49 空からきた男
もう秋ですが異世界はこれから夏です
季節は夏。
異世界の夏もそれなりに暑い。そして、飲食店の応援で焼き場にたって思う。これはダメだ、発案者としてはこれを見過ごせない。
「暑いから明日の早朝に集まってクーラーを作るぞ」
ホームセンター内のイートインで、紙コップのドリンク片手に涼んでいた黒足に声をかけた。
「クーラー?なんですそれ」
「暑い夏を涼しくするための設備だ、もちろん電気を使わないし、作成費用も安くて環境と懐にやさしいぞ」
飲食店の厨房にある窓の寸法を測り、コンパネを切る。窓に打ち付けるので少し多きめが良い。次に空のペットボトルを30こ程用意する。飲み口から広がった漏斗部分だけを使う、他の部分は使わない。コンパネに飲み口を差し込む穴を開けて、コンパネにできるだけ沢山の漏斗を差し込んで接着していく。乾いたら口側を室内に向けて窓に固定したら完成だ。
「あれ?外から入ってくる風が涼しい・・・」
これはフィリピンなどで廃材を利用して実際使われている冷房装置だ。
「ペットボトルの飲み口みたいに、広いところから狭いところを空気が通るとき、空気の温度が下がるんだ。そして焼き物で気温の上がった調理場は外より暑いから、その温度差で外の空気がいっそう涼しく感じられるだろ」
「良いですね、お館様のお店から出ると暑さが一気に襲ってきますし、最近窓を開けていても暑さで寝づらくて辛かったのでこれは使えますよ」
この世界というかこの森は不思議と蚊とか蠅とか居ないんだよな・・・何か理由があるんだろうか。
「開店前や営業時間の合間に取り付けることにして、寸法を測って工作室でクーラーの材料だけ作っとくか」
そして、ホームセンターの駐車場を歩いていると・・・。
『警告、北方およそ150mに、未確認生物反応があります。ご注意ください』
「・・・・・・・・・何処に!?」
ホームセンターの建物は南北に長く、俺たちは駐車場の東側で略中央にいる。そして、北方は駐車場が広がっている。勿論150m程度は目視で見渡せる距離だ、そこにはなにも居ない。
「何だ、見えない生き物か?それとも小さい虫のようなやつか」
クンクン・・・・??
「お館様、上です!」
「上?・・・って、何だアレ!」
見回していた遥か上空・・・と言うより殆ど俺たちの真上と言って良い上空に奇妙な物が浮いていた。丸に近い楕円形で小さな羽のような物が四つ突き出ている。楕円の先端に小さな突起もあるが、あれは頭部か?しかし鳥にしては形がおかしいし、羽ばたいている訳でもなさそうなのに、ホバリングしているみたいに移動せず無音で降りてくる。やばいなこれ、150mの警報は上空から接近されると、全く役に立たないぞ、上空150m以上から岩でも落とされたら、敵を探している間にペシャンコだ。
「とりあえず、離れよう。真下に居てはアレへの攻撃手段もない」
「アレ熊より大きいですよね?ダンプ位ありますか?」
「いや、たぶんもっと大きいと思うぞ」
UFOもどきの半未確認飛行物体から離れ、防衛用の小屋を出して、中に入ると直ぐにモーブや主要メンバーに電話をする。
「あ、あれの上に何かのってますよ。お館様の木造自転車に似ているような?」
「何・・・木造船?・・・ガレオンか?というか、その台座?アレは亀じゃないか」
巨大な亀・・・陸亀じゃなくて海亀っぽいその甲羅の上に、大航海時代のガレオンに、似た小さな船が乗っていた。亀が8m位で船は6m程だろうか?やがて船は亀の背を離れ単独で降下してくる。嘘だろ、まるでゲームに出てくる飛空挺じゃないか。
鑑定、船と亀
【鑑定:船と亀】
船と亀=飛空船と空亀
飛空船は船底に積むバラスト石の代わりに、浮遊石をマスト上部や甲板裏に設置したことで、空中に浮かぶことができるようになった船。常に甲板面を上にした状態で、空に浮くことができる。海上航海は船底に波の影響を受けるため、揺れが激しく逆に危険である。
空亀は空中を泳ぐ亀。元々は海亀であったが、海に外敵が現れたため砂浜で生活するようになった。小さな浮遊石を多量に含む砂浜に生えた草を食べているうちに、体内に浮遊石の成分が溜まり空亀に進化したもよう。
浮遊石は一定量の魔力を与えると浮力を発生する石。簡単に壊れることはないが過度の衝撃により浮遊石が粉砕されると著しく浮力を失う。(浮遊石の鑑定はサービスですよ)
鑑定の神様、いつもありがとうございます。
ガレオンは地面に向けてアンカーを打ち込むと、ロープを巻き上げ大地に着地というか立つ。
そして・・・。
「お~~~すっげ~~~何だ、ここ」
「船長なんすかこの町は」
「すげ~」
「でけー」
ガレオンっぽい船から、わらわらと船員らしき小さな連中が出てくると、口々に驚きの声をあげている。リリパットやレプラコーンに、半透明の羽の生えたリリパットっぽいのや、他にも見たことの無い種族が多数・・・・・ってリリパット!
