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12-2



  ◆◇◆



 夜は明け始め、夜闇を追い返す白が映り込むころ鳥の鳴き声と共に輪蔵が目を覚まし、そこから遅れて一〇分ほどでリビアが続いて目を覚ます。

 そのころには既にほかの三人は朝ごはんを食べている。

「あんたがこんな時間に起きてるなんて珍しいじゃない」

「これで三度目だな」

「それ、僕も言った」

「拙者もでござるよ」

 ヒュウの顔には似つかわしくない呆れた顔でゴールドキングは用意された朝飯を口のなかに突っ込む。

 食べるという作業がわからないかのように突っ込んで、ほとんど噛みもせずにそのまま一飲みする。

「よほどこいつがこの時間に起きてるのが珍しいんだな」

「何言ってんのよ。まるで別人みたいに……別人なの?」

 思わずリビアはヒュウから輪蔵へと視線を移す。それに応えるように輪蔵は小さく頷いて「らしいでござる」とだけ呟く。

 目の前で座りながら朝飯を食っている男の外見は間違いなくヒュウ=ロイマンそのものだが、普段ならば朝飯一つにしてみても、食べカスをまき散らして奇声をあげている。それに比べて目の前のヒュウはあまりに大人しすぎる。

「なんかゴールドキングらしいでござるよ」

「ゴールドキングって……レイ・ドールの?」

「みたいだね。オリジンだから何があっても不思議じゃないとは思ってたけど、まさかライダーの体を乗っ取るなんてね」

 にわかに信じ難い現実を前にリンダラッドは露骨に嬉しそうな表情でゴールドキングの黄金の瞳を見た。

「人間ってのは不便な体だ。こうやってエネルギーを体内に入れなきゃろくに動くこともできないんだからな」

「ねえ、なんでヒュウの体を乗っ取ったの?

 それになんで今まで乗っ取らなかったの。オリジンってなに?

 君が本当にオリジンのゴールドキングなら聞きたいことが山ほどあるんだけど」

 ずいっと寄るリビアの口から矢継ぎ早に言葉が出てくる。聞きたいことなどごまんとあるなかで、理性など強い好奇心を前に既に決壊している。思った言葉がそのまま次々とゴールドキングに投げつけられる。

