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46 身から出たさび?と、忍び寄る闇

「残りの移民予定者は人間にゃ」

「え、人間ですか?それはいったい何処に住んでいる人間です?」


殿下から移民候補の最後の種族についての説明を受けると、実は人間だと言う。


「10年ぐらい前に帝国に嫌気がさして、開拓村を作っていた連中にゃ、最近帝国で政変があって大きな内乱になっているにゃけど、一部の貴族が開拓村を占拠して自分たちの土地にしてしまったにゃ」

「う、それは大事おおごとですね。しかし、外の人間はどうなんでしょうねえ。最初の趣旨とだいぶ変わってしまいますよ」

「そうにゃ、急な内乱で驚いたにゃけど、帝都に突然洪水が発生したのがきっかけだそうにゃ。帝都では、帝国に天罰が下ったとか、魔法王国の呪いだとかいう噂が広まって現帝の排除に動いた勢力との武力衝突が起きた後、恭順を示していた地方貴族(元他国貴族)も一斉に蜂起して瞬く間に内戦になったそうにゃ・・・今回の移民はどこかの誰かの尻拭いにゃから仕方がにゃいにゃ」


殿下の言葉を聞いた俺を含む数人は、視線をさまよわせたり、知らぬそぶりをしようとして逆に動揺して挙動不審になっていたりだったが、どうやら最初からバレばれだったようだ。


「その原因のどこかの誰かの事は置いておくとして、普通に移民を募っても駄目ですよね」

「差別意識は低いと思うにゃけど、未知のものへの恐怖はあるにゃ」

「じゃあ、ちょっとその辺考えますね」


ジャガイモの収穫

地球ではジャガイモは植え付けから収穫まで、およそ100日かかるがこの地においては30日ほどで花が咲き、葉が萎れてきたので、急ぎ収穫することになった。そして、その収穫量は大豊作と言っていいものだった。


「いや、凄いな。コボルトの三倍の速さで掘り起こしていているんじゃないか」


ジャガイモ収穫の主戦力となったのはオークだ。彼らはドワーフと互角の力を持ち体も大きく、何よりもジャガイモの位置を本能で感じ取れるとかで、スコップを挿す位置が絶妙だ。ジャガイモの収穫は、先ず邪魔な葉を切って地面から出る茎を少し残した形にする。その後茎から20cmほど離れた場所にスコップを差し込み、土を起こして芋を掘り出すことになる。芋は軽く土を払って風通しの良い場所で表面を乾燥させてから収穫すると傷みが少ない。サツマイモと違いジャガイモの葉や茎はソラニンが含まれているため食用には適さないし、芋も冷暗所での保存が良い。


「お館様、ジャガイモが蒸かしあがりましたよ」

「ありがとう。こっちもそろそろいい感じだから、皆でいただこうか」


レオノールが、屋外炊事場で蒸かしていた、できたての蒸かし芋を持ってきてくれたので、俺たちは手を止め早速いただくことにする。移民募集の過程で「貧困層は宿代や食事代は抑えたいのではないか?」と言う意見が出たため、安宿(6畳ログハウスなど)の近くに給排水付の屋外炊事場を作成し申告制で使用を許可することにした。周囲の建物とあわせてみると、どこかのキャンプ場のようだが、食材を持ち込んで料理したい者は、この炊事場でのみ煮炊きできることになったわけだ。


