53 鬼の集落
明けて翌朝、ワニを預かって集落へと向う。
「そっか、公王様たちが狩っていたワニだったのか、矢が刺さっていたから誰かが攻撃したのは分かっていたけど、近くに誰も居なかったからありがたく頂戴させてもらったよ。持ってくるの大変だったから返さないけど・・・良いよね?」
「ああ、もちろんだ。俺たちは流れていったワニを追いかけてないから、それを見つけた時点でシュテンの物だよ」
「公王様は話が分かるねえ・・・あっと、すみません。さっきから地が出て、馴れ馴れしく話してました、無礼をお許しください」
「いや、そこまで気にしなくていいよ、俺の国で公式な場だならまずいけど、普通に話す分には俺は気にしないし、王様になっても町長みたいな感覚だし」
「こいつが、無礼討ちする前に俺たちが、お前さんを物陰に引っ張って行って、指導してやる。なに多少痛い目を見ても、命まではとらないから心配するな」
モーブが怖いこと言い出したが、顔は笑っているので、モーブなりの冗談だろうか?・・・いや、半分くらい本気かもしれないな。
「お~いイバラキ、戻ったぞ~。お客さんが来ているから親父と母さんに伝えてくれ」
集落に入ってすぐの広場で遊んでいた子供に、両親を呼びに行くよう指示したシュテンは、俺たちを一軒の小屋に案内する。小屋といっても屋根がかけてあるだけで、近くに井戸や大きな素焼きの壷が置いてあり、作業台であろう石のテーブルがおいてある。テーブルの淵には溝が彫ってあり、ぐるりと周囲を囲んでいる。
「ここが解体小屋なので、ワニはこの台の上と、こっちの木箱に出してください」
テーブルは解体用の作業台のようだ。見ればテーブルの下にも、様々な壷がおいてあり、おそらくは切り分けた肉を入れたり、廃棄部位を回収したりするなど、目的に応じて使い分けているのだろう。
「では、親父の所へ案内いたしますね」
そして案内された家は、竪穴式住居のような家だった。ようなというのは、鬼の住居は掘り下げるのではなく土壁を立ち上げて周囲を囲み、その上に小屋をかけた作りだった。日本でも木材などで壁を立ち上げたとみられる竪穴式住居が復元されているが、これは後の日本家屋の原型のような物で、いわば後期型竪穴住居だろうか。聞けば、屋根は草葺の上に板を重ねて、表面に漆のような樹液を塗って防水しているらしい。草葺してあるのは断熱材の代わりで、周囲の土壁には所々窓があり夏の湿気対策だそうだ。中央の囲炉裏部分以外は、簀の子のような床があり、座る場所や寝床には筵のような草で編んだ敷物や、毛皮などが置かれている。
「ようこそ、お客人。私は集落のまとめ役を任されているイブキという、以後お見知りおきを」
「・・・・森の中央に街を作り、国を興した奈良建人だ。こちらこそよろしく」
酒呑童子、茨木童子と来て伊吹童子か・・・って、伊吹は酒呑の幼名じゃないか。もしかして死んだ爺さんの名前を子供につけるみたいな、同じ名前を使いまわしているのか?
「親父、公王様が街で売っている商品を、今日ここで売ってくれるそうなんだ、弓や刃物も扱っているそうだから、この機に新しくしてはどうだろうか」
「ほう、それはありがたい。ナイフが大分傷んで最近ワニを解体するのが、大変なのですが、良いナイフがありますかな?それと、木を切る肉厚の刃物もあると良いですが、お持ちですかな。・・・そうだシュテン、皆も何か欲しい物があるだろうから、すぐに通知するんだ」
「わかった、打ってくる」
応えてシュテンは外へと向かう。
「刃物は色々ありますよ。料理用、薪割用、戦闘用の槍や銛などもありますね。ワニを狩るなら銛など良いですよ」
「それは是非見せてください。では、広場で販売をお願いできますか」
「ええ、分かりました」
ゴワーーーーーーン・・・・・ゴワーーーーーーン・・・・・
・・・この音は鐘か銅鑼のようなものか?なるほど、通知手段としては良いな、うちも真似るか。
「この音は鐘ですか?」
「鐘・・・ですか?・・・いや、私らは地下で拾っただけなので、なんと言う物かは分かりませんが、叩くとあのように大きな音がするので利用しています。一抱え程の丸い金属ですよ」
何だろう・・・半鐘みたいな物か?いや、それより地下ってなんだ?ここにも地下施設があるのか?