「お、おいあのリリパ『馬~~鹿~~息~~子~~!!なにやっとんじゃ~~~~~』・・・え?」
リリパットについて黒足と話そうと思ったら、遠くから長老の声が聞こえてくる。あわてて、顔を向ければすごい勢いで疾走してきた小さな人影が、跳び上がってくるりと回ると、船上のリリパットに向かってキックを放った。すげえ跳んだし、きれいなフォームのライダーキックだ。
「おー親父、久し振りだな。元気にしていたか・・・」
(ドガ、ガシッ、ブン)
「少し元気すぎるようだな」
(スタン、ダッ、パン、ズガガガン)
「元気にしていたかじゃ無いわい、このバカたれが!!何年ふらふらしとったと思っとんじゃ」
(バシバシ、パパパン、ドガ)
「何だよ、ほんの数年だろ」
(ペシペシペシ、ガンガンガン)
「アホか―――たっぷり数十年じゃ――――――」
船上の息子?は長老の跳び蹴りを、両腕でガードして受け止めたが、二人はそのまま徒手空拳で戦い始めてしまった。小さな二人の戦いは殆ど音もないが、俺の脳内にはどこぞのバトル漫画風の効果音が鳴り響いていた。
「これが、息子のウィリアムじゃ」
「これ、言うな」
「やかまし、少しだ黙っとれ」
場所を変えて話し合おうと思ったが、自己紹介するだけで言い合いになり、その後もこの親子はつまらないことで直ぐ揉めるので、シデンを呼んで母親を紹介してもらうことにする。
「あ、無理です。勘弁してください。両親は似た者同士なので、母も父と同類です。なので母を紹介するのは僕にとってはキツイです。しばらく放っておけば二人も落ち着きますよ」
・・・・反抗期の中学生じゃないよね?母親を他人に紹介したくないの?お母さんそんなにアレなの?
長老が居ると話が進みそうにないので、申し訳ないが席をはずしてもらい、俺と息子さんで直接話すことにする。
「改めて、自己紹介させてもらおう。俺がランデンの息子で飛空船ギャレー号の船長のウィリアムだ、気軽にキッドと呼んでくれ」
キッド?・・・・・ああ、ウィリアム・キッド=海賊キャプテン・キッドか。伝説と実像がかけ離れすぎた私掠船海賊だな。部下に裏切られたり、島に置き去りにされたり、私掠船なのに部下が勝手になんでも襲って、自国からも海賊扱いされた上に処刑されて晒された、残念な二流海賊だ。一説には本人の罪ではなく政治的な背景で処刑されたと言われるが、隠し財宝が一部見つかってからは話が盛られて、世紀の大海賊扱いされた海賊だが・・・・そこまで知らないからキッドを名乗ってるんだろうな、仲間に裏切られなければ良いが・・・。
「この街を治めるナラ公国公王、奈良健人だ」
「それで、俺たちに何かようか」
「その前に一つ確認したい。貴方の服装は海賊の服装のように見えるんだが、貴方がたは海賊でその船は海賊船なのか」
どくろマークがある訳じゃないけど、そこは異世界だしキャプテン・キッドを気取って居るなら海賊の可能性は高い。
「俺たちは探検家だ。世界の謎を求め、お宝を探して世界を旅しているだけだ。敵対する者やならず者となら戦うが、善人を襲ったり他人のものを奪うようなまねはしてないぜ」
「へえ、じゃああの船や亀なんかも冒険で?」
「おう、川を下るために船大工に作ってもらったんだ。亀は海に出たときに出会ってな、俺たちの念話と互換性があったんで仲間にしたんだ」
「海に出たのか、西と東のどっちの川から下ったんだ」
「筏で森を西に抜けて、西の川からだぜ。知ってるか、この森から西の川に出る手前には・・・・・・・途中で筏がダメになって、船を作るために・・・・・」