「ところで、先程から皆さんで振っているそれは、何の意味があるのですか」


それとは、俺たちが手に持ちシェイクしていたマグボトルの事だろう。


「これは、蒸かしたジャガイモにつける調味料の羊バターだ。採れたてのジャガイモはそれだけでも美味いけど、塩やこのバターを少量つけて食べると更に美味いぞ」


振っていたボトルのミルクを別の容器に移し、中に出来た半練のような固形物を取り出し、少しだけジャガイモに塗って食べる。


「うっわ濃厚だな。しかしそれがまた良い」


俺が美味いうまいと食っていると、周囲に居たものも食べ始めた。


「これは!確かに美味いです」

「採れたてで美味いのも確かだが、この蒸すというのは良いな。煮ても焼いてもこうはならん」

「ボトルを振れと言われたときは何の罰則かと思いましたが、これは確かに美味いです」


生乳を浅い容器に入れ冷蔵庫で30分ほど冷やすと水分とクリームに分離する。上澄みのクリームをボトルに入れひたすら振っていれば、生乳からのバターが完成だ。生乳が手に入らない日本の一般家庭でも生クリームからなら振るだけでバターを作ることが出来る。また残った水分はホエーといって栄養価が高いので、水代わりに料理に使うか、一度沸騰させてレモン汁などを加えれて凝固したものを布でこせばホエーチーズになる。


「お~いノブタ、適当に交代しながら食べに来いよ」

「は~い、わかりました~」


そして、そんな俺たちを囲むように人だかりが出来てくる。そんななかから小さな声が聞こえてくる。


(あれ、毒芋じゃないのか?)

(わかんないけど、確かに似てる)

(あの芋食べられたのか?)

(あれが食べられたら、うちの集落でも食べるの困らなかった・・・)


「今日は特別サービスで、塩を振ったジャガイモ50円~ バター乗せ100円です~いかがですか~」


実は、俺たちが食べるだけではなく、この採れたてジャガイモと蒸かし芋はすぐ横で即売会を行っている。今売り子をしているのはユリアンニと母親のクレマリアだ。そして、俺たちを遠巻きに見守るのは殿下の言っていた住んでいた村を追われた人間たちだ。まあ正しくは追われたのではなく、そのまま貴族がこき使おうとしたので逃げてきたわけだが。


「あの、塩をひとつ欲しいのですが、この国のお金が無くて」


人だかりから男が歩み出て、蒸かし芋を買いたいという。


「お、おいあんた、食べるのか」

「しばらく満足に食えて無かったんだ、食べられるなら何でもいい」

「物品と交換希望なら、査定して買い取りますよ」

「え、ではこの毛皮を買っていただけますか」


言って取り出したのは1m程の茶色い毛皮。クレマリアはバーコードリーダーのような読み取り器を毛皮にあて、買い取り価格を告げる。


「狐の毛皮ですね、状態も良いので8,000円で買い取らせていただきます」

「8,000円とはどの位の金額ですか」


問われたクレマリアは電卓をはじき、客に告げる


「先程の蒸かし芋で160個かしら。生のお芋も一個50円で、大体30kgキログラム分位で8,000円分ね。数は200ぐらいだから、まとめて買ったほうがお安くなりますよ」


客は今ひとつ理解が及ばないらしく、首をかしげながらも、蒸かし芋を受け取り頬張る。


「アツ、・・・ぐあ、あ、あつ」


一瞬吐き出そうかと迷ったようだが、そのまま飲み込み胸を焼く熱に声を漏らす。


「おじちゃん、はいお水」


男はユリアンニから差し出された水を受け取ると一気に呷り、ユリアンニに礼を言って水代を尋ねてくる。


「食事処でお水だけとかは駄目ですけど、この街ではお水は無料ですよ。それで、お芋はいかがかしら」


男は改めて芋を食べ『うまい』と言って、残りを食べ終えると、更にバター付きを購入して食べ始め・・・。


「うまい、こんな美味いもの初めて食べた・・・」

「そんなに美味いのか!? 単なる芋だろ?」

「本当だ。な、なああんた、さっきの狐の皮を売った金を銀貨に変えたり、銀貨で物を買ったりは出来るのか」

「はい、出来ますよ。1000円で大銀貨1枚になります」


この世界の貴金属の価値と物価を考えると日本円に換算するのは非常に難しかった。その中で、大銀貨と呼ばれるものが凡そ22グラムで内銀は80%程、これに地球の銀取引値段を当てると1100円を超えるくらいだが、計算が面倒なので1000円ということにした。この世界は本位貨幣なので、金銀銅などの価値がそのまま金額に反映されるが、これも地球の価値とは異なるので、どうやっても矛盾が生じる。調整しきれないので若干無理やりな部分はあると思う。

