10 髭もじゃの話し
「これが、この周辺の地図か」
翌朝、俺はランデン長老から周辺調査の結果について、話を聞いていた。
リリパット達の調べた地図は拠点を中心として半径10km程だ。もちろん小さな彼らの調査なので森を子細に調べたというわけではないが、新しく分かった事がいくつかあり、感謝の言葉と彼らの好物を渡した。今、リリパットはその菓子を食べるのに夢中である。
「そうじゃ、もぐもぐ・・ワシらの元の住処が、もぐ、このあたりで、もぐもぐ」
長老までもが、説明しながら食うのは、正直計算外だったんだが、彼らの性質として、誰かが食べているのを見れば自分も食べたくなるものらしく、長老が後から一人で食べると、先に食べた連中まで自分も食べたいと騒ぐのだそうだ。
「ざっと8kmぐらい離れて、もぐもぐ、おるかの。で、その先のこの辺とこの辺に、もぐリンの集落があるのう。川はこんな感じじゃが、幅は2mも無いからこれはそう大きな川ではないんじゃ。
「この大きな岩というのは結局何なんだかわかったか?」
「それなら、発見者が少し欠いて持ち帰ってきたぞい。これがそうじゃ」
長老は近くに置いてあった白い粒・・・マッチ棒の先くらいだな、そんな粒を俺に渡してくる。これ見ても普通は何も分からないが、鑑定すればどうにかなる。
「鑑定、白い粒」
【鑑定:白い粒】
白い粒=魔石のかけら。魔道具作成の際に利用される鉱石の一種。魔力密度の高い地域などで稀に発見される。上位魔物の体内から発見されることもあるが、これは体内で生成されたのではなく、捕食による取り込みである。これは魔物が食べると魔力の影響で特殊な強化や進化が起きる事があるため本能的に取り込んでいると思われる。
へ~魔石かあ・・・・・。
「長老、これ魔石らしいんだけど利用方法を知らないか?」
「ほう、それが魔石ですか。ワシの親父が「転生したのにチートも無いし、異世界らしさがサッパリだ!」といって魔法や魔石を探しておりましたな」
いや、リリパットに生まれた時点で異世界を実体験してませんか?
「じゃあ、知っている者は居ないのか?」
「ワシらには、おらんのだが、この石(大きな岩)の近くで小さくて髭もじゃの人を見たと大きな岩の発見者が言って居った。もしかするとその近くにやつらが居るのかも知れんの・・・・しかし、これは由々しき事態ですぞ」
そうなのか?小さくて髭もじゃっていったらあの種族だろ?
「それは、つまり『ドワーフか?(俺)』『ドヴェルグ共じゃ!(爺)』」
「「・・・・・・・」」
「いや、そこは普通にドワーフだろう?」
「いやいや、魔石といったらドヴェルグじゃろ?ドヴェルグは、石から生まれるんじゃぞ」
「いやいやいや、ドヴェルグは洞穴生活で太陽光が弱点だろ?それに、ドヴェルグって、闇属性の妖精じゃないか、俺の希望としてはドワーフ一択だ」
「いやいやいやいや、お館様の希望はどうあれ、魔石がある以上ドヴェルグ説は捨て切れませんぞ。あの邪妖精であれば何か良からぬ事をしておるやも・・・・」
「いやいや・・・・・・」
「だからそれは・・・・・」
「では、これは後日調査隊を編成して調べに行こう。多少方向がそれているが、手前にある池というのも気になるからな。それと、以前住んでいた所から川沿いに北へ行ったところにエルフが居るのか?」
結局平行線だった。ドヴェルグが嫌なのは同じなんだけど長老の方が悲観的だよな。
この世界のドワーフとドヴェルグは地球の伝説と違うのかな?
