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12 小さな兄妹

「とりあえず、これ飲んどけ」


俺はグラスにスポーツドリンクを注いで渡す。


「これはなんですか?」

「二日酔いに効果がある・・・と思う飲み物だ」

「あ、おいしいです」

「じゃあ次はこれだ」


俺は携帯酸素缶を取り出し、セットしたノズルをレオノールの口にかぶせ説明する。


「今から、俺がこの蓋を押すと口に向かって“酸素”というものを含んだ風が出てくるから、その風を吸い込むんだ。・・・いくぞ」

シュと音がして酸素が噴出される。

「キャウ!? 何ですこれ」

「いいから吸い込め。体に害は無いから安心して吸うんだ」




「だいぶ楽になりました」

「そか、それはよかった。二日酔いでエルフの村に行くわけにはいかないからな」

途中休憩をしながら、エルフの住処をめざして進む。


『警告、東方およそ150mに、敵性生物反応があります。ご注意ください』


お、何か出たな。敵性と明言してるから、以前接触している相手だな、ゴブリンか熊? 直ぐにスマホを取り出し確認すれば、その光点は赤四つ、これはゴブリンが濃厚かな? 


「何か居る。たぶんゴブリンだと思うんだが、数は4匹だ。皆準備は良いか」


俺たちはそれぞれ装備を確認する。

俺は以前作った防具に、仕事で使用していた電工用腰道具ベルト(今更だがこの世界では電気工事士の資格と技術がスキルとして認識されなかったのは寂しい限りだ)を付け、ナイフと80cm程のガス管を1本下げている。遠距離用のコンパウンドボウも使うが、弓も矢ずつも持ち歩かない。召喚に慣れた頃から、対象を明確にイメージする事で、その品物を直接手元に呼び出せるようになった。そしてガス管だが、打撃武器であり、刺殺武器でもある。パイプの片端には連結用のねじが切ってあり、ねじ側のパイプの中からは鋭く研いだリーマが突き出ている。もう一本、1.5m程の+字継手(3方自作剣付)が付いた短槍(これも普段は持ち歩かない)があり、二本が連結できるように作ってある。素人でも突きや、振り回しでソコソコ戦えそうな武器として試作したものだ。


モーブは、店内にあった厚手の布(カーペット?)を使用した布鎧?に一部鉄板を付けて防御力を増したもの(モーナのお手製らしい)を着ているほか、半キャップヘルメットにPVCのレッグガードを両腕に・・・普通は脛につけるものを前腕部に付けて、脛は鉄板を叩いて曲げて作ったレッグガードを付けている。足は、トレッキングシューズだ。最初は靴を嫌がったが、尖った物を踏めば痛いのは彼も同じなので、柔らかい物から慣れさせている。そして、武器は近接用が金テコと小さなナイフで、遠距離用が総金属製のコンパウンドボウだな。弦の張力にスプリングを使用し、弦もワイヤーで、コンパウンドボウなのにモーブ以外には全く引けないという強弓だ。その威力はブロック塀に使われる空洞コンクリートブロックを軽く砕くほどで「もっと強い弓が欲しい」というモーブに応じ、紆余曲折・・・という程でもないが、いくつかの試作の末完成した。スプリング使用はモーブの発案で、スポーツ用品売り場のエキスパンダーで遊んでいる時に思いついたそうだ。後日、動画サイトで類似の自作弓が紹介されているのを見て、予備知識無しに思いついたモーブに心底感心した。


黒足は土起こし用フォークを加工したトライデントっぽい物(俺の試作品)とスリングショットにナイフという武装だ。ナイフはキャンプ用やキッチン用、電工用等々、様々あるが、本人の趣味と希望で選んで所持している。黒足はキャンプ用を選んだが・・・それ、切れるか?昔俺も買ったけど、正直言って“遊び”の域を出ないと思うぞ。見た目は今一だけど、電工用はちゃんと切れるぞ。“仕事用”だからな、まあそれでもカッターナイフの方が、スパスパ切れるけどな。防具に関しては、体型の違いもあって特殊なものになっている・・・というか、服からして特殊だ。Tシャツはまだ良いとしても、ズボンや上着はスエット等しか合わないし、それも各所を紐で締めて着ている感じだな。その上から革手袋などを利用して作った革鎧・・・ゲーム的に言えば、ソフトレザー?を着ている。ヘルメットは耳を出す都合上被っていないが、そもそも人間用は合わないという事情がある。


