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42 公共下水完備

さらっと短く会話と説明が多目です

「うわ~~~~水がぐるぐるして、じゃばじゃばで、どばっと流れてくる」


リリパットの一人が、三連水車を見て声を上げる。

ドワーフに頼んで作成してもらった、水汲み上げ用水車である揚水水車を見てのことだ。

揚水水車とは、低地を流れる水を高い位置に汲み上げる仕組みの水車で、水の流れで回転する水車なので川の水が枯渇しない限り、自動で給水し続けることが出来る。その構造を簡単に言えば、水車の側面に汲み上げようの筒をつけたものだが、口では説明しづらいのでネットで拾った“福岡県にある三連水車”の画像をプリントして以前ドルトンに渡し、その三連水車を再現してもらったというわけだ。


「汲み上げ量も排出量も悪くないな」


汲み上げ水車について乱暴な説明をすれば、手にコップを持った状態で腕をグルグル回転させながらコップを水に突っ込み、高い位置に上げたところでコップから水がこぼれるという動作を水車で連続して行う装置だ。

この時水車の回転は速すぎても遅すぎてもいけない。ゆっくりと回したっぷり汲んで、汲んだ水を全て吐き出しきる時間がありながらも、早いというのが理想だ。


「その辺りは本当に試行錯誤じゃったそうじゃぞ」

「いや、本当に助かるよ。今回の作成費用は十分な額を払うから、また頼むよ。それと、もし外部から作成依頼があったら受けてくれてかまわないよ。まあ、こっちの開発を優先して欲しいとは思うけどね」

「外に技術が漏れてもかまわんのか」

「この位の物ならかまわないよ。というか、水車すら満足に無いなら、生活が辛いだろうからこっちから指導してやりたい位だ」


この世界は高度な魔法を有していた魔法王国が文明の牽引役であったが、その消滅によって、各種族はその文明による恩恵を失い、原始的な生活への回帰を余儀なくされた。そんな中で彼らを支えたのは、種族ごとに伝わる文化を主軸とした社会構成であった。とはいうものの、文化といっても大それた物ではなく、エルフであれば村長を中心とした年功序列の社会で、数少ない子供を村の宝とすることや、収穫を祝う祭りなどを行うなどで、現代アフリカなどの小部族にもある程度のものである。何よりも外敵や、日々の暮らしに追われ暮らしに余裕が無かったのだから、文化など育ちようも無い。比べてドワーフは独自の感性で技術に重きを置き、建築物や各種生産物に施す意匠にその才覚を表し、独自の芸術文化を開花していた。社会構成にしても年功序列ではなく、その才覚と実力を認められたものが、長となる独自の文化を生み出した。この二種族の差はやはり身体能力や性格的な差に起因するものだろう。・・・・コボルトについては、世代交代の早さもあり、文化より野生化の傾向にあったようだ。もし俺や他の種族と出会うことなく、後数代過ぎていれば、ゴブリン種と同レベルまで落ちていたかもしれない。リリパットは色々フリーダムなので、彼らの文化については考えるだけ無駄だ。


「他に指導といっても、人間基準の暮らしをしている種族は少ないぞ」

「それなんだが・・・正直、北の帝国がどうなろうと知ったこっちゃ無いんだが、他の地域に暮らす人間種族まで全て拒絶するつもりは無いんだ。平和的な者たちであれば友誼を結びたいと思うし、人間の弱者の中には只町の片隅で、飢えをしのぐことに必死な者も居るだろう。そんな者たちをできるなら助けてやりたいが、安易にこの街に入れるわけには行かない。これに関しては殿下との約束もあるし、これから街に訪れる他種族の心情もあるから、悩ましいところだ」

「そうじゃのう、ワシらドワーフやエルフのような人に近いものばかりではないからな。本能的に人を避けるものも少なくなかろうし、その者達にとっては、今のまま人と接しない暮らしがよい

のじゃろう」

「何とか両立できれば、良いんだけどな」

「そうじゃな・・・ところで、話は変わるが先日連れて来たスライムが居る設備・・・下水処理場といったか、いったいどういう物なんじゃ」

「あれはな、水のろ過器を参考に段階的に汚物を減らしているんだ」


簡単な原理を説明すれば、各地で排出された汚物は、最初にその直下に落ち水分と固形物に分けられ、固形物は下水内に常駐するピュリスライムによって処理される。その後水分は下水処理場というべき場所に集められ、小石や砂利、炭などのフィルターを通してから川への排出路に流される。ろ過器部分にもピュリスライムが居り、彼らはろ過装置が目詰まりをしないように処理してくれている。


