57 再び遺跡へ
「まあそれは兎も角、持ってきてもらった素材からマグネシウムを抽出してフラッシュバンを作るぞ」
俺は作っておいた魔法陣を二人に渡して、魔力を流してもらう。
・・・そういやこの二人、魔力あるのに魔法を全く使わないな。・・・適性としてはモーブと同じ土魔法だったかな。モーブは土を凹ますで、コボルトは土を掘るのが得意だっけか・・・石弾とか石矢とは言わないから、せめて土針ぐらい使えるようにならないかな?
まあ魔力、一毛(0.001)の俺が言えた義理じゃないんだけどね。
魔法陣に持ってきてもらった素材(車の部品や冷蔵庫・洗濯機などの家電、携帯やスマホのフレームに使われているアルミ合金やマグネシウム合金)を魔法陣に置くと、マグネシウムが素材から抽出される。マグネシウムだけが粉末になるように魔法陣を組んであるので、残った素材はいくつかのインゴットに分かれる。あ、車を解体して部品を取り上げたからドワーフが反発したのか?以前集会所を建てた時は、割とレオノールを持ち上げていたが、その連中とは別人か。
抽出したマグネシウム粉末に、キャンプ用のチューブ着火剤を少量加えて練り練り練り。
着火用魔法陣に塗りたくって、成形する。これを密閉袋に入れて、適当な筒型に成形する。出来れば穴の開いた金属パイプなどに入れて再利用したいが、今回は時間がないのでそのままとする。大きさは250ml.の缶位かな?投げるにはちょうどいい感じの大きさだし携帯性も悪くないだろう。マグネシウムは火をつけると燃えるが、そこに水を加えると激しく燃焼し、時に爆発を伴う程の強烈な火力と光が得られるというが、水を加える加減が分からないので今回は水を使わない。
「戻ったぞ」
「お帰り」
「「お帰りなさい」」
「いい武器はあったか」
帰ってきたモーブに武器について聞いてみる。
「ああ、これを買ってきた。狭いところで振っても効果のある武器くれと言ったら出してきた。ケントの槍を参考にしたとかで、柄が継ぎ足せるらしい」
「へ~~狭いところでは短く、広いところでは柄を足して振り回せるわけか。多少重くてもモーブの力なら苦も無く振り回せるだろうし、切って突いてと色々できて良いんじゃないか」
モーブの買ってきた剣は柳葉刀に似た物だった。柳葉刀というのは中国の刀で、日本刀に比べると幅広で先端に重心が寄っている。西洋直刀の叩き切るのとは違い、日本刀やシャムシールと言った反りのある、引き切る剣に含まれるが、先端を重くすることで叩きつけた際の威力を増す仕様なので、実際の使い手が引き切っていたか叩きつけていたかは意見が分かれるだろう。日本では青龍刀と言われることもあるが、青龍刀は三国志の関羽が使用していた薙刀に似た長柄武器のことなので、短い武器は青龍刀ではない。しかし、柄を足せる仕様という事は、薙刀、青龍刀、グレイブといった長柄武器と同じ様に、切る・突く・振り回すという使い方が出来るのだろう。
「そうか、俺も悪くないとは思っていたが、なるほど色々な使い方があるんだな。いや実は普通の剣だとそれなりの長さでないと軽くてな、これなら短くてもまあまあ重いし、柄を足しても突くだけではなく振り回せると聞いて買ってきたんだが、俺の考えは間違っていなかったようだな」
モーブは買ってきた剣が、自分の思惑通りで尚且つ褒められたことで、顔がニマニマしている。本人は気がついてないな・・・ニマニマは辞書に無い言葉らしいが、ニヤニヤというとなんか不快感を覚えるし、雰囲気的にあわないので、ニマニマとしておこう。
「魔道具はいくつか出来たからそろそろ、戻ろうと思うんだが、シデンたちがまだか・・・」
「私が電話してみます。・・・もしもし、シデン君?そろそろ地下遺跡に行こうって、お館様がいってるんだけど・・・・ええ!? そう、それは仕方がないのかしら?・・・分かったわ、伝えておくね」
なんだか不穏な電話だけど、どうしたんだろうか。
「レオノールどうした?」
「はい、シュテンさんがその・・・酒場で飲み比べ始めてしまったそうで『それなりに道案内はしたし、皆さん強いから後は俺抜きでも楽勝でしょ』と言っているそうです」
「最初はシュテンの要望で地下にある魔道具の調査だったと思うんだが、いつの間にか俺たちがダンジョンアタックして、シュテンが案内役みたいになってるな。間違ってはいないが、何か違う気がする」
「俺が行って連れて来ようか」
「いや、既に飲んじゃったんなら、足手まといになりかねないから、止めておこう。それでシデンは?」
