44 移民募集
「ケンタウロス族の族長ウーローンだ、我らの手を借りたいと聞いた。詳しく話せ」
今俺の目の前で身長?2mを超える偉丈夫が、鼻息も荒く腕組みをしてふんぞり返っている。
「俺は奈良建人、俺の国の住人を募集している。もちろんきちんと仕事をしてくれるものに限るがな」
「ふん、矮小な人間ごときに我らが従うと思うてか」
「別に俺に従ってくれなくても良いが、この街に住むなら街の一員としてそれなりに、仕事をしてもらわねばならんが、それは了承してくれるのか」
「ふざけるな、我らは人ごときの下になどつかん。我らを・・・」
「そうか、ならこの話は無かったことにしようか。手間をかけたな、宿を用意してあるので今日は休んで明日帰るといい。手土産も用意してあるから、持っていってくれ。お帰りはあちらだ」
「なに・・・」
「モーブ、宿に案内してやってくれ」
「おい、ちょっとま」
モーブは喚くケンタウロスを押し出すようにしながら部屋から出て行く。
「よろしかったのですか」
レオノールが心配そうに問いかけてくる。まあ、最初から喧嘩腰で物別れでは先行き不安にもなるよな。
「最後まで俺と会話が成立していたから、悪いやつではないけど、ちと入れ込みすぎだ。存続が危ぶまれる種族優先で殿下に頼んでいたから、たぶん自分の種族の命運をかけて少しでも有利な立場になれるよう必死なんだろう。まあ、モーブがうまくやってくれるさ。しかし、ケンタウロスの家はドワーフの家じゃ天井が低いよな、住むとなったら、また新しい家を作らないといけないか・・・」
まあいいや、次・・・マジか?これ、この種族来ちゃうの? 俺は資料を見ながら殿下に確認する。
「次の種族は殿下の一押しということですが・・・マジで?」
「にゃ? 全く問題にゃい種族にゃよ」
若干の不安を覚えつつ、次の移住希望者の入室を促す。
続いてのっそりと入ってきたのも、また大柄な男だ。その体躯と不適にゆがむ口元、そしてそこに垣間見える牙が、見る者に否応無く畏怖の念を抱かせる。凶暴さすら感じさせるその姿に気圧されながらも、確りと顔を見据える。そこにある眼差しは・・・・案外優しげだった。
「あ、あの、オーク族代表で、ノ、ノビ・ノブタ(野鼻・野豚)といいます。あの、この街に住まないかと・・・う、うちの住処にいつも配達してくれている猫の人の、サブーロさんに誘われて・・・」
あ~うん、なんか混じってる? でも偶然だよな、昔サザエボンというのがあったのは知ってるけど、のび太×さざえは知らん。
・・・・鑑定、オーク
【鑑定:オーク】
オーク=オーク族は豚のような顔をしている知的種族。実は生物的には豚と何の関係も無い。しかし、その見た目と性質に豚との近似点があるため豚人族ともいわれ、彼ら自身も豚から進化したと思い込んでいる。勤勉で清潔好き。家族を大事にし、社会構成は家族を拡張したものが多い。
・・・名前は兎も角、性質は悪くないな。豚って、きれい好きだし太っているように見えて案外体脂肪率低いんだよな・・・いや、そもそも豚じゃねえのか、すっげえ紛らわしい。ついでに、のび太っぽい名前なのに働き者で一族のリーダーなのか?ノビタは映画版の、のび太みたい・・・いや、だからノビタじゃねえノブタだ、あ~もう紛らわしい。
「あ~っと、うちの街は悪人で無ければ受け付けるけど、基本的に何がしかの仕事をしてもらう。・・・どんな仕事が希望かな」
「狩りでも、芋ほりでも、全然・・・問題ないです。生きる為に働くのは・・・当たり前・・・。日中は食べ物を探して、ひたすら歩き回るのがオークの日常です。決まった仕事をして毎日ご飯が食べられる・・・・夢のようです」
それ日常なの?いつも、食べ物探して歩き回ってるの? 毎日食べられるだけで夢のようだなんて、聞きようによっては物凄く貧しく聞こえるんだけど・・・いや、実際貧しいから今日来てるのか。
「分かった、街への移住を許可しよう。これからは仲間だ、よろしく頼む」
「ありがとうございます」