レオノールはコンパウンドボウと数本の刺身包丁だ。英語ではキッチンナイフなので、包丁もナイフの仲間だな。そして、皆が持っているナイフの中で最も刺さるナイフだろうな。防具は黒足と同様だ。

というのが全員の・・・うん、まあ、なんだ、シデンは・・・・巨大な刃物を担いでるかな。


「本当に、戦うのか?どこかに隠れてくれていいんだぞ」


彼の身長は18cm程でリリパットとしてもまだ若い。人間でいえば15~16歳くらいだろうか、そんな彼が担いでいるのは、通常時13cm最大時は自身の身長さえ超える長大な・・・・カッターナイフだ。立体駆動は無いんだよ?それでどうやって戦うのさ。


「大丈夫です。僕もリリパットの男です、ヤル時はやりますよ」


ヤルといいつつ笑顔でカッターナイフを構える。人間で言えば薙刀ぐらいの長さだけど柄の太さが違うので、多少加工してリリパットでも掴みやすくしてあるが・・・・なんだろうな、どこかの宇宙で活躍する戦闘兵器が持つデカイ銃と、その先端から刃物が出てる感じに見える。


「わかった。十分注意しろよ」


まあ・・・何とかなるでしょ。というか敵の装備しだいではモーブだけでも無双できそうだしな。

俺たちは木の陰に隠れ、敵の接近を静かに待つ。接近してくる敵を確認して誰が、どの敵を攻撃するかは、おおよそ決めてあり、先ず弓で先制攻撃をかけ、その後モーブを先頭に近接となる予定だ

俺はハンドサインを出し、皆に指示を送る。アメリカの映画などで“分隊行動している特殊部隊”が無言でやり取りしているシーンを参考に、事前に決めていたもので、シデンだけは、紅白の旗も併用する。・・・だって、手だけだと、小さくて動きが見えにくいんだよ。

 

俺が右手を上げ合図を送る。合図後に弓を引いて、1・2・3の3で同時に矢を放つと決めてある。もちろん敵に発見される等の不測の事態では個々の判断に任せる事にしている。




3本の矢と一つの礫が放たれ、風を切って敵に命中する。先ず優先順位だが、大きい奴・強そうな奴はモーブの強弓で倒し、その他は近い順に俺、レオノール、黒足、となる。

そして、モーブの矢は少し大きなゴブリンの胸を捕らえ、その後ろにいたゴブを巻き込んで吹っ飛んだ。俺は先頭のゴブの頭を射抜く。しかし、本来レオノールの担当だった奴はモーブの弓に巻き込まれて目標ロスト。最後尾の奴は黒足の礫が当たり、それなりに痛がらせるが、死ぬようなものではない。結局不意打ちの成果は半数に留まった。


「モーブ!」

「おう」


 俺の指名に答えてモーブが最後尾の4匹目に突撃する。礫に打たれ痛みに悶えていた4匹目はモーブの接近を知りあわてるが、時既に遅し。信頼と実績の金テコフルスイングに吹っ飛ばされる。そして俺と、黒足、レオノールが、巻き込まれ系モブ男の不運ゴブリンを仕留めるべく詰め寄る・・・が、不運ゴブは既に首から血を流して死んでいた。


「倒れてジタバタしていたので、首をスパッとやっておきました」


やったのは、まさかのシデン。カッターナイフでスパッとやったらしい。


「いつの間に・・・よく切れたものだな」

「僕らは小さいですけど、力は結構凄いんですよ」

「へ~」


もしかして、リリパットは超重力惑星生物的、超生物なのか?小さいのに速かったり力があったり、人間とは違いすぎるぞ。



「ケント、生き残りはとどめを刺しておいたぞ」


シデンと話している間にモーブがきっちりゴブリンの生死を確認してくれたようだ。そうだよな、先ず生死確認しないといけないのに他の事に気をとられていちゃ、だめだな。


「すまない。少し気が緩んでいたみたいだ」

「いや、大丈夫だ。それより気になる事がある」

「気になる事?」

「こいつら武器がよすぎる。普通ゴブリンは武器の手入れなんてしないから錆びていたり刃が欠けていたり潰れてたりするんだ」

「そういや確かにその通りだな」


日本刀でさえ2~3人切れば歯が潰れるといわれてるんだから、技術も無く振り回した剣なんて潰れて錆びてぼろぼろになるよな。


「この剣は以前俺が使っていたものに似てますね」

「黒足の持ってた錆びた剣か?」

「はい。といっても、あの剣は川に流れてきたゴブリンの死体から抜いたものなので、誰が作ったものかは分かりません」


 死体から抜いた?じゃあ誰が殺して、誰が作ったんだ。


「それはエルフの剣じゃないでしょうか」

「シデン、エルフは剣を作るのか?」

「作るかは、知らないですけど、前に持ってるのを見ました」


 ということは・・・・・

 