「そうですな。川を遡ればエルフの居住地がありますぞ。そのあたりまでは、浅い川で流れもそう早くありませんな。ですが、その先は何が居てどうなっているか分かりません」
地図によれば、俺の拠点の東8~10kmほどの位置で南北に縦断するように川があるらしい。そして、川沿いに北からエルフ・リリパット(旧住家)・コボルト(住家跡地)と並んで集落を作っていたようだ。互いの距離は5~6kmほど離れているかな。
「そうだ、この地図とMgr view画像を比較して見よう。何か見つかるかもしれない」
俺はランデン長老を伴って事務所に向かおうとした・・・が、そこにかけられた第三者の声で、それは中止となった。
「お舘様、罠を仕掛に行きましょう」
振り返ってみれば、罠を抱えて立っている黒足達ハイ・コボルトがわくわく顔で居た。あれ?罠増えてるよね、また新たに作ったのかね。
「・・・わかった。長老すまないが、ちょっと罠を仕掛けにいってくる。
「分かったのじゃ。待って居るぞ」
・・・今気がついたけど、妖精で、物知りで「のじゃ」口調で、何で普通に爺さんなんだろう?・・・・。
「敷設はこんな感じだな。罠にかかってるのを見つけたら、しとめてすぐに持ち帰るか、網をかけて引き倒して動きを封じて持ち帰るのがいいかな。それと回収に出る前に水桶に水をためてきた方がいいぞ。分からなかったら殺す前にレオーネさんに聞けば大丈夫だ」
昨日、〆て血抜きしたら水に沈めて冷やすのが良いという話はしておいたから彼女なら上手くやってくれるだろう。
黒足達に後を任せて、長老の所へと戻ろうとすると、また呼び止められた。
「おやかた様、畑をちょっと見てくだされ」
「分かった、今いくよ」
族長に任せていた開墾現場をみると、十分な面積に思えたので次の工程に移る。
「次は耕運機の刃を交換して、この培土器をつけて畑に畝を作る。畝は・・・こんな感じで畑の土を削って、削った分を左右盛って高いところを作っていくんだ」
とりあえず計画しているのはジャガイモの栽培だし、他の作物でも畝がないと種がどこに蒔いてあるのか、わからなくなるので、全面的に畝を作っていく。作物に応じて後から畝の形と高さを整える予定だ。
「俺が寝ている部屋近くの壁に、完成予定の絵があるから見て参考にしてくれ」
「分かりました。見させていただきます」
そして・・・・
「お舘様!大変でさあ、ビッグ・ワームが出ましたぜ!」
あん?ビッグ・ワーム?何だそれ・・・・。
「でっかいミミズっす、ミミズ。すっごい大きなミミズでさあ」
わから~んと、顔に出ていたのか、即座にハイ・コボルト君から補足がされた。
というか、君はじめて見たんだけど最近進化したのか?
でっかいミミズ!?・・・・アメリカで何度も恐怖映画の題材にされた、あのキモいやつ!? 俺、Gとかムカデとかワームって大嫌いなんだけど!?
「ど、どこでワームが出たんだ!?」
「レオノールさんの掘削地ですぜ。掘っていたら地中から出てきやした!」
「なに!? ・・・と、とりあえず現場へ急ぐぞ」
「あ、お舘様、ワームが捕れましたけど、どうします?食べます?」
走って現場にきてみれば既に決着済みだった。ミニショベルで掘ってる最中に出たんなら・・・まあ、ミニショベル無双だよな。
「いや、ごめん。俺はそれ食べたくないんだけど、皆は食べるのか?」
「ん~コボルトは、よっぽど空腹でない限り食べません」
いや、それなら聞かなくても良くないか?
「森の近くに穴掘って埋めてください」
「え?」
「何だか顔色悪いですが、大丈夫ですか?」
うん。そうだね、たぶん顔色青いよね。
「たぶん、それが視界から消えれば顔色が戻るので、なるはやで埋めてください。それから、知らせてくれた君は何か疑問でもあるのかな?」
「分かりました」
「いや、疑問というか・・・お館様、食べないんで? えらい必至で走ってたんで、あっしは、てっきり好物なのかと・・・」
「・・・もしかしたら、一度君と膝を突き合わせて、話す必要があるか見知れないね」
「え、いやっす。自分そういう趣味無いんで、いくらお舘様でも俺は、いやっす」
「・・・何の話だ?」
「お舘様? もしかしてそちらの趣味で?」
「いや、まて何を言っている!? そもそも種族が違うだろうが」
「ふふふ、愛に種族差なんて些細な問題ですよ」
「それは些細ではないだろう」
閑話休題
「長老、すまない、遅くなった」
「別に問題ありませんぞ。で、他に地図があるのですかな」
「いや、地図というよりも空から下を見た光景かな。森の木で地面まで見えなかったんだけど、リリパットに作ってもらった地図と比べれば何か分かるかと思ってな」
「ほう、その様に便利なものがあるのですか」
「ああ、それを見て是非長老の意見を聞かせて欲しい」
「ならば、リリパット以外の情報も欲しいですな。ワシらが調べたのは、この拠点と元の拠点を中心とした限られた範囲ですからな。他の者たちに意見もあればなおいいでしょう」
「・・・それもそうだな。今夜それぞれの代表を集めて確認するか」
「それが良いでしょう」