「どうやって一族を連れてくるかとか、家はどうするかなどの問題は、別途打ち合わせよう。街の案内をする者をつけるから、不明な点はその者に聞いてくれ・・・黒足頼めるか」
「はい。お任せください。ではノブタ殿、街で軽く食事でもしながら打ち合わせをいたしましょう。焼き鳥の美味い店がありますがどうですかな」
「おお、鳥は滅多に食べられないので、是非お願いします」
うん。ナイスだ、黒足。君なら空気読めると思ったよ。・・・ここで揚げ物屋に行ってラードで揚げたシシカツ出てきたらやばいものな。
「さて次は・・・・・・殿下、ランデン長老から変なこと吹き込まれてませんよね?悪ふざけなら怒りますよ」
「ふにゃ!・・・ちょ、ちょっとだけにゃ。種族は真面目に選んでるにゃ、書類をちょっと・・・にゃ、にゃーは年長者の意見に従っただけにゃ」
やっぱり長老の仕込みか。ったくあの爺さん最近悪ふざけが多くないか。
「・・・まあ殿下は良いでしょう。お世話になってますし。だが長老とは少し話し合いが必要かもしれません。・・・・では次の女騎士さんどうぞ」
・・・いや、そんな種族名じゃないだろうけど、資料がそうなってんだから仕方が無いんだよ。
「失礼します」
礼儀正しく声をかけ入室してきたのは、輝く銀の鎧姿。小脇にかぶとを抱え、折り目正しく礼をして、その佇まいは正しく騎士のそれ・・・・なのだが・・・・。
「えーと、顔・・・というか頭はどちらにありますか」
目の前に居る輝く鎧の女騎士には頭部が無かった。うん、知ってる。これ、デュラハンってやつだろ。死に行くものを知るとかで、デュラハンに指差された人は近日中に死ぬんだよな。つまり何か、俺の国にいきなりアンデッドが住むのか?
「頭はここにありますが、顔はありません。この鎧姿が私自身になりますので・・・・は!私自身? それって、もしかして、私って・・・・ある意味裸かも!? ど、どうしましょう裸で人様の前に立っているなんて・・・・いやーーーーーーーーーー」
ガシャンガシャンガシャン、バン ガシャン・・・ガシャンガシャン・・・・・
「・・・・・・・」
走っていっちまったけど、どうすんだこれ。鎧が裸とか正直全く気にならないし萌えないが・・・。
「殿下、正直アンデッドは住人としてどうかと思うのですが」
「アンデッド? ちがうにゃ、デュラハンは妖精にゃ。アンデッドでは、にゃいにゃ」
え、デュラハンって妖精なの?
「殿下、すいませんが彼女?を追ってください。ニャルタニャンでも良いです。正直我々ではどう接すれば良いかわかりません」
「仕方ないにゃ・・・ニャルタニャン付いてくるにゃ」
「はい殿下」
二人は甲冑娘?を追って部屋を出て行く。殿下に使い走りさせるのは気が引けるが、俺たちはろくに挨拶もしていない関係だからな・・・。
「気を取り直して次の方・・・え、俺虫系はちょっと・・・」
バン
音と共に扉が開かれる・・・が。
「あれれ、入れない。このドア小さいわね、仕方ないわ・・・ちょっと分離・・・はじめまして、アルケニーのクーナです。この度は・・・」
「ちょっと待ったーーーーーーーーー! 分離した!分離したよ、けど分離って何!その蜘蛛どうなってんの」
ドアが開いた後、扉の幅よりも大きな蜘蛛女が現れたが、蜘蛛が大きく入れなかった彼女は事もあろうに蜘蛛と分離したのだ。
「え?蜘蛛は蜘蛛だよ、えーと共生?私たちと蜘蛛は、一緒に生活することで互いに支えあって生きてるんだよ」
か、鑑定、アルケニー
【鑑定:アルケニー】
アルケニー=人族(蟲使い)+蜘蛛の共生体。嘗て森に隠れ潜んでいた魔物使いの一族が、森内に生息する蜘蛛を使役しやがて共生する様になり、現在の姿になった。近年は移動を蜘蛛に頼るあまり、人族の脚力の衰えが問題視されている。元は蜘蛛の頭部に腰掛けていたが、蜘蛛の体が人の下半身を包むように進化した。この蜘蛛は雑食ではあるが肉よりも植物を好むため、人の作る野菜や飼葉を目当てに共生している。特に乾燥飼葉は冬の食料として重視している。
マジか!この世界に来て色々な種族を見たけど、一番驚いたぞ。しかも、人間と蜘蛛で別の生物なのかよ!
