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51 防衛用魔道具の作成

「お館様、以前シツジーに食べさせるために植えた草が、大きく育って実がついてきたのですが、どうしましょう」


シツジーの食べる草って何だっけ?


「わかった見に行く」


現地にいって確認をする。

あれ、これって麦?いや、えん麦・・・猫草か。30m四方位の土地にまばらに生えて育っている。シツジーの食べ残した猫草が育ったのか。


「これは麦ですか」

「いや、同じ仲間の植物だけど麦じゃなくて、えん麦だね。干して皮を剥いた粒を、蒸して押し潰して乾燥させたものを、粥にしたりして食べるらしいよ」

「おいしいのですか」

「俺の場合はそのままではなく、米を炊くときに押しつぶした押し麦という状態で売られていたものを混ぜて食べていたな。米のような粘りは無いけど米よりも弾力がある感じだ。店の商品でグラノーラってあるだろ、あれに使われている穀物の加工前のものだよ。あのグラノーラは糖分が加えてあるから甘いけど、蒸して押し潰すだけなら甘くはないよ」


少し加工が面倒だけど、欧米では普通に食べるんだよな。粥にしたりスープに入れたりホットミルクをかけて食べたりすれば、米より好む者も居るかもしれない。穀物のひとつとして栽培しても良いかもしれないな。


「収穫しておいた方がいいですかね」

「そうだな、米とは別の食べ方で人気が出るかもしれないし、旅の途中や夜営などで食べる食料として持ち運ぶにも、軽くて良いんじゃないか」


米のように研ぐ必要が無いから、水が少なくて済むし腹持ちも良いから携帯するには良いかもしれない。


「では、一先ず収穫しておきます」

「よろしく。それにしてもこの森の植物は、季節関係なく育ってないか?」


家で猫草を育てるときは、いつ植えても目が出て葉がでるので、あまり気にしてなかったけど、二ヶ月で収穫の上6月に蒔いて8月に収穫っておかしいだろ。ジャガイモも三倍の早さで収穫になったし時期も変だったし。


「この森は魔力が多いからでしょう。森の外ではこんなに早く育ちませんし、豊作でもないようですよ」

「そうか、この土地はやっぱり変なんだな」

「まあそうですね」


じゃあよろしくといって、名も知らぬエルフに別れを告げ、街中を歩く。

人口も増えたし種族も増えて、街は賑わっている。移住してきた人間・・・人族というべきかな?彼らの多くは商店や宿関係で働いているが、他の種族ともうまくやっているようだ。商店街ができた当初はホームセンターの商品を扱う店しかなかったが、現在は八百屋、肉屋に魚屋、衣料品店が増えている。特に衣料品店は連日大盛況で、ホームセンターの商品と洋裁アプリの知識を得たアルケニーたちが、次々に新しい衣服を発表しているため、毎日のように店に通う女性客もいるとか。特に、ブラやパンツは下着類と女性の意識に革命をもたらした。あまりの盛況ぶりにバーゲンセールかと思いきや、レオノールによれば3,000円から20,000円まで、幅があるもののどの価格帯も次々に売れ、いつも日暮れには売り切れ続出だそうだ。

野菜や肉・魚は店の裏側で買い取りも行われているため、各生産者が売りに来たり、子供が小魚を売ってこずかいを稼いだりという、感じになっている。


商店街を抜け中央広場へと歩みを進める。

まあ中央広場といっても現状は何も無い空き地でしかないが、将来的に噴水でも設置できたらいいなと思っている。

そして更に下ると正門にたどり着く。正門の脇には防壁に接する形で監視塔を建設中だ。完成すれば防壁と塔の内部の出入りが出来るようになる。街を囲む防壁は内部が通路になっており、一定間隔で守備隊の詰め所も設けてある。この詰め所は武器防具の収納と隊員の休憩室を兼ねていて、通路状の防壁も含めて結界が付与されている。

