26 ドワーフの集落
「じゃあ族長、後を頼むよ」
「お任せくだされ」
翌朝俺達とドワーフの半数程が集落へと向かう事になった。再び戻ってくるという事もあり、ドワーフの半数には拠点で俺の依頼した建物等を作ってもらうことにした。流石に人口が増えると、相応に家や畑が必要になってくる。コンテナハウスやログハウスは、すぐ増やせるが、サイズが小さいので家族が分散することも出てくる。ならばドワーフにある程度の大きさの家を建ててもらい、商品化しておけば大家族への対応も可能になるし、今後も必要なときにすぐ利用できるだろう。
「黒足とレオノールは、ガイアン達と堀作りを頼む」
今回二人は留守番だ。ドワーフには建築を依頼したが、二人には土木工事をやってもらうことに成る。人口が増え、畑が大きくなっていけば、農作物を狙う魔物や動物が集まるだろう。しかし、広い畑の管理や防衛は簡単ではないから、ある程度の大きさで区画分けし、水堀や柵を作って防衛する。区分けされていれば仮に害獣などに入り込まれても、被害を限定的なものにできるだろう。
「わかりました」
「お任せください」
こうして俺とモーブ、シデンに加え道案内の長老と、色とりどりのつなぎ服を着たドワーフ50数名という男集団がドワーフの集落へ行くことになった。移動は例によって徒歩で、俺が道を作りながら進む。魔力が無くても魔法のようにバンバン力を使えて疲労も無い。まさにチート能力だ・・・地味だけどな。
「先ずは真っ直ぐ魔石の所に向かうから、そこから先はドルトン達に案内を頼むぞ」
「・・・・・・」
ちらりと顔を見れば目の焦点が合っているのかいないのか、呆けた顔で歩いている。並んでいるのにまったく声が届いていないようだな。
「なあ、さっきのアレはなんじゃったんだ」
「何だ、ちゃんと意識があったのか、さっきから反応が薄いから動く死体かと思ったぞ。で、アレとは何だ」
「そんなわけあるかい。わしらが放心しておったのは、あの黄色いのと赤い二台の乗り物じゃ、自転車でも驚いたがまだあんな物まであったとは、想像もしとらんかった」
「そうか、驚いてもらえて何よりだが、確り前を見ていないと転ぶぞ。どのみち、弄り回すのは拠点に戻ってからだから、今は忘れろ」
「そうじゃな、戻って弄るのを楽しみにしているぞ」
池を通り過ぎ間も無く、白っぽい大きな岩が見えてくる。大きさは4m弱ぐらいだろうか確かにこれは大きな岩だな、
「おお。ここじゃ。ここは知っておる。ここからはわしらが先導しよう」
「そうか、戻ってこれて良かったな。じゃあ後をついていくから案内してくれ」
『うむ、まかせい』と言ってドルトン達はずんずん進んでいく。
「そういえば、ドワーフの家はどんな作りの家なんだ」
コボルトの家は木の枝を紐で縛った簡素な木造だった。エルフは丸太つくりに日干し煉瓦的なものだったな。森の中なので建築資材としては木が多いから木造に思えるが、鍛治をするには木造では危険だよな。
「基本はエルフの家と同じように木造なんじゃが、わしらは鍛治で火を使うから、木造で骨組みを作り壁などは土を魔法で固め、耐火性能の高い壁にしてある」
「なるほど。エルフのかまどのような焼き物で仕上げているのか?」
エルフのかまどは“粘土かまど”と呼ばれるものだった。粘土かまどは文字通り粘土で作られたかまどで、粘土質の土に藁を加え手や足でこねた泥をセメントの様に盛っていき、水を加えながら表面をなでて整形して乾燥させる。最後にかまどの中で火をたくことで硬いかまどになる。かまど自体が陶器のようなものだな。日本でもガスコンロが普及する以前は使用され、アジア・アフリカで固形燃料(木材や炭など)に頼る地域では今も使われている。
「どうだろうな。わしらの場合は泥を押し固めて作った四角い石を積んでいくんじゃ。石と石の間には泥を挟んで魔法で接着しておる。丈夫で火に強いんじゃ。それに見た目にもこだわっておるぞ。・・・それ、あれじゃ、ちらりと見えるあれが集落じゃ」
ドルトンの言う通り間もなく集落が見えてきたが、その集落は中々に鮮やかな色彩で、建物の骨組みとなる木造部分と壁面のレンガのような石材が独特の外観をなしている。
「・・・・すげえ、半田赤レンガ建物みたいだ」
明治以降に海外のレンガや石作りの建物が日本に導入されると、各地にレンガ建物が建てられたが、地震の多い日本にあってそうした建物はあまりにも不向きすぎた。
