21 進化の行方
「共通貨幣か・・・人間の町では使われているらしいが、この森には無い。わしらが森の中で使う硬貨を新たに作るにしても、型を作ってからになるから時間が掛かるぞい」
「いや、貨幣はある。本位貨幣ではないから、その貨幣自体にはあまり価値は無いが、俺の拠点の商品はその貨幣の価値を担保できるだろう。もちろん貨幣があるからといって無茶を言うつもりは無いぞ」
別に経済支配したいわけじゃないからな。大体俺が最も文化的で不自由ない生活をしてるんだから、支配とか必要ないし、防衛にしても最悪拠点を送還して、車で逃げる手もあるからな。
「よく分からんが、わしらが帰るにはその拠点とやらに一度よるんじゃろ?なら、その時に実物を見ながら詳しく説明してくれんか」
「分かった、ドワーフとはその時に詳細を話そう。エルフの意見はどうだろうか」
「基本的には良いんじゃないですかね。高度な金属製品が作れない私達では、交易はありがたいですし。と、なれば私達も一度、ケントさん達の拠点にうかがわせて頂いてよろしいですか?」
「ああ、是非きてくれ・・・あれ?エルフは青銅の剣を作ったりしていないか?以前ゴブリンに刺さった青銅の剣をうちの黒足が拾ったといっていたが・・・あれはドワーフ製だったのか?」
「ドワーフ製の青銅の剣?何じゃそれは」
「いえ、それはたぶん人間の町から仕入れたものだと思います。私達の村のそばを流れる川は、上流で別れた支流ですので、本流はもっと東にあります。その本流をだいぶ下った先にエルフと友好的な種族がいまして、その種族に頼んで森の南にある人間の町から買い付けてもらっていました。ヨルンも元はその南の人間の町出身なんですよ」
「へ~ヨルンは南の人間の町からきたのか」
北の都市の関係者じゃないなら一安心か?想定される敵勢力としては北の都市が最有力候補だからな。そして、また新たな種族の情報だが、いったいどんな種族だろうか。
「はい。南の町出身で中堅の冒険者をしていたそうです。実際人間としてはそこそこ強かったので、森の中でも問題なく活動できていましたね。ヨルンが結婚を許されたのも、冒険者としてそれなりの実力があり、エルフ村で暮らせて平均的な人間よりも長く生きられるだろうという予測があったからです」
冒険者は長生きする?危険と隣り合わせだと思うけど、そういう事故死が無ければ寿命は長くなるというのか?
あ、そうだ。
「ヨルンは怪我をして友好的な種族に保護されているらしいが、もしかして、その川下の種族に保護されてるんじゃないか?」
「ありえますね。本流には隠し船着場があります。狩場も割りと近いので負傷して船で逃げたのかも知れません。直ぐに調べに行かせましょう」
「ああ、ライムート達も心配しているだろうから早く確認できるといいな」
ガイアンは近くに居たエルフに指示し、自分は・・・・・。
「では、次は私に乗らせてください」
「むむ、おぬしの体ではこの乗り物は小さかろう?これはドワーフに丁度良い乗り物じゃ、別のものをねだるが良い」
まあ、そのサドル高だと確かにガイアンの足は窮屈そうだな・・・。
「ここを調節すれば座席が上がるが?」
俺がレバーを指差すと、ドルトンが悲痛な顔をした。
「ま、まってくれ、これはわしに丁度良い大きさなんじゃ、この轟天号はわしが乗るんじゃ。それに、譲ってもらうんじゃし、他にもこの乗り物はあるんじゃろ?ならば、轟天号でなく別の物を出してやってくれ。轟天号はわしが一番うまく乗れるんじゃ~~~」
轟天号ってなんだよ、万能戦艦轟天号なら知ってるよ。あと田中一郎の自転車な。
「轟天号って、名前付けたのか?」
「そうじゃ、わしは職人じゃからな、いずれ技を極め天に轟く鍛冶師となるんじゃ。そのわしの乗り物として相応しい名前じゃろ」
「うん、まあ良いんじゃねえの」
本人しか呼ばない名称を自転車につけて喜んでるぐらいなら、まあいいんじゃね?ボートに乗って「大和発進」とか言ったり、田舎の爺さんが軽トラを“わしの、ぽるしぇ”とか言うようなもんだろ?
