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32 猫の王子

ここからはニャーが主役にゃ

語尾ににゃがつくにゃけど我慢するにゃ

「ケット・シー王国、第一王子アントニャオ・ニャンデスにゃ、後にいるのは世話役のニャルタニャンにゃ、われにゃの盟友を救ってくれて感謝するにゃ」

「・・・・この店のオーナーのナラ・ケントにゃ、横にいるのはレオノールにゃ。今日は良く来てくれたにゃ、まずは飲み物で喉を潤すにゃ、でも自分はケット・シーの事を良く知らないにゃ。人間のお茶と犬猫用のペットスエッ○(犬猫用のポ○リのような物)のどちらが良いにゃ」

「にゃ、お心遣い感謝するにゃ。刺激物は苦手にゃからペット○エットを頂くにゃ。出来たら常温がいいにゃ」

「分かりましたにゃ・・・は! 飲むにゃら、コップと皿どちらがいいですかにゃ?」

「コップで大丈夫にゃ、いただくにゃ」


ぴっちゃちゃちゃちゃ。


ああ、にゃんこが水を飲む、このリズミカルな音・・・・癒される。

舌を水に突き刺し引き抜くだけで、水が吹き上がるように口に入っていく。すくい上げて飲む犬の舌には出せないすばらしき音色。さすがにゃんこ、格が違う。つまり、犬とは違うのだよ犬とは!ということだ。(注:実際に飲み方は違いますが、優劣は奈良建人個人の感想です)


「うまいにゃーか?」


スパーーーーーン


「はぶっ」 


いってぇ~~。アントニャオ殿下と話していたら突然レオノールに後頭部をはたかれた。何でスリッパ持ってるのさ。


「突然どうしたにゃレオノール、人の頭を・・・えと、何か不味かったかにゃ」


文句言おうとしたら、すっごい顔で睨まれた。熊と戦う前の俺なら走って逃げるぞ。


「まずは冷静になってその口調を直してください。直さないなら私も語尾に付けるワン」

「・・・・・・・・はい、分かりました。ごめんなさい」

「何か釈然としないワン」



「私は田舎出の庶民ゆえ王族の方に対する言葉遣いを知りません。不快に思われる点もあると思いますが、ご容赦くださいますようお願いいたします」

「問題にゃいにゃ。ケット・シー的には十分にゃ」

「は、ありがとうございます。それで、本日お越しいただいたご用件は?」


改めて、目の前の黒猫王子殿下を観察する。大きさは、地球で俺が飼ってみたかった猫ベストスリーに入る、あのメインクーンぐらいだろうか?顔立ちも凛々しくて似ている。二足歩行しているので俺の胸位まで身長があって、赤いロビンフッド帽をかぶり、赤マントに皮の腰巻、茶の靴を履いている。・・・長靴ではないな・・・そして、靴を履いているけど、その足はいったいどうなっているのだろうか。すごく気になる。


「ここに新しい村が出来たと聞いて見にきたにゃ。エルフから聞いたにゃけど、この村は多種族共存の村なのかにゃ? 今は居ない他の種族でも受け入れてくれるのかにゃ?」

「基本的に協調性があって平和的な方達なら、種族を問わず受け入れますよ。でも種族差別とかやったら問答無用で追い出します。もちろん当事者個人の罪ならその者だけ追放します」

「それは当然にゃ、我にゃケット・シーも森の平和を望むにゃ。差し当たり我にゃケット・シーと、クー・シーを何人か住まわせて欲しいにゃ」

「ええ、いいですよ。・・・その前にこの場所について、何も聞かれないのですか?色々異常な場所だと思いますが、気になりませんか」

「良いにゃ、この地に悪いものは感じにゃいから気にしにゃいにゃ。それに住んでいれば何れ分かるにゃ」

「はあ。ではとりあえず、本日休まれる家を用意しますが、4LDKで・・・住んでいれば分かるとは?」


はて、今日は泊まっていくとして、殿下は帰るんじゃないのか?


