75 ゴーレムと遺跡の本
「お館様、地下遺跡で見つけた本ですが、そのうちの一冊がゴーレムの本のようです」
「え、そうなの? そうか、同じ場所にあったから取扱説明書の類かな」
「内部の絵も描いてあったから、調査を依頼したケット・シー殿に渡したほうが良いと思うのじゃ」
レオノールと長老が、遺跡で見つけた本を持って報告に来た。
「分かった、直ぐ連絡をする。他の本で分かった事はあるかな」
「そのことなんじゃが、ちと相談したいことがあるので、少し時間を作ってくれんかの」
「ん?・・・分かった。手が空いたら連絡する」
レオノールから聞けば済むと思うんだが、長老が報告したいのかな?どっちが報告しても成果は二人のものだと思うんだけど、俺信用されてないのかな。
ステラに連絡をとると、直ぐに本を取りにくるという。
少々ゴーレムの調査が行き詰まっていたようだ。
「現状ではマスター登録の仕方はわかったにゃけど、どうやって動いてるか、知識はどうなっているか・・・・・・・・全く分からなかったにゃ」
「そうか、まあロストテクノロジーだし、元々ブラックボックス化されているのかもしれないから、そう簡単には解明できないって事だな。それでもマスター登録できるなら大きな成果だよ、ありがとうステラ。後はこの本が何処まで役に立つか分からないけど、続けて頼む」
「ろすとてくにょろ? 黒い箱?」
「ああ、ロストテクノロジーとは、失われた技術ってことさ。かつては当たり前であったはずの技術が、何らかの理由で失伝して製法が失われてしまったということだな。ブラックボックス化というのは、その構造や製造に関する技術を、他者に知られないように、隠す仕掛けのことだよ」
「にゃるほど。確かに不用意に触ると、壊れてしまう魔道具があるにゃ。ゴーレムも危険な感じがしたから、あまり手が出せなかったにゃ」
「最悪壊れてもかまわないから、やれるだけやってみてくれ」
「分かったにゃ、何か分かったらまた来るにゃ」
俺は本を取りに来た手間賃代わりに、用意しておいた焼き魚を渡す。
ステラは焼き魚を持って、足取りも軽く帰っていった。尻尾が立っていたあたり、だいぶ喜んでいるようだったな。
今回はニジマスなのだが、ニジマスは水温が高いと生息できない魚なので、森周辺にはいない。店ダンジョンの川で釣ってきた魚なので、ケット・シーにとって未知の魚なのだが、匂いをかいだ感想は“おいしそう”という事なので問題ないようだ。ニジマスは下処理が大事な魚だ。洗ってぬめりを取り、内臓を抜いて再度洗って塩を振る。塩は精製塩よりミネラルを多く含む天然の物がいいだろう。塩を振ることで魚の臭みを吸収し、身を引き締め、弾力を増す効果がある。もちろん小柄なにゃん・・・ケット・シーとって、多量の塩分は害になる。
だが、心配は要らない。食品から塩分を取り除く魔道具、塩分除去装置を俺が作った。これで前世の俺のように、塩分過多に悩む者や小型種族の食事から、過剰な塩分を抜き取ることが出来る。
俺の国には、怪我や痛みなどに対する薬草や、腹痛や風邪の予防などの知識も多少はあるらしい。これはケンタウロスたちの薬草知識と医学?によるものだが、高血圧や糖尿のような成人病を知っているだろうか?この世界では贅沢な暮らしをしていた貴族なら成人病になっているかな?南町のドクターなら症例や食事と病気の因果関係を知っているだろうか。
「今までは、貧乏ゆえの病気だったけど、これからは飽食による成人病が増えるだろうから、健康指導もしていかなくちゃいけないかな」
「それで、相談というのは?」
ステラが帰った後、長老とレオノールがやってきて、再び話し合うことになったのだが、何故か神妙な面持ちで座っているだけで、二人ともなかなか口を開こうとしない。
それでも、沈黙していては話になら無いと思ったのか、長老が口を開いた。
「実はの・・・遺跡から見つかった本に妙なものがあっての・・・魔法陣で作られた記録映像のようなんじゃ・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・それで?」
「・・・・様々な種族を解剖している映像が、納められとる。中には人族やドワーフもあった。何か話しているようじゃが、言葉が分からんので、内容は理解できなんだ。もしかしたら、邪神をあがめる者が行った儀式なのかもしれんのじゃ」
