28 意趣返し
今回の話は2017年7月のリアルな日本を鑑み不謹慎かとも思いましたが、以前より考えていた戦術なのでそのまま実行いたしました。
”水攻め”と言う戦術を不快に思われる方は、今話及び次話を読み飛ばしていただければと思います。
「一応、今はこのフロアには敵は居ないみたいだな」
「ここが、スプリガンの巣なんでしょうかね?」
近くを探索しながらシデンが聞いてくる。
「どうだろう?ここが、巣でも巣でなくても例の鍵の手掛かりが、ここにあるような気はするんだよな」
四階層は他の階層とは違い、迷路のような通路は無く、いくつかの部屋に分かれているだけだった。やはり、上の階層は防犯用の罠だったようだ。
「ケント、来てくれ。あの鍵がある」
モーブに呼ばれ彼の元へと行くと、そこには二本の鍵が刺さっていた。
一本はエルフ村の近くで見つけた鍵同様に黒い穴を開けているが、もう一本はただ壁に刺さっているだけだ。刺さっているだけの鍵はエルフ村近くで手に入れた鍵と同じ意匠だった。これはペアで使用するものらしい。
「前回と同じであればこっちの扉の鍵はどこかに通じているわけだよな。抜いておいたほうが良いかな」
「そうだな、ここにあるスプリガンの生活痕は、最近のものばかりのようだから、割と最近ここに着たんだろうな。どこか別の場所からその扉で入ってきたんじゃないか」
「それはまずいな。抜くか」
俺は鍵に手を伸ばすが、直前で思い留まる。
「どうした」
「抜く前に調べるだけ調べてからにしようと思う」
召喚、CCDスネークカメラ
俺はモニターつきCCDスネークカメラを取り出し、カメラの先をそっと扉の中に差し込む。これで何か映れば良いんだけどな。
「あ、映像が映ったぞ・・・」
映し出された先は、この遺跡と似たような石作りの部屋だ。そして部屋の中には二人の男が居てなにやら会話しているようだ。幸いこちらは見ていないようなので、気づかれてはいない。
部屋の中の二人のうち一方はかなり激高している。スプリガンがここから出てきたんだとすれば、こいつらが黒幕だよな。一体どこの何者だ。
「んん? その男が胸につけている紋章は帝国軍の紋章じゃないか」
後ろからモニターを見ていたドルトンが、とんでもないことを言い出した。
「間違いないのか?」
「いや、わしも実物を見たことは無いんじゃが、帝国軍の紋章は交差した二本の剣とカイトシールドに描かれた髑髏と聞いたことがあるんじゃ。その紋章に、にとらんか?」
言われてみれば、確かにそんな感じだが・・・ピントが今一で詳細までは分からない。
「じゃあ何か、帝国軍がここに魔物を送り込んでいるのか?」
「魔物を送り込んできたのかは分かりませんが、この二人は帝国関係者で正解みたいですよ」
「ん?」
下から聞こえたシデンの声に彼を探せば、彼はなにやら筒のような物を魔法の扉に差し込んで、向こうの声を聞いていたらしい。
「間違いなく帝国です。それと、鍵はドヴェルグの遺留品を偶然見つけたみたいですね。全部で三組だそうです」
「シデンは向こうの会話が分かるのか」
「はい。少し聞き取りの微妙な部分はありますけど大体は理解できます。戦争末期に帝国から魔法王国にドヴェルグが寝返ってますが、その中に帝国と魔法王国を行き来していた者がいたとかで、魔法王国と帝国をつなぐ魔法の扉を付けたようです。その扉の鍵がこれみたいですね」
「ずいぶん説明的な話だが、そんな会話してるのか」
これはあれか、某貧乳魔導師が提唱していた”悪人は説明的なことを話さなければいけない”というお約束が働いているのか。
「あの、怒鳴ってる感じの人が“折角見つけた貴重魔道具を無駄にして”とか“我が帝国の悲願が”とか言ってます。鍵を見つけたので秘密裏に侵略できると思ってたら何か失敗した的な感じですね」