「え、えーとこの街でやってみたい仕事はありますか」
とりあえず、話を進めるが、正直まだ動揺している。地球のアルケニーと似て非なる生き物だよ。これ種族名が同じなのは翻訳的な効果なのか?
「そらもちろん裁縫です。アルケニーの男は普通に狩りもするけど、女性は家事と裁縫が専門です。私が乗ってる蜘蛛のクーちゃんが出す糸は、かなり良い糸ですよ。しなやかで丈夫な上に水にも汚れにも強いです。チラット見ただけですけど、この街って見たことの無い服が沢山あって、すっごく気になります」
あ~いわゆるスパイダーシルクってやつか? いや、あれは蚕に蜘蛛の糸を出させるんだっけか。いずれにせよ能力的には欲しい人材だな。
「その蜘蛛は・・・危険は無いのか」
「この子達はあまり肉が好きじゃないから、人はもちろん動物も滅多に襲いませんので安全です」
「レオノールどう思う?」
「私もはじめて見る蜘蛛なのでなんとも・・・」
殿下の目を信じるしかないか。
「わかった、よろしく頼む。家の大きさは・・・ドアを改修すれば住めるか?」
「自分の家では分離しているので、普通の家にこの子達用の部屋があれば良いですよ」
「わかった。じゃあレオ・・・・・」
・・・いやちょっとまて、蜘蛛人間ではなく、蜘蛛と人間なんだよな、この街に人間を住まわせて良いのか?しかも元々は魔物使いの一族なんだろ、人間が怖い種族にとってアルケニーはどうなんだ。
「すまない、大事なことを忘れていた。この街は人から隠れ住む種族が生活に必要なものを、手に入れられるようにして欲しいとケット・シーのアントニャオ王子殿下に頼まれているんだ。俺はアルケニーと言う種族は蜘蛛の下半身に人の上半身を持つ生物だと思っていた。アントニャオ殿下は実は人間と蜘蛛と言うことをご存知なのか」
「そりゃーもちろんご存知・・・・あれ?どうだったかしら。くーちゃん分かる?」
クーナに問われた蜘蛛は顔の前で足を一本横に振る。まるで知らないよ~と言っているかのよう・・・。
「あ、うん。ごめんなさい。え、ずっと前に人間て知られてるの?・・・そか、人間は寿命が来ても蜘蛛はまだ生きてるから、見知らぬ人と見知った蜘蛛で別の生き物って知られてたんだ」
「・・・今のジェスチャーは?」
「あ・・・今『くーちゃんではない、クリフだ』と怒られましたので、くーちゃんじゃないという否定の動作です」
・・・蜘蛛ってどういう生物だっけ?
