76 帝国潜入作戦
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◇◇◇◇を目印にします
場所を変えて会議室、主だった者を前に殿下が説明をしてくれている。
「聖光神国の狙いは森に住む人族以外の全てにゃ、元々知りえなかった情報を今知っただけでも、価値があるにゃ。非常事態につき、公国には住人以外の森の種族を受け入れて欲しいにゃ」
「分かりました、ダンジョンもあるので可能な限り受け入れますが、ケット・シー王国と南町はどうするんです?」
「・・・・正直1万は無理にゃ、狙われたら頼っていいにゃか」
「では、一時的でかまいませんので、ケット・シー王国と鬼族と南町をうちの傘下にしてもらえますか?そうすれば、我が国の人口は数倍になりますので、領域拡張でそれぞれ町や集落ごと複製して、遺跡ダンジョンなり、俺のダンジョンなりに全く同じ街を避難場所として作りますよ。それと建物の所有権を渡していただけるのならば、結界も付与されます。もらったからといって俺が所有権を主張する気はありませんから心配は要りませんよ。・・・まあ、それはそれとして、1万の軍勢ですが、どういう計画なんですか?ドアをくぐって軍勢が出てくるには十何時間もかかりますよ。反皇帝勢力といっても、俺なら夜陰にまぎれて数十~数百人を送り出して、帝都か南町を奇襲します。それ以上いると隠れる場所が無いでしょうから直ぐにばれます」
「にゃ!? ・・・確かにそうにゃ、訓練された軍隊でも1万の行軍は大変だにゃ」
前世の軍船に強襲揚陸艦っていうのがあったけど、強襲っていうのは如何に素早く戦力を送り出せるかが重要なんだよな。確かに敵地への距離を0に出来る魔法の鍵は危険だけど、それで送り出せる戦力が一列縦隊の歩兵では現実的ではない。
「帝国ではなく俺たちを狙うにしても、1万の軍勢を一度にはだせません。南町でさえ武装した見慣れない人間が見過ごされるのは、数十人までじゃないですかね。同じ格好してたら10人だって不自然でしょう。森に数十から数百人で橋頭堡を築く手もありますが、魔物やうちの警戒網に気付かれずに、基地を作るのは簡単では無いです。残る手段としては以前入り込んだ異端審問官のような少数による暗殺か、あまり考えたくは無いですが、最も成功率が高いのは、人族以外による潜入工作と暗殺です」
「人族に付くものが居るのか?帝国と違って異種族の存在すら認めない連中だろう」
「家族を人質に取るとか、例外で生かすとかいって丸め込むとか、首輪なんて無くても方法はいくらでもあるだろ」
あ、皆驚愕&ドン引きか。倫理的にどうかは別として、地球じゃありふれた手法だったと思うけどな。
「それで、聖光神国の場所についての、手がかりはあったのですか」
「あ、それはあったにゃ。持ってきた書類の中に地図があって、帝国のはるか北にある大陸の国が、それっぽいにゃ」
「確実では無いのですか」
「一応証拠を残さないようにしていた見たいにゃよ」
なるほど、仮にも反体制勢力となれば、何かの拍子に計画が露見しないように、注意は払っていたか。
「いっそ、こっちから仕掛けられませんかね?先ずは、帝国の聖光神国と通じている勢力の頭を捕らえて、情報を聞き出すとか」
「いやいやいや、ちょっと待つにゃ。短気はいけにゃいにゃよ」
「そうじゃ、いくらなんでも無茶じゃろう」
殿下とドルトンが止めてくる。そうかな~そんな無茶かなあ。
「帝国のケット・シーや猫から、情報は入りませんか」
「・・・兵士が大勢いる場所や、どちらの勢力かは分かるにゃろうけど、そのリーダーの所在地は分からないと思うにゃ」
「それは策があります。一人で行くわけではないと言うか、皆の協力が必須なので、作戦は事前に説明しますし、都度相談しますよ」
皆を目で見回すと、一様に渋い顔をしているが、かまわず話を続ける。
「ドルトン、天翔壱式にエンジン詰めるか? いきなり車のエンジンは難しいだろうから一番大きい耕運機のエンジンで良い。それも難しければ電動で、とにかく北に向かって森から出られるようにしてくれ」
50kmをこぎ進むのはきついだろうけど、エンジンがあれば話は変わる。確かボートの一番小さい船外機と、うちで扱っている一番大きい耕運機のエンジンが同程度だったはずだ。人力よりは力があるんだから、時速20km以上は出るだろう。
ただ、あまり音を出して飛ぶと、飛行能力を持つ魔物が寄って来そうなのが、怖いんだよな。まだ見たことが無いけど、ドラゴンもいるようだし・・・。
「森から出て、その後はどうするにゃ」
「車で帝国に向って、密かに潜入します」
「密かに?」
殿下に問われ、更にモーブに重ねて問われる。
俺は暖めていた腹案を披露することにする。
俺だって危険は冒したくないし、帝国への潜入は以前から考えていたんだよ。
