80 あれは手を出しては駄目な存在だ
「送還してきた。ただ、意識があると牢に尋ねてきた者に対して敵意を持つだろうから、意識を飛ばした状態で送還した。召喚して意識が戻ったときの反応次第だと思う」
俺は、捕まえている捕虜をダンジョンに連れてくるために、牢獄に行き戻ってきた。
「わかった。俺とヨルン、クーナたち上の人で周囲を囲んで起こしてみよう」
モーブの案で、帝国の人族っぽく偽装して声をかけてみることになった。捕虜から装備品ぱくって着ただけで誤魔化せるのか? 俺、モーブの演技力には期待してないぞ。
「う、うう・・・ここは?」
「気がつかれましたか、ここは帝都にございます」
「私は・・・助かった・・・のか・・・! 皆はどうした? 爺は無事か?」
「いえ、残念ながら・・・」
声をかけたのはヨルンだった。そうだよな、モーブには少し難しいよな。いや、馬鹿にしては居ないけど、人には向き不向きがあるからさ。それに兜を付けていて顔が半分隠れているとはいえ、ばれないと思えるほうがおかしいだろ? 実際よくばれないもんだな・・・・。ヨルンが堂々としているから、不審に思わないのかな?
「そうか・・・皆助けられなかったか・・・くっ、やはり爺の意見が正しかったか。あの男の言葉に乗せられて森に手を出したのが、間違いだった。森の民にばれずに魔法王国の遺産を得るなど、はじめから無理な話だったのだ」
「何をおっしゃいますか、まだ我々は負けておりませぬ、力を蓄え今一度『ならん』・・・」
「最早、森への敵対がばれた以上、我らに勝ち目は無い。あのケット・シーたちの恐ろしさは、対面した我が一番知っている。あれは手を出しては駄目な存在だ、それにあの牢とて、かの魔法王国の遺産だろう。遺産は人知れず森にあるのではなく、森の民が利用していた。くそう、何が“誰も使っていないなら早い者勝ち、見つければ貴方の物”だ、話が全く違うではないか」
なるほど、よく分かった。こうもペラペラと説明してもらえると実に助かるな。しかし、思ったよりまともだったな。
俺は殿下に目配せをして、念和を送る。そして同時にクシミールさんにも念和を送る。クシミールさんは暫く瞑目した後、小さく頷いた。
殿下は囲みの中にするっと入って行き。
「話は聞いたにゃ」
「!?・・・・・・騙したのか!」
殿下の存在を認識したとたんに、男は絶句し騙されたことに反抗してきた。まあ助かったと思ったら嘘だったわけだし、当然の反応ではあるかな。
「現在、我々はおみゃーの父親も拘束しているにゃ。だが、おみゃーの態度次第では、我々と共存する道もあるにゃ。森への侵攻が種族差別でないにゃら、おみゃーの望みを言うにゃ。話の内容次第では、協力してやってもいいにゃ」
「何だと!」
「国として対立しているだけなら、外交なり戦なりで決着をつけるにゃ。にゃけど聖光神国と共に我らを滅ぼそうというにゃら、我らは我らの生存をかけて最後の一人になるまで、帝国に抗って見せるにゃ」
「森を滅ぼす? 私は魔法王国の遺産が欲しかっただけだ。帝国は500年前に魔法王国から魔道具の供給を止められ、戦争になったが我々の望みは、ただ生活を守りたかっただけだと聞く、実際戦争以降、帝国は衰退するばかりだ。私はかつての帝国を支えた魔道具があれば、現状を改善できると思い、いまだ覇権主義に凝り固まった現帝国を変えたかったのだ」
・・・あれ? 殿下は散々な評価をしていたけど、案外真剣に帝国のことを考えていたのか? でもまあ歴史認識も帝国の都合に合わせて改変されてるし、都合のいい理屈で積み重ねられた、砂糖菓子のように甘い改革構想ではあるけど、一応考えて起った感じなのかねえ? 帝国でそれなりの勢力を持っていた理由は、単に血筋の問題だけじゃなかったのかな?