「うん?スプリガンは帝国の尖兵じゃないのか」
「流石にそこまで詳しい話はしてませんね。ただ、帝国兵を送り込んだ様な事は言っていますから、ここで何か予想外なことがあったのかも」
モニターを眺めているとやがて室内の人物たちは部屋を出て姿を消した。
「・・・この鍵を抜くと、こっちで異常があったのがバレルよな。こっち側に何か物を置いて通れなくするのはどう思う?」
「短期的には良いじゃろうが、この遺跡を壊すくらいせんと、入ってこれない保証は無いぞ」
「う~~ん。じゃあ、とりあえずこの鍵を回収するか? 幸い向こう側で見ているやつも居なくなったし」
「その前にちょっと偵察してきましょうか」
偵察?凄くそそられる提案だけどどうだろうな、危険じゃないかな。
「そうだな、向こう側に誰も居ないなら今のうち見に行くのも有りだな」
「いや、偵察などとけち臭い事いわず、奴らに一撃与えてやるのも面白いんじゃねえか」
「そうじゃ、わしらの怒りを思い知らせるんじゃ」
おいおいお前ら物騒だな・・・・・あいつらが主犯だという証拠は無いぞ。でもまあ、悪意を持っているなら仕返しもありだな。
ならばちょっと策を考えるか・・・。
「ドルトン、川の近くに穴を掘ってくれないか。深くてソコソコ大きな穴がいい。掘ると水が出ると思うが、できるだけ水をためないように掘って欲しい。最終的に水を大量に流し込むから水路の準備も頼む。どの位で準備できる?」
「・・・・この人数なら10分もあれば深さ10m大きさも10mぐらいの穴が掘れるが、それが何になるんじゃ?」
「できるだけ深い穴で頼む。最深部の大きさは、3m角程でいい。その穴が深ければ深いほど、奴らに大きなダメージを与えられるぞ」
「ほう、そういうことなら良かろう。全力で掘って見せようぞ」
ドルトンたちは“わしらの怒りを思い知らせるのじゃ”と言って外へと向かっていった。
「俺たちはどうするんだ?」
「俺たちは敵情視察だ。向こうに乗り込んで色々失敬してくるぞ」
俺たちは魔法の扉をくぐり、敵地へと侵入する。室内は暗く様子は分からないので、LEDランタンを使用する。部屋の中には雑然と置かれた書類やら器具やらがあるが、部屋には窓が無く、出入り口は木製の扉一枚のようだ。
「召喚、駐車場(一部)&送還、駐車場」
例によって駐車場を召喚&送還し、部屋にあったものを全てかっぱらう。・・・俺、怪盗を名乗っても良いかもしれない。
「便利なもんだなあ」
駐車場のアスファルトは、その場所の地面や床に召喚される。地面から生えている木は消滅するが、乗っているだけの物や生物は敵対的なら敷地外へはじかれ、敵対しない生物や物はそのままアスファルトの上に載る。この状態でアスファルトを送還すると上物を乗せたまま一緒に送還してしまうのだ。
「モーブ、その出入り口にこの板を打ち付けて補強しておいてくれ。できるだけ静かにな」
俺は木材と釘をモーブに渡す。
「了解、しかし音を出すなとか無理言われてもな・・・」
モーブは若干愚痴りつつも、木製の扉枠にコンパネを打ちつけ補強する。どの位の力加減か分からないけど、静かにやってくれているようだ。まあそれでも無音ではないが。
やがて・・・・
「何か上の方で音がしなかったか?」
「ん?またあれだろ、研究主任の部屋に置いてある書類や本が荷崩れで床に落ちたんじゃないのか」
「ああ、そうか、俺らには片付けろって、煩いのに主任の部屋は散らかってるものな。」
「あの禿、俺らが部屋に入ると物の場所が分からなくなるとか、寝言言いやがるよな」
「おいおいやめてくれよ、禿に聞かれたら俺らの髪むしられるぜ」
「そんときゃ、奴の髪も絶滅するさ」
ガチャ ギギィィィ バタン
