っ最中だから、たまには休みが欲しいだろう・・・・あいつの場合、あまり家族で居る所を見たことが無い気がするが、気のせいだろうな。


次回12日です

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