塔の作成現場では、ドワーフや人族の工夫が忙しなく動き回っている。


「お~い、工事状況はどうだ」


とりあえず、忙しそうな工夫たちに声をかけてみる。


「あ、公王様。工事は順調です。ここは後三日もあれば鉄板の外装まで、終わると思いますので、次は南北で一台ずつ施工します」

「そうか、早く出来上がったほうが良いのは確かだが、事故を起こさないように無理はするなよ」

「はい、安全第一で工事を進めます」

「じゃあ、暑い中大変だろうけどがんばってくれ」


そして、門番に話をして街の外に出る。そのまま歩き、門から300m程はなれたところに、ツノシシの死体を置いて、100m程離れる。


「さて、うまくいくかな・・・・」


懐からスマホを取り出して魔法陣アプリを立ち上げ、目的の魔法陣をデモ・モードで起動する。


「出力は・・・とりあえず20%に設定・・・・ターゲット、ロックオン。発射」


スマホをタップすると、スマホを中心として直径2mほどの魔法陣が展開する。更にスマホから六枚の魔法陣が放たれ、ツノシシへと向う。魔法陣の光は四角い箱となってツノシシの頭部を囲む。六枚の魔法陣がそれぞれの面を構成している感じだ。


魔法陣は10秒程強く輝き、やがてふっと消えて、そこには何一つ変わらないツノシシの死体が残る。

デモ・モードは発動のテストを行うもので、対象となった実物には何の影響も与えないが、予測される魔法陣効果をスマホ上で確認できる。まあ使ったことが無かったので念のため外に出て実験していたわけだ。


「えーと、対象の推定温度65℃か・・・」


脳がこの温度になったら殆どの生物が死ぬよな。よし、実証してみるか。

魔道具に実地テストのために、モーブに電話して来てもらうことにする。


「武器の試験をしたいから、森に入ってツノシシかゴブリンを、狩ってこようと思うんで、誰か護衛によこしてくれ」


程なくしてモーブとウーローンがやってくる。


「単体攻撃用の遠距離武器試験なんで、数が多かったり接近してきたりしたら対処してくれるか」

「分かった」

「近づけなければ良いのですね」


モーブの気配察知を頼りに生物を探す。


「例の対空用の武器か?」

「ああ、スマホで実行できるところまでは確認した。後は効果を確認して魔道具にする作業だな」

「スマホでという事は、魔法で火を飛ばすような武器ですか」

「そんな感じだな。モーブなら見れば武器の正体が分かるかもな」


そんな話をしているとモーブが魔物の気配を察知する。ナビに反応が無い辺り、150m以上離れているんだろうな。当然俺にはさっぱりわからない。

やがて、数匹のゴブリンと接触する。戦って負けることは無いので、あえて降伏勧告をしてやるが、話は通じないようなので、武器の実験台になってもらう。


「奴らの一体に攻撃するが、どうなるか分からないから魔法陣が消えるまで近寄るなよ」


モーブとウーローンが武器を構えていることから、ゴブリンは様子見をしているだけで、逃げもしなければ攻撃もしてこない。実に好都合だ。


「出力30%に設定、ターゲットロックオン。発射」


先程の実験よりやや大きな魔法陣の箱が、射出されゴブリン一体の頭部を囲む。あ、横に居たやつの半身も巻き込んだ。出力を上げると効果範囲が広がるのか、単純に火力が上がるほうがいいな。

ゴブリンは頭を囲んだ魔法陣を、取り払おうと腕を振り回すが、触る事ができないので魔法陣を振り払うことなんて出来ない。その上、巻きこまれたゴブリンが逃げようとしても、魔法陣に包まれた体は抜け出すことが出来ないようだ。

実に都合良い効果だな。


二体のゴブリンは数秒もがいていたが、やがてブシュと軽い爆発音と液体を撒き散らしながら、ゴブリンの頭部がグロイ物体に変わる。巻き込まれたほうは爆発こそしなかったが、半身を焼かれてこちらも既に死んでいるようだ。


「あ、逃げた・・・」


ウーローンがポツリと漏らす。攻撃を受けていなかったゴブリンは仲間の異様な死に様を見て、戦意を喪失したのか、死んだ二体が地に崩れ落ちた瞬間一斉に逃げ散った。


「・・・・この武器は・・・電子レンジか?」

「ああ、原理は同じだ。敵を囲んだ魔法陣からマイクロ波を放出して、対象を加熱する。マイクロ波の影響を受けない物体もあるが、生物には大概効果があるはずだ」

「俺はなんていうか、炎が飛んでいくとか、高熱を放出するとかそういうものを、想像していたんだが・・・」

「上位の魔物って耐火能力も高そうだろ、でもマイクロ波で内部から加熱されたら防ぎようが無いと思うんだ」


「モーブが想像していたような、魔法を打ち出す武器や電磁砲も、考えたんだけどさ、なんかこうありふれてるかなと・・・あとオーブンで外から加熱するより、電子レンジの方が早いし電気食わないっぽいから、効率が良いかなと」