金貨1枚が大銀貨50枚で銀貨1枚が銅貨25枚になり、銀貨は額が小さくなるほど硬貨が小さくなるが、最小通貨の銅貨20グラム=10円相当は比重の違いもあって大銀貨よりも大きく穴も開いているため、一番小額で一番大きなサイズの貨幣となっている。

一覧にするとこんな感じだ。


金貨10グラム =50,000円 直径約 22mm

小金貨3グラム=15,000円 直径約 16mm 厚さ1.2mm

大銀貨22グラム =1000円 直径約 35mm

中銀貨10グラム =500円 直径約 27mm

銀貨5グラム  =250円 直径約 24mm(穴あき)

小銀貨2グラム =100円 直径約 18mm

軽銀貨1グラム =50円 直径約 15mm(穴あき 銅比率高め)

銅貨20グラム =10円 直径約 39mm(穴あき)


なんとも頭の痛くなる事だが、換金表を作って対応するしかないのが現状だ。

しかも物価の違いで、非常に面倒なことが起きるのだ。


「1,000円が大銀貨1枚!? じゃあさっきの毛皮が大銀貨8枚になるのか!」

「確かにそうなるな、そこであなた方に問いたい。あなた方はケット・シー王国にある魔法の扉でここに来たわけだが、その扉の使用許可が再びもらえる日を夢見て、村に帰ってここへ売る素材を集めて暮らすか、この国の住人となってなに不自由なく暮らすかどちらを選ぶ?どちらでもその判断は尊重するよ」


殿下とヨルンの話では、南町で暮らす職人の、日給がおよそ大銀貨5~7枚だ。そして、先程のきつねの毛皮の、引き取り値は大銀貨2枚程でしかない。同じくパン屋が焼くパンは、ひとつ銀貨1枚で日に50個は売るが、薪代や小麦代に税金を考えると、儲けは決して大きくない。


「この街は、魔物や亜人が暮らす街だろう?危険じゃないのか」


芋を買った男とは別の男が、この街の危険性を問うてくるが、その言いようは好きではないな。

「蜘蛛は確かに魔物だが、賢いぞ。それと亜人なんて言い方は好きじゃないな、ここに居るのは、コボルト族、エルフ族・ドワーフ族・リリパット族やその他数種族であって種族に人との上下はない。すまないが、もしあなた方が人族至上主義者ならば、今の話は無かったことにしてくれ」

「ここに住めば、また狐を獲ったら買い取ってもらえますか?」


先程今を食べた男がまた買い取ってもらえるのかと、尋ねてきた。少し必死な感じだ。


「ああ、もちろん買い取るよ。毛皮だけでなく食べられる肉や野菜、魚も買い取るし、畑なら収穫までは食料や生活品を支援しよう」

「本当ですか、働けない子供や老人が居てもいいですか」

「お、おいあんた本気か」

「街での仕事はありますか、畑仕事でも力仕事でも何でもします」


また別の男が尋ねてきたので返答する。


「もちろん家族全て連れてきてくれ、街中の仕事なら宿屋や食堂が人手不足だから、経験の有無にかかわらず雇うぞ、もちろんそれなりに覚えてもらう事はあるがな。それと実力があれば、何れ自分で店を切り盛りする事も可能だ」


『おお』と声を漏らした男は、振り返って後ろの男たちに言う。


「この街をみろ、何処にこんなきれいで立派な町がある。それにこの畑だ、この一面の緑に大量の芋があるんだぞ、他の作物だって、見たことが無いほどの育ち具合だ。それにさっき聞いたろう?あの小さい小屋が客用の一番安い宿らしいが、俺の家は大きさこそあの小屋より大きいが押せば倒れそうな家だぞ、それがここならドワーフのお屋敷は無理だとしても、エルフの家みたいな確りした大きな家に住めるっていうんだぞ」


