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22 久しぶりの拠点

「では村長、お世話になりました」

「いえ、お世話になったのはこちらです。皆さんが来て下さり助力してくださらねば、村は早晩崩壊していたことでしょう」

「同じ森に住むご近所さんですから、ちょっとお手伝いさせてもらっただけですよ。これを期に良い関係が築ければそれで十分です」

俺たち5人は拠点へ帰る前の挨拶を村長たちと交わしていた。

思い掛けない旅にはなったが、当初予定していた交易とエルフ村の技術等、それなりの成果を得て俺は満足していたし、俺の後ろにいる三人は、思いがけず進化の機会を得て非常に嬉しそうだ。まあその様子を見るに若干の不安も感じるが、数日もすれば落ち着くだろうと思い、今は様子を見ている。そして俺達には多くの同行者もいる。

同行者で一番多いのは、ドルトンを筆頭とする屈強な髭もじゃのビア樽達、ドワーフ族だな。ざっと100人ぐらい居るだろうか。今、彼等髭もじゃは色とりどりの“つなぎ服”に身を包んでいる。元々は袖の無い毛皮の服を纏っていたが、あまりにも汚かったので、強制的に着替えさせた結果、このような状態となっている。汚いと言うのは決してヘイトではない。なぜなら彼等はスプリガンに操られてからゴブリン共と生活を共にしている。村に水を引いていたエルフよりドワーフの方が汚れているのは理解できるだろう。そのドワーフがゴブリンと共同生活していたのだ、そのアレさ加減は想像に難くないだろう。ただ、体型的な問題で、裾や袖を大幅につめる作業が必要になったが、そこは布ボンドやアイロンテープで済ませている。手直しをしたのは少数混じっていたドワーフのご婦人方である。髭は無く男と比べて細身ではあるが、時に酒で羽目を外しすぎた旦那を鉄拳制裁で静めるなど、中々にパワフルな方々だ。

そしてエルフも20人程同行する。彼等は俺たちの拠点を見学し、交易品の確認をして直ぐにエルフ村へ戻る者と、しばらくの間俺達の拠点に逗留する者とに別れるが、比率としては逗留組みの方が多い。これは今回の襲撃事件が、完全に解決したのか判断が付かない現状に、どうしても不安を覚える村人の意見を取り入れた結果だ。実際、俺が帰った後に再びスプリガンが侵入した場合、それをエルフが知る手段が無いので不安も理解できる。それを解決する手段として、俺の拠点に隣接する形で、新しい村を作ってはどうかと、俺のほうから提案させてもらった。今回同行するエルフはその先行移住者が含まれている。

「ありがとうございます。何から何までお世話になり通しですが、村の者をよろしくお願いします」

「はい、おまかせください。では出発しますね」



「しかし、凄い能力じゃな」

「まあな。といっても、こんな使い方ができる事に気が付いたのは、つい最近なんだけどな」

俺達は拠点とエルフ村をつなぐ、ほぼ直線の道を作りながら移動している。まあ、俺達というか俺が作ってるわけだが、その手順は例のギフトの効果を利用した方法だ。駐車場を4m幅で500m召喚して還することで、そこに生えた木を消して地面を平らにする。500m歩いて進んでまた召喚しと繰り返していく事で一直線の道を作っているわけだ。

「この道を自転車で走れば、移動に1時間と掛かりませんね」

平坦とはいえ下草の生えた道無き森の中を歩けば、精々時速2キロくらいだろうか?エルフ村と拠点は直線で10kmを少し超える距離があるので、途中の休息を考えれば一日がかりの移動だろう。それが整備された道になれば、ゆっくり歩いて3時間、自転車で飛ばせば3~40分で着くだろう。


「そうだな、移動は格段に早くなるだろうけど、魔物が襲ってくる事もあるから移動中の警戒は必要だけど、それでもかなり楽になるな」


車なら20分もあればたどり着けるな。後は連絡をとる手段があれば、緊急時にも駆けつけられるんだけど、現状では10km離れた場所同士で連絡を取り合う手段が無いんだよな。トランシーバーは出力が小さすぎて、精々2km程しか飛ばない。電波を魔法で増幅することはできないものだろうか。