 エルフ:新しい剣を手に入れた、きさまら剣の錆びになるがいい。


 ゴブリンA:殺してでも奪い取る。

 ゴブリンB:譲ってくれ、だめなら殺してでも奪い取る。

 ゴブリンC:どうせ死ぬなら・・・俺に剣を渡して死ねっ!


 エルフ:な、何をするきさまら~


 って事か・・・・あれ?これじゃ、最初から殺し合いだな。


 「うん。推測だけどエルフが襲われて奪われたんじゃないか?」

 「そういえば、この弓もいい物ですね」

 「ああ、こんな弓持ったゴブリンは見たことが無いぞ」

 「少し急ごう。リリパットの旧村までは後どのくらいだ」

 「もう直ぐだと思います。村跡から直ぐの場所に川があるのでそこから川沿いに上ります」


 『警告、東方およそ150mに、未確認生物反応があります。ご注意ください』


 またか・・・光点の色は・・・緑だ。


 「皆、この先に友好的な種族が居るみたいだ、数は二人のようだ」

 「エルフですかね?」

 「位置的に僕らリリパットの村跡地みたいですね、先に偵察してきましょうか?」

 「そうだな、シデンなら隠れてみて来れるよな。ちょっと良いってきてくれ」

 「はい。行ってきます」




 「おやかたさま、エルフみたいです。子供のエルフみたいなのが居ました」


 エルフ、みたい? エルフで確定じゃないのか?


 「みたいっていうのは、何だ?確認できなかったのか」

 「いえ、以前見たエルフと少し違う感じで子供です」

 「危険は無さそうか?無ければ行ってみよう」

 「攻撃される心配は無いと思いますが、彼らの命の方が危険かも?だいぶ衰弱してます」

 「急ごう。案内してくれ」

 




「そこの貯蔵用の穴の中に居ます」

案内された場所には鳥の巣箱のような家がいくつも木についていた。これが集落だったようだ。そして集落のそばに掘られた穴の中に、確かに子供が二人居るようだ。

「俺たちは穴から見えない位置に移動しよう。シデン、二人を起こして俺たちのことを説明してくれないか」

先ずは知った種族が、声をかけるのがいいだろうからな。


 


やがて・・・

「起きました。逃げるどころか動く事もできないみたいです」

「じゃあ、とりあえず穴から出そう。俺は仮拠点を用意するから、皆は二人を頼む」

子供が二人ログハウスへと、皆に運ばれてくる。さて、少し違うエルフとは何者だろうか。

「ベッドに寝かせてくれ」

二人の様子を見れば、一応起きているが酷くだるそうだし、やつれて見える。

「俺の名前は奈良健人、最近この森に住み始めたんだけど、リリパットやコボルトと知り合いになって、今は同じ村で仲良く暮らしているんだ。君達の事を少し聞かせて欲しいんだけど、まず体のことを聞きたい。具合が悪そうだけど、どんな感じなんだ?」


二人は無言で答えない。聞き方が悪かっただろうか?


「信用して大丈夫ですよ。この方は・・・・・」


シデンがフォローしてくれるが、途中から耳打ち・・・というか頭を子供の耳に突っ込んでるように見えるが、そんな感じで話しているので聞き取れなくなった。


 「お腹が、減って・・・動け・・・なくて」


 大きな子の方が答えてくれたけど、小さい子は反応が無い。意識を失っているのか?単に寝ているだけなら良いけど、こん睡状態だと手に余るぞ。


 「わかった」


 俺は召喚で直ぐに食べ物を出す。ただ、俺はこれを食べたことが無いので味は分からないんだよな。でも、直ぐ食べられるし消化もいいと思うんだよね。


 「これを食べるといい。そっちは妹か?何とか起こせないかな?」

 「では、私が・・・これは初めて見ますね。いつものとどう違うんですか?」

 「これは本来、赤ん坊が乳離れして、普通の食べ物を食べるようになる時の離乳食なんだ。だから少し薄味で物足りないかもしれないけど、色々な野菜や魚肉を小さく刻んで入れてあって柔らかくなるまで煮込んであるんだ。今の状態に最適だと思うよ」 


