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9-3



  ◆◇◆



「多少位置がずれたが概ね計算通りの場所だな」

「こいつがお宝のレイ石の結晶体ってやつか」

「へえ……これがね」

「綺麗でござる」

 木陰に覆われ陽光すら満足に地へと届かない鬱蒼とした森林のなかに突然ぱっと開けた空間が五人を迎える。尽きることなく生えていた木々がその空間においては姿を潜めたあまりに現実味のない空間。その中央に鎮座しているそれに全員の視線が向けられる。

 広さにしておよそ半径二〇メートルにも満たない円形状の平地の中央に構えられたレイ石は大人一人あろうかと言う大きさなの長方形状の結晶だ。まるで墓標のように鎮座したそれを四人はまじまじと見た。

 地表を満たす(つぶて)のレイ石と比べればあまりに規模の違うそのレイ石は、目を凝らせばかろうじて反対側が見える黒によって構成されている。

「これだけの結晶体があれば汎用型レイ・ドールなら数十体は造れるな」

「そんなに作れるのか!?」

 レイ・ドールの一体ですら決して安価なものではない。一般人には娯楽として持つことすら決してできないような金額だ。

 それが数十体分ともなれば、ヒュウは考えるだけで涎が出てくる。場合によっては小国の一つも買い取ることができる金額にもなりえるかもしれない。

 まさに『お宝』と呼ぶに相応しいものだ。

「これがレイ・ドールを作る素材でござるか……ん?」

 輪蔵がおもむろにレイ石の結晶体にその手をつける。感応するように結晶石に触れている部分がほんのりと灰色へと変わる。

「色が変わったでござるな」

「あっ、私も!」

 リビアの触れた箇所も僅かばかりだが紅くなる。

「レイ石の結晶体だから。触れた人間のレイに反応するんだよ。色が濃いほどレイが強いってことだ」

「おいてめえら。こいつは俺様のもんだ。勝手に変な色つけるんじゃねえよ。商品価値が下がったらどうするんだ!」

「大丈夫だ。そんじょそこらのレイ程度なら手を離せば勝手に元の黒に戻るさ」

「あっ、ほんとでござるな」

 輪蔵が手を離すと少しばかり広がった灰色は再び地の黒色に呑まれてしまい、元の結晶体へと還る。

 それはリビアも一緒だった。

「うーん。僕はなんも色でないけど……」

 小さな掌で結晶体に触れたリンダラッドが首を傾げながら呟く。

「……そいつはおかしな話だな。生命を持つものには必ずレイがあるはずだ」

 後ろからマッカが覗くが、確かに輪蔵達とは違い色に何の変化も表れない。

 レイにおいての研究でマッカの横に立つ者は今だっていない。そのマッカの長年の研究でレイを持たない者など一人として居なかったし、聞いたこともない。

 すべからくレイの結晶体に変化の出ない人間などいない、はずだ。

 人間に限らずありとあらゆるモノがレイを持っている。

 動物や植物ですら検知できている。

 しかし目の前のリンダラッドが触れた結晶体は何の変化も起こさない。

「不思議だな」

 この状態でマッカが吐ける言葉など、これくらい簡潔なものしかない。

「いつまで触ってるんだよ。こいつは俺様のもんだって言ってるだろ!

 さっさとこれを高値で売り付けて美女を買いまくって酒を集め、国の一つでも作っちまうかな!」

 ヒュウの脳内では、その結晶体を売った金を元手に王国建立まで妄想が捗っている。王座に腰を下ろしたヒュウの周囲には、凹凸のはっきりとした淫靡な稜線を描いた女性を数人はべらして酒を飲んでいる姿までありありと浮かんでくる。