その後、俺は一時間ばかり冒険の話を聞いてからウィリアムに、近辺の状況を訪ねてみたが、お宝や冒険話の情報以外はさっぱりだった。そして、俺の国への勧誘もしてみたが、残念ながら断られてしまった。まあ、それでも策はあるので問題はない。
「そうか残念だが仕方がないな。ところで、喋りっぱなしで喉が乾いたろう。ジュースとお菓子でも摘まんでくれ」
リリパットたちに評判の良いジュースやお菓子を並べて進めながら、話を続ける。
「冒険をしている時食料はどうしてるんだ?魔法の袋があっても、うまい保存食があったら良いと思わないか?海の真ん中で新鮮な野菜や果物を食べたくはないか?たまに、冒険先のことを教えてくれたり、簡単な頼みごとを聞いてくれたら、うまい食料を提供するよ」
夢中で菓子をたべるウィリアムに美味しい話を持ちかける。
「俺たちは(モグモグ)・・・安くない(グビグビ)・・報酬は(モグモグ、グビグビ)弾んでもらうぜ」
「ああ、そこは期待してくれて良い。船の方は傷んでないか?船大工は、いないが腕の良い大工なら居るから船の具合を見させようか」
「む、それは(モグモグ)良いな(グビグビ)」
「よし、交渉成立だな。しばらくは滞在するんだろ、契約祝いに街の飲食無料券を渡すから、お仲間に配ってやってくれ」
「あんた良いやつだな、頼みがあるなら聞くだけ聞いてやるよ、つまんない使い走りならまた話が変わるがな」
「それはありがたい。実は困っていることがあってな、これはウィ・・・キッドと仲間たちにも関係がある話なんだ・・・・・」
数日後、俺からもらった食料や飲み物を山積みにして、キッド一行は旅に出た。
「ケント、あの程度の条件でよかったのか」
「ああ、充分だ」
キッドと飛空船ギャレー号の仲間たちは、あくまでも協力者という立場で冒険のついでに手を貸してくれることになったが、それで充分なのだ。
「なんと言っても浮遊石の情報は大きいと思うぞ。俺たちも、飛空船を作れば行動範囲が一気に広がるし、スマホがあれば緊急連絡も緊急帰国も自由自在だ。その上俺たちとは別にキッドからも各地の情報が手にはいる」
キッドには二台のスマホを渡した。一つは奥さん用だ。対価として浮遊石の採掘場へ寄ってアプリによるゲートを開いて俺たちを案内してもらうことになっている。
スマホアプリによる魔法の鍵は“自動作成 魔方陣”で解析して、魔方陣に記載された、鍵の識別記号を書き換えることで、無限の組み合わせを作ることに成功した。これは鍵AとBの魔方陣からフローチャートを表示させ、その二つを見比べて個体識別の部分を探し出すことで可能になった。当初エルフに見比べを頼んだが早々に音を上げられてしまった。どうやらチャートは広辞苑並みの分量があったらしい。申し訳なかったので酒を渡して労った。仕方なく鑑定の神様に頼んでみたところ、あっさり相違点を教えてくれた。
こうして作成されたアプリの扉を、魔法の鍵と区別するためにゲートと呼ぶことにした。使用に際して両地点でアプリを使用し同一ゲートを開かないといけない辺りは以前と同じだが、ユニットハウス内に常時起動させたスマホを設置すれば、世界各地へのゲートを開くことができる。そのための最初の移動手段が飛空船であり、設置ポイントを選ぶ上での情報提供者がキッドたちとなる。
「街が落ち着いたら休みをとって、俺たちも冒険するぞ」
「聖光神国はどうするんだ」
「うちの勢いが増していけば、そのうち正体を現すさ」
「良いのかそれで・・・」