 特別な力を持ったレイ・ドール『オリジン』が目の前で飯を食べ、会話している。リンダラッドからすればまるで夢のような光景だ。

 思わず夢でないか自分の頬を抓ってしまう。

 ──痛い。

「乗っ取ったのは簡単な話だ。あいつが俺様に乗るのは不適格だったからだ。今になって乗っ取った理由は、ガーベラ……お前らには黒のオリジンとでも言えばわかるか」

 その一言に全員が森のなかで突如空から現れた黒に塗りつぶされ、ライダー無くして動いていた不気味なレイ・ドールの姿が思い浮かぶ。

 全員が想像してるのを確認するかのようにゴールドキングは一拍置いてから再び口を開く。

「あいつと次に敵対したときに、この野郎に戦わせたんじゃ俺様ごと壊されちまうからな。それだったら俺様がこいつの体を操った方がよっぽど勝てるってわけよ」

「つまり……ヒュウ殿が弱いからお主が体の主導権を奪ったということでござるか」

「そういうこと。あいつは今、このなかよ!」

 ゴールドキングは自分の胸を指さして白い歯を見せながら笑う。

 これまでのヒュウと似ているがどこか違和感を覚える。図々しく、どこまでも生気に滾った笑みとは違う。

「まだあと一つ、質問に答えてないよね」

「ん?」

「とぼけないでくれるとありがたいな。オリジンってなに? ただの凄い力を持ったレイ・ドールってわけじゃないんでしょ」

「んー……」

 ゴールドキングは手を組んで天を仰ぐと、一分ほど唸り声をあげてからぽんと手を叩く。

 普段は脳みそなど欠片も必要としない直情径行のヒュウだけに、眉根を寄せ悩み、唸り声をあげてる姿を見るのは三人は初めてだ。

「世界を創る存在ってところだな」

「世界を創る存在……でござるか」

「なによそれ? 神様かなんかだって言うの?」

「ビンゴ。まんまその通りよ。

 世界の始まりを知ってるか?」

 唐突にゴールドキングは黄金の瞳で天空を見上げた。



「創世神話ってこと?」

「神話なんて人が勝手に考えた作り話に過ぎねえよ。事実を語ってやるよ」

「やったぁ!」

 リンダラッドは空へと拳を突きあげ思いっきり飛び跳ね、そこから四つん這いになったリンダラッドはきらきらと輝く碧眼の大きな瞳でゴールドキングを映し満面の笑みを浮かべる。

 今にも顔がぶつかりそうな距離でリンダラッドは好奇心の高まりが抑えきれずにいる。

「世界を終わらせ新しい世界が創られるときは、俺様達オリジン六体のうちの誰か一体が他の五体を統べることで世界が創られる」

「じゃあこの世界もそうなの?」

「そうだ」

「世界ってそういうふうに作られたんだ」

 創世神話に描かれた六本の太い幹。それらがオリジンを指し示す、それらに支えられた大地の上に人々が暮らす。リンダラッドの持つ聖書に描かれた内容と合点がいく。

「そういうわけよ……さてと」

 ヒュウ、もといゴールドキングは草原から腰を上げるとぐっと体を伸ばす。

 ところかしこから軋むように骨を鳴らして東の空を見た。

「どっか行くの?」

「そりゃ東よ。ガムディット!」

 ゴールドキングは叫ぶと天に金色のカードを掲げる。

「ゴールドキングっ!?」

「そいつは(ちげ)えな。俺様の本当の名はガムディットだ。もうあいつは帰ってこねえからそっちの名前で覚えといたほうが良いぜ」

「ガムディット……」

「そう。俺様の本当の名前だ。ったくゴールドキングなんてだせえ名前つけやがって」

 ──WWWOOOOOOORRRRRRR

 普段とは違い大人しい声でゴールドキング、もといガムディットはその赫然とした瞳を不気味に輝かせる。

 これまでに見せてきた獰猛であり、巨大な牙で全てを喰らってきたゴールドキングの姿から、その落ち着いた佇まいはまるで一致しない。

「東に行ってどうするの?」

「オリジンはオリジンと戦うことが必然。やつらを全て喰らい、俺様が次の世界を創り出す!」

 禍々しく歪な笑み。欲望に塗れたヒュウの笑顔と同じものだ。

 他人の迷惑などお構いなしに自分のやりたいことをする。ただそれだけのために周りのことなど一切視界に入れない笑み。

「その戦いにヒュウ殿の体を巻き込む気でござるか?」

「ああ。俺様みたいなすげえ奴に乗っ取られてこいつも運が良いぜ。六体のオリジンのなかだと俺様が飛び切りつええからな!」

「本人の意思に関係なく体を奪い戦いに巻き込むと言うのは拙者からしてみれば少々度が過ぎているござるな」

 輪蔵は立ち上がるとガムディットを睨みつけ懐からレイ・カードを取り出し構える。

「僕としても彼がいなくちゃ困るし、勝手にどっか行かれるのは参るなあ」

「私としてはこのまま居なくなってくれたほうが嬉しいんだけど、お嬢様が困るみたいだし、このまま行くなんて許されないんだから」

「普段から浪費癖に女癖、それに酒癖を加えてもいいほどの役満級のクズでござるが、それでも見捨てるのは拙者の義に反するでござるよ」

「やめとけ。俺様達、オリジンを模して創ったレイ・ドールなんてガラクタじゃ、どうあっても俺様にはかなわねえぜ。大人しく人間は人間と戦いやがれ。分をわきまえろ」

「分? なんでござるか。それは」

 輪蔵は真っ赤な布巾で隠した口の両端を持ち上げて笑ってみせる。

「分なんてもので己が信じる道を捻じ曲げてしまえば、ヒュウ殿に笑われるでござるよ!」

 欲望まみれで金に汚く、女に目が眩んでばかりの男だが、奪うと決めたものは命すらも躊躇いなく道具にして奪う。他人を裏切っても決して自分を裏切らない男。

「無謀なことをわかってて命を賭ける人を、それをバカと言う。つまりヒュウはバカだったんだね」

「ですね。お嬢様」

「ならば拙者はバカになろう!」

 ──あの男を見習って!