中に入るとそんなに差はないんだが、ドワーフの家はお屋敷に見えるのか・・・デザインの差かな。


「わんわんわん」(おやかた様~お魚釣れたよ~)


「ちょっと失礼、子コボルトが魚釣りから帰ってきたようだ、魚は沢山釣れたか」


これは仕込じゃないのにタイミング良いな。


「わんわん」(いっぱい釣れた。今夜のおかずに焼いて食べるの)

「どれどれ、結構釣ったな。サツキマスは塩焼きで良いな。ハクレンはまだ生きてるから(『鑑定、ハクレンの寄生虫 ・・・対象なしか、問題ないな』)生きてるうちに、腹身はあらいにして、背のほうはオイル焼きか、揚げ物にするといいぞ。あらいはレオーネさんに聞くといい」

「わん」(わかった~)

「「「「「声が二重に??」」」」」


その場のほぼ全員が驚く中、一人だけ“何のことか意味が分からない”と言う顔の男がいた。この男なんだか他の村人と雰囲気が違うように思える。

鑑定、帽子の男・・・!!


「おや?変ですね、今の会話が二重に聞こえましたか?そこの帽子のあなたはいかがでしたか?二重に聞こえましたか」


俺の言葉に、男たちが“ええ?”と言う顔をする中、帽子の男は逆に安堵した様子だ。そして、帽子の男は口を開くが、俺には男の言葉が理解できない。同じように俺の街の住人の半数は、帽子の男の言葉が理解できていないようだ。


「先程、会話が二重に聞こえた皆さんは、望むなら喜んで受け入れます。しかし、帽子のあなた、あなたは駄目です。この街は翻訳の魔法がかかっていて、全く言葉の違うもの同士でも会話が成立しますが、例外があるんです。それはあなたの様に相手の存在を認めないような場合です、あなた・・・」


俺の話をさえぎるように、男の腕が高く上がり、その手にナイフが生まれる。そしてナイフが投げられようとした時。


「フミャーーーーーオ」


鳴き声と共に殿下から紫電が迸り、男を貫いた。


「シャー・・・・・公王すまなかったにゃ、にゃーのミスにゃ。たぶんこの男は帝国の間者にゃ、死んではにゃいから、ケット・シー王国で目的と背後を吐かせるにゃ」

「いえ、助けていただきありがとうございます、アントニャオ殿下」

「話している時に、急に警告が聞こえた時は驚いたにゃ、念話とかいうものにゃか」


会話しながら、殿下や周囲に居たものに、警告を送ったけど成功したようだ。

この男の素性については、鑑定をして分かっていることを殿下に伝えれば、取り調べも楽だろう。


「おい、その男、様子がおかしいぞ」

「「え?」」


モーブの声に男を見れば、電撃を食らってピクピクしていた男が、口から血を吐いていた。


ニャルタニャンが男に走りより、男の脈など確認するが、静かに首を振り。


「駄目です、既に死んでいます」




移住については、突然の事態に多少の混乱はあったが、その後人間の移住計画はすんなり進んだ。どうも街の偉い人ぐらいにしか思って居なかった俺が、実は最高責任者の王であったと知り、王自ら移民として厚遇で受け入れてくれるというなら、是非にと言う話になった。襲撃未遂についても、移住者たちは誰も男のことを知らず「いつから居たのかも覚えていない」という事だったし、男がナイフを所持していたことを確認したためか、むしろ暴漢を速やかに鎮圧したことを絶賛する声が聞かれた。

移住者には、他の家族を連れてこの国に戻るまでは、家族にも移住先の情報は漏らさないことを約束してもらい、魔法の扉でケット・シー王国を経由して一旦戻っていった。

後日、死体を確認したケット・シー王国の医者によれば、口内に毒草があったらしく、隠し持った毒を用いての服毒自殺であったようだ。

俺が男を鑑定して得られた情報は決して多くは無いし、男の目的も不明のままで何か不気味な事件だった。

9月3日現在 体調不良で入院中。

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次回4日分までは投稿済みです。

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