「では、私に『おう、ガイアンこの野郎、水堀の処理を抜け出して油売ってるなんて信じられん奴だな』自て・・・・マ、マッシュビー、オーテルガ、す、すまん」
ガイアンの奴サボってたのか。オーテルガが激おこだな。こいつらって、ガイアンが上司ってわけでもないのかな。
自転車を出したが結局ガイアンは水堀の死体処理へと連行された。元々は死体を堀から上げたら俺に消してくれと頼みに来ていたらしい。なので俺が後から合流して、処理を手伝うことにした。水堀を塞き止める様に土壁を作ってもらい、堀の中にあるグロい物を消滅させてまわった。現在は土壁も撤去され、きれいな水が水堀に満たされている。
「水堀はこれで良いかな。村広場の地中の奴も、処理しないといけないな」
この世界にアンデッドが居るか分からないが、村の下に大量のモンスターが死んでるとか、考えるだけでも気持ち悪い。
そして。
「お館様、自分ら進化が終わりました」
ついに、きたよ・・・・。
ガイアン達と話していたら、背後から黒足に話しかけられた。
「あ~うん。そうか、よかったな」
「お館様、こっちを向いて話してください」
仕方が無い、ちょっと怖いけどずっと見ないわけにもいかないな。
「わかった・・・・」
振り返って確認する。そこには・・・・
「で、なんで同じ種族で、進化後の姿が違うんだ?」
先ず黒足だが、これはあれだね、蝙蝠のヒーローを犬風にした感じ。鼻は人間風だけど、短い毛が生えていて、目の周りや額も短毛に覆われている。上半分は少し犬風だけど、口元は完全に人間だな。つまり蝙蝠ヒーローのマスクが犬に置き換わった感じ。体型は完全に人間だけど、部分的に体毛が濃いようだな。足もすっかり人間と同じ感じになっている。これからは靴をはくようになるかな。
次に、レオノールだが、こちらは真逆だ。例えるなら犬顔アプリで鼻だけ犬にした感じ?マルチーズの、まん丸でくりっとした黒目100%みたいな目は、人間顔になって目の白い部分も見えるようになり違和感は無い。ややたれ目で二重だね。口は黒足同様人間のそれで、鼻だけが犬のままな感じ。体毛は見える限りでは髪の毛と今も健在なたれ耳に残るだけだ。
黒足とレオノールどちらも皮膚は色白黄色系。コボルトの皮膚色が元々ピンク色なので、それに近い色になったのかな。
モーブは想像していたよりは普通だな。てっきりボディービルダーのようなパンパンに膨らんだ筋肉や背中に鬼の顔がある姿を想像してたけど、思ったより普通だ。まあ常識の範囲というか、多少は脂肪があるからそう見えるのかな?・・・ただ、顔が元と別人なんだよな。というか、本当に別人じゃないよな?元が原人顔だから口が前に出ていたのに、なんか引っ込んでEラインがあるよ。そういや、格闘技物のDVDや洋物のアクションアクション映画をたまに見ていたな・・・・その辺が、顔つきや体の進化に影響したのかな。
三人とも身長が伸びて黒足は170cmぐらいでレオノールが160cm弱ぐらい?モーブは180cm以上あるな。
「どうですか、お館様」
どうですかと聞かれても、どう答えればいいのだろうか?昨日までは漫画アプリのCMで炬燵を囲む犬的な感じだったのに、どこかの擬人化ゲームキャラみたいになったとはいえないが、実際あと一息という感じに見える。
「良い感じじゃないかな。あとほんの少しじゃないか」
「はい、がんばります」
がんばれ~というのは無責任に過ぎるけど、そもそも、俺は何でそんなに好かれてるんだろうか?
「お舘様、自分、進化しましたよ、お何か言葉はありませんか?」
「それにしても、ゴブリン相手に進化が起きる程倒してたのか? 数こそ多いけどあいつら雑魚だろ、ハイ・コボルトへの進化ならまだしも、よく今回進化できたな」
「お館様に依頼された落とし穴や、クロスボウでのスプリガン狙撃で経験?が稼げたようです」
落とし穴って経験入るの? いや、そんな気がするだけか? しかし、その予想が正しいなら間接攻撃や一回殴って、獲得経験値の分配とかできるって事か?なら、やり方次第で拠点の子コボルト達も早期に進化させてやれるのかな。
ま、それは兎も角、黒足さんよ、進化は誰のためでもなく己の為のものだよ、君の進化に一々俺がコメントする必要は無いんだよ。俺がコメントしなくても、拠点に居る君の追っかけ、わん子達は熱狂してくれるんじゃないのかね。
「黒足は、拠点に帰ったら少し自重しろよ。あんまり調子に乗ってると刺されるぞ」
こいつ、次期族長で進化もしてるからやたらとモテるけど、調子に乗って刃傷沙汰にならないことを祈るよ。
「おぬしらがコボルトじゃと・・・・」
考え事をしていたら後ろからつぶやき声が聞こえてきた。この声はドルトンだ・・・やべえ、ドワーフとコボルトは仲が悪いんじゃなかったか。
「まて、ドルトン、こいつらは俺の身内だ。コボルトに思うところがあったとしても、ここは友好的にだな・・・」
「ん?別にコボルトに思うところ何ぞ無いぞ。ただ、昔見たコボルトとあまりに見た目が違うから驚いただけじゃ」
「え?仲が悪いわけじゃないのか?」
「いえ、そんなことありませんよ」
「あれ、銀を駄目にするとか・・・生活圏が違ったから特に接点が無いのか?」
「銀ですか?確か金属でしたっけ?それがどうしました」
あれ~~?名前だけ同じで生態は地球と違ったのか?
「あ~ちょっと勘違いだったみたいだ」
「はあ。わかりました」
何か納得がいかなそうな顔ではあるが、レオノールが承諾しドルトンも特に何を言うでもなく話は終わった。
いや~~思い込みってよくないね。
次回16日20時予定です