◇◇◇◇
「この先、2km程で帝国にゃよ」
「了解です。それじゃあ、ここからは4輪自転車に乗り換えて、近くまで行ったら夜を待ちましょう」
森を出てからの移動は素直に昼間行う。ヘッドライトの光は遠くからでも見えてしまうからだ。更にエンジン音を聞かれないために、余裕を持って自転車に乗り換えて、近くまで行ったら夜を待ち、更に徒歩で移動する。
月明かりの中、音を立てないように静かに進み、帝都の城壁が見えるところまで接近する。明かりを持っていないので、足元が見えにくいがさえぎる物の無いこの場所では、街から明かりが丸見えになってしまうので仕方が無い。森を離れて100㎞以上、街からは160㎞は離れた北の地、ようやく帝国の帝都にたどり着いた。帝都は周囲を高い石壁で囲み、かがり火の中何人もの歩哨が城壁上を歩いているのが見える。
「意外と警戒が厳重ですね」
「一応、内戦中にゃからにゃ。・・・本当に行くにゃか」
「ええ、お願いします。情報が無くては何処を狙えばいいのか、分かりませんから」
「・・・わかったにゃ、ドルトン頼むにゃ」
「おう、任せろ」
草を貼り付けた迷彩シートの下で、ドルトンが地下に向って魔法で穴を掘り始める。ある程度の空間を作ったら、そこからはゲートによって増援を送ってもらい、人海戦術で城壁の下を抜けるトンネルを作っていく。このトンネルはエルフ村の脱出通路と同じように、天井と壁が強化してあるので、例え上を馬車が通っても崩れることは無い。
こうして、トンネルを作ったら、ケット・シーたちが中に潜入し、帝国の猫や猫のふりをしたケット・シーたちから情報をもらう手筈だ。
◇◇◇◇
「帝都のなかに入ったら、それっぽい隠れ家に空から近づいて、送還か大型ゲートでまるごと回収します」
「・・・・・・・・・は?」
「え?」
「にゃあ?」
「建物を出す先は、どこか安全な場所にユニットハウスで囲った空間を、あらかじめ作っておきます。建物をまるごと移動できたなら、精鋭部隊で突撃制圧します。ゲートで送った場合、建物はこま切れでしょうから、建物を撤去後に帝国人を制圧します。抵抗されるようなら、結界内から魔法攻撃なり、車で突撃なりして捕縛します。もし捕縛した相手が聖光神国と無関係だったら、別の場所を襲撃し直してもう一度、繰り返します。まあ、無関係とはいえ元々敵対関係ですから、多少痛い目にあわせてもかまわないでしょう」
「にゃけど、どうやって中に入るにゃ? 今は内戦中にゃ、昼間でも警戒されているのにゃ、夜は城門もしまるにゃし、こっそり入るなんてムリにゃよ」
「近くまで行ったら、地下道を作って地下から潜入します。状況によってはそのまま敵のアジトを回収して、皆で叩きます」
「地下!?」
「エルフ村の脱出通路みたいな物ですよ」
「それにしても、城壁の近くまでは行かないといけないにゃ、どうやって近くまで行くにゃ」
「それは考えてありますので・・・」
◇◇◇◇
「ゲートの中に送風用のパイプを通したら、迷彩シートを回収して、潜入した穴も目立たないように塞いでおきます。これでもう、朝になっても俺たちの存在は、ばれません」
「確かに」
「それじゃ、交代しながら穴掘りをしていきましょう」
「100m程進んだぞ、後半分ぐらいじゃと思うが」
「了解、掘り出しがこの地点で、ナビで見る限り真っ直ぐ進んでいるから・・・そうだな、半分は超えたろう。方角的には、この辺りを目指しているな」
俺は、地図の一点を指し示す。
「スラムからは外れているにゃ。これなら仲間とつなぎを取れそうにゃ」
「スラムは駄目なんですか」
「迂闊にスラムを歩いていると、捕獲されて食べられてしまうにゃ」
「な、なるほど。実にスラムらしい理由ですね」
「しかし、良くこんな方法を思いついたもんじゃな」
「いや、種明かしをすればこの地下道っていうのは、前世で見た映画がヒントでな、戦争中に捕虜になった兵士が体験した脱走計画を元に、作られた昔の映画なんだが物凄く有名だったんだ」
「戦争の捕虜?」
「ああ、捕虜が少しずつ穴を掘ってな、魔法じゃなく手掘りだから、掘った泥も外に捨てなきゃならない。皆自分の服の中に掘った土を隠して外で労働をする時にズボンの中からこっそり捨てるんだ」
「その脱走はどうなるんじゃ」
「結論からすれば、脱走した大半は・・・・」
「ケント、そろそろ夜が明けるがどうする」
「あ、そうだな、別に昼間掘ってまずい理由は無いから、掘ってしまおう。城壁内に入ったら休憩して夜にまた活動開始だな。念のため城壁内はあまり掘らないようにしよう。他の地下室を貫通して敵とご対面じゃ大事だからな」
「悪いな、ドルトン。機会があればまた話すよ」
「ああ、すまん。のんきに話している場合でもなかったな」
次回2日です




