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31 モフモフが来るらしい

ドワーフの家とエルフの家を移築し、コボルトも居住区で暮らし始めた。一部のコボルトはドワーフ製の家に引越し、他の二種族とそん色ない生活を始めている。リリパットは依然同様小型の家に住んでいるが、内装をリフォームし、家の中にアパートがあるような構造になったようだ。


「池から水路を引きたいので、土魔法を使える者は手を貸して欲しい。それとドワーフの木工が得意なものに“これ”の作成を頼みたい」

「これは、水の流れで回転するんじゃな・・・ほう、この筒で水を汲んで高い位置に流し込むのか・・・大きくなる程高い位置に水を上げられるんじゃな」


居住区が一段らくした時点で、次なる開発に取り掛かる。まずは池から水路を引いて農業用水や生活用水をまかなう必要がある。水路自体は池に接続してエルフが、住んでいた近くにある川の下流に流せばすむが、畑への用水路を引くには一旦汲み上げなければいけない。そこで必要になる物を作ってもらうために、ネットで探した画像をドルトンに渡して依頼したわけだ。


「確かにそうだが、水路の水がどのくらいの流れになるか分からないから、最初は程ほどにな」

「なるほど、分かった。わしがドワーフの担当を振り分けるがそれで構わんじゃろ」

「ああ、構わないが・・・俺からの要望としては、手探りで、ある程度試行錯誤するようになるから、そういう事に向いた性格の者を割り当てて欲しい」

「ああ、辛抱強く探究心のあるものを選ぶようにする」

「それと、土魔法の方だが、ここからエルフの住んでいた村近くの川の下流に向かって溝を掘ってくれ。俺が以前作ったように道を川に向かって伸ばすから、その端に溝作って欲しい。水源の池に向かう方も同じだな」


その後、水路班全員で池に向かって移動しながら、魔法の得意な者達が水路を作成していく。


「溝を掘って水を流した時に、堀の壁面が崩れない程度の強度は欲しいが、底面付近ははできるだけ柔らかい土のままが良いな」

「注文が多いな。普通に三面押し固めてはいけないのか」

「単純に水を引くだけならそれでもいいんだけど、拠点の方に魚などを引きこみたいからある程度自然な部分が欲しいんだ」


三面囲われた水路は魚が住みにくいから、底面に泥を残して池の水草がいずれ自生するようにしたい。加えて素焼きの壷や植木鉢などを沈めて置けば、魚の住処にもなるだろう。


「じゃあ、俺は下流の川への接続に行ってくるから、池の近くまで掘り進めてくれ」

「分かった、掘り進めておく」


その後、水路班の半数を伴いエルフのはるか南に向けて道を造っていく。拠点から東南に道を伸ばし、やがて支流にたどり着いたが、支流と言うのはあまり大きな川ではなかった。水路作りに参加していたエルフに話を聞けば、支流は数キロ下った先で再び本流に合流すると言う。


「合流地点は、例の友好的な種族の住むところより上流か・・・、可能なら水路と接続する場所から合流部分までの川を少し大きくしてくれないか」

「水面下の川底を掘り下げるのは、水魔法と土魔法の複合になりますから、ちょっと難しいですね。一度川岸を強化して、直ぐ横に深く掘り広げるなら強化部分が仕切りになりますから、掘っていけると思います。最後に仕切りを崩して川幅を広げる感じですね。あるいはまったく新しい水路を引いてしまうかです」

「新しい水路の方がまっすぐ引けますよね。じゃあ、道を伸ばしましょう」


その後しばらくは各所で水路作りや、木工品作成などが行われる。俺も合間を見て用水路で使用する予定の道具を作り始める。主な材料は塩ビ管とその接続部品などだな。


「わん」(お館様、それな~に~)

「これか~これはな~畑に水をまく道具だよ」


現状は店からホースを伸ばして水播きしているが、耕作地が広がるとそうは行かないからな。水路や用水路が出来たらそこから水を引きたいので、ポンプアップする道具を作ってみたわけだ。


「よし、実験するぞ~」


外に出て、水を入れたポリタンクにポンプを挿して、実験用のホースを持ってピストンを動かす。


「わおん」(うわーすげー水飛んだ)

「どうだ、凄いだろう」

「わふん」(僕もそれ押したい、やらせて~)

「いいぞ、喧嘩しないで順番にな。水を吸うときはホースの先を潰すんだぞ」


試作品の弁は密閉が今一だから注意しないと、ホースから空気が入ってしまうから要改良だな。


「おやかた様、それは何ですか」

「ん、族長か。これはさっき作った水撒きようのポンプだ。試作なんでこの通り小さいけど、それでも結構飛ぶだろう」


俺の作ったポンプは塩ビ管で作った散水手押しポンプだ。見た目の形状は自転車の空気入れに似ていて、水に挿したパイプにピストンと二つの弁が組み合わせてある。構造は単純でピストンを引けば、筒の先端から給水し、押し込む際には給水口の弁が閉じる。そして、ピストンで押された水は筒の途中にある、排水口から吐き出され、ホースを通って外に撒かれる。


「ほう、面白いですね。これからは、これを使うわけですか」

「ああ、今水路とそこから分岐して各畑のそばに水を引く用水路を作っているから、このポンプのようなものを畑ごとに設置するよ。水撒きは穴の開いたパイプを畑に引いて、ポンプを押せば畑のあちこちで、一斉に水が出るようにする予定だよ」