そんな日本でも今なお残る歴史的建物の多くが木骨造といわれる木造の骨組みに、レンガや石などで造る壁を組み合わせたものだ。世界遺産にも登録された群馬県の富岡製糸場はレンガ壁と規則正しく並ぶ木骨のバランスがシンプルながらも実に美しいが、ドワーフの家は大きさこそ違うが半田赤レンガ建物に似た、茶色のレンガと無数の筋交のような木骨が外壁にはしり、無骨でありながらも飾り要素のある独特の美しさを見せていた。
「どうじゃ、わしらの家は。わしらは職人としての自分を表す為に自分で家を建てるんじゃ。もちろん大工や木工職人だけでなく、鍜治職人も革職人も自分で作るんじゃぞ。家にはその者の職人としての姿勢が現れる。作る品に好んで飾りを入れる者もいるが、飾りが過ぎれば虚飾の家になり、日頃手を抜く者が作れば自然と脆い家になる。自分の家に自分の職人としての資質が、映し出されるわけじゃな。まあ、それでも巧く家が作れぬ者は、内装などに得意分野を少し加えたりするがな」
なるほど、それは面白い考え方だな。しかし、ドワーフだけの集落でそこまでの必要はないような気がするが、昔からの慣習なのだろうか。
「そして、嫁を大事にしないやつは住む家がなくなるんだ。お前ら一週間もどこへ行っていたんだ?帰ってきても絶対に家に入れないと妹は言っていたぞ。俺は仲介とか説得とか嫌だからな」
ドルトンと話していると、突然横から見知らぬドワーフにドルトンが話しかけられた。口ぶりからするとドルトンと親しく、そして、義兄ということらしいが、一週間行方不明だった相手に対し割りとドライな対応だな。だが俺は事前にスマホで確認してあり、ドワーフ集落には赤光点も黄色光点もない。目の前のドワーフも偽者ではないし操られても居ないはずだ。
「ブライアン!ま、待ってくれキャサラは怒っているのか?しかし不可抗力だぞ、それに100人以上行方不明になったのに、そんな朝帰りの旦那みたいな対応はあんまりだろう」
「・・・まあ、それはそうかもしれないが、お前をかばって妹の逆鱗に触れるのは嫌だし、怒れる妹を宥めるのは兄の俺ではなく、旦那のお前の仕事だろう。そんなわけで、がんばって来い。ところで、そちらの方々はお客さんかな?ドルトンはこれから少々辛い戦いに身を投じなければいけないから、代わりに俺がお相手させていただこう」
「それは、お気遣いいただきありがとうございます。よし、ドルトン。俺たちはこちらのブライアンさんのご好意に甘えさせてもらうから、あんたは嫁さんに叱られて来い」
「なんじゃと!お主等も、わしらを見捨てるのか!ま、待ってくれ、わしは、わしは~~~『よし、では案内してくれ』こらまて、見捨てないでくれ~~」
ブライアンとやらを促し俺たちはドルトンから離れ別行動となった。ドルトンは抵抗していたが、最後には観念して家へと向かった。
「挨拶させてもらうと、俺は森の中央からきた奈良健人だ。よろしく」
「ドルトンの義兄になるブライアンだ、こちらこそよろしく」
俺たちは互いに握手を交わす。ブライアンもまた他のドワーフ同様、髭に覆われた顔をしているが、顎鬚を編みこんでいくつかのお下げのようにしていて、服装は何かの毛皮で作った服のようだが、銀のネックレスや腕輪のような物も身に着けている。これはドワーフ流のお洒落なのだろうか?
「それで、ドルトン達が居なくなってから一週間経つのか?100人程行方不明になっていたはずなんだが、集落が妙に静かで落ち着いているのは何故だ」
「いや、すまん。さっきの話は半分嘘だ。ドルトンの奴がしれっと、何食わぬ顔で戻ってきたから少し脅かしただけだ。本当はみな居なくなった連中を探して近くの遺跡を調べているんだ、だから今この集落に残る者は少ない」
「遺跡?どういうことだ」
聞いてはみたが、どう考えてもドワーフの失踪と関係がある話だよな、なら例の鍵やスプリガンとも関連があるんじゃないか。
「失踪した者たちは一週間前、突然村を出て行ったんだが、偶然それを見かけた者がいてな、その者がいうには、皆ぼ~として正気ではないように見えたという。あまりの不自然さに後をつけて行き先を確認すると、なにやら地下遺跡のような所に入っていき、そのまま戻らず行へ不明となってしまったんだ。それで、その遺跡を調査していたというわけだな」
そして、大当たりか。その遺跡にスプリガンが残っていなければいいが、もし残っていたらエルフ村の二の舞だ、急ぎ確認をするべきだろうな。
「すぐにその遺跡に俺たちを案内してくれないか?実はドルトン達が見つかったのはここから15kmも離れたエルフの村で、魔物に操られて自我を無くしたまま戦争に参加させられていたんだ。そして、その遺跡にはドルトン達を操っていた魔物が、まだいる残っている可能性がある」
「た、大変だ、すぐに案内します。付いてきてください」
次回26日20時です