この世界意外と奥が深いな。
「とりあえず、許可は一時保留で後ほど連絡します」
何故こんな面接をしているかと言えば、街開きに大きな問題があったからだ。
俺は一週間ほど前、皆にある相談を持ちかけた。
「今更だが、人手が足りないんだ」
「にゃ?」
「どういう事じゃ」
新たに作られた集会場の会議室で、俺は主だった者を集め開国後に予想される問題を告げた。
「商店街の各店のスタッフ、宿屋・食堂・飲み屋がそれぞれ数軒ずつあるわけだが、この全てに最低でも三人は割り当てねばならない。しかもそれは最低人数で、店によっては増員が必要だし、交代要員がいないと休むこともできない。定休日を設けるにしても遠方から来た客に『休みです帰ってください』とは言えないから、宿は空けておかねばならない。しかしそうなれば、客も『折角来たし何か楽しみたい』と思うだろう。ならば何らかの店や施設で、娯楽を提供でき無いと客に失礼だろう」
「休みの日については、気を使いすぎなきもするが、言わんとすることは分かった」
「いや、やっと街について宿が無く、野宿の上保存食と言うのは心象が悪いな。宿に入れても宿には客が使う調理場が無いのだろう? 食事処の提供が無いなら、街中で焚き火をされても咎められんし、常温レトルトの提供も何か違う気がするな」
街中での焚き火は原則禁止している。例外として肉や魚を焼くなどで煙が出る場合に、私有地(借地含む)においてのみ屋外でコンロを使用した調理もしくはBBQのような食事を許可しているが、街のその辺で焚き火をするなどは許可していない。現在は防火のためでしかないが、将来的には貧困層や犯罪者などが勝手にコミュニティーを作らないようにするためでもある。
また、レトルトの販売については、料理としてのレベルが高く携帯食としても極めて有用であることから高額商品として設定されている。ヨルンによれば金持ち相手ならハンバーグ一食でも金貨(5万円相当)でも売れるだろうという話だった。
「今、ドワーフとエルフ、コボルトで330人として、そこから手隙の者を頼むと30人程だ。しかし、30人では商店街だけでも足りないかもしれない。宿屋や飲食店に割く人手が無いんだ。その上街中の警備をする者もほぼ0だ」
「そうだな、俺に振られても流石に無理だぞ」
現在モーブが指揮している警備隊は、外からの攻撃に対するものであり、しかも狩人を兼任している者も少なくない。街中のトラブルが皆無であっただけに、今までは必要なかったが、街が開かれ外部からの流入があれば、自然治安維持部隊が必要になるのだ。
「穀物の生産量はまだ十分ではないが、店から供給すればどうにかなる。街開きに先立って希望があれば新たな移民を受け入れたいと思う。皆には人口増加や、多種族国家ゆえの環境変化に不満もあるかもしれないが、そこは理解して欲しい」
「いや、ワシらとて運が良かっただけじゃ。後から来たものに文句言える立場ではない」
「ええ、自分たちだけ快適な暮らしをするつもりは無いですよ」
「ねえねえ、僕らは?僕らも働いてるよ」
「そうだよ、働いてるよ~」
「む、何時の間に入って来たんじゃ、今大事な話をしとるから、お前たちは外で遊んでなさい」
「え~のけ者~にされた~」
「仲間なのに~友達なのに~のけ者~?」
「・・・のけものフレンズ?」
おいそれどっちの意味だ?つか、お前らの知識どうなってんだ、長老の親父さん何時の時代の人間だ。
「リリパットに周辺警戒をしてもらっているのは理解している。だが、街の中で出来る仕事はあまりないだろ」
「残念~」
「無念~」
「また『あとでな』・・・台詞取られた!?」
騒々しいリリパットを部屋から出し、話を続ける。あいつらあれで俺より年上なんだよな。
「そんなわけで、他に移住者がいないものかと思って集まってもらったわけだ。エルフやドワーフはこの森や、外の世界に他の部族がいないのか」
「いや、いるじゃろうが何処にと聞かれても・・・ワシは知らんな・・・」
「エルフも当然いるでしょうけど、同じくわかりませんね。元々私の一族は親人派でしたから、魔法王国近くに住んでましたが、他の者は本格的な隠里を作って隠遁してますし、他者に住処が知れると村ごと移転してしまいます」
「そうか、それは残念だな。では、他に友好的な種族の情報は無いのか」
問いかけてみたが返答は無い。どうやら誰も情報を持ち合わせていない・・・。
「いくらか心当たりあるにゃ」
と、おもったが殿下に心当たりがあるようだ。
「お、是非紹介してください」
「どの位居れば良いにゃ」
「そうですね、店関係で50人、警備で30人位ですかね。交代で休むことを考えての人数です。店のほうは専業ではない、日に数時間のアルバイトも受け付けますよ。移住総数としては200人~300人位が目安ですかね」
「分かったにゃ、いくつか思い当たる種族が居るにゃから使者を送ってみるにゃ。でも、後の交渉はお任せするにゃ」
「はい。この国はこの国の考え方を基本に勧誘させていただきます。むしろ折り合いが付かないこともあるのでご了承ください」
「それは理解してるにゃ、仕方が無いことにゃ」
とまあ、そんなわけで面接中なんだが、ちと武力に偏ってるし大柄なものが多いな。店員できそうな種族は来るのかな。