 馬鹿だ阿呆だと蔑まされてるヒュウをまさか見習う日がこようなどと輪蔵は考えたことなどなかった。

「とはいえ拙者はそこまでバカではないでござるよ。仮にも神を名乗るような奴に策無しで挑まんでござるよ。お主の力を拙者達はよおく知ってるでござるよ」

 この旅で輪蔵だけでなく他の二人もまたゴールドキングの力は幾たびも見てきた。そのなかであの欲望の輝き凝縮させ放たれる天をも穿つ一撃。

「お主のその直線的過ぎるほどの攻撃が拙者に当てられればでござるがな。示然丸ぅ!」

 カードから現れた示然丸は既に背中に抱えた刀を二本を構えている。

 当たれば消滅必至の光弾だが欠点もある。そして輪蔵にはそれを回避するだけの速度がある。

「人間って言う奴はよくねえな。ちっと俺様達が影を潜めてればすぐに思い上がる。誰が一番か改めて認識させる必要があるみたいだし、これからの戦いへの準備運動させてもらうぜ!」



  ◆◇◆



 神羅万象あらゆるものに唾を吐く、滾る殺意を放つゴールドキングの足元に敷かれた示然丸は四肢に深々と巨大な大剣を刺し大地に貼り付けとなる。その姿はあまりにも無様にして無力なものだ。

 ──WWWRRRRRRRRRRRRRRROOOOOOOOOOOOOOOOO──────

 その禍々しい牙で閉ざされた巨大な口を開き、その奥から捻りだされる声。それは髄の奥まで響き、背筋を冷たくさせるほどのものだ。

「これが……ゴールドキング……」

「これが本来の俺様の力よ!」

 まるで軍隊が攻め込んだ戦場のように、緑豊かで地平まで続く美しい草原は数えることすら面倒なほど大量の弾痕や斬撃によって抉られ、黒い大地をむき出しにし、硝煙に塗れた空気が流れる草原はまるで戦場を想起させる。周囲を見渡せば使い捨てられた武器の数々が転がり突き刺さっている。

 目の前の光景をおよそ一体のレイ・ドールの力だと説明して誰が納得できるだろうか。

「ハハハハッッッ!」

 高らかに笑うガムディットが操るゴールドキングのその体には幾多もの武器が突き出ていて、既に体は原型を留めていない。

 頭部から腰までのラインには槍と刀、そして槌が体を突き破るが如く突起し、手には両手では聞かないほどの銃が握られている。

「オリジンのなかで唯一にして絶対の力! これが俺様の本当の力よ!」

 大口をあげて喜びの咆哮を上げるゴールドキングの周囲こそ爆心地のように一体の緑を跡形もなく吹き飛ばしている。

「まさかこれほどの力だったとは……」

 踏み潰された示然丸のなかで輪蔵は呻くような声を漏らす。

 あまりに圧倒的なかつ一方的な力だ。暴力と呼ぶに相応しいオリジンの力。それは輪蔵が想定したものを遥かに超越した世界のものだ。

 示然丸の速度で触れようものならば体からは幾重にも武具が突き出し、無限にも近い銃撃と斬撃。一振りすれば刀は投げ捨て別の刀が生まれ、一発弾丸を放てば次の瞬間には別の銃がその手には握られている。巨大な武器庫を相手してるかのような尽きることのない無限の攻撃。

