29 黒幕はやはり
よく朝早く、昨日作った穴に向かう。穴の様子を見れば、今も景気良く水が流れ込んでいる。まだ魔法の鍵は対策されてないようだな。実際どうにかしようにも塔の中は水没して大量の水が上から流れてくるので、昇るどころではないだろうな。
俺だったら、塔の上層階を破壊する策を考えるかな。
Mgr viewを起動する・・・ん、ストリートビュー機能もあるじゃないか。
早速画面を切り替えると、異国情緒あふれる街中の風景が映るが、都市の中はまさしく水害現場だった。
・・・・ちょっとやり過ぎたかな。まあ、勢いがあったのは最初だけで、その後は流されるようなことは無いと思うけど、権力者はともかく罪無き弱者はあまり責め立ててく無いな。
「大分水害が広がっているようだけど、まだ水を送り込むか?」
おれは近くに居たドルトンに問いかける。
「そうじゃのう・・・都市には子供や戦えぬものが住んでおるのは分かっておるが、帝国は基本的に人族至上主義じゃから、そやつらとて、人間以外を人と認めておらんのじゃ。単に国策というわけではなく、身分に関わらず融和を唱えれば、都市を追い出されるか捕らえられるのが帝国じゃからな。幼い子供でも徹底して教育されておる。子供であろうと石を待たせれば、奴らの言う亜人種に投げつけてくるんじゃ。同情する気にはなれんよ」
「そこまで差別的なのか・・・」
短命種族には遠い昔でも長命種族にとっては、ほんの数代前だから今回の件だけじゃなく色々あったんだろうな。
「なあ~に、昔からそこまで差別的でないものは帝国を離れ、各地に村を作ったりしておるぞ。もっとも、帝国と対立もできぬから建前は開拓村らしいがの。まあそれでも水責めは明日ぐらいまでかの。あまり長くやると帝国の上層部がどんな行動をするか読めん」
ドワーフ集落に戻り、一晩眠って翌日、送還していたドワーフを呼び出し全員で介抱する。
「召喚、救急セット」
ダンボール箱に入れた救急セットを召喚する。エルフ村に行ったときのドリンク(回復薬)や傷薬や傷パット、包帯などを入れた治療用のセットだ。
傷のひどい者も居るため、縫い合わせるなどの相談をしているものも居るが、血管や筋肉の修復とか無理だよな。せめても足しにと回復薬を飲ませ傷に薬を塗る。傷薬といっても抗生物質や若干の治癒効果がある程度の薬なので、化膿止めになれば良い程度なので気休め程度だ。
と、俺は考えていた。
「ケント殿、薬を塗ったら傷が塞がりました!何ですかあの薬は」
「表面が塞がっただけでなく、半分抉られた腕も修復されるように治ったぞ。本人も痛みが無く問題なく動かせるというとる。これほどの薬など聞いたことも無いぞ」
またかよ・・・・。
「俺も良く知らんが魔法薬らしいぞ。まあ、治るんなら細かいことは良いじゃないか、あまり深く聞かないでくれ。それと普段から俺の店で販売しているから、今後は必要になったら買ってくれよ。高い薬でも2000円以下だからな」
「この薬が2000円しないだと・・・」
「一応身内価格で考えてるからな。外の世界に売る場合はもっと高額にするさ」
しかし、今回の事件のように北の帝国の介入があれば負傷する者も出てくるだろうから、薬品関係は増産しておいたほうが良いな。出荷制限さえすれば世界に無用な混乱も無いだろうし。
「大体治療は終わったな。俺は一度拠点へ戻ってハイ・コボルトとエルフを連れて遺跡に行ってくるが、ドルトンはどうする」
大騒ぎの治療を終え、重傷者の傷はほぼ完治し、後は失血によるダメージが残るものが安静にしている状態だ。しかし、それも栄養ドリンクと言う名の回復薬で状態は改善されており、念のため安静にという感じだ。
「そうじゃな、ここはもうわしが居らんでも平気じゃろうから、一緒に行くぞ。遺跡の捜索をするんじゃろ」
「ああ、遺跡をきちんと確認したい。エルフとドワーフ共に数人の犠牲者が確認されてるからな。・・・鼻の利くコボルト族に協力してもらう」
「ならば尚更じゃ、これでもドワーフの長だからな。他の者に確認させるわけには行くまい」
「ああ、よろしく頼む」
「ここがその遺跡四階ですか」
拠点に戻り、レオノールと、黒足と部下三人衆にガイアンたち三○星を連れて再び遺跡へとやってきて4階にたどり着いた。
「俺が、スプリガンを村から排除する前は、ゴブリンしか見えなかった。と、いう事は、森側にスプリガンが0と仮定しても、ここから100匹以上出たことになる。それにドワーフと若干のエルフを合わせて人型の者が、最低でも250弱はここに居た事になる」
そういって、俺は周囲を見回す。四階層は通路が無い大部屋だけの作りとはいえ、部屋は250人も入れるような大きさではない。