「まあ、俺にはよく分からない話だから、そういうもんだと理解しておくよ」


モーブは頭痛を耐えるような仕草をしながら、少し投げやりに納得の意を口にした。何か少し気になるが、まあいいだろう。

実際問題後は魔石の消費がどの程度になるかなんだが・・・このままスマホから魔法陣を使えば魔石は必要ないが、操作が面倒だから魔道具として武器を作るべきだろうな・・・・。

ホームセンターに戻り、魔道具の作成を始める。先ず、魔法陣をプリントする。魔法陣は大小複数の魔法陣から構成されていて、各魔法陣をつないでひとつの術式になる。

だめだな・・・。本来のサイズは2mだもんな、A4に縮小されていると魔法陣の模様が潰れてまともに動作し無そうだ。


「本来のサイズで作るしかないか・・・」


ベニヤに水転写シートで魔法陣を転写する。分割印刷でとんでもない枚数になったものを、狂い無く並べて模様を描くのは中々に大変だな。次に模様にあわせて接着剤を塗っていき、銀を削って作った銀粉で銀の魔法陣を描いていく。銀が多いほうが回路が丈夫で高出力になるような気がするので、たっぷりと銀粉を盛っていく。

これに魔力を注いでもらえばミスリル製の魔法陣になるはずだ。



「ということで、魔力を注いでくれ」

「・・・ミスリルで魔法陣を描くのではなく、魔法陣をミスリルにするのか、これで機能するのか?」

「魔石の粉末で出来るんだから大丈夫だろ。第一ミスリルになったらめちゃくちゃ硬いし、耐熱性も高いけど、それを加工する方法が分からない。ミスリルにする前に加工した方が楽なんだからおかしくないだろ」


魔法の鍵は純金だったから金でも作れるのかもしれないけど、いずれにせよ魔力を加えたら今の俺たちでは加工できないだろう。

懐疑的なドルトンを促して、魔力を注いでもらう。すると銀粉が溶け出して金属の丸棒のように丸く艶が出ると共に、銀色に輝きだした。


「・・・これどこまで魔力を注げば良いんじゃ?わし、そろそろ魔力が尽きそうなんじゃが」

「入れられるだけ入れてくれ、足りなかったら他の人にも頼むようかな・・・」


魔力を加えてもらいながら、銀の少ないところに上から銀粉降りかけ足していく、ある程度は溶けて周囲となじみながら、銀の量が平均化していく。

ドルトンの後何人かに頼み、魔力が入らなくなるまで注いでもらった。


「軽いな・・・最初は5kgぐらいあったはずなのに」


ミスリルになった魔法陣はベニヤ板から自然に剥離し、持ち上げても形が崩れる事は無いようだ。この魔法陣につながる小魔法陣とは銀の棒でつなぐ(重ねて魔力を流して溶接)ことで、対応する予定だ。


「ミスリルは銀よりも軽いという話じゃな。で、これをどうするんじゃ」

「一応考えてある。この図面の物を作って軽トラの荷台に固定したい」

「ふむ、魔法の効果は分からんが、まあこれ自体は一週間もあれば作れるじゃろ」

「そうか、頼む。飛空船のほうは進んでるか?」

「今、船体を作っとるところじゃが、まだまだかかるぞ。浮遊石はそこそこ取れとるから手の空いたものが、浮力の実験中じゃ」

「そっちもやってくれているのか、助かるよ」

「わしらドワーフだけでなく、ケット・シーも手を貸してくれてるからな。流石に方々で作業しとってドワーフにはもう手の空いている者が居ないからの、これ以上は仕事を増やしてくれるなよ」

「わかった、善処する・・・」


ちょっと遠出するのに、水上用の大型船が欲しかったんだが、今ある水陸両用自転車を増やして行ってくるか・・・。

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