 そのためにも──

「とにかくこれは俺様のもんだ。お前らは一切触れるんじゃねえ!」

「少しくらい見せてくれても良いでござろうに」

「ほんとケチな奴」

「何といわれようとも俺様のものだ」

 ヒュウは結晶体を四人の手から護るように間に割り込む。

「でも、これってどうやって持ち帰るの?」

「もちろんゴールドキングで引っこ抜くんだよ」

 黄金に輝く枠縁を見せつけるようにレイ・カードを取り出したヒュウが構えたと同時に得体の知れない塊が轟音とともに空から落ちてくる。



「な、なんだっ!?」

 レイ石が敷かれた空間の端で土埃を巻き上げなにかが落ちてきた。

 落下物の正体を隠すカーテンのように舞い上がった土煙の奥に蠢く影に条件反射のように輪蔵が一歩飛びのく。

 背中を刃物でゆっくりと撫でられるような純然でありながらもまるで形の見えない殺意に輪蔵はとっさにレイ・カードを構える。

「出でよ! 示然丸っ!」

 出てきた示然丸に輪蔵は搭乗すると素早くその二本の刀を落下してきた何かへと向けて構える。

「全員下がるでござるよ」

 冷たい汗が頬を伝う輪蔵の言葉に言われるまでもなくリンダラッド達は結晶体からゆっくりと距離を取る。

 生物として最も強い本能。心の奥にある『生存本能』が砂煙の向こうから放たれる殺意に止まらない警鐘を鳴らし続けている。

「……黒くなってく」

 三歩後ろに下がったところでリンダラッドがぽつりとこぼした。一帯を覆っていたレイ石から黒々と輝く光が、一切の光を含まない漆黒へと浸食されていく。そして浸食の中心となっているのは──

「────────────っ!? がはっ!?」

 煙のなかから飛び出してきた黒い塊。それは一対の両手足を持ち、輪蔵ですら影を満足に追うことすらできない。考える以上に早く振り下ろした刀をそれは紙一重ですりぬけ示然丸を吹き飛ばす。

 大木へと体をぶつけ止まった示然丸に黒い『それ』は感情がまるで宿っていない深紅の双眸が輝かせる。

「ゴールドキング……?」

 それはヒュウの操るゴールドキングとよく似た形のレイ・ドールだ。

 しかし強欲を象徴する黄金の輝きはどこにもなく、あるのは色を一切含まない漆黒の体と、その黒々とした体に鮮血の如く輝く赤い双眸だ。

 転がった示然丸からふと視線をずらした黒のレイ・ドールはそのまま結晶体へと向き直りゆっくりと歩く。

「どうやら狙いは僕たちじゃないみたいだね」

「……あいつを止めなくて良いのか?」

 おもむろにマッカが指さしたのは、黒のレイ・ドールと結晶石の間に割って入りカードを構えたヒュウだ。

 カードのなかで朱金に塗れ輝くゴールドキングを見せつけるように構えたまま歪な笑みを浮かべる。

「てめえもこいつが狙いか?」

「………………………………」

 ヒュウの問いかけに対して黒のレイ・ドールは何も応えない。むき出しの操縦席には人の影もない。

「なんで動いてるのか知らねえけど俺様から宝を奪おうってやつに容赦はしねえ!

 ゴォォルドキングゥ──っっ!!」

 構えたカードから黄金の柱が雲を二つに割り、天を突く。



 突如として目の前に現れた自分と同じ姿をした黄金のレイ・ドール。漆黒のレイ・ドールの足がピタリと止まる。

 毒々しい輝きを放つ深紅の瞳には戸惑いも驚きもなく、ただその黄金のレイ・ドールをまるで何かを品定めするようにじっくりと深紅の瞳が見つめる。

「こうなっちゃうと僕たちにはもう止められないね」

「確かに。この際だ。あの兄ちゃんが操るオリジンの戦いぶりをしっかりと見せてもらおうじゃねえか。この特等席でよ」

 マッカはふんと鼻を鳴らすと地べたに胡坐をかく。

 あの黒のレイ・ドールが殺意を持っているならば、ライダーでないマッカ達が人の足で逃げ切ることはできないだろう。

 ならば逃げるのは諦めて、今、自分の好奇心にマッカは素直に従う。

 仔細はいまだわからない『オリジン』と呼ばれる特別なレイ・ドール。その力をこれだけ間近、場合によっては自分にまで被害が及びかねない距離で見れることは研究者のマッカとしてはありがたいの一言に尽きる。