「この斧を一本くれ、それとその大きな弓もくれ」
「まいど~」
「刃物を研ぐ道具はあるか」
「ありますよ、この砥石三種類と研ぎ棒ならどんな刃物でも研げます」
「こちらの小屋にある商品は女性向け商品ですので、男性の入室はご遠慮ください」
「見慣れない材質だが、この綱はどの位の強度なんだ?」
「俺やあんたがぶら下がってもビクともしないぜ」
「この皿は何で出来ているんだ」
「ぷらすちっくという素材です、火にかけると変な臭いと煙が出るので注意が必要ですが、洗いやすいし軽くて丈夫ですよ」
「この敷物は良いな」
「寝るときに下に敷いて、こっちの布団をかけると冬でも暖かいですよ」
「こっちは強い酒で順に弱くなるように並べてある。味見は一口だけだぞ、そこのやつ既に酔ってないか?酒に弱い?ならなんで一番強い酒から味見してんだよ」
売り子の人数が足りないので街から数人応援を呼んでの青空市だ。例外として女性の下着などは小屋を出して室内で販売している。別棟で試着室も用意したが、当然俺には中の様子など分からないので、クーナにお任せだ。鬼族はみためがほぼ人族のうえエルフと違って、年齢に応じて外見も変化するので、幼女から少々お年をめしたご婦人まで様々な女性が、新しい服を抱えて試着室に入り、新しい服に身を包んで出てくる。・・・・アルケニーが一部商品をばらして、布を利用したりしていたけど、その豹柄の布が元は何だったのか気になるぞ。
・・・あ、おねえさん、そのビキニはそっちの若い子に譲ってあげたらどうかな。もちろん口に出して言わないけど、ほら旦那も微妙な顔しているよ・・・まさかそのビキニで出てこないよね・・・・・・・あれ、おねえさんビキニどうしたのかな?
・・・・おお、何故か若い子がトラ縞ビキニで出てきた。果たしてあの小屋で何があったのか・・・いや、好奇心は猫をも殺すというから耳目を塞いで、他の事を考えよう・・・そうだ、鬼の集落に仙台弁を普及する方法を考えよう・・・・・。
「お館様、何か変なこと考えてますね」
「そんなこと、ないっちゃ。・・・真面目に仕事しているぞ」
「そうですか、それなら良いのですが、考え事をされる場合は、顔を試着室に向けていない方が良いかと思いますよ。無表情で試着室に顔をくけていたので、鬼の女性に好くない噂が立ちそうでした」
あれ、なんか怒ってる?試着室覗いていたわけじゃないよ。
「・・・・どんな?」
「お后や妃は決まっているか、夫人は定員何名かなどです」
・・・・えーと、日本の後宮における位でいえば、皇后は第一位の正妻で、妃は皇后の次位もしくは皇太子の妻、夫人は大昔にはあった愛人枠?で妃の下位になる。他の国の場合・・・中国史の皇帝は天皇と略同じ・・・というか、これは日本が模したのだから、当然だな。他の帝国は政治体制としては、全て滅びているしキリスト教の影響下にあるヨーロッパ諸国は一夫一妻のため公式な後宮は無いだろう。
「・・・公王って、王より下位なのに何でそんなに、嫁の枠があるような話になってるのかな」
「おかしいですよね。私には、ぼ~っとしているだけで、目は開いていても何も見えていないと分かったのですが、一部で“好みの女性を探しているのでは”と思われたようです」
「・・・以後気をつけます」
「ケント、ちょっとこれを見てくれ」
「ん?どうした」
モーブが円柱状の金属の塊を手にやってきた。大きさはさば味噌の缶くらいの大きさかな。
「ちょっとこれ持ってみろ」
差し出された缶詰のような物を受け取る。色合いはミスリルっぽい感じだ。
「お、案外重いな・・・この重さでミスリルってことは無いよな」
「捻ると真ん中で二つに分かれるんだが、中に魔石が入っている。ものを冷やす魔道具だったらしいんだが、壊れたのか使えなくなったので、調べて欲しいそうだ」
へえ・・・鑑定・・・魔石の魔力切れだな。
スマホを出して魔法陣解析して魔法陣を保存してから、魔力を誰かに入れてもらうか・・・。
シデンに少しだけ魔力を込めてもらって、起動実験すると、魔道具は徐々に冷たくなってくる。
「これは、魔力切れだったようだ。たぶん冷やすために何か箱に入れていたんだろうけど、たまには魔石を外に出して魔力を補充しないと、また魔力切れになるだろう」
シュテンに魔力切れを伝えると魔石をいくつか欲しがられた。どうやら他にも動かなくなった魔道具があるらしい。そして。
「この外にも魔道具らしきものが多数あるんですが、動かないのが多いのと、用途が分からなくて使用者が怪我をしたことがありまして、それ以来魔道具を回収していなかったのですが、よろしければ地下に案内しますので、調べてはもらえませんか」
「ええ良いですよ。その代わり魔道具の解析をさせてくださいね」
どんな道具があるか分からないけど、動かなくても術式サンプルが手に入るだけで大収穫だな。




