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52 オーガの縄張りを目指して

遅れました

「オーガの縄張りまでどのくらいあるんだ」

「大体20kmぐらいだな、川をさかのぼるから少し手前で陸に上がって、小屋を出して一旦戻ろうと思う」


川を進みながらモーブと会話する。


「そうだな、夜になっては俺たちの方が不利だろうし、相手の方が数も多いだろうから、慎重にいった方がいいな」


今俺たちは2隻の水陸両用自転車に分乗して川を遡っている。以前聞いた話によれば、オーガの生息域は街から直線で二十数キロ北にあり、そこは森に流れる川が東西に別れる地点の上流であるらしい。


「それで、オーガの生息域に行ってどうするんだ?そもそも言葉が通じるのか?」

「それなんだが、キッドたちはそれなりに森を歩き回っていたらしく、色々と珍しい話をしてくれたんだ。オーガにも出会ったらしいが、オーガについては『良いやつらと嫌なやつら』が居たというんだ。これが単純に部族の違いによる考え方や習慣の違いによるものか、別の理由があるのかで対応は変わると思う」

「エルフが船で川を進んでいたら石を投げられたというのが、嫌なやつらというわけか」

「いや、それも分からない。石を投げられたとは言っていたが、当てられてはいない。最初から威嚇して追い払うだけのつもりなら、良いやつの可能性もある」

「つまり会ってみないと分からないと?」

「そういうことだな。俺の知るオーガも大概頭が悪くて凶暴という感じだが、オーガは日本では鬼と訳される。昔話における鬼は日本に流れ着いた外国人説や、山に篭っていた鍛冶師説などもあるが、野党や盗賊行為の罪で成敗される悪であったり、人助けをする優しい鬼であったり、その言い伝えによって性質は変わる」


そしてもう一つ、地獄の獄卒という側面もあるが、これは話をややこしくするので言わないでおこう。


「ケント、何か居るぞ。この感じだと川の中だな」

「何か水生生物が居るわけか・・・。気配を感じるんだから魚じゃなく動物か?」


ピラニアとかモーブが感じるような気配があるんだろうか。


「ナビでも感知した。右手前方に居るようだが、何か見えるか」

「特に何も・・・いや、何か来るぞ」


モーブが警告を発してまもなく、水面から巨大な口が現れた。細長い口に並んだ無数の歯。ワニっぽい生物が水中に居る。こいつら池にも居るのか?こんなのが水中から襲い掛かったら子供なんてあっという間に食べられてしまいそうだ。


「お館様、ド、ドラゴンの群れです」

「え?」


ドラゴン?ワニじゃないのか?

鑑定・・・・・クロコダイル・・・やっぱりワニじゃねえか。


「黒足、あれはドラゴンじゃない。ワニといって水辺に住む大型の肉食トカゲみたいなものだ。だけど、あの歯は伊達じゃないから絶対かまれるなよ。噛み付いてからの横回転がやつらの必殺技“デスロール”だ。一度噛み付いたら獲物が死ぬか食いちぎるかしなければ、離してくれないと思え」

「ワニ?ですか。ブレス吐きませんか」

「俺の知るワニならたぶん吐かない。黒足、レオノール、目を狙って弓で撃て。モーブはロープ付き銛を出すから突き刺して逃げられないようにしてくれ。ちなみにワニ皮はバッグや財布などの素材になるぞ」

「分かりました。モーブさん私とモーナのために、確実に捕獲してください」

「おい、その追加情報は今必要だったか?戦うんじゃ無くて狩りになったぞ」

「とりあえず二、三匹狩れば良いから」


狩りすぎると違う生物が増えて、別の問題が起きるかもしれないからそこは冷静に対処しないとな。



「結局狩ったのは3匹か、予定通りだが最初に見た時は10匹ぐらいいたような気がしたけど、いつの間にか逃げたか」

「池に通じる川に柵でも作るか?もっとも今まで池に来なかったんだから、何か来ない理由があるかもしれないぞ」

「う~ん。池に来ない理由はちょっと分からないな。まあ緊急性が無ければ後でかまわないか」


その後は特に何かが出てくるということも無く、平穏に川を遡る。

川が二股になっている地点の2km程手前で川から上がって、ベースキャンプを作る。

窓は外から中が見えないように塞ぎ、代わりに屋根の上に取り付けた監視カメラで全方位を警戒する。


「どうする一旦戻るか」

「夜間何か来るかもしれないから、交代で起きているようにしてはどうだ」

「何かあれば電話が来るでしょうから、こちらで野営して良いんじゃないですか」

「そうだな、こっちに泊まるか・・・夕飯は煮炊きを控えて缶詰と保存食でいいか」


そして夜中。


「ケント何か来るぞ、全員起こせ」


俺の夜番中にモーブが突然起きだして、何物かの接近を告げる。俺起きていたのに気がつかなかったんだが、寝ていても気配って分かるものなのか?


「何がくるんでしょう」

「数は少ないが、たぶんそこそこ強力な相手だぞ。気配も強いし、妙に重い感じの足音がする」


やがてナビの範囲に入り、対象はもはや目前というほど近くに接近しているようだ。

監視カメラを覗き込んでも、画面は真っ暗で姿を確認できない。ライトが目立つのでライト無しの製品を使ったからこれは仕方が無い。

やがて・・・・。

ゴンゴン。

何者かが小屋の扉を叩く音が響く。扉がゆれているので結界が発動していない・・・これは攻撃ではなくノックなのか?