う~ん。やっぱり長老は頼りになるぜ。
安定と信頼の人生経験だな・・・・・ん? そういや長老の年齢聞いてなかったな・・・いや、気にしないでおこう。うん、知ることが幸福とは限らないな。
「え~それでは、第一回全体会議を開催いたします。本日の議題はこの森についてです。皆さん知っていることがあれば、気楽にドンドンいってください」
「「「「ドンドン」」」」
「はい、そこのリリパット君達はちょっと静かにしようか」
「「「「ぶーぶーぶー」」」」
「やかましい。俺は意見を、いってくれと言ってるんで“ドンドン”をいえっていってるんじゃないんだよ。そうやつはこれでも食らえ」
俺は大辛柿の種ピーナッツを召喚して、テーブルを滑らせた。
「「「「お菓子だ~・・・・・・・・から~い!」」」」
くっくっく、大辛柿の種ピーナッツの辛さ美味さにもだえ苦しむが良い。
「「「「からくておいし~ でもジュース欲しい」」」」
「うむ。意見や、知ってることはドンドン言っていいけど、無意味な事はしないように」
追加でジュースを出して渡しながら指導する。
「「「「は~い」」」」
「と、いうわけで・・・・まあ、食べたいなら皆適当に持ってきて食べてくれ」
なんか他の連中も食べたそうだったので、食べながら話すことになった。店の商品とはいえ身内から金をとっても仕方が無いし、今のところ配給制限も必要ないので、食べたい人は店の売り場からもってくればいいのだ。
「これがリリパットの協力で出来上がった地図なんだが、皆何か気がついたことはあるか?」
作成された地図は拡大鏡で見るような小さな、文字だったので、この場の地図はコピー機で拡大したものだ。その地図をざっと説明し位置関係を把握してもらうと、多少なりとも情報が得られた。
まず、リリパットが見つけた住処跡地はコボルトのもので間違いが無かった。コボルトは定住ではなくある程度森を移動して狩をしていたので、仮住まい的な物をいくつかもっていたらしい。騎馬民族的な感じかな。そして、いつの間にか仮住まいの一つに熊が住んでいた・・・恐ろしいな。
そして、モーブ達の話ではリリパットの旧住家の東にモーブの生まれたゴブリン集落があり、エルフの集落の北にはモーナのゴブリン集落がある。どちらもこの拠点から15km程離れているらしい。
「さしあたり、ゴブリンは放置でいいか? 今後を踏まえ調査対象とするのは・・・」
①大きな岩(魔石)
②ドワーフorドヴェルグ
③岩の南の池
④エルフの集落
「ゴブリンを除けば、以上の4項目になるかと思うんだけど、どこから確認するのがいいかな?」
「エルフのそばにゴブリンが居るなら、合わせて一度様子を見に行ったほうがよいのではないですか?」
「ドヴェルグは早めに確認したいのう。池は急ぎではないじゃろ」
う~ん その二つで、どちらを優先するべきだろうか。
「ところでリリパットは、ドヴェルグと仲が悪いのか?」
「ワシらの村に伝わる言い伝えでは、昔ここにあった国とドヴェルグが協力関係にあって、とんでもない武器を作っておったそうじゃ」
リリパットの伝説とか言い伝えって、いつからあるんだろうか。
「北の国を滅ぼそうとして使ったという武器の事か?」
「そうじゃ。もし、また同じような事をしておったら妖精族として止めねばならん」
地球の伝説ではドヴェルグは、グングニル等の武器を神々のために作った、名工とされているけど、一方でその生まれは“原初の巨人ユミル”の死体に湧いた蛆虫で、神に”人に似た姿と鍛冶技術”を与えられた存在だからなあ。確かに闇っぽさは気になるが・・・・。
ドヴェルグとドワーフは単に言葉の違いで、呼び名が変わったという話もあるし、俺としては両者は≒だと思う。なのでドワーフも鍛冶や細工など物作り分野では、ある意味歯止めが利かず、必ずしも安全ではない。俺が思うドワーフとドヴェルグの違いは、長老も言っていたけど、生物としての在り方の違いなんだよな。鍛冶をしようがしまいが、生物として”子孫繁栄”や”種族繁栄”という考えを共有できそうに無い(石から自然発生する)相手とは、根本的な部分での価値観の共有ができる気がしない。俺の偏見かもしれないけどさ、排除はしないけど積極的に係わりたくはないんだよ。そういう意味では俺よりも長老の方が、妖精という同一カテゴリの存在としてより真剣に考えているといえるかな。
「ならリリパット族で大岩周辺を調べてみるか?でも、ドヴェルグが居ても戦わずに、最初は話し合いだぞ。いきなり全面戦争とか無しだぞ」
「もちろんじゃ、ワシもリリパットだけでどうにかなる相手とは思っとらん。まずは偵察してくるだけじゃ。・・・ところで、ドワーフじゃった場合はどうすればいいかの」
「ドワーフだったら魔石について聞いてみてくれ。それと共存できる相手なら交易なり技術協力なりで交流を図るのも良いんじゃないかな」
「了解じゃ」
「他に何かあるかな」
俺は尋ねて皆を見回すが、他には特になさそうだな。
「それじゃあ近日中に調査班の人員を決めて出発しよう」
次回もまったりです
予定では24日20時更新です




