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45 続移民募集

「問題ないにゃ。アルケニーの蜘蛛は逃げ足が頼りにゃ、上の人間も新米冒険者程度の実力しかないにゃ。この街で狼藉が働ける存在ではないのにゃ」

「では、人が居ても良いという考えですか」

「心配はわかるにゃ、でも、全く人と接しないのでは何時まで経っても、進歩が無いにゃ。その分治安維持要員になる種族を選んだにゃ、森の外とこの街を行き来するわけではないのにゃから、わが国よりずっと安心にゃ」



「昨日の事は全面的に非を認めますので、改めて我ら一族を住まわせてください。伏してお願いいたします」


昨日のケンタウロスのウーローンが、やたら低姿勢で詫びてきた。実際馬の足をたたんで地に伏しているうえに、人の体も深く頭を下げている。昨日の今日でえらい変化な気もするが何があったのだろうか。


「いったいどうしたんだ」

「この国の暮らしを見せていただき、モーブ様から国の成り立ちを伺い、考えが変わりました。己の不明を恥じるばかりです」


うまいこと取り成してくれるとは思ってたけど、モーブはいったい何を見せて何を語ったんだろうか。


「そうか、じゃあ住む場所を考えなきゃな。今住んでいる家を持ってきたいなら手を貸すぞ」

「ありがとうございます。しかしその・・・家と言うほどの物はありませんで・・・どこか屋根のあるところを借りられれば、自分たちで家を建てます・・・」


おいおい、虚勢張らなくなったらいきなり弱気になったな。

ケンタウロスと言うのは馬に人の体が付いたような生物だ。その生態は、はっきりいって農耕に向いていない。鍬を持って耕すにしても、野菜を収穫するにしても、体の構造的に人よりも細かな動きが苦手なのだ。一鍬振るうごとにバックするや、或いは野菜を収穫するためにかがむ動作にしても、馬のごとき四肢がアダになる。自然、食料は狩りとわずかな採集に頼ることになった。


「うちでは仮小屋ですらないほったて小屋は認めていないぞ。家は格安で建ててやるから、この街の家を見た上でドワーフのドルトンと相談してくれ。仕事はどんなものがいい?狩猟や森警備の仕事をしてくれると、都合が良いんだが希望を優先するぞ」

「はい、慣れているのでそれで良いのですが、あまり良い弓が無く・・・モーブ様の話では特殊な弓を使われているとか?」

「ああ、何種類かあるから現物を見せてもらって、必要なだけ作成すると良い。その辺りは黒足に聞けば指導役をつけてくれるよ」

「我々でも自作出来るのですか」


狩猟の成果が上がらない遠因となったのが文明の崩壊だ。ケンタウロスだけでなくエルフもそうだが彼らの弓は“セルフボウ”だ。単一の木材を加工し弦を張っただけの弓はお世辞にも強いものではなく、小型の獲物ならともかく半魔物であるツノシシともなれば、刺さっても逃げられてしまう。外敵に対してもその弓と木槍でのチャージしか戦法が無く、手ごわい相手には逃げの一手であったという。

地球においてはセルフボウが大型化して所謂ロングボウになったりもしたが、木材と動物の腱などを用いた複合弓であるコンポジットボウが生まれてからは方向性が変わった。同程度のサイズで弓の威力はセルフボウの倍ほどもあるが、作成には高い技術と複数の素材が必要となる。ケンタウロスたちが作り使うセルフボウは、もとが低級弓なうえに技術的にも低く、残念ながら出来が悪かった。せめて和弓のように複数の木材を利用する複合長弓であれば少しはましだったかもしれない。


「材料と道具は支給するよ。なに、今狩りをしている連中の弓も、俺が作って渡した物や真似して自作した物が殆どだし、材料は俺が支給したものだから、皆只で貰ったようなものだ。特別措置ではないから気にするな」

「お気遣いありがとうございます」

「それと、この街で有用なものなら何でも買い取るし、必要であれば食料や生活必需品を給与の先払いとして先渡しするぞ」

「何でもですか?」

「おう、使わない弓や、食べられる草、薬草の知識、危険な動物や魔物の生息情報とかなんでも良いぞ」

「それでしたら、採集して乾燥させた薬草が沢山あります、これを買い取っていただければ助かります」

「へ~薬草か、良いじゃないか。その乾燥薬草と服用法を含めた薬草知識全般を買いとろう。手の空いているもので採集できるなら、今後も薬草を買い取るよ」


ケンタウロスというのはギリシャ神話に登場する種族で、ある意味ギリシャ神話らしく、その出自はマジかと言いたくなるものだが、ケンタウロスの生誕秘話は大きく分けて二系統になる。イクシーオーンとヘーラーの姿をした雲ネペレー(ゼウスが雲から作った替え玉)との間に産まれたという説と、クロノスとピリュラーの息子がケンタウロス(クロノスが妻レアーの目を避けるため、馬の姿で浮気相手のピリュラーと交わった結果半人半馬で生まれた)という二つだ。前者は酒癖が悪く非常に好戦的で野蛮だが、後者は真逆である。クロノスとピリュラーの息子であるケイローンは医学の祖といわれるほどで医術の神アスクレーピオスなどを指導した賢者でもある。

