24 森と周辺の関係
「買取で、もち黍が1kg200円で、もち粟が1kg300円だな」
うーん、日本の健康食的な位置づけの、黍粟と比べればずっと安いが、うちで売ってる白米と大差ないよな。これは店では売れないかもしれない。エルフにとってはどうなんだろうな。白米より安く買われるなら自分で食べるか?それとも売って米を買うのかな?
黍と粟も昨日見つけた食材だ。
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「これが、村で食べている穀物になります。この他には数種の豆類を育てています」
見せられた穀物は、数種類の小さな粒だった。この黄色い粒とかなんか見覚えがあるような気がする・・・そうだ、昔飼っていた鳥の餌に似ているし、雑穀米にも入ってた気がする。
「これはなんという穀物ですか」
「こちらが、粟でこちらは黍ですね。先日いただいた米と同じように焚いて食べます」
なんと!異世界で粟と黍に出会うとは。
日本では粟や稗、黍は稲同様古くから食べられている。エルフは稗の栽培はしていないようだが、いずれもイネ科で稲に比べて丈夫で育てやすい。かつては、濡れ手に粟という言葉があるように、濡れた手で粟を触ったら手に沢山付いて“ラッキー”と喜ばれた粟である。桃太郎の昔話に出てくる“きびだんご”は元々、黍団子であり、黍団子で家来になる話が生まれる程度には、大事な食べ物だったと思われる。粟と黍は“もち米”と“うるち米”に似た二種類の品種が存在し、現代の日本で好まれるのは、もち米に似た、粘りともちもち感のある“もち粟”や“もち黍”だと聞いた。俺も健康志向の一環として家族が五穀米のパックを買ってきて白米に混ぜた雑穀米をしばしば食べさせられた。まあ、俺個人としては100%白米と比べた時“まあこんな感じなんだね”という感想だったが、現状稲も麦も見つかっていないのだから、是非手に入れるべきだろう。
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というのが、昨日の話だったわけだが、この先人口が増えると考えれば、きちんと経済に乗る主食が必要になる。日本では米が不動の人気があるため粟や黍はいまさら感があるが、この世界で生産するなら粟や黍の育てやすさは利点になる。それに栄養面で白米より優れた部分もあるから、今後も生産していきたい。
次に布だな。
「生成りの綿布一反およそ0.5m×45mが30,000円・・・これはどうなんだろう、地球の工場生産なら高いが、物価というより物の価値があまりにも違うからな。たぶんこの世界は地球の中世のころと同じくらいだろうから、服は繕い続けて着ていたり古着の売買も普通にあったろうし、新しい服を着ている庶民なんて一部の商人くらいかな。エルフ村の中で使用するために織っているから、村ではそれなりの服が多いけど、森外の世界じゃ新品の布って金持ちが買うんだろうし、もっと高価にするべきだろうか。でも完成品の服を売っているから、比較するとおかしなことになるなあ。中々判断が難しい値段だな」
俺はエルフから預かった商品の買取価格を次々調べていく。
ふと、周囲を見ると残っているのは、マッシュビーと俺の関係者だけだった。
「・・・他の連中はどうした?」
俺がマッシュビーに問うと、彼は無言で手を左下から右上に振った。
“薙ぎ払え”の動作じゃないよな?