邪神教の儀式?・・・あの部屋にか?なんか雰囲気的に合わない気がするんだが・・・・。
「分かった見せてくれ」
本を受け取り、表紙を眺める。そんなへんな雰囲気はしないが・・・。
鑑定:本
本=医学大全1巻 解剖学 人族 王国医術院編集
「・・・・他の本も見せてくれるか」
「え? は、はい」
鑑定:本
本=医学大全2巻 解剖学 妖精・幻獣 王国医術院編集
本=医学大全3巻 解剖学 魔物・魔獣 王国医術院編集
本=医学大全4巻 薬草学 王国医術院編集
本=家庭の医学書 覚えよう応急処置 王国治療院編集
本=魔道具の歴史
本=魔道具大辞典
本=誰でも出来る魔道具作成
本=魔法大全 初級
「鑑定で本の書名を見る限り、これは邪教の本じゃなくて医学書や魔道具の参考書だよ」
「え、医学書ですか」
「そう。俺の居た世界でも、医学を目的として様々な動物の死体や人の遺体を解剖して、構造や死んだ理由を調べたりしたものだよ。そして、同じように邪教徒と思われて、処刑されたりしたケースもあったと聞く。でも先人の努力のおかげで、折れた骨をきちんとつないで元通りにする事が出来たり、切り傷をきちんと縫いあわせたりと、怪我や病気の治療が出来るようになったんだ。だから、この本は凄く価値があるよ」
「では、持ち主はお医者様だったのですね」
「あ、いや、それはどうかな・・・・」
本格的な学術書なら専門家しか読まないだろうけど、百科事典や家庭向けの医学書などのそこそこ見栄えのする書籍は、研究者でなくとも買うんだよね。日本でも一時期流行したんだよな。
一億総中流といわれた70年代からバブルまでは、日本の家庭でも和室に代わり洋室が増え、暮らしに余裕が出てくると客間などにも見栄えのするインテリアが置かれた。百科事典もちょっとしたステータスとして購入され、キャビネットの一部を占有していることが多かった。
もちろん買った理由としては、子供の教育等の意味もあったのだろうけど、実際に購入した人の中で本を全部読んだ人がどれ程いたことか・・・。
「医学書については、医者にも読んでもらったほうがいいよな。殿下に言って誰か医者を紹介してもらおう。商品化は・・・できた。薬草と応急処置はケンタウロスとモーブと黒足にも渡しておいてくれ。それから、言葉の問題については“自動翻訳 バイリン君”なら音声を自動で変換してくれるんじゃないか」
「あ、そうですね。バイリン君を試してみます」
ジリリリリーン ジリリリリーン
「あ、電話だ。ちょっとすまん・・・殿下からだ」
ピッ
「もしもし、ケントです」
『大変にゃ、帝国から持ってきた資料に、森への侵略計画書があったにゃ』
「え、侵略って、あの国は今内戦中ですよね、こっちに手を出す余裕は無いでしょう?」
『違うにゃ、例の光教とやらだにゃ』
「聖光神教の聖光神国ですか」
『それだにゃ。別の大陸の国にゃけど、ここを攻撃する準備が出来ていて今にも攻め込んできそうにゃ』
今にもって・・・。
「殿下、別の大陸からどうやって“今にも”攻め込んでくるんですか?それにその書類を持ってきたのは数ヶ月前ですよ」
『何言ってるにゃ、魔法の鍵がもう一組あるのを忘れたにゃか、今帝国は反乱軍が優勢にゃ、しかも反皇帝勢力が聖光神国と通じていたみたいにゃよ。敵は鍵を使って何処にでも軍隊を送れるにゃ、連絡書類によれば敵の戦力は1万を超えるにゃ。内戦になって帝国の兵力が減ったならむしろ好都合にゃよ、今にゃら疲弊した帝国軍を制圧するのは簡単にゃ、計画が中止になったと判断するのは危険にゃ』
「・・・とりあえず、こちらに来て頂けますか」
『分かったにゃ』
1万の軍勢か・・・・1万ねえ・・・・いや、どう考えても無理だろ。
「どうされたんですか」
「ん、殿下から聖光神国が1万の軍勢で攻めてくるって連絡だったよ」
「え!」
「なんですと!」
「・・・う~ん、やっぱり1万は無理だよな。まあ、殿下もすぐこっちに来るだろうから、皆集めてくれるか」
「はい、直ぐに」
レオノールと長老は慌てて駆けて行った。電話の方が早くね?
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