「召喚、送還・・・お、開通したな」


20回を超える召・送還でようやく森が無くなったな。ようやく帰ってこれたな。


「やっと帰って来れましたね。あ、皆が出てきたみたいですよ」

「ああ、森の一角が消えたのがわかって出迎えてくれてるのかな」


レオノールが手を振りながら拠点に向いかけて行く。




「これは・・・・」


拠点に帰り着き耕作地を眺めている。そこには10cmほどにも育ったジャガイモの芽がびっしりと並んでいた。


「おやかた様、ご指導頂いた通り世話をしていましたが、いかがでしょうか」


走りよってきた族長がにこやかな笑顔?で告げてくるが、俺達エルフ村に向かってから2週間と経ってないのに何でこんな状態になってるんだ?・・・まあ、とりあえず次の工程を指示するか。


「なかなかいい感じですよ族長、次は芽かき作業です。地中の芋から出ている芽のうちよく育った2~3本を残しそれ以外は引き抜きます。残す芽をこう抑えて引き抜きます。抜いたら土を寄せて盛りあげて畝を調えてください。新しい芋は種芋の上に作られますから芋の育つスペースを作るわけですよ」


「なるほど、わかりました。皆聞いたな、今日からは芽かきと土寄せ作業じゃ」

「わふ」(^^♪


族長の号令でコボルトが畑に散って行く。

・・・鑑定、ジャガイモ・・・うん、まあいいか。

ジャガイモを鑑定しても特に異常は見られなかったので、食べ物として問題が無いなら良しとする。普通の3倍ぐらいの速さで成長してるから2ヶ月もしないで収穫できるかもしれないな。


「ケント殿、魔物はこの拠点には現われなんだが、無事解決したそうですな」

店内に入ると長老が走ってやってくる。見た目は杖ついた年寄りなのに動きは意外と機敏だな。動きが何処かコメディアンっぽくも見えるけど、わざとじゃないだろうな・・・。

「ああ、長老。中々連絡が入れられずすまなかったな。実は本物のドワーフが見つかって、迷子だったのでここに連れてきた。後日、白い岩のあたりまで案内してくれないか」

「なんと、本物に会われましたか」

「ああ、一緒に来て・・・そういえばあいつらどうした」

「お舘様、ドワーフとエルフは外で固まってます」

「う?」

「建物を見た後、皆固まって動かなくなりましたので、自分も放置して来ました。モーブはモーナの元に向かいましたので、今はシデンが・・・『僕はここに居ますよ』ここに居るそうなので・・・放置プレイ中ですね」


「レオノール、彼らを呼んできてくれ。黒足はイートインに椅子を運ぶから人を集めてくれ」


忘れてた俺が人のことを言えた義理じゃないけど、放置プレイとか言っちゃ駄目だろ。


「ケント殿、実はそのイートインが妙なことになっておりまして、すぐ見てもらえますか」

「妙なこと?また何か問題か?」

「どうでしょう・・・ワシにはわかりませんので、まずは見てくだされ」


「営業してる・・・」

言われて向かったイートインは例の石化封印状態ではなく、普通の空間に変わっている。もしかして食べられるのだろうか。

「長老、何か調べたか」

「いえ、何があるかわかりませんのでまだ立ち入っておりませぬ」

そうか、さすが長老慎重だな。よし、ここは俺が確認するしかあるまい。

俺はラーメン屋のカウンター前に立つ。・・・はて、これは中に入って自分で調理するのかな? 中に入る扉は・・・あるけどドアノブがついてないぞ。


「お舘様、椅子を持ってきました」


お、ちょうどいいところに来たな。


「あ、椅子こっちに置いてくれ、ちょっと中に入りたいから踏み台にする」


カウンター前に椅子を置き、足を乗せ、カウンターに手を着き「よっ」と声を上げ体をもちあげる。


ゴチン 


「んぎゃ」


ガタガタ ドカ


「お舘様!大丈夫ですか、お怪我はありませんか!」

カウンターには結界があったようで、中へ侵入しようとした俺は、見えない壁に頭を打ち付け椅子を倒しながら転げ落ちた。痛い・・・。


「何で入れないんだ。中に入れなきゃ誰が売ってくれるんだよ」


次回18日20時予定です

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