あと、未だに声を聞いたことがないけど、なんとな~く“バカモ~~ン”とかいう言葉が似合いそうな気がする。
マッシュビーの示す方を見るとエルフとドワーフが店内に散らばり商品を手に大騒ぎをしていた。酒コーナーのドワーフは少し面子が入れ替わっているが、相変わらず人気のようだ。
「ケントさん」
眺めているとガイアンが戻ってきた。後ろにドルトンも居るようだな。
「ケントさん、布団や鍋や皿を購入したいので、お渡ししたものを全て買い取ってもらえませんか」
「わしらドワーフにできる事は無いか?なんでもするから酒と金属を売ってくれ。後自転車と荷車もだ」
ドワーフに依頼することか・・・そうだな、人手が多いならちょうどいいな。
「実はエルフと、ドワーフに依頼したい事がある、ちょっと事務所まで来てくれ」
「まず、これが俺達の把握している、周囲の地図だ。エルフ村がこの辺で、川の本流はこれだな、それから白い岩がここで、川がこの辺にあるのを確認している。森の外周はこの辺まであり・・・・」
「岩と川がここならわしらの住処はこの川の先じゃな、ここに細い支流があってその先は池でしまいじゃろ?まあ、何処か地下に流れてるかも知れんがな」
「なるほどな、じゃあ後で岩のあたりまで案内させるが、何時がいい?一応作ってもらいたい物があるので、また定期的にきてくれると助かるんだが」
「それじゃが、わしらも近くに引越しさせてもらうぞ。かまわんじゃろ?」
「はい! エルフもこちらへの引越しで話を進めたいと思います。今の村は何人かが自転車で通えばいいと思います」
ガイアンが挙手で、割り込んできた。
「特に種族間トラブルが無いようならどちらも歓迎するが、そんな簡単に引っ越して良いのか」
「別に今の土地に住まねばならん理由はないし、ここは便利な物が多いし安全じゃ」
「先程姉の様子を見ましたが、あれは止められません。そして、他のものが知れば必ずここに住むと言い出します」
「・・・何があった」
「風呂と化粧品です」
・・・・・・
「じゃあ仕方が無いな」
「はい。怒れる嫁と姉には逆らえません」
あれ、ガイアン嫁いたのか? 俺は紹介された覚えが無いぞ。
「しかし、ここに住むならちょうどいい、ここを開発するために手を貸して欲しいんだ。例を挙げれば、エルフ村のような防壁や水堀が欲しい。今のところ、ここに敵が来た場合は、店舗の中に逃げ込む事になっているんだが、店舗内には食料や生活用品はあるけど、生活スペースが無い。今皆が住んでる家は結界があるからそれなりに安全なんだけど、小さすぎて篭城に向かない。食料を備蓄していたとしても、あの小さな家じゃ息が詰まるだろ?防壁があればもっと余裕を持った防衛ができる。水堀は防衛もだが、作物へ水をやるのにも使えるし、危険のない魚や水生生物も獲れるようになるから作って欲しいんだ。それと、ドワーフには鎧や武具の作成を頼みたい。今は俺たちが自作したものを使用してるが、武器はまだしも防具は気休めだからな。あと、どっちの種族でもいいけど、集会所のような建物や大きな家も建てて欲しい。そして、その報酬として、ある程度まとまった金を渡そうと思うが、どうだろう」
「はい、エルフはここに住まわせて頂くのですから全面協力いたします。私も防壁や水堀は必要だと思いますので、必ず皆を説き伏せ全エルフに協力させます。むしろその程度の協力で報酬を頂いて良いのかと思うしだいです」
「ドワーフも協力は惜しまんぞ。これから住む村がいっそう安全になるんじゃ、断る理由は無い。それと、その防具は自作だったのか・・・・作りの良し悪しはあえて言わんが、色々と気になる部分はあったんじゃ。後でその防具のコンセプトを聞かせてくれ」
「ハッハッハッ、その道のプロに語れる程、俺の造詣は深くないぞ。ただ獣対策として、防具を考えただけだ」
「なるほど・・・いや、それなら理解できる。技術的な部分はともかく発想は悪くない。やはり後で話を聞かせてくれ」
あら?意外と高評価なのかな。
「さて、依頼としてはそんな感じなんだが、他にも聞きたいことがあってな、森の周辺の村や都市について知っていることを教えて欲しい」
俺はプリントした地図を見せながら説明する。エルフ村から東に約5km地点に川の本流があり南東へと流れている。森全体を大きな時計としてみれば11時から4時に向かっている感じで、中央のここを避けて少し蛇行している。
「この地図で見て、確認できる町や村は3箇所だ。真北の離れた場所に大きな都市と、森の近くの小さな町と村だな。南の町がヨルンの住んでいた町だと思うんだが、どうだろう」
