43 試食会再び
話数の位置変えました
ジャガイモをすりおろし、布に包んで汁を絞る。その搾りかすを水に入れ再び絞る。搾ったジャガイモ汁をしばらく放置すると、下に真っ白な物が沈殿する。上澄みのにごった水を捨てきれいな水を入れて、白い部分と混ぜ合わせ再び放置。数度繰り返した後、白いものを乾燥させれば、ジャガイモから抽出したでん粉、つまり片栗粉の出来上がりだ。小魚はこの片栗粉をつけてから揚げにした
俺は以前から、片栗粉なら竜田揚げではないかという疑問がありネットで調べてみたが、から揚げの定義は、油で揚げたものであり、同時に小麦粉や片栗粉を薄くまぶしたものということだ。
対して、竜田揚げはといえば、醤油や酒、みりんで味付けした物に、片栗粉をまぶして揚げたものになる。ポイントは醤油で味付けし片栗粉を使うことらしい。
「というわけで、こっちがから揚げで、こっちが竜田揚げだ。わかったかな」
「わかった。分かったからもっと、竜田揚げのから揚げをくれ」
「いや、全く分かってねえよ、お前返事が適当すぎんぞ、揚げ物の揚げ物ってっなんだよ」
「小魚がまるごと食べられて美味しいにゃ」
以前から話に上がっていた、小魚のから揚げを提供すべく、再び食事会を開催した。
今回は揚げ物という事もあり、食堂の中で関係者だけで食べている。
「まさか、ツノシシの脂身に、こんな使い方があったなんて、思いもよらなかったわ」
片栗粉をジャガイモから作り、ツノシシの油から取ったラードで揚げた小魚のから揚げを振舞う。少量ではあるがマヨも用意した。
まあ、試食が延び延びになったため、既に小麦粉も入手しているので、無理に片栗粉を作る必要なかったが、食感が違うのであえて作ってみた。
「ツノシシの油や植物の油を高温にして調理するこの料理法を揚げ物と言いますけど、油は高温で燃えますから、取り扱いには注意が必要です」
「燃えるの?」
「ええ、燃えますよ。例えばですね、こうやって揚げ物をしていたら、寝ていた幼子が泣いた。様子を見に行き戻ったら、厨房は火の海だったとか、そんな感じです」
「そんな・・・」
「以前俺が居た世界では、危険性も周知されてましたから、火災件数はそんなに多く無かったですし、目を離さなければ熱くなりすぎているのは分かりますよ」
まあ、コンロにも安全装置がついて燃える前にガスを止めてるけどね。しかし、今後の課題としては油の取り扱い指導なども必要だな。火が出たからって水かけたら大変なことになるし。
「次はこれ、この揚げ物と野菜を、酢と調味料を合わせた漬け汁で漬けた、南蛮漬けという料理だ。食堂でも飲み屋でも出せる作り置きできる料理だがどうだい」
「これは、さっぱりしとりますな。揚げ物を少々重たく感じとりましたが、これは良いですな」
「おじいちゃん、お魚好き?私またお魚いっぱい獲るね」
「おお、ありがとうユリアンニ、でも一人で池にいくのは危ないからじいちゃんと一緒に行こうな」
クシミールさんは揚げ物が重く感じる年頃なのか。見た目美中年でも普通に老化してんだな。
「ええ、酢が使ってあるので油の多い料理でも、割合さっぱりとしていて、胃を活性化する効果もあっておススメですよ」
「この芋鳥のから揚げは美味いですね。かじりついた時に口いっぱいに広がる鳥のうまさが何ともいえません。」
黒足は鳥から派か。まあコボルトの食生活に魚は馴染みが薄そうだよな。
「そして、これがツノシシのから揚げ丼とシシカツ丼だ」
から揚げは薄切り肉をから揚げにして醤油たれをかけてある。シシカツはホームベーカリーで焼いたパンから作ったパン粉と、殿下経由で人間の町から仕入れてもらった小麦粉を使用している。今回人間の町から入手した材料は、小麦粉と酢だ。一応麦の種籾を手に入れているので、今後栽培を試してみるつもりだ。
「これは、ひつまぶしのようなものか」