「俺様をあそこで転がってる二流ライダーなんかと一緒にすんなよ。てめえなんて一瞬で──とぉっ!? ま、まだ人が話してる途中じゃねえかよ。口上もろくに聞けねえのかっ!」

 突然動いた黒のレイ・ドールの手を掴み、がっつり四つに組んだまま二体の体勢が硬直する。

「なかなかやるじゃねえか!」

 レイを遠慮なく吸っていくゴールドキングと全く同等の力を持った漆黒のレイ・ドール。

 ──しかしこいつは……

 傍で見れば見るほど形はゴールドキングそのものだ。

 ありとあらゆる部位が似ている。四肢の細部から頭部まで。唯一の違いは胸部に生えた巨大な口のみも。操縦席もライダーこそいないが造りはゴールドキングを写したものだ。

「────っぐ!?」

 ほんの僅かにあらぬ方向へと動いた意識を咎めるがごとく黒のレイ・ドールがゴールドキングを上から抑え込み、そのまま力に任せて横に投げつける。

 あまりにも乱暴にして猛々しい力任せに転がされたヒュウは髄を通じて全身に衝撃が走り、意識を奪う。

「動かなくなっちゃったね」

「負けたのか?」

 完全に観客のように呑気に見ているリンダラッド達の前で動かなくなったゴールドキングから視線をそらし黒のレイ・ドールは、護る者のいない結晶体を両の手で挟み込む。

 ──ズッ

 長方形状の結晶体を力任せに大地から引き抜く。

 表に見えていたのは結晶体の半分。もう半分の姿が地中から引きずり出される。

「結晶体を持ってかれちゃうよ」

「とはいえ、ライダーでもない俺には止めることもできないし、止める気もない。俺がわざわざこんなところに来たのは、結晶体の有無の確認だけで別に手に入れようなんてつもりはさらさらないからな。

 欲を言えば、もう少し観察したかったけど、こうなったらこうなったって感じだな」

 ひどくやる気のないマッカの言葉などまるで届かない黒のレイ・ドールがその手に持ったレイ石の結晶体を見つめる。



  ◆◇◆



 女だ。

 それもヒュウが今まで見たこともないほどの美女だ。

 一人じゃない。両の指で数えてもきかないほどの人数だ。

 黄金だ。

 趣味の悪さが際立つ金無垢の調度品によって彩られた巨大な間。

 そして締めくくりは酒だ。

 一口飲めば喉の奥から唸り声をこぼさずにはいられない。舌鼓を打つことをやめられない美酒。

 そして自分のために汗だくになって働く奴隷達。

 ヒュウにとっての理想郷が目の前にある。それもこれも全てはあの結晶体を手に入れてから人生が面白いように好転していった。

「ねえ王様。隣の国買ってほしいな」

「私はあの湖を買ってほしい」

「私はねえ──」

「良いぜ。なんでも買ってやるよ! この空も大地もありとあらゆるものが俺様のもんだぁ!! ハァーハッハハハハッ!!!」

 大口を開けて止まらない笑いを吐き出すヒュウは美酒と美女に囲まれながら、富をもたらしたレイ石の結晶体を見上げる。

 天高くに浮かんだのはこの理想世界を創り出した絶えない富の象徴である長方形の結晶体だ。

 これさえあれば永久に悦楽の日々が続くとすら確信できた。

「ん?」

 まるで日食のように結晶体を端からゆっくりと闇が呑んでいく、その均整のとれた長方形を崩し闇の中へ姿を消す。

「ワタシハアレガホシイ」

「ワタシハコレガホシイ」

「うぉっ!?」

 富の象徴である結晶体が砕け散り、酒は泥水と化し、美女達は肉が削げ白骨となり微笑み、肥沃な大地は草木一つ見受けられない荒れ果てた土地と化す。

 咄嗟にヒュウは自分に纏わりつく全