 輪蔵の操作技術。そして示然丸の俊敏な動きをもってしてもかわしきることのできない暴風。

「神の力……ねえ」

 リンダラッドはぽつりと呟く。

 太陽にすら劣らぬその黄金の輝き。まさに『神』の一言に尽きる。

「さてと、実力差は歴然ってやつだ。今ならギブアップを受け入れてやろう。俺様は優しいからな。なにせてめえらの世界を創った神様だ。慈悲くらいは持ち合わせてるぜ」

 手から直接生えた幾多もの銃口が重い音をたてて示然丸のこめかみへと一斉に向けられる。

 高らかに笑うヒュウの顔をしたガムディット相手に返事を一つ間違えれば、その向けられた数十もの銃口が一斉に轟音と火を噴き、示然丸はただの残骸になる。

 ──しかし……

「自分の弱さで己の道を曲げてはヒュウ殿に一生笑われるでござるよ」

「そうか。それじゃああの世でこいつの帰りでも待ってるんだな。俺様が作り出した世界を見せられず残念だな」

 弓を引き絞られるかのようにゆっくりとリボルバが回転を始め撃鉄が持ち上がる。

「強さのない信念なんぞゴミだ。くたばれ」

 極限まで持ち上がった撃鉄が雷管を砕くように解き放たれる。

 轟音と火が向けられた銃口から一斉に噴く。


 ──ドンッ


「強き悪に対して信念を曲げることなく己を貫く高潔な義。それは何ものに非難することは許されない」

 聞いたことのない声が死を覚悟した輪蔵の耳朶を打つ。

 示然丸を上から容赦なく踏みつけていたガムディットを吹き飛ばしたその蒼白の円盾を持ったオリジン。

「ジールっ!」

「お久しぶりです。リンダラッド様」

 宝石から削り出したかのような鮮やかな蒼白の甲冑を身に纏うオリジンの操縦席に座るは、眉目秀麗であり、古今東西において『無敗』の(あざな)を持つライダー、ジール=ストロイは四角紙面の笑みを浮かべてみせた。

「なんであんたがここにいるのよ!?」

「リンダラッド様を連れ戻すよう、私自らがヒース国から勅命を受けてきた。それが来てみれば……まさかオリジンごときに乗っ取られてるとはな」

「よくも蹴飛ばしやがったな! ガリエン!」

 転がっていたガムディットは起きるなりに、全身から無数の武器を突き出し構える。

「昔から俺様はお前のことが気に喰わなかったし、やっぱ俺の手で直接叩き潰してやるよ。ガリエンッ!」

「ヒュウ=ロイマンっ!」

 武器を構えるガムディットの前にジールは凛とした声が雲一つない空に響き渡る。

 強き者に屈さず、弱き者を救い、他人に厳しく自分にはより厳しい高潔のレイの持ち主であるジール=ストロイに合わせるようにガリエンはその身を丸々覆えるほどの巨大な盾と先が細まり先端に殺意を宿した巨大なランスを構えてみせる。

「リンダラッド様を連れ出した貴様は神如きに屈する情けない欲望の持ち主だったのか?」

「無駄だ。あいつはもう俺様のなかに閉じ込めちまってるからな。所詮人如きが神には敵わねんだよ。

 ガリエン、そして他の四体のオリジンども全部俺様が喰らって新しい世界を創ってやるよ!」

「ならば貴様、そして他の悪しき欲望を私が絶つ」

「人風情の考えがこの闘いに割り込もうなどおこがましい」

「人風情かどうかは貴様のその淀んだ瞳に焼き付けるが良い。

 悪に栄えた試しなし!」

「そりゃ勝った奴が正義だからな! そして俺様が正義だっ!!」

 ガリエンの構えた槍と盾に向けられた無数の銃口。

 張り詰めていく空気が衝撃として一帯を迸る。

「ここから先は神の戦い。人は不要!」

 闘いの幕を切って落としたのは、ガムディットの体から突き出た数々の、品の欠片もない奇銃の銃口から放たれた轟音だ。

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