79 領域拡張、視界の全てを送還する
軽バンや軽トラ、2tダンプなどは、いつ何時必要になるか分からないので、数を増やし運転教習も行っている。教習といっても空き地に三角コーンを並べたコースを作っての、簡易な練習だ。この世界には信号など無いので、人が道に居た場合の対処や、右左折・バックなどの運転操作中心になる。概ね運転技能教習が10時間ほどでタイヤ交換やオーバーヒートなどの対処法が数時間だな。店舗領域内に駐車してある限りは、故障しても燃料切れになっても翌日には元に戻る。スパイク装備や武装車なども商品化して改造した状態で固定している。
そして現在、ホムセンの屋上駐車場は、急ピッチで改修工事が行われていた。
「屋上の耕運機や、ミニショベルが片付いて助かったわい。この駐車場なら天翔壱式を相当数駐機できるぞ」
元々置いてあった車両などは、ドワーフが建てた車庫を領域拡張で店舗同様の扱いにして、その中に格納している。改修される屋上駐車場には俺が照明やコンセントを増設して、夜間作業への対応と工具用の電源を用意した。
「相当数って、何機用意する気だよ。それにいざって言う時、屋上に上がるのは大変じゃないか?」
「戦闘要員に、この程度の坂でへばる奴はいないと思うぞ」
「そうか? 俺は坂を見るだけで嫌になるんだが」
前世で坂を眺めるのが好きだという、タレントの大御所がいたと思うが、俺の住んでいた北関東の某県は日本の秘境などとネットで言われていた反面、人口一人当たりの自家用車保有数全国一位、18歳以上の免許取得率も何度か全国一になった県だ。そして、その車の駐車場の多くは自宅・・・つまり秘境で公共交通機関が少ないから、移動の基本が自家用車なのだよ。坂があるのに歩くとか小学生か外国人かという感じだぞ。
「お主、この程度の坂が嫌とか、じきに太るぞ」
「おう、確かに前世の俺は軽くメタボってたよ、中々良い勘してるじゃないか」
「だったら少しは歩かんか」
平地はそれなりに歩いてるけどな。坂を見ると・・・でも前世で30過ぎてから富士山の頂上まで登ったことがあるし、いざとなったら歩けるんだよ。・・・富士山の下りとか無駄にきついけど、馬車に乗らず自力で下山したしな。只、普段は坂を見ると“今はその時ではない”って思うだけなんだよ。
「帝国へは明日行くんじゃろ、未だ武装はできとらんが、天翔壱式改は全ていつでも出せるようにしておくぞ」
「ああ、計画通りなら一台あれば足りるが、整備だけは確り頼む」
最終的に、天翔壱式には軽4の660ccエンジンが積み込まれた。元が車のエンジンのため水冷式のエンジンだが、結界があり基本的に被弾しないので、大戦時の戦闘機のように冷却装置の故障による、墜落は無いだろう。懸念していたエンジン音は、機体内部に消音の魔法陣を組み込んだおかげで、かなり抑えることが出来た。おそらく直接目撃されなければ飛行型魔物に見つかることは無いだろう。
また自転車機能を廃し、動力をエンジンに限定したことで運転席を小さく出来たため、複座に対応できるようになった。
天翔壱式に結界が付与される条件は“車両である事”なので、空に浮かぶ事もあるけどこれは車両ですよと、天に向って言い張るために、飛行中も車輪を出している。現在製造中の大型飛行船は、明らかに車両とはいえない物になるが、幸い遺跡で発見した魔法や魔道具の解説本から、いくつかのヒントを得ている。
「殿下、帝国のお仲間に話は付いてますか」
「ばっちりにゃ」
「では、今夜予定通り行います」
『帝都の上空です、ゲートを開きます』
「了解。黒足頼む」
「はい」
やがて開いたゲートに静かに機体・・・おっと違った、車体だな、車体を静かに滑り込ませる。
