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18 エルフ村防衛戦 開戦

ちょっとした戦争ですがさくっと終わりますよ。

「ほう、これは初めて見る穀物です」

「これは米といいます。こうして炊き上げるのですが、水を多めに加えると、かゆという状態になります。水気は多くなりますが、そのぶん消化もいいですし、焦げるよりは食べやすいですから、慣れないうちは気持ち水を多めに入れてもいいかもしれませんね」

今、召喚で拠点から白米を呼び出し、ご飯を炊いている。白米の他にも、拠点で余っている食料をエルフ村に回しているので、村の食糧事情にはだいぶ余裕ができた。というのも、外に居るゴブリンから襲撃を受け既に四日目となり、食料は各家庭の保存食か、少数の家畜を潰すしかない状態になっていたらしい。本来なら村の備蓄庫に保存の利く、イモ類や穀物があったはずなのだが、気がつけばなくなっていたという状態だったとか。武器だけでなく食料も盗まれていたとなれば苦戦も頷けるというものだ。まあ、日本だって農村では鍵もかけずに留守にしたり、吐き出し窓やら玄関やら開けたまま畑仕事してたりするわけだから、村人皆家族といっても過言ではない暮らしのエルフには、村内での防犯意識なんて皆無だったろうな。

エルフの食生活は狩猟と採取に村内の小さな畑で作る芋や穀物が主なので、当然肉も食べる。正直、菜食主義だったら食料が足りなかったかもしれないが、考えてみればライムートが何も言わずに食べていたので最初から杞憂だったようだな。

「ケント、とりあえずコンパウンドボウを5個とコンパウンドクロスボウを3個とそれぞれの矢とボルトを50本ずつ作ったぞ。それと村人にも矢を作らせているから、今日中に矢は300本を超えるだろう」

「お、了解。じゃあガイアン達に村人の弓と矢も持ってくるように伝えてくれ。合わせて、後で商品化しておくよ。続けて火炎壺もいくつか作ってくれ、作業前に周囲に水を撒いて、火気にも注意しろよ。その後は投擲練習も頼む」

「わかった」

最初、商品化の解説には“拠点で”という文言があったので、このエルフ村では不可能と思われたが、考えてみるとレオノールのミニショベルや、耕運機を商品化したのはホームセンターの敷地外にある耕作地なので、厳密には拠点ではない。ならばと、先に召喚したアスファルト周辺で試したところ、問題なく商品化できてしまった。なんだかMMOのエリア判定バグみたいな現象だが、このさい利用させてもらう。

「お館様、ライムート達を母親の所へ連れて行きましたよ。ヨルンさんの事も伝えておきました」

「ああ、ありがとう。じゃあ門から入って直ぐのところに大きな落とし穴を作ってくれないか。現地にミニショベルとダンプが置いてあるから黒足と協力してやってくれ」

「わかりました」


三日が過ぎた


「クロスボウと弓の指導はどんな感じだ、ガイアン」

「どうにか形になってきましたよ」

「とりあえず味方に当てず、前に飛ばしてくれれば良いからな」

「はい」


先ずは攻撃できる人員を増やさなければならない。通常なら非戦闘員の人達とはいえ今負けたら確実に全滅するのだから、がんばって欲しいところだ。


「モーブ、投擲の感じは?」

「そうだな、ぶっちゃけ俺以外に森まで投げられるものは居ないな。やはり道具が必要だろうな」

「作れるか?言ってくれれば材料出すぞ」

「なら、太いゴムと木材に土嚢袋はあるか?投石機も作る。ゴムはトレーニング用のやつがいい」

「それなら長老に準備してもらうよ。そろいしだい渡すよ」

「ああ、頼む」



「土魔法の皆さん門前の穴を深く、硬くしてください。硬くするのは押しつぶしてスベスベにする感じのイメージで、入ったら出られないようにしてください。それとこんなのを・・・」


「風と火の魔法を使える皆さんはうまくいきそうですか?」

「どうにか水を巻き上げながら風の渦をおこせるようになりました」

「火の玉を移動するのは難しかったので、離れたところに出せるようにしましたが、それでも良いですか」


「では・・・巻き上げた水が空気中に漂う・・・霧のような感じを目差してください。それと、火力はそれほど要りませんが、遠いところで広範囲にばら撒くように発火できるといいですね。遠くに出せる程よいです」