「どうする?」
モーブが俺の元まで戻ってきてこっそり聞いてくる。
う~ん、どうしたもんだろうなあ。敵対勢力として切り捨てるのも、帝国に送り返すのもどちらもありなんだろうけど、もし話し合いで解決して共存できるなら・・・いや無理だな、これからの帝国を思えば、この連中が俺たちの手を取るはずがない。
「とりあえず全員拘束して牢へ入れとけ。日が落ちる間際に天翔壱式改で元帝都上空へ行き、帝都を戻すからその後彼らを送り返そう」
現在、帝都跡地は単なる空き地で、その空き地には帝都からはじき出された住人が居るはずだ。
突然の事態に混乱して暴動を起こしているか、あまりのことに死んだようになっているか、それは全く分からないけどな。場合によると殺し合いになって皇帝が討ち取られて、えらいことに成っている可能性もあるかな? まあそれはそれで・・・・。
・・・うん、思考がだいぶアレな方に感化されてきているかな? いっそそのまま滅んでくれればとか思ってしまった。
帝都を送還し、再び帝国上空に行き、元の位置あたりに帝都を召喚する。正確な元の位置が分からないけど、土地の色の変わり目を目安に設置してみた。ただし、防壁は無しだ。
召喚前の状況を見る限りは、暴動はなかったな。まあ薄暗いから鎮圧されたのか、暴動にならなかったのか判断付かなかったけどね。
「これ、帝国はこれから大変ですね」
「ああ、日頃あって当たり前と思っていた町が、何故だか一瞬にして消えて、戻ってきたと思ったら、防壁は失われたままだ。水害で神罰の噂もあるのに、破損ではなく一瞬で全て消えたとなれば、更なる動揺を誘うには充分だし、その上、国は内戦中だ。防壁も無く、魔物の出入りすら防げないのに、国は荒れていて国軍が魔物から町を、防衛してくれるのかすら分からない。これから、帝都の民は眠れない日々を送ることになるだろうな」
「その上、奴隷として酷使していた異種族が一夜にして消えたわけですか、帝国はもう森にかまっていられませんね」
「森どころか、独立を画策する属国に、いつ攻め込まれるかも分からない状態になるだろうな。まともな指導者なら帝都外の戦力があれば、呼び戻して帝都の防衛や治安維持にまわすだろうけど、その兵すら信用出来るかどうか」
兵を戻せば、その分食料消費が増えるし、多くの餓死者がでるかもしれない。さらに呼び戻した兵が反乱軍につく可能性もある。帝国は本当に滅びるかもしれないが、詫びる気は全くない。・・・俺の守るべき家族と民は森にいる。俺にとっては対立する勢力の民の1000人より、俺の民1人の方が重いんだ。
「それじゃあ戻りましょう」
「そうだな」
「さて、帝国から強引にこの街に連れてこられた皆さん。俺がこのダンジョンの所有者です。最初に説明しておくと、帝都にいたすべての知的生物のうち、他種族への差別意識などが無い方々という条件にて、強引に連れてこさせてもらいました。
これは、人族以外の皆さんの待遇が目に余ると思いましたので、勝手ながら誘拐させていただきましたが、先にのべた条件のため人族の方々も、条件に当てはまればこの地に来ています。これから皆さんには、人としての尊厳を守られた、平和な暮らしを約束しますが、誘拐は皆さんの意思を無視した行為ですので、元の帝国での暮らしを望む方は、今すぐお帰りいただけます。お帰りいただく方法は俺を憎むか、帝都に帰りたいと願うだけです」
救出から数時間後、治療を終えた人々を含め帝都から救出した全ての人々をダンジョンにある俺の街の広場に集めて、説明を行う。救出条件は今のべた通りなので、帝都に帰りたい人もいるだろう。見回す限りまだ帰るものは居ないようだが、まだ状況が飲み込めてないというのもあるのだろう。
「特に人族の方で、この場に居ない家族につきましては、他種族への差別意識が明確な方ですので、この地に呼ぶことはできません。ここに留まることはそうした家族との離別を意味します」
ここで、数人消えたな。
おそらく人族が家族と別れられないんだろうから、仕方がないな。
「残られている皆さんは人族と共に生活できますか? 恨みもあるでしょうが、これからはエルフ族もドワーフ族も人族も、同じ人として尊重しあって生きていくことになります。それが無理であれば、多少の支援はしますので新天地を求めて、旅立っていただきます」
さすがに少し戸惑いが出てきたかな。
「じゃあ、それぞれ同族に説明してやってくれ。リリパットやケンタウロスたちは、人とかけ離れた容姿のとこな。・・・クーナは人族の目の前で、分離して見せたうえで話してくれよ」
同族から多種族が共存していることを聞いて納得したら森の街に連れていく。納得できなければ地上で開拓村でも作って頑張ってもらうしかないだろう。
その後、各自のスマホで帝国から連れてきた人たちに、赤または黄色の表示がないことを確認して、残っていた全ての人々の移住を許可した。
次回10日です