そして、ゲートを超え上空から帝都を眺めて、ギフトを発動。
領域拡張、領域拡張、領域拡張、領域拡張、視界内の全てを送還する。
「殿下、作戦完了です」
俺は膝の上に乗った殿下に、作戦完了を宣言する。
「相変わらずとんでもないにゃ」
「それ程でもないですよ。それじゃあダンジョンに移動しますね」
ゲートをつなぎなおし、俺たちの乗った天翔壱式改と、バックパックで飛行するシデンはダンジョンへと移動する。俺のダンジョン二階は、地上の草原のような環境で、そこには多少の魔物が徘徊している。ダンジョンにおいて魔物は資源の一種であり、コアルームを守るための防衛設備でもあるが、俺のダンジョンは魔物が沸くポイントを、魔法陣という形で分かりやすく示している。これは俺がダンジョンの初期設定で設定したものなので、他のダンジョンとは異なる部分だな。そして今、広い草原には街が出来ている。まあ俺の街の複製で、いざという時の避難所みたいなもんだな。
そしてその街の外側に俺たちは着地する。
「じゃあ、召喚するぞ。危険は無いと思うけど、戦闘準備と警戒はしておいてくれ、それから救護班は毛布やバスタオルなどを用意してあるから、必要ならかまわず使ってくれ、それじゃあ出すぞ、召喚」
俺の宣言の後、超巨大な魔法陣が出現し、俺たちの目の前に帝都が出現した。
出現した直後は防壁の上に兵士が見えたが、それも一瞬のことで、直ぐに姿が消えた。
「たぶん帝国の者はいないと思うけど、一応注意してくれ。もしいたら人族でも友好的にな」
指示を受け、真っ先にオークやケンタウロスが、町へと確認に向う。このダンジョンは俺の私物のようなものなので、俺基準である程度立ち入りを制限できるように設定してある。簡単に言えば重犯罪者や思想的に問題があれば、ダンジョンに入れないし、今回のような場合はダンジョンから追い出してくれるようになっている。一応行き先としては直前に居た場所なので、この帝都の住人である人族は、殆ど帝都跡地に戻ったと思う。
彼らの感覚としては、一瞬にして住んでいる家と町がなくなって、大騒ぎになっているんだろうな。
俺たちも町へと入り、閑散とした通りを歩く。う~ん良くも悪くも中世ヨーロッパ的な感じ? 町並みはそれなりにみえるんだけど、細部を見るとねえ。汚いし少し臭うし、ネズミなんかも多かったんじゃないかなあ。ネズミや害虫も、俺基準で立ち入り禁止なので、今頃は帝都跡地で人族と戯れているだろうな。
「あ~聞こえるかにゃ、我はケット・シーのデンカーにゃ、今帝都は我々が乗っ取ったにゃ。帝国に囚われているあなた方を救出するので、外に出られる者は出てきて欲しいにゃ」
俺はナビを起動して周囲を確認する。生物は半径150m以内しか感知できないが、いくつかの光点が表示され、その中に動く交点が確認できる。
「ここは・・・ここは、どこですか。見た目は帝都ですけど、何か普段と違います。今帝都はどうなっているんですか」
一人のエルフが路地から現れ、俺たちを見て声を漏らす。
ボロボロの膝丈の貫頭衣を身につけ、手足には枷が嵌められている。足の枷は40cm程の鎖で両足がつながれていて、歩く事はできるけど走れない感じかな。顔や手足の露出している部分は垢にまみれ、酷く痩せている。
「ここは楽園です。同胞よ、ようこそ我らの国へ。私は、魔の森エルフ村の元村長のクシミールです。現在はナラ公国でエルフ族の相談役をしています。落ち着いたら公王様と他の種族代表への挨拶をしてもらいますが、今は先ず体を休めましょう。ここにはあなた方を害する者は居ないから、安心するといい」
「ここは・・・帝国ではないのか? 町の人族や兵士はどこへ行ったんだ」