「まだ他にも隠し部屋があるというんじゃな?」
「それしか考えられないだろう。だからハイ・コボルトも連れて来たんだ。大人数がいれば相応に生活痕があるはずだ、何か気になる匂いは無いか」
「あります。先ほどから少し嫌な匂いを感じてましたが・・・」
黒足が歩きながら匂いを嗅いでいるが、嫌な匂いってやはり腐敗臭だろうか。行方不明の帝国兵士や同じく行方不明のドワーフなど、思い当たる節がある以上無視もできない。正直見たくないけど確認は必要だよな。
「この壁石の隙間から匂いますね、隠し扉でしょうか」
「わかった、その辺りの石を抜き取ってみる。毎度おなじみ召喚駐車場&商品化からの~~~、皆、準備はいいか? 壁を取るぞ、送還・・・くさいな」
壁石が消えると、奥にまた空間が現れたが、想像通りの腐敗臭だ。まあ、一応対策は考えてある。
召喚、消臭剤
呼び出した消臭剤を奥に向けて吹き付ける。薬が謎進化しているなら消臭剤もきっと進化しているはずだ・・・・。
予想道理、5分ほど経過すると匂いは大分ましになった。
「じゃあ、ドルトン、ガイアン遺留品があったら確認よろしく」
隠し部屋に入るとそこは牢獄のような場所だった。一般的な市営体育館位の空間に鉄の檻がずらりと並び、檻の下の床にはなにやら奇妙な文様が描かれている。通路となる部分を除いてほぼ全面に牢屋が設置されている。
「ここは魔法の牢獄じゃな、この檻に入れられたものは意識が希薄になり、体は半ば仮死状態のようになって食事も排泄も必要が無くなるんじゃ。魔法王国では罪人用や留置用など、条件に応じて意識レベルを調整した檻が使われていたそうじゃ。罪人に与える食費や管理する人間の経費を魔法で解決したわけじゃな」
囚人の更生という要素を抜きにすれば強制労働でもさせない限り、囚人を捕らえておくにも金がかかるからな。小説などで犯罪奴隷として売る場面がたびたび見られるが、あれは統治者にとっては経費削減になって労働力になり犯罪抑止にもなると、いいことずくめなんだな。
「じゃあ、スプリガンはここに居た犯罪者か?」
「いや、スプリガンは亜人ではなく魔物じゃ、流石に罪人として牢に入れることはせんだろう。むしろ、戦争で使う兵力として考えておったのではないか?」
ああ、ゾア○イド的な獣化戦闘兵か。帝国で使われていた隷属の魔道具があれば、帝国内部に強力な魔物部隊を送り込ると考えたわけだな。
「しかし、実際には使われず、施設も地中に有ったためそのまま残ったのか? だとすれば、帝国兵がここのスプリガンを開放してしまい、スプリガンに殺された可能性もあるな」
「ケントさん、行方不明(鑑定で死亡確認済み)の五名が所持していた遺品を回収できました」
「その腕輪が?」
「ええ、兄夫婦がつけていた婚姻時に贈りあう腕輪です。それと、他の行方不明者三名のものと思われる遺品も見つかりました。何から何までお世話になってばかりで・・・本当にありがとうございます」
ガイアンの手にはいくつかの腕輪や壊れた弓などが握られている。それはスプリガン犠牲者がのこした数少ない遺品だった。おそらく、今もエルフ村周辺では犠牲者五名の遺品や遺体を捜して、何人ものエルフが森を捜索しているのだろう。彼らにとっては、森で遺体が見つかったほうがよかったのかもしれない。なぜなら、ここに遺体が無く遺品のみがあるということは、捕食されたと言う現実を再度突きつけられる事になるからだ。
「ドワーフの物らしい遺留品も見つかった。昨日の今日でまだ、犠牲者の確認はできておらんが、同胞も奴らの手にかかっておったんじゃな・・・本当に世話になったな、感謝する。あの日エルフ村におぬしらがおらなんだら、恐らく我ら一族は滅亡しておったじゃろう。」
確かに、100人以上が操られ30人程が遺跡で戦い破れ、集落に残った30人弱だけではドワーフは滅びていたかもしれない。
「いえ、今回俺たちが関われて事の流れを変えられたのは、偶然そのタイミングに接点があったというか、偶然そうなったというだけの事ですよ。俺たちの動きなど小さな変化に過ぎません。今回はそのタイミングが合ったと言うこと。感謝されるなら女神様に感謝してくださいよ」
・・・・あれ? 自分で言っていて怖くなったけど、まさか今回の事は女神様方の仕込じゃないですよね?・・・・・・違いますよね。
「お舘様、奥のほうに何か居るようですよ。ナビに赤い光点が表示されてます」
「行ってみよう」
武器を構えナビに表示された方に向かって、静かに歩を進めると、僅かながらも物音が聞こえてくる。それは魘される人の声のようであり、低いうなり声のようにも聞こえる。