・・・・・・・・・あぶねえ、下の階を歩いてるやつがいたのか。それにしても研究主任とやらは人望が無いな。さっきこの部屋に居た軍人じゃない方かな?研究室消滅するけど、髪と職が守れるといいな。
俺はスマホの地図を表示し、周辺の地図を読み込んでおく。下から声が聞こえたように、ここは地下室ではなく塔のような高い建物の上階にある部屋らしい。俺は魔法の鍵が刺さっている石壁を商品化し、魔法の鍵にはビニールテープを巻きつけておく。
「よし、町には興味があるが降りていくわけにもいかないし、発見されると面倒だから、さっさと戻るぞ」
遺跡に戻り、それから地上に上がるとブライアンが待っていた。
「既にあらかた掘れましたよ、案内します」
ブライアンに案内され穴掘り場へと到着する。お~~結構深い穴だな何メートルくらいあるのかな。
「どうじゃ? 中々の深さじゃろう。魔法で掘り進めたからな。後は水路と川をつなぐだけじゃぞ」
「いいね、いいね。んじゃ最後の仕上げをするかな」
穴の上にやぐらを組み、貨車を付けてロープを通す。一方を俺の腰に付け、反対側を数人のドワーフの腰に結ぶ。
「これは何じゃ」
「いや、ロープで下りるとか俺やったことが無いし。なら俺が下りるんじゃなくロープを動かせばいいだろ?じゃあ、下りるから一度離れてくれ、合図したらゆっくに近寄ってきてくれよ」
俺の合図で離れた場所からゆっくりドワーフが穴に近寄り、同時に俺がロープで吊り下げられて穴底に向かう。ドワーフが三人居れば俺の体重くらい余裕だろう。
「召喚、駐車場及び鉄板」
穴底にアスファルトを出して鉄板をひき、鍵を刺して扉を出現させる。この鍵はなんにでも刺さるので、浮き上がらないように鉄板にした。扉が誤って閉まらないように細工をし、ドアにもう一枚鉄板を乗せて蓋をしてから、ドワーフに引き上げてもらう。引き上げはロープを手繰るのではなく離れてもらう方式だ。その方が滑落事故をおこしにくい」
「じゃあ、堰を切って水を流し込んで」
ドワーフが作った怒りの水路に水が流れ込む。流石に縦穴が大きいからすぐに満水にはならないな。
「ついでにゴブリンの死体も放り込まないか」
「かまわないけど、扉がふさがったら困るぞ。というか、何故そんなものがある」
「穴掘り中に襲ってきたから、始末したんじゃ、体が小さいしいくつかに切り分ければ引っかかりはしまいて」
「そか、ならご自由に」
「適当に泥も入れて水を汚くしておこう」
・・・・・・・・
「さて準備はできた。みなスマホを出して、Mgr viewを起動して・・・森からまっすぐ北に行った帝国の首都を表示させて。一度縮尺を変えて探すと良いぞ、皆表示できたか」
「ええぞ、どうなるか楽しみじゃ」
皆、悪い笑顔を浮かべてスマホを見つめている。
よし、鉄板(蓋)送還
ボコン ゴッポンゴッポンゴボボボボ
「中々いい音がするのう」
「川からも排水に負けじとドンドン水が流れ込んでいるし、良い感じじゃないか」
流れ込む水はある程度で止まる。魔法の鍵の高さまで水位が上がったのかもしれない。これで出入り口のドアが水圧で壊れれば一気に水位が下がるだろうな。
ゴゴゴゴゴゴ
ドアが抜けたな。
「おお、見ろ、何やら都市の様子が変わったぞ、中央付近の塔から水が噴出してないか」
スマホを見れば塔の中層くらいから水が噴出している。中層の窓が水圧で突き破られたんだろうな。
「少しずつ水が減ってるか?川の方に壁を立てて水路への流し込みを増やそう」
「おう、流れ込みを良くするんじゃな。都市が水没するまで水を流し込んでくれるわい」
その後、しばらく水の様子を眺めてから戻ることにする。
「さて、帰るか。救出したドワーフは今日出さずに、明日介抱すれば良いよな」
皆無言でうなずき、俺達は遺跡を後にした。
次回30日20時です