まあ地球の神話がこの世界に通じるというわけでも無いが、生物的には微妙な存在であると思う。


「ありがとうございます。それでは、狩猟と薬草採集でやっていこうと思います。これから一族をよろしくお願いいたします」


話を終えるとウーローンはペコペコとお辞儀しながら退出していった。


ピュールリーピュールルールルリリー

ピュールルーピューリリピュールルー


「あ~フォンさん。何か琴線に触れたのかもしれませんが、ここではなく外でやってもらったほうが、皆が喜びますので良いかと思いますよ」


俺は部屋の片隅で突然演奏を始めた美青年に声をかける。


「公王様は私のショームがおきに召しませんか・・・。私もまだまだ精進が足りないようですね」


若干芝居がかった声音と動きを見せながらも、その佇まいと所作は非常に美しく洗練され、見るものに気品を感じさせる。


「いえ、そんなことは無いですが“豊穣を司る精霊”たるフォーン族の方がショームを演奏するには、些か手狭かと思いまして」


目の前に居る彼もまた新たな住人の一人であるが、彼は殿下の推薦とは別口で、本人曰く「移民募集のうわさを植物から聞いてやってきた」そうだ。そして彼は精霊という人や魔物より高次の存在で、特に“豊穣を司る精霊”ともなれば、神に次ぐ尊き存在として農民からは崇拝の対象にされているそうだ。

フォーンというのはその外見などからパーンやサテュロスと同一視されることもあるが、彼らが半人半山羊(角や下半身が山羊)で強姦未遂やら常時勃起などの酷い逸話があるのに対し、フォーンは“彼らよりはるかに美しく気品のある存在”とされ、体は半人半鹿(耳と下半身が鹿)である。山羊ではない。足の毛並みは艶々と輝き非常に滑らかで手触りも良いという。正直その毛並みには惹かれたが、全力で頭を振って正気を保つ。

フォーンはショーム(フルートの一種)の達人であり、性質はおとなしく他人に危害を、加えるようなことはない。正に紳士と言ってよいだろう。

彼が現れた時は、流石のアントニャオ殿下も跪いて頭を垂れ、礼意を表していた。

・・・跪くといっても人のそれであり、にゃんこのお座りではないし香箱座りでも無かったのは、俺個人としては非常に残念だった。


「私は場所など気にしませんが、多くの方に聞いていただけたほうが良いのも分かります。では少し外で演奏してまいりますの、で失礼しますね」


やがて屋外からショームの音色が聞こえてくる。演奏は本当に素晴らしいので、彼が演奏をするための、舞台作りや食事処などでの営業をさせるための仕組み作りを、早急に考えねばならない。

と、いうのも彼は初っ端から「私は豊穣を司る精霊ですが、豊穣を司るのは権能であって仕事ではありません。私は自由な演奏家でありますので、あえて言うならばより良い曲をつくり、より良い演奏をする事が私の仕事です」という駄目な発言が、飛び出していたためだ。まあ、実際彼に演奏家以外の仕事は無理な気がするので、国で雇うなどして定期的にコンサートでも開くか、食事処での生演奏でもさせないと、たんなる遊び人か非営利の貧乏演奏家になってしまう。


「自由な人だな・・・」

「だな・・・それで、森の巡回や街警備はどうするか決まったか」

「森の巡回はコボルトを抜いて、リリパット、オーク、ケンタウロス、アルケニーを入れる。新入りばかりな上に古株がリリパットだから、しばらくは連携など模索するようだがそれぞれ特徴のある種族だ、うまく連携できれば良いチームになるだろう。加えてリリパットの位置把握能力は増援を送るにも便利だからその能力を生かしたい。街内の警備は黒足をトップに据えてデュラハンとコボルトに任せれば良いだろう。俺はなるべく詰め所に居ればいいんだろう?」

「ああ、そうしてくれ。それと、守備隊と警備隊それぞれの所属を示す物を作ろうと思うが、何がいいかな」

「そうだな、紋章の入った制服・・・は難しいから、帽子や腕章のようにそろいの布を巻くとかで良いんじゃないか」


なんか、黄巾党みたいだな・・・まあ、グリーンベレーとかもあるし、それで良いか。


「わかった、その方向で作成してもらうよ。ところで、デュラハンは落ち着いたか」


面接中に逃走してしまったデュラハンは殿下たちによって取り押さえられ

『にゃーも裸のようなものにゃ。気にする必要ないにゃ』という説得によって、街に住むことが決まった。しかし、面接のやり直しも無く未だ俺は彼女?の名前を知らないんだが・・・まあ、他の種族も全員の名前を知っているわけではないけどさ・・・役職者位はきちんと挨拶したいぞ。


「ああ、近いうちに挨拶させると猫殿下が言っていた。俺もまだ名前を知らんから、そんな顔するな。顔から思考がもれているぞ」

「いや、表情から読めるのは感情だ、表情で思考が読めるって、そんなはず無いだろ」

「ああ、普通はそうだな。だが・・・・・ああ、これだ、“目は口ほどに物を言う”って言葉もあるだろ」


モーブは会話中にスマホを操作した後、ことわざを例に出したが、それは感情が伝わるって意味だぞ、目はしゃべらないからな。それとも何か俺は“サトラレ”だとでも言うのか。


「・・・最近はかなり近い状態だぞ、気になるなら“思考遮断ジャミング君”をすぐに使ったほうがいいな」


うそだろ・・・・モーブが俺の思考に返事を返した。

・・・・・・

そして、モーブは無言で俺の肩に手を置き諭すようにいった。


「一応いっておくが、終始全方位に思考を垂れ流しているわけではないようだから安心しろ。思考がもれるのは向かい合って会話しているような、その時意識を向けている相手だけだ。恐らく今俺に思考が漏れても近くの第三者には漏れないから、使い方次第では便利かもな」

「分かった・・・。とても参考になったよ」


言われたとおり、先ずはジャミング君を起動しよう。そして飲んで忘れよう。


「そうだな、それがいい」


いや、だから、俺の思考に返事を返さないでくれよ。


次は明後日20時です

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