「そうだ、ここは帝国の帝都であって帝都ではない。まあ少し特殊な場所なので説明しにくいが、魔の森の中と言って間違いは無いな。ほれ、あそこに居られる方が我らの森に暮らすものの王様じゃ、王様の魔法で帝国の町をこの地へ運んでもらったのだ」
「あの男は、人族では無いか」
「人族と言えば人族じゃな」
横から会話に割り込んだのはドルトンとランデン長老だな。
「横からすまんな。ワシはリリパットの長老でランデンじゃ、以後よろしく頼むじゃ。公王様は一応人族だが、帝国の人族とは出自が違うし、そもそもここでは種族など関係ないのじゃ。エルフもオークもケット・シーも、わしらリリパットも皆等しく”人”じゃ。天は人の上に人族を造らず、人族の上に人を造らずといってな、種族は違っても皆等しく“人”じゃ」
・・・諭吉先生の著書にある言葉? ちょっと語句が違うけど、長老父のアレンジかな。
「兎も角今は、休むと良い。救護班から魔法薬を飲ませてもらって一眠りすれば、だいぶ体も回復するだろう」
「まってくれ、子供たちはどうなったんだ? 俺たちは家族が人質に取られて・・・」
「見ての通り、帝国の街ごと移動してきたにゃ。生きていれば、じきにここに出てくるにゃ」
生きていればか・・・まあ生死が分からないし、安易な言葉は吐けないが、ストレート過ぎないか。
「・・・そうですね、わかりました。しかし、出来るならここで待ちたいと思います」
「じゃあ椅子と毛布を用意する。気持ちは分かるが、お前さんとて無理できる体ではあるまい」
ドルトンの指示で、キャンプ用のゆったりしたチェアが運ばれ、エルフ男性は躊躇いつつも腰を下した。やがて300人を超える人々が救出されてくる。構成を見るとエルフやドワーフや人族だな・・・人族?
「随分人族が混ざってるな」
「どうやら政治犯で奴隷落ちした者やその予備軍のようにゃ」
「政治犯でここに居るって事は、他種族との融和を唱えた者とかですか」
「それも居るにゃけど、エルフやドワーフとの真剣交際が周囲にばれた者や、まだばれてなかった者も混ざっているにゃ」
なるほど、言われてみてみれば人族はエルフやドワーフと寄り添っている者が多いな・・・一部どう見ても人族の兵士同士、衆道と思われる者たちも居るが、ここに残って居るなら害が無いんだろうから、見なかったことにしておこう。
「全員帝都から出たら、元の場所近くに帝都を返してくるけど、残っているのはケット・シーと犬猫だけだな?」
「公王ちょっと待つにゃ、・・・・・・王城の一角に先代皇帝の息子だという老人が幽閉されているらしいにゃけど、どうするにゃ」
殿下がスマホ片手に話しかけてきたが、先代皇帝の息子が何で居んの?まさか融和派だったの?
「先代の息子って、先日捕らえた反乱軍の首魁の父親ですよね。反乱軍の思想は良く確認してなかったけど、もしかして融和派だったでしょうか?」
「どうにゃろ? 元々特権階級意識が強そうだったから、そういう価値観で見ると人族の平民も他種族も等しく下賎とにゃるんかな? その場合公王的にはどうにゃんにゃ」
「う~~~ん。そうなると、単に偉そうにしている貴族って見かたも出来ますかね? しかし、聖光神国と通じてましたよね」
「それにゃ~、あの男がどこまで知っていて、どこまで考え理解していたのか疑問にゃ。あの男が単にゃる馬鹿貴族にゃら、思想にゃく目先の皇帝の座が欲しかっただけかも知れにゃいにゃ」
「ここに呼び出してみれば、良いんじゃないか? ただの馬鹿なら残るし、考えていた馬鹿なら牢に戻るだろ」
「・・・・いや、今更無理だろ。建物を襲撃して捕らえて、殿下が尋問した後だ、どう考えても他種族にいい印象は無いんじゃないか」
「まあ、やってみるにゃ。もしかしたら、意外な結果もあるかも知れにゃいにゃ」
次回8日です




