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66 出産、新たな命

65話でモーブとヨルンが冒険者の指導を始めましたが、定期的に街に帰っています。

ずっと留守ではありません

夜中に電話があった。

どうやらモーブの子供が生まれるらしい。

話を聞いた殿下は、すぐさま王国に戻って変装をし、病院を襲撃してドクターを拉致してきた。

とんでもねえ無茶をするな。というか、ここに連れてくるのに変装した意味はあるのかと疑問なんだが、むしろ王子として普通に連れてきたほうが後々面倒が無い気がする。

連れてこられたドクターは、念願の生エルフにもかかわらず、直ぐに産婆と打ち合わせに入った。

産婆のリーダーは人族で補助がエルフだ。人族はエルフより子供が生まれるので、当然出産にかかわった経験数も多い。俺の店の薬も緊急用に用意してあるし、薄めるための容器と水の準備も抜かりない。

しかし、モーブは気の立った動物園の熊のように、大きな体でうろうろと落ち着き無く歩きまわっている。落ち着けといって、落ち着くものでもないしあえて放置する。以前聞いたときは「男の俺に出来ることは無い只座って待つだけだ」といっていたが、実際は動き回っている。俺が“こいつ座る気配全くねえな”などと考えていると、元気な赤ん坊の声が病室から聞こえてきた。


「元気な男の子です」


部屋から出てきたレオノールが告げてくる。

モーブは何か天に向かって吠え、部屋の中から聞こえていた赤ん坊の泣き声は更に大きくなった。


「うるさいよ、あんた。子供が泣き止まないだろうが」


出てきた産婆にモーブが怒られ、少し小さくなったように見えたが、産婆に促されると子供を見に中へと入っていった。


「・・・・どうした」


なんだかレオノールの表情が冴えないような気がして問うてみる。


「モーブさんの赤ん坊なのですが、見たことも無い感じで・・・」


モーブたちはゴブリンからの特殊進化固体だ。現在はまるっきり人そのものの外見をしているが、その子供は一体どんな姿の生物になるのか、前例が無いだけに全く分からなかった。


「ドクターと産婆はなんと言っている」

「いえ別に。ただ元気な男の子だと」


しばらくして、モーブが出てくる。やはり顔色が優れない。


「ケント、子供を鑑定してくれ」

「どうした、何があった」

「俺たちにもゴブリンにも似ていないんだ。また新しい生物になったのかもしれない」


モーブの顔は苦痛に耐えるかのようにゆがんでいた。


「・・・・分かった。見よう」


俺は許可を得て、室内に入り子供を見る。


「・・・・んん~~うん?」


俺のイメージする赤ん坊と比べて、特におかしくは無い。鑑定でも人類表記だ。あれ、そう考えると俺がであった時既に妊婦で、当時は原人で外見がもっと原人ぽかったモーナの体内で、彼女と一緒に進化したのだろうか?

だがまあ、子供も人族なんだから、それでいいのでは無いか?


「何が、そんなに気になっているんだ」


「え、だ・・・・だって手足の大きさとか、おかしいだろう、顔もなんだかアレだし」

「いや、俺の知る赤ん坊って、大体こんな感じだぞ、そうだろ、ドクター」


ドクターと産婆は大きくうなずいたが、助手に混ざっていたエルフは、目を見開いている。え、なに?エルフは違うのか。


「あの、エルフの場合、手足のバランスももう少しアレですし、顔はもっとこう最初からある程度出来上がって・・・・ライムートたちもそうでしたし」


え、エルフってそうなの?サイズ的に小さいだけで、5頭身の子供が生まれたりするの?


「エルフは俺にはわからないけど、人間の基準で言うと、この子は極めて普通。おかしいところは全く無い」


俺が断言するとそれまで沈んでいた空気が一変した。モーブは両手を天に突き上げ、チャンピオンベルトを巻いたボクサーのような感じで、喜びをあらわにしている。

いや、まあ信用されてるのは嬉しいけど、ドクターたちも少しは信じてあげなよ。なんかがっくりしてんぞ、労ってやれよ。



「名前を考えてくれ」

「また俺が考えるのか?お前が父親として自分で考えろよ」

「そういうものなのか」

「まあお前らの親とか恩人に頼むケースもあるけど、お前らの場合は親が居ないからな・・・あと、赤子の両親が決める場合が結構多いぞ」

「恩人でいいなら別にいいじゃないか」

「いやこの流れていったら、親子孫と三代俺がつける流れになるだろ」

「孫と言わず、その孫ぐらいまでは頼む」

「無茶言うな、俺たぶん生きてねえよ」

「・・・・・・・え?」

「え・?・・・・・?」

「ちょっと待て、何年後の話をしている?」

「この子が5年後に私たちの孫を・・・」

「つくらねえよ!!」

「オギャー」

「ああ、ごめんごめん」

「ケント大きな声を出すな」

「・・・・大声はすまなかった。ところでライムートやユリアンニが何歳か知ってるか」

「ん? 子供だし2~3歳ぐらいか?」

「ライムートは10歳だよ、馬鹿たれ」

「・・・ハーフ・エルフだからだろ?」

「ハーフ・エルフは15歳ぐらいまでは人族と同じように成長するらしいぞ。そして人族の成人年齢は16歳だそうだ」


再びの驚愕顔。しかも夫婦そろってだ。


「寿命延びた分子供の時代も長くなったと思え。んで、成人で子供作るんじゃ無くて働いて、自分で生きれるようになってからにするように育てろよ。人間の子はゴブリンとは違うんだから生まれて数年で狩とか出来ないからな、同じように思っていたら間違いなく死ぬぞ」