外に向かって話しかけてみる。


「あ~どちら様ですか」


ノックがやんで、しばしの静寂。


「夜分すみません。近くに住む者ですが、こちらの家を見つけて、ノックさせていただきました。昨日通りがかった時には家など無かったと思うのですが、引越しされてきたのですか」

「いえ、移動の際の仮宿ですので明日には引き払います」

「そうですか、この先の川の上流は危険ですから、近寄らないほうがいいですよ」


(どうする?なんか良い人っぽいけど、中に入れて話を聞いてみるか)

(そうだな、話は通じるし、もし敵対されても一人なら何とかなるんじゃないか)

(ええ、声の感じも不快では無いですね)

(じゃあ、入ってもらうか)


「どうしました?」

「あ、すみません。折角ですから中でお話を聞かせてもらえますか?お茶ぐらいなら用意できますのでどうでしょう」

「あ、良いんですか。私も少しのどが渇いていましたので、お茶をいただければありがたいです」

「では、今開けますね」


そして、開かれたドアの前に居たものは、ワニだった。



「いやあ、川で魚を取っていたら、ワニが何匹も流れてきたんで、夢中で捕まえていたら、すっかり暗くなってしまって。その上ワニは重いし服はぬれて気持ち悪いしで、難儀していたんですよ」


扉の前に居たワニ・・・ではなくワニを背負った青年、シュテンとやらは、俺の出したお茶をすすりながら朗らかに言った。

見た目は殆ど人族と同じだが、額の辺りに小さな角らしきものが二本、栗毛色の髪の間からのぞいている。体格はがっちりしているが、細マッチョな感じで、大きさだけ比べればモーブの方が大きい感じだ。まあ、ワニを二段重ねで運んでいた辺り、力は相当なものだろう。


「それで、皆さんどこに向われているんですか」

「あ~それなんだが、俺たちの知り合いのウィリアムってやつが、川の上流でオーガにあったと言うんで、訪ねてみようと思っていたところなんだ」

「え?オーガの里に向っていたんですか。迂闊に入ったら死にますよ」

「え?死ぬの」

「ええ、死にます。というか殺されます。基本的にオーガは強暴で頭が悪く、悪食なので何でも食べます。ノコノコ近寄れば『俺、お前丸かじり』ってなもんですよ」

「君もそのオーガじゃないのか?」


角あるし、オーガだよね?


「あ、僕はオーガじゃなくて鬼です。元は同じ種族だったみたいなんですけどね。何代前かは知りませんが僕らのご先祖が、鬼になったのでオーガの里を出て別の集落を作ったらしいんですよ。親父に言わせると『馬鹿がうつるから袂を分かった』らしいです」

「それじゃあ、君たちの一族は皆君みたいに、穏やかな感じなのかい」

「う~ん、僕らも元はオーガですから、感情的になるとちょっとアレな事もあるんですけど、普段は割りと穏やかですよ。オーガの方は最近じゃ話も通じなくなって、大きなゴブリンって感じになっちゃって、同一視されるのはもう勘弁してって感じです」

「エルフに聞いたんだが、川に障害物をおいて近寄ると、石を投げているそうじゃないか、それはどっちなんだ」

「あ、それは僕らですよ。あの障害物より上流はオーガのテリトリーなんで近寄らせないようにしてるんですよ。まあ、外から船でやってくる人間は略全てオーガに殺されちゃってますけどね。流石にそこまで邪魔すると、オーガと僕らで戦争になっちゃうんで、オーガの里の上流は不介入にしてます」

「なるほどね。いやあ、貴重な話を聞かせてくれてありがとう。良かったら酒とつまみも出そうか?」

「え、良いのかいこんな話で、貴重な酒を飲ませてもらっちゃって。いや、今日はいい日だな、大量の肉は手に入るし酒まで飲めるなんて最高だ」


その肉というかワニは俺たちの取りこぼしだろうな・・・などと思いつつ、酒とつまみを用意する。酒は何がいいかな?ワインと弱めの焼酎が無難かな。つまみはジャーキーとサラミにチーズたらで良いかな。


「酒は手に入りにくいのかい?」

「森で取れた果物で作っちゃいるんだけど、半分ぐらい失敗して腐ってしまう感じかな」

「じゃあ、このワインを飲んでみてくれ。葡萄から作った酒なんだ」

「へえ~・・・うん美味い」


日本の鬼伝説=白人説がある理由として、明るい髪色に大柄な体、そしてワインを飲む姿を、人の血を飲む異形の巨漢と思い鬼とされたというが、鬼がワインを飲む姿は妙に様になっているな。知らなきゃワインではなく血だと思うかもしれない。


「この酒は俺の街で売っているんで、良かったら買いに来てくれ。その川を下って行くと川の分岐があるんだけど、分岐に沿って歩けば街に着くから」

「もしかして、ナラ公国って国かい」

「ああ、そのナラ公国だよ」

「へ~噂は聞いてるよ、森にあるのに凄く大きな街で、食べ物が美味しいとか、便利なものを売ってるとか聞いたけど、この酒やつまみがあるなら、買いに行くよ」

「店の商品は、魔法で取り寄せできるから、なんなら明日集落で出張販売しようか?」

「それは助かるよ、是非集落に来てくれ」


こうして、ひょんなことからオーガの情報と鬼の集落への伝手をえて、俺たちは鬼の集落へと向かうことになった。


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