「シデン君はノブタさんに話をしてから、こっちに戻るそうです。それと代わりに地下遺跡に行ってくれそうな人が居たので、交渉してつれてくるそうです」
「そうか、ノブタに引き継ぐなら、万が一シュテンが暴れても、まあ何とかなるだろう。それと、代わりに地下遺跡に行ってくれる人物って誰だ?」
「名前までは言っていませんでしたよ」
それからしばし、シデンの帰りを待つ。
「そういや、補充なら、一人うってつけの奴が居るじゃないか」
「誰だ?ウーローンか、それともエルフかドワーフか?」
「いや、いや、元冒険者の男が居るだろ。あいつなら・・・」
「只今戻りました」
「地下遺跡があって魔道具があるって本当ですか」
シデンが連れて来たのは、ヨルンだった。今モーブが言わんとしていたのも、おそらくヨルンだろう。
「ああ、オーガの生息域に行った途中で出会った種族に、地下遺跡の場所を教えてもらって中も少し案内してもらった。魔道具の術式複製は許可を得ているし、物によっては交渉次第で譲ってくれるんじゃないか。まあ、譲ってくれなくても複製は出来るだろうから問題ない」
「なるほど、遺跡に入って得たものが全て手に入る、というわけじゃないんですね。よかったら俺も連れて行ってくれませんか。これでも中級上位と言われた元冒険者ですんで、それなりに役に立てるはずです」
「狩猟は良いのか」
「んまあ、家で食べる分位はちょチョイと狩れますし、嫁や子供が魚を獲ってくることもあるんで、食うには困ってないです。以前のエルフ村と違って今は他の狩人・・・ケンタウロスや、他の村から移住してきた人族の狩人も居るんで、俺が狩人を続けなくても全体としては困らないでしょう?むしろ、俺が仕事として狩をするのはどうかと思って・・・自惚れじゃなく、彼らよりは俺の方が強いし潰しが利くと思いましてね。・・・と言うわけで俺を雇っちゃくれませんか」
俺はしばし考える。確かに元冒険者の知識と経験は、街にとって貴重だ。遊ばせておくと言っては他の狩人に失礼ではあるが、普通の狩人としておくのはもったいない存在だな。
「よし、雇おう。今は特にこれと言う役割は思いつかないから、遺跡から戻ってしばらくは、モーブや黒足など軍事関連、バラルやケーナなど商業関連、コボルト族長たちの農業関係など一通り回ってみてくれ。それで担当の希望があれば聞くし、特に希望が無ければ適性を見て、こちら役割を振りたいと思う」
「ありがとうございます」
「よし、じゃあ改めて地下遺跡に行くか」
ゲートで戻ってくる直前までの、経緯をヨルンに説明してから地下遺跡に戻ることにする。
「戻る前に向こうの空気を入れ替えてからにしよう」
100Φの塩ビ管を二本ゲートに突っ込んで、片方に換気扇を取り付け地下遺跡の空気をある程度入れ替えてからゲートをくぐらないと向こうの空気が悪かった場合俺たちにもダメージがあるからな
「よし、行くぞ」
「いや、待ってください。ここは新参で下っ端な俺が先ず行きます」
ヨルンからちょっと待った!の掛け声がかかったが、軍隊じゃないんだし決死隊とかいらない・・・と言うことを俺は皆に言ったが、お前が死んだら街が死ぬって分かってんのかと怒られたので、ヨルンに“手を入れる、頭を入れ呼吸、全身入れる”という段階を踏んでもらうことで良しとした。まあ、特に問題もなかったので皆地下遺跡へと入り、最後に俺が向こうへと戻った。
「なるほど、こうなるわけか」
モーブが室内の状況を見てボソッとつぶやいた。
戻った室内はまだ少々煙がたなびく、鎮火直後を思わせる状態で、室内には半死半生のゴブリンが倒れている。まあ、ゴブリンだからな。あいつら基本的にアホだから、たぶん“出口が無くなった→魔道具で壊せ→火の玉ガンガン打ち出す→壊れない!?壊れるまで撃て→く、苦しいどうなっている?速く壊せ”って、感じで自滅したんだろうな。
「奴らに止めを刺して、魔道具を回収して次へ進むぞ」
俺たちはサクサクとゴブリンに止めを刺しながら魔道具であろう武器を回収する。ふと、ヨルンを見ればこくこく首を振りながら、うんうん言って何やら納得していた。
「まあ、ケントといると大体こんなもんだ」
モーブがドヤ顔で言っているが、それじゃ俺が非常識みたいじゃないか。
「以前エルフ村が襲われた時に、防衛で手を貸していただいた経緯は聞いていたのですが、実際見ると本当に驚きですね」
む、ヨルンも何か俺たちの戦いが非常識かのように言っているが、俺は最も効率が良い方法を選んでいるだけだぞ。
「もうこの階はいいな、下の階層行くぞ」
俺は二人の会話が聞こえない振りして、先を促し会話を流した。