「つまり、地下でスライムが汚物を食って水をきれいにしているのか」

「まあそうだな。俺の世界の他国の歴史では、街中に糞尿をポイ捨てしたために、街中にネズミがやたら多くてな、そのネズミを媒体にしてとんでもない病が蔓延していくつもの町が消えたんだ。その病は手の施しようが無く、外に広げ無いためにかなり過激な手も使われたらしい。なんせその病気が発生するたびに、少なくとも2000万人は死んだらしいからな」

「・・・・うそじゃろ?」

「被害の多い地域は人口が半分になったと言うし、一番被害の多かった時代は一億人死んだと言われている。ドワーフは森近くに穴を掘って仮小屋を建てトイレにしていたんだろ、生活的には面倒くさいだろうけど、衛生的にはそれが正しいよ」


エルフは森に穴を掘って捨てにきて、ある程度で土をかけて埋めていた。ドワーフは仮設トイレを作って一杯になったら小屋を移動し、その後土をかけて埋める。便器には昔の和式トイレにあったような蓋も使われていた。普段野ざらしのエルフの処分場にはスライムが居たが、ドワーフの方にはスライムが居なかった。


「・・・・」


川に流す手前には網のかかった貯水池があり、ここでは池で捕らえた魚を放っている。一応最終沈殿槽を兼ねた水質確認施設であり、水中の成分による影響を調査するため入れているのであって、養殖しているわけではない。貯水槽は現在街から排出される水の二週間分を蓄えられる。万が一俺の国で病気が発生した場合に、危険な病原菌を川に流さないための設備だ。時折鳥が寄ってくるが、網があって魚を獲れず引き返している。


「まあ、そんなわけで汚物の処理は重要だし、同じように人の体を清潔に保つことも必要だ」

「・・・次は何を作るんじゃ」

「察しが良いな、手が余ってるなら作って欲しいものがある。女性から特に要望が多い銭湯を作ってくれ」

「銭湯?何じゃそれは」

「銭湯というのは、小額の料金で利用できる入浴施設だ。川から水が引けたから、それをろ過して殺菌した上で風呂の水に使う。元々水質は悪くないが、風呂の温度は雑菌が増えやすい温度でもあるから紫外線殺菌装置で、殺菌した水を使う」


江戸時代、江戸には銭湯があったが、その仕組みは蒸し風呂がメインで浴槽はおまけ程度だったという。しかも、その浴槽は水の入れ替えが大変であったため、そう頻繁に変えられずかなり汚かったらしい。風呂の施設は蒸気を逃がさないために、明り取りの窓が少なく、やっと見える程度の暗い場所であったため、その汚さも目立たなかったという。古代ローマの浴場設計技師が見たら、果たしてなんと言っただろうか。


「しがい・・・何たらとはあの光ってるという魔道具か?あんなものが役に立つのか」

「紫外線というのは、人の目には見えない光で、極端な言い方をすればその光を浴びると、目に見えないほど小さな、病気や腐敗の元になる菌が焼け死ぬんだ。人の体なら皮膚か赤くなって日焼けで済むこともあるが、もっと重篤なやけどや、目が見えなくなるなどもありえる。その力で、水中に溶け込んだ悪い物を除去するわけだ」

「そんな恐ろしいものなのか」

「そうだな、意外と恐ろしいものだから、その光が出ている時は分かるように、青い色や小さな音を出すように改良するし、使用上の注意は徹底する必要がある。その部分は俺に任せてくれてかまわないぞ。俺が一番手を借りたいのは、頑丈な浴槽作りだったからな。ドワーフたちの土魔術であれば、その辺りは解決するだろう。後でまた図面を書いて渡すからよろしく頼むよ」

「はあ、訳の分からぬ物ばかりじゃのう。もちっと、鍛治に関連するものは無いのか」

「それはすまなかったな。銭湯を作ってくれたらミニショベルを一台やるから好きにしてくれよ」

「なに!?本当じゃな、後でやっぱり無しとか言うなよ」

「本当だ。ただ分解するには所有権を渡さなきゃならないから、結界はなくなるぞ」

「かまわん。よし、銭湯の図面を書いたらすぐに連絡をくれ、すぐに動くからな」


そう言ってドルトンは笑い声を上げながら意気揚々と帰って行った。モチベーションを与えるのってもっと難しいもんだと思っていたよ。


次回8月27日20時です

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