「いや、ひつまぶしはうなぎに限った名称でな、この器をどんぶりと言うが、どんぶりに炊いたご飯を、よそって上に具を乗せて食べる料理形態を何々どんと言うんだ。俺の育った国の古い時代では一食に供される食事の組み合わせや食べ方が大体決まっててな、主食であるご飯と汁物とおかずと言う組み合わせの中で、それぞれ順番に満遍なく食べるのをよしとしていて、おかずを連続で食べたり、ご飯におかずを乗っけたりして、同時に食べるなど無作法とされていた。まあ、それにはそれなりの理由があるらしいが、それをわずらわしいと思う者も一定数いたわけだ。そこで考えたのが『最初からご飯におかずが乗ってりゃ、一緒に食べる以外ないから、手間が省けるじゃないか』みたいなことで、当時かけそばといって、そばという麺に汁をかけて食べる形が流行しはじめたこともあって、ご飯に何かを乗せる料理が早く食べられ手軽という考えが一気に広まった」
日本発のファーストフードであるどんぶり物は、元々、早く出てくる料理ではなく、早く食べられる料理なのだ。そば同様、職人や労働者が短時間で一気に腹に収めることができるので、人気が出たと言うが、極端な例えをすれば味噌汁ぶっ掛け飯と、発想は同じなのだ。しかし予想外に幅広い味のバリエーションを生み出し、瞬く間に日本中に広がった。雅な食事の作法と無縁な庶民は特に忌避することも無く、それをひとつの料理として受け入れ、やがて“丼物”という確固たる存在になった。
「んお~美味い。から揚げ丼のたれはうなぎのたれに少し似ているか?シシカツどんは何かをつけてあげたものを野菜と煮て卵をかけているのか?これは信じられんほどの手間をかけた料理じゃ」
え、カツどんがか?・・・・まあ煮るか焼くの調理法しか無かったなら、揚げて煮るは想像の埒外か・・・しかし、ドルトンは食いすぎが心配になる食べっぷりだな。
「次はこれだ、これは炒め物といって、肉や野菜を少量の油を引いた鉄板でこうして焦げないようにしながら加熱し、味付けした料理だ。煮物に向かない葉野菜などと肉を合わせた料理ができるぞ」
「うむ、これも初めての味だが悪くない」
「次は、少し大きな料理だ、油で揚げると湯で煮るより高温になるんだが、そのため魚などは骨まで柔らかくなる。それを利用して、小骨の多い魚を油で揚げて、甘酸あんをかけてみた。ハクレンの甘酢あんかけだ、これは皆で取り分けて食べてくれ」
言って俺は60cmを超えるハクレン(レンギョ)を、まるごと揚げて甘酢あんをかけた宴会用料理をテーブルに置く。
何故宴会用かといえば、見栄えがするからだ。・・・焼き魚が各自にあるほうが売りやすいし、俺もそっちの方が好きなんだが、中華料理では永く大型の魚を揚げて甘酢あんをかけた料理が宴会料理として喜ばれていたから真似して作ってみた。
「「「「「「おお~~~」」」」」」
「これは立派な魚ですな。うちの村でも時折魚を獲ってましたが、これ程の大物は中々獲れませんし、切らずにそのままの姿でとは、いやはや驚きました」
この世界でも、何かの祝いなどで鳥やハリウサギの丸焼き料理が喜ばれるというので、同じような感じで魚のまる揚げをもアリじゃないかと思って作ってみたが・・・。
「魚は淡白ですが油の旨みと、あんの味に加えて、野菜がアクセントになってこれも良いですな」
日本では若干時代遅れのイメージがあるが、この世界には無かった料理だけに評価は悪くないようだ。
「さて最後の料理だ。もう腹も十分膨れているだろうけど、ここで残念なお知らせだ、最後の料理は二品、どちらも・・・酒にあう」
「何じゃと」
「まあ、肴としては手軽につまめる料理だし、菓子としてもありだ。どちらも塩を振ってあるからそのまま食べてくれ」
「うん?なんか虫みたいじゃのう・・・・むむ・・・悪くない。これは酒にあう」
「こっちのも美味しいですね。只食事としては微妙な気も・・・」
「まあそうだな、これは軽食や肴として食べるようなものだからな」
俺が出したのは、フライドポテトと川えびの素揚げだ。揚げ物料理の締めとして素揚げ料理を出してみたわけだが・・・・。
「これは、あれじゃろ。飲み物が要るじゃろ」
「そうですね、しかし、まさか公王様が、このまま帰れとは言われないでしょう」
・・・うんまあそうなると思ってたよ。
「じゃあ、酒を出すけど程ほどにな」
「「「「お~~~~」」」