これあれだな、クーナに話して人族の女性から、モーブたち夫婦に子供の育て方を教育してもらうか、子育てできる人族の人を頼もう。種族が変わって本人たちの認識がずれまくってやばいよ。エルフの赤ん坊も、たぶん人族と違うんだろうけど、ハーフは必ずエルフ寄りで生まれるのだろうか。


「あの、お館様」

「ん?」

「あの、この子まだ立てないんですけど、立つのは明日ぐらいですかね」


だ、だめだ。今すぐ何とかしないと本当に子供が危ない。・・・・・というか。


「その子は当分立たないし、首もまだ固定されてないからね、んで、自力で母乳飲めないから、飲ませてやって。俺は直ぐ産婆さん連れてくるから」


俺は、打ちひしがれて退室した産婆さんを探し、先程までの会話を説明し、直ぐに赤子に母乳をやるための指導をしてくれるように頼んだ。産婆さんは、話の途中で、目を見開いて驚愕し、あわてて部屋へと戻っていった。

馬とか生まれて直ぐ自力で立って母乳を飲むし、ゴブリンなんかも同じなんだろうな。・・・いや最初から肉食ってるか?これは、食事についても注意しとかなきゃまずいな。モーブたちは結構悪食にも耐えられたけど、子供はわかんねえ。いや、あいつらだって、今腐ったもの食べたら死んでもおかしくないから、その辺ちゃんといって理解させないと・・・・・・。



「その後、どうだ」


モーナの病室には人族の経産婦や子育て経験の豊富な方に、顔出しを頼んでいる。モーナにとっては多少ストレスとなるが、それ以上に子供の育て方が分からないと言う問題の方が大きいので、例え小さなことでも気がついたら話し合うようにしてもらった。

その例をあげれば

うんちをしたら、直ぐにオムツを変えてあげましょう。

店のオムツを使用しているが、お尻りは汚れるのできれいにしてあげてオムツも取り替える。

=ゴブリンはオムツしないから分からなかった。

首をしっかり支えて、授乳したらゲップを、させる。

=ゴブリンの赤子丈夫過ぎの罠。

お腹がすいたら泣く、オムツが汚れても泣く。意味もなく泣くこともある。

=人の赤子はそういうものです。


とまあ、今から育児ノイローゼが心配になる状況。


「俺も、街の保育施設にいって話を聞かせてもらっているんだが、大変な勘違いをしていたと気がついたよ。以前“俺たちだけじゃ出産が大変だったろうな”って言う話をしたが、赤ん坊を育てるのも大変さは変わらない。無事に生まれてもケントが居なければ翌朝には赤ん坊が死んでいたかもしれん」

「別に俺の手柄じゃないさ。俺はゴブリンからの進化を知っていたから気がついただけだよ。けど、じゃあどうすれば良いんだって部分は、女性の方がわかってるからな」


実際、前世の俺はそこまで気にしていなかった。俺が気にしなくても親や嫁の方が知識あったから、怒られることはあっても先回りして心配するなんて状況には無かったわけだ。


「なんにせよ助かったよ。これで、子育ては俺が先輩だな。ケントんところは来年の春か?」

「・・・は?」

「っあ・・・・・・・ふん!」

「おわ、いきなり何しやがる」


いきなり打ってきた、モーブのチョッピングライトを、ギリギリかわした俺は直ぐに距離をとる。

凄いぞ俺、よく避けた。


「避けるな。頼むから俺に殴られてくれ。なに、今の会話を忘れてもらうだけだ」

「無茶言うな、お前何の映画見ていってんだよ、記憶なんてそんなに都合よく消えないし、むしろ死ぬわ!」

「すまん。俺が言ったと、ばれるわけにはいかないんだ。許してくれ」

「だからそれ、ドラマや映画で犯人がいう台詞だぞ、お前何考えてんだーーーーーーーーー」


翌日レオノール懐妊の話を本人から聞いた。どうやらレオノール→モーナ→モーブという経路で話が伝わったらしい。未確認な情報だったため、俺よりモーブが先に知るという珍事になったそうだ。

しかし、あいつの怪力で殴られたら本気で俺死ぬから、今後は短慮をしないように言い含めねば・・・・。


次回13日です

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