このポンプも、今はこうして人力だけど水車とカムを組み合わせれば、自動でポンプアップする事が出来る。そして、そういうのを作っていけばいずれ、石きり鋸や脱穀機のような、大掛かりな動力用水車も作れるようになるだろう。なんと言っても家電製品や電動工具は、ここでしか使えないからな。俺の血統に能力が継承されるとも限らないし。・・・能力の生前贈与とか出来たら少しは気が楽になるんだけどな。



「ケントさん、ヨルンの件なんですが」


そんな感じで水撒きを眺めていたら、ガイアンがやってきた。ヨルンか・・・すっかり忘れてたな。彼の生存確認がされたのは防衛戦の直前で、それから二週間近く経つわけだけど・・・今はどうなっているのだろうか。


「見つかったのか」

「いえ、本人ではなく、保護してくれていた種族の方が、旧エルフ村にみえたそうです。差し支えなければこちらに案内したいと思いますが」

「ん?ケット・シーと、クー・シーが来ているのか、こっちから行こうか?」

「やはり、知ってたのですね。ええ、ヨルンを保護したケット・シーが旧エルフ村に来ています。怪我をしたヨルンの事を伝えてくれようと、村に向かって伝令を出してくれたらしいのですが、間が悪く入れ違いになったりしていたそうです。現在は改めて数人の代表者が見えているそうですが、入れ違いは嫌なので動かないで欲しいそうです」

「・・・入れ違いにって、それにしても遅くないか」

「ええ、最初にヨルンの事を伝えにエルフ村へと向かってくれた、ケット・シーさんが村に着いたのが総攻撃直前で、スプリガンとゴブリンに包囲された村を見て『エルフ村が大変だニャー』と、そこから全力で引き返して、翌日一族に報告。しかし、この時点で既に防衛戦は終わっていますが、それを知らないケット・シー王の決断で援軍が組織され、ここで更に一日。改めて村に駆けつけてくれたものの、村に着いたのは私がドワーフ村に向かった後。ケントさんの助力で戦争が終わったと聞いて援軍が帰り、ケット・シー王に報告して、改めて外交的な交渉を出来る担当者をこちらに派遣して・・・と言う感じで現在に至ったそうです」

「それは間が悪いな。悉く裏目というか運が無いな。で、その代表者に会えばいいのか」

「ええ、これ以上すれ違いにならないように今は旧エルフ村に留まっていただいてます。会っていただけるならば、こちらに案内させます。」

「分かった、会うよ。・・・電話して今から行くと言えばいいんじゃないか?」

「それが、許可が得られたなら、こちらの様子を直に見てみたいとかで・・・かまいませんか?」

「いいよ、エルフと友好的で森の入り口を、守ってくれている種族なら、俺は喜んで歓迎するよ」


ケット・シー村?は南の人間の町と、森の種族との境界線のようなものだからな。


俺は店に戻って、ケット・シーと会う準備を始めることにした。

ケット・シーはアイルランドで語られる伝説に登場する妖精だ。見た目は少し大きな二足歩行する黒猫で胸元に少しだけ白い毛があるというが、トラ毛やぶちの姿で描かれる事もあるという。王制で統治され、複数の人語を解すなど、高い教育水準と知力を持つと言われている。

一方クー・シーはスコットランドに伝わる犬型の妖精で、こちらは牛ほどもある大きな体が緑色のモジャ毛に覆われ、特に尾が長く背中の上でゼンマイのようにクルクル巻かれているといわれる。ほぼ無音で移動し妖精の丘を守る番犬的な役目であるといわれ、追跡時にだけ三度吼え、三回目の吼え声を聞かされた者は必ず狩られるらしい。普段は声を出さないので、音声で会話する能力は持たないと思われる。





つまりは・・・・・どちらもモフモフだ。


コボルトは会話が成立してしまった時点で、モフれなかった。犬っぽいとはいえオスではなく男ではあまりモフりたくないし、女性をモフってはセクハラである。あの時点では、異世界のお約束的な“モフったら死か結婚”のような事態も考えられたので、モフる気はなかった。それに俺は元々猫派だから犬的なレオノールに対してはさしてモフり欲は湧かなかった。

・・・まあ、モフってもモフら無くても結果は、変わらなかったようだけど。

しかし、猫ならばどうか・・・・猫なら男でもモフれる気がする。女性は・・・セクハラ扱いされると不味いから、その点は注意する必要があるな。クー・シーは・・・正直大型犬は昔噛まれたから苦手だ。しかし牛並みならもうそれは犬じゃない気がする。・・・雰囲気的にはバッファロー? 畑を耕すのに協力してくれないだろうか。


とりあえず、キャットフードとドッグフードに、人用のおつまみ、飲み物等をイートインに用意して、来客を待つ事にする。


「お舘様、どうされたんです?」

「レオノールか、ヨルンを助けてくれた種族が、ここに来るらしいからお茶の用意をしていたところだよ」

「お茶ですか? ・・・変わったお茶とお茶請けですね」

「そうか? コボルトと似たような種族と聞いたから、用意してみたんだ」

「コボルトに似た?」


と、ここで、テーブルに置かれた、キャットフードを見たレオノールの視線が鋭くなる。あ、なんか少し涼しくなってきた気がする・・・冷房利きすぎかな。


「ご一緒させていただいても、よろしいですね」


にこやかな笑顔なのに、何故か妙に怖いです。それに伺われるのではなく承諾を迫られてます。


「・・・はい、どうぞ。ガイアンも来ると思うけど、俺この世界や森の常識に疎いから、是非一緒に居てください。何か王様の使いらしいし・・・」

「まあ、それは大事なお客様ですね、何か粗相があってはいけませんし、私も全力で協力させていただきますわ」

「・・・そうだね、よろしく・・・」


猫・・・・モフりたかった。


次回8月5日20時です

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