「お待ちください、アントニャオ王子殿下。殿下は視察を済ませた後、帰る予定でしたにゃ、それが何故ここに住まわれる話になっているのですにゃ」

「ニャルタニャンよ、我はケント公と話しているにゃ、世話役が話しに割り込む無作法にゃぞ、失礼の極みにゃぞ。この施設を見て我は決めたにゃ、ケット・シーの代表者としてここに住むのは我にゃ」

「・・・はい・・・申し訳ありませんでしたにゃ。ケント様、失礼をお許しくださいにゃ」


ニャルタニャンは皮の鎧を着て剣を腰に佩いている。世話役と言っていたが、どう見ても護衛だろうな。


「ケント公、我に免じてこの者は許して欲しいにゃ」

「いや、構いませんが、それよりケント公とは」

「国主や領主の知名度はだいじにゃ、良い噂や強い後ろ盾があれば移住者は安心にゃけど、知らない人族では生活や安全に不安を覚えるにゃ。だから、ケット・シー王国が後ろ盾ににゃるから、小国の公王をにゃのるにゃ。にゃに、形だけの後見人にゃ。余計な口出しは、しにゃいしさせないにゃ」


公王って、モナコ公国とかの国主だっけか? いくら小さくてもシーランド公国みたいな扱いじゃないよな。たぶんこの世界でも○○○王国とかからの分家や自治を許可された、普通の王より微妙に格が下がる感じの王様って意味だよな。けど、それでも十分大事だぞ。さっきは軽い気持ちで了承したけど、形だけでも王を名乗るとか、不味いじゃないか。


「お気遣いは感謝いたしますが、私は別に領主や役人といった支配階級にいる者ではありません。しいていえば、村長か大家ですよ。ドワーフやエルフにしても、それぞれ種族をまとめるものが居ますからね」

「別に王で構わんぞ。建前の話でというが、実際お主の上に誰かいるわけでもないし、新参のわしらにも気を使ってくれとる。誰かが王になるにしても、今いるドワーフ、エルフ、リリパット、コボルトの四種族から選ぶより四種族が推す者が王になったほうが良いはずじゃ」

「・・・・モーブたちが種族枠に入っていないが?」


つか、ドルトンあんたも話しに割り込むのか。


「あやつは既にお主と同じユニーク枠じゃし、お主を差し置いて王になると思うか?そこのレオノールとて、既にユニーク枠じゃろ。出自は兎も角、生物としてはほぼ人族じゃからな・・・と、横から口を出してすまなかったな、猫の王子。ここは中々面白いぞ」

「にゃ~。若きドワーフの族長ドルトン、久しぶりにゃ。にゃーも同感にゃ、きっとここは楽しい街になるにゃ」


なぬ?


「・・・・知り合い・・・ですか」

「昔なじみにゃ、10年ぶり位にゃか?」

「そうじゃな。その位じゃな。お父上はご健勝かの」

「・・・元気過ぎて困るにゃ。先日は、あまり弟妹が増えると名前を覚えるのが大変にゃと、釘を刺したところにゃ」

「ほう、ならば後50年は王を続けられそうじゃな」

「全く・・・父上にも困ったものにゃ。まあ、父上に王でいてもらった方が、にゃーも動きやすいにゃけどにゃ」


・・・・え?

昔なじみ?

後50年?


「あの、失礼かと思いますが・・・、殿下のお歳をお聞きしてもよろしいですか」

「我は今78歳にゃ、ドルトンとは知り合って50年になるにゃ」

「なな・・じゅう・・・はち?」

「なんじゃ、知らなかったのか、妖精種は皆長命だぞ。わしは88歳じゃが人族で言えばまだ30歳前の若手じゃ、リリパットのランデン長老は200歳を越えていらっしゃるはずじゃから、たぶんここの最年長は長老じゃぞ」

「・・・・マジで!」

「あ、コボルトとゴブリン種は短命だぞ。成長が早い分、老いも早いからな。折をみて進化させてやった方が、寿命も延びるぞ。二度目の進化をした者など稀有じゃが、叶うならできるだけ進化させてやれ。譲ちゃんもそう思うじゃろ」

「はい、私もそう思います」


ドルトンとレオノールが話していたが、俺の頭の中では“猫なのに78歳”と言うフレーズがぐるぐると回っていた。




「分かりました。とりあえず、その公国構想をお受けいたします」


しばらくの放心の後、冷静になって改めて考えればケット・シーが長命なのは十分予想できた事だった。コボルトの上位互換のようなケット・シーだけど、それだけで人と対等になれるわけが無い。長命だからこそ人間に負けず劣らずの社会を形成できて、人と対等に交渉できるだけの知識と経験を得られるわけだ。・・・つまりモフり枠から光の速さで消えたという事だな。