「明かりは見えているはずなのに動きが無いな」
「位置的に檻の中に居る気もしますが」
襲い掛かられることも無く距離をつめて行くと、やがて相手の姿が見えてくる。
「あれは人間・・・とスプリガンか?」
兵士らしき者が二人と、数匹のスプリガンが同じ檻に入っている。
「鑑定、檻の中の兵士」
檻の中の兵士=帝国兵及び特務指揮官 隷属の魔道具を持って森に潜入した帝国兵とその部隊指揮官。帝国に残された数少ない隷属の魔道具で、森内の魔物を捕獲使役する任務を帯びていた。不測の事態により檻内に緊急避難し現在に至る。
「鑑定によると森内の魔物を捕獲しに来た帝国兵らしい。人間でも赤いんじゃ敵だな」
それと、隷属の魔道具があるらしいが・・・あの首輪かな。
「鑑定、スプリガンの首輪」
スプリガンの首輪=隷属の首輪(破損) かつてドヴェルグが作成した隷属の魔道具で現存する最後のひとつだが、既に破損している。長い年月を経ても劣化故障していなかったが、スプリガンの巨人化に際し5個の首輪が破損している。
「鑑定、スプリガン」
スプリガン=ドワーフ亜種と考えられ・・・中略
森内を探索中にゴブリンと遭遇し、巨人化し戦闘に入るが隷属の首輪が破損。魔法の鍵で退却した帝国兵をおって遺跡に戻り、牢に入って現在に至る。
なるほど・・・。
「隷属の首輪を、ここのスプリガンに付けて使役したものの、森でゴブリンに遭遇し巨人化して戦わせようとしたところ、首輪が壊れて、使役が解けてしまったようだな。鍵で逃げ帰ったが追いかけられ、緊急避難で檻に入り、スプリガンもこの兵士を追って檻に入って、どちらも意識が飛んでこの有様だ」
「随分間抜けな話だな」
「死ななければ、帝国から味方がきて助かるとでも思ったんだろう」
「やはり、諸悪の根源は帝国か」
「まあな。ここにスプリガンが居たのは魔法王国のせいだけど、開放したのはこいつら帝国兵だ」
「それで、こいつらはどうする」
「今は意識が無い様だし、帝国に送り返すか。スプリガン共々な」
俺は皆に向かって、にやりと邪悪な策謀家をイメージした黒い笑みを見せた。
「・・・・ケント、その顔は少し頭が悪く見えるから、あまりしないほうがいいぞ」
・・・・そうですか、馬鹿っぽいですか・・・無念。
「ドルトン一旦、水の流入を止めてくれ、水位を下げたい。下がったらまた注ぐからな」
俺とドルトンは水を流し込む穴のところに来ている。
「分かった。簡単な土壁を作る」
やがて、水位が徐々に下がる。地表から6~7m位下がればいいかな、それ以上だと水面に叩き付けられた衝撃で死ぬかもしれないし。
「よし、ドアオープン・・・ガチャッとな」
穴に向かって魔法の鍵を挿したドアを開く。ドアをドワーフに渡してスマホを取り出しモーブに電話する。
「モーブ準備いいぞ、檻には入るなよ」
『わかった』
そして・・・・。
ドボン ドボン バッシャン ザッパン ドッボン ドッポン
六度の水音が鳴り、水柱が上がる。
「全員、隠れろ」
俺たちは穴の中からは見えない位置に身を隠す
「ぐば、なぼぶばれば」
「・・・・・ガボガボ」
「・・・・ぐがあああああばばばば」
「ごぼぶごふ」
「・・・・・」
「ゴフッ・・・・バアア」
おお、見事な溺れっぷりだ。俺は泥水で茶色く染めたシーツで身を隠しこっそり穴底を伺って、帝国兵とスプリガンの溺れるさまを眺める。
「ドルトン、土壁を崩してくれ」
「おう」
そして、再び注水が始まり二人と四匹は魔法の扉に流し込まれて消えた。
「よし、うまく行ったぞ。ドルトン、ガイアン、扉を回収して帝国への入水を止めるが、それで良いか」
俺は二人の顔を順に見る。二人は穴底を見つめていたが、やがて顔を上げ。
「ええ、亡くなった者が生き返ることはありませんし、亡くなった者の無念を思えば許すことはできませんが、仇討ちとしては私たちが思っていた以上の結果です。・・・・きっと兄夫婦も浮かばれるでしょう。ありがとうございました」
「うむ。わしらも同じじゃ、憎しみは何も生まんが、我らの怒りを示すことは必要じゃ。帝国もその身をもって、思い知ったことじゃろうて。重ねて感謝するぞい」
いや、帝国からしたら流れ込んできた水も兵士もスプリガンも、原因不明だと思うぞ。俺ら姿を見せてないからあの帝国兵が生きていたとしても、俺たちの反撃という事実は漏れないはずだぞ。
俺はこちらの鍵を回収し、帝国にある鍵も送還、償還を試すと石壁とビニールテープを巻いた鍵が現れた。鍵は商品化できなかったので、鍵を商品でくるむ事で一緒に召喚できるか試してみたがうまくいったようだ。これで便利な魔法の鍵が二組手に入った、今後は出先から瞬時に帰れるぞ。