レオノールの説明要求にこたえる形で出したレトルトの説明をする。まあ、初めて食べる食べ物だから、どんなものかを説明してあげなさいって事だよね。マグロとわかめの和風炊き込みらしいから、おかゆより栄養のある病人食代わりって感じかな。


「あ、おいしい・・・」

大きい子は食べてるな。

よし、今のうち鑑定しておこう。


【鑑定:エルフっぽい子】

名前 :ライムート

種族 :ハーフエルフ族(男)

年齢 :10歳

職業 :エルフ村の子供

レベル:2

生命力: 4/12

魔力 : 25/25

筋力 : 15

敏捷 : 12

知力 : 40

状態 :空腹(末期未満) 

スキル:

魔法 :土魔法1 風魔法1 

ギフト: 森の守り

所持品:布の服

備考 :


 【鑑定:エルフっぽい子】

名前 :ユリアンニ

種族 :ハーフエルフ族(女)

年齢 :8歳

職業 :エルフ村の子供

レベル:1

生命力:2/10

魔力 : 20/20

筋力 : 12

敏捷 : 10

知力 : 37

状態 :空腹(末期) 

スキル:

魔法 : 

ギフト: 森の守り

所持品:布の服

備考 :


なるほど、やはりハーフエルフか。いや、それより生命力がヤバイ、特に妹がヤバイ。それに空腹末期ってなんだ?

【鑑定:空腹末期】

空腹の段階 末期は空腹を感じなくなる状態。以降は、精神異常をきたした後、餓死する。

めちゃくちゃギリギリじゃないか! 


「だめです、こっちの子は意識がありません」

「この子達の状態だが小さい子の方が重症だ。その子には代わりの物を用意するから、無理に食べさせないで。大きいほうの君は気分が悪くはないか?」

「僕・・・は・・・大丈・・夫で・・それ・・・より・・・妹を・・・」


くそ、傷薬や風邪薬はあるけど、サプリメントとか栄養補助食品は無いな・・・あ、スポーツドリンクは、糖分やアミノ酸が含まれてたっけ?確か意外とカロリーもあるよな。

 俺はスポーツドリンクを用意し、他に何か無いか探す、そして栄養ドリンク見たとき鑑定が自動発動した。


【鑑定:栄養ドリンク】

異世界の栄養ドリンク。回復薬と同様の効果があるが、多量摂取は逆効果になる場合がある。飲むと生命力が回復し、一定時間ステータスを強制的に引き上げる。


!!!!!


「これだ!」


スポーツ飲料に栄養ドリンクを混ぜたものを作り、鑑定する。

【鑑定:ブレンドドリンク】

異世界の栄養ドリンクを薄めた回復薬(弱) 効果は弱くなったが体に優しい飲み物になっている。

「よしできた。これをスプーンで少量口に含ませてやってくれ」


【鑑定:ユリアンニ】

名前 :ユリアンニ

種族 :ハーフエルフ族(女)

年齢 :8歳

職業 :エルフ村の子供

レベル:1

生命力:5+1/10+1

魔力 : 20/20

筋力 : 12

敏捷 : 10

知力 : 37

状態 :空腹(中期) 

スキル:

魔法 : 

ギフト: 森の守り

所持品:布の服

備考 :


 よかった、数値的には回復したぞ。

 「少しだけど回復したみたいだ。時間をおいてもう少し飲ませてみよう。うまく意識が戻ったら、 あらためて食事をさせてみようか」

 「妹は・・・大丈夫・・・です・・か」「・・・俺は医者じゃないから詳しいことは、分からないんだけど、さっきまでに比べれば状態はよくなっているよ。たぶん間も無く意識が戻ると思う


 「うぅぅ・・・よかっ・・た」 グスッ「あり・・・がとう・・ござい、ます」

 ・・・・・・・・・

 「お館様、寝てしまったようです」

 「ああ、そのまま寝かせてあげて」

 それは、寝たというより落ちたとか、気を失ったって感じだけどな。まあホッとしたというのもあるかな。


 「さて、一体どういう事態だろうか?」










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