「・・・練習します」

「皆さんの魔法は切り札の一つですからよろしくお願いします。それと、前に言った通り、向こうに居るエルフが本物なら必ず助けますので、協力お願いします」


村長やガイアン達以外のエルフは今のところ俺に反発してないが、ある意味この戦争を極大化させた俺が強く出ると、どうなるか分からない。まして、向こうにエルフの姿があれば士気は駄々下がりだ。彼らが本物であれば助けることを条件にでもしなければ、まともな協力が得られなかった。


「シデン、魔物の様子はどうだ」

俺は広場の隅に出した監視塔代わりのローリング・タワーを上り、その上に居るシデンに声をかけた。現在、魔物は唯一水堀の無い門前の橋に集結している。その数は・・・野鳥の会の人が居ないので正確なカウントはできないけど、これたぶん4桁超えてるな。


「あ、お館様。一度裏口へ回った奴らが居ましたが、侵入される前に対処できました。他は門前のユニットハウスにひたすら攻撃してますね。」

「あ~化けていた奴らが記憶にある裏口を伝えてたのかな?敵は他にも、こちらの弱点を知っている可能性があるから、エルフと相談して警戒はしておいてくれ」

「わかりました」

「それと、魔物の湧きはどうなった?まだ増えてるか?」

「いえ、今はもう増えていません。時々食料調達で森に行くだけのようです」


魔物は門の対岸に堂々とキャンプを張り、食事もしているようだが、鍋や釜はあまり多くないようで、主にエルフやドワーフらしきものが使用している。盗まれた穀物や芋は主に彼らが食べているようだ。残りのゴブリンや巨人化済みスプリガンは、獲物を丸焼きにして食べるか、或いは生食でも構わないようだ。


「増加が終わったなら一度叩くか・・・・本物のエルフやドワーフが混ざって居れば、そう長くは持たないだろうから、速く保護してやらないとな」


キャンプといっても火を焚いているだけで、いわゆる野宿という状態だ。寒い時期ではないが、朝方は多少気温が下がるし地べたに寝ていては疲労も蓄積していくだろう。



「ケントさん、準備できました」

「わかった。じゃあモーブ、先ずは奴らよりも森側に満遍なく投擲してくれ。多少森にかかってもかまわない」

「おう」

モーブ他数人のエルフが魔物よりも森側にガソリンの入った陶器の壺を飛ばしていく。壺は園芸用の素焼きの壺を加工したもので、これは瓶よりも壊れやすいので、ガソリンを飛散させやすい。このガソリンの入った壺も商品化で数を増しているが、大量保管は危ないので、例によって送還で非物理的な保管をしていた。


「魔物どもは、こちらが何をしているのか、分からないようですね」


攻撃されるでもなく、見当違いな所に壺を飛ばしているからそうなるだろうな。


「ケント、壺の残りは1/3ぐらいだがどうする?」

「ん、じゃあそろそろ次に移ろう。魔法部隊と弓部隊の皆さんは準備してください・・・いいですか、それでは攻撃を始めます。風魔法始め」

「「「「「風よ渦巻き地を巻き上げ、全てを包みその場に留めよ」」」」」


エルフ達の言葉に応えるように風巻、地面のガソリンを巻き上げる。それは飛散することなくかぎられた空間で気化し、空気に混ざっていく。飛散したガソリンを空気中に留めるために文言を色々工夫したそうだ。


「召喚、駐車場」


魔物達が犇く大地に、円と六芒星が描かれた魔法陣が広がり、直後駐車場のアスファルトが召喚される。そして召喚エリアに居た魔物が強制移動で、水掘りやガソリンを撒いた付近へと移動させられる。門の対岸に残る者は1/10を超える程度だろうか。


「送還、駐車場」


再び円と六芒星の魔法陣が中空に広がり、やがて大地へと落ちると駐車場エリアの全てを飲み込み消える。そこにはキャンプ地もエルフもドワーフも何も無く、元の大地のみが残る。

魔物の群れと戦うといっても、俺は勇者でも攻撃魔法の使い手でもない。剣を片手に無双や魔法で殲滅といった個人の武力による作戦は最初から考えられなかった。俺にあるのはギフトで呼び出せる資源と、ホームセンターの変則利用だけだ。ならば、この能力で最大限こちらに有利な戦場を構築して、味方に犠牲なく戦うのみだ。


「鑑定・・・・」


よし、そろそろ限界だな。


「全員物陰に退避、火魔法部隊着火」

「「「「炎よ!全てを燃やす紅蓮の炎よ。我が望むその地で弾け全てを飲み込み燃し尽くせ」」」」



次回10日20時です

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