「そうですね、川を下って森を出てすぐですから、ここで間違いないかと思います」
「この町の人間はどんな感じなんだ?他の種族に仲介してもらっていたと言うのは、やはりエルフにとって危険な存在なのか?」
「いえ、この町の住民自体はそれほど危険ではありませんし、エルフに害意も無いと思いますが、森に近いため割と冒険者が集まるんです。その中には種族差別意識を持つものや、北の帝国とつながりのあるものが居る可能性があるので、なるべく仲介を頼んでました」
「なるほどな。しかし仲介を頼めると言うことは人間やエルフと意思疎通ができ、文化や風習にもある程度理解がある生物なんだろ。その種族には危険は無いのか?エルフもその種族も大差ないだろう」
「絶対ではありませんが、仲介種族はそうした危険に対処できる種族なんです。そうですね、少しコボルトに似たところがあります」
「へ~・・・ライカン・・・じゃないな、ウエアウルフとかか?まさか牛頭馬頭系じゃないよな」
ライカンスロープは狼と人間を合わせた言葉で、ウエアウルフは人と狼を合わせた言葉だ、最初はどちらも同じ意味だったが、やがてイメージは分化する。ライカンスロープは月を見て変身して暴れる狼男のイメージになり、ウエアウルフはいわゆる獣人だな。ファンタジーモノで人と共存するのは基本後者でウエア○○○という形で犬や猫、虎などの獣人も居るらしい。
牛頭馬頭は仏教における獄卒で、地獄の鬼に近しい存在だな。こちらも頭が違う数種の動物がいる。似たようなデザインの存在としてミーノタウロスがあるが、名前の由来が“ミーノース王の牛”なので、あえて除外した。
「近いですが違います。妖精で、二種族いますからね」
「ふ~ん・・・それ、容姿は全く違うけど二種族が対っぽい感じか?」
「・・・そうですね」
一瞬ビクッとしたな。それに驚きが顔に出ているぞ。
「容姿の違う二種族が対でコボルトに似ているなら、片方には王様が居るだろう、挨拶は必要かな」
「・・・・後で使いを出しておきます。相手の反応しだいでは、お会いしてもらうことになるかと思います」
「その時はよろしく。それと、この川の上流については何か知ってるか」
「それなら・・・この大きな支流ができている部分ですが、この上流あたりはオーガの生息域になってます。以前川をさかのぼった事がありますが、川に岩や木材が投げ込まれていて水は流れますが、船が通れないようになってました。そして、まもなくオーガが現れて、投石されました。それ以降は危険なので近づいていません」
ガイアンが地図の一点を指し説明してくれる。この拠点の真北に20km以上は離れてるかな。
「オーガというと人食いの巨人か?あまり頭は良くなかったと思うんだが、その障害物はオーガが作ったものなのか」
オーガって食人鬼だろ?ゴブリンが小鬼で、オーガはその上位種みたいなものだよな。まあ、種族的にはまったく違うんだろうけど、習性としては近いよな。
いや、そういえば、モーブが成るはずだった“ホブ・ゴブリン”はまだ見てないけど、地球的に言えば、ホブ・ゴブリンは善良で人と共存できる存在だったのが、名前のせいかゴブリンと似た上位種的なイメージに変わり、小説やゲームの設定などで完全に邪悪な魔物にされたと読んだことがあるな。そしてオーガは食人鬼以外に単に鬼ともいわれるが、日本では鬼にも二種類居るんだよな。
「ええ、人を襲って食べますね大きさは・・・遠目なのでよくわかりませんでしたが、我々の倍はありません。3mぐらいでしょうかね。障害物は間違いなく人工物でしたが、オーガが作ったのか利用しているだけかは、わかりません」
食べるのか・・・じゃあ敵でそこそこ賢い可能性もあるのかな。
「やはり力は、強いのか」
「投げつけられた石の感じでは、モーブさんより劣りますが、ドワーフの方達よりは力が強いとは思います」
う~ん微妙だな。まあこっちに来なければ森の侵入者対策になるかもしれないから構わないか。
「それと、昔ここにあった魔法王国?と戦争していたのは北の都市で間違いないんだよな、それぞれどういう国かわかるか」
「そうじゃの、ここに魔法王国があったのは500年は前の話じゃし、ドヴェルグ『500年?』とは、あまり・・・なんじゃ、知らなかったのか?魔法王国が滅んだのはワシの5代前の先祖のころじゃぞ。もっとも、ここが森になってからは250年程じゃがな」
俺は、ガイアンに確認すべく彼を見る。その意を汲んでか彼も話を始めるが、それは俺が女神から聞かされていない真相とも言う部分だった。
次回7/22 20時です