「よろしくにゃ。それと、保護している人間の搬送を頼みたいにゃ。怪我は良くなって来ているにゃけど、クー・シーに乗せて運べるほどじゃないにゃ。エルフに頼もうかと思っていたにゃけど、ここなら良い方法がありそうにゃ」

「・・・エルフが運ぶ場合はどんな方法ですか」

「たぶん板に載せて数人で運ぶにゃ」


それはまた原始的な・・・ストレッチャーは無理でも、せめて担架位無いのだろうか。


「迎えに行くか・・・ケット・シー王国は大きな川の手前側ですか」

「そうにゃ、川の西側にあるにゃ」

「それなら陸続きで行けそうですね。迎えに行きましょう」

「そうしてもらえると助かるにゃ」

「よしじゃあ、車でいって来るか。ドルトンは・・・そういえばドルトンは何しに来たんだ」

「ん? おお、そうじゃ水路が繋がったから連絡にきたんじゃ」

「そうなのか、早かったな。じゃあ、合間を見て、この図面のものを頼む。後で代金は払うから自転車を適当に買って分解して利用してくれ」

「・・・おかしな自転車だな。でかい三輪車か?これで強度はもつのか」

「まあ、確かに自転車とも言うな。しかし車輪は最低限動けば良い。俺が均した地面や駐車場を走れれば十分だ。店にある材料や工具関係は黒足かその部下の三人組に聞いてくれ」

「わかった。ではアントニャオ殿下、また夜にでも」

「まただにゃ」



「では、殿下。お国に参りますか」


そう言いながら俺は二つの鍵を取り出す。一つは軽バンの鍵で、一つは先日手に入れた魔法の鍵だ。




カーン カーン カーン カーン

前方に見える石作りの城壁を持つ街から、時ならぬ鐘の音が鳴り響く。同時に、多くの人の叫び声や猫の鳴き声、犬の吼え声が聞こえてくる。

鐘の音は、敵襲警報だな。そして、人々や猫犬の声は襲撃に対する対応を叫んでいる声や逃げ惑う声だ。エルフ村、遺跡と続きどうしてこうも平和が遠のくのだろう。



「・・・・・・・殿下、どうされますか」

「困ったにゃ、ここまで大騒ぎににゃるとは思わなかったにゃ」

「最後の方は注意不足というか、警戒がおざなりでしたね」

「まさか、街の外で兵が訓練しているとは思わなかったにゃ。誰も居なければ塞いで逃げられたにゃ」


前方の防壁前を見れば二十人程のケット・シーが牙をむき、剣を掲げフシャー、フカーとやっている。すっかり敵認定されて、先ほど警戒の鐘が鳴り響き始めたわけだ。

騒ぎの原因は10分程前の事。

俺は軽バンに殿下とレオノールにニャルタニャンを乗せて、水路を更に南下しケット・シー王国の直ぐ手前まで到着した。今回は道を作る際に土地情報を残し、道幅も2mに抑えてひたすらアスファルトの道を伸ばしてきた。その距離およそ43kmだ。いくら友好的とはいえ国王の承諾も無く、勝手に道を繋げては“侵略か!”となりかねないので、こっそり道を作ってこっそり戻すつもりだった。召喚回数が80回を数え、うっかり森を貫通し、防壁を削るまでは・・・。


「仕方がにゃいにゃ、とりあえず前進して城壁前で降りるにゃ」

「了解です」


ゆっくり前進し森を抜けると・・・・。


『全員、抜剣。化け物に全力魔法攻撃にゃーーー!!』


「ま、待つにゃ」

「で、殿下―――」


あ、結界の事話してなかった。

ドドドドドドドドーーーンンン


「ンニャーーオーーーーーーーー」

「ア、アオーーーーーン」


「あの、説明忘れてましたが、この車は結界がありますので、攻撃に対しては絶対無敵です」


俺は助手席に居た殿下と、攻撃が着弾する直前、殿下に覆いかぶさったニャルタニャンに声をかけるが・・・・。


「やめるにゃ、ニャルタニャン、これではおみゃーが・・・」

「駄目ですにゃ、命に代えてもお守りしますにゃ」

「ニャルタニャン!」


・・・・・・・・・・・


「ニャルタニャンさんは殿下をお慕いしてらっしゃるようですね」

「え? ニャルタニャンって・・・」

「女性ですよ」


え~俺、ダルタニャン物語のイメージで男とばかり・・・・というか、鎧着てたら男女の見分けがつかないよ。


いつからにゃーがペット枠だと錯覚していたにゃ?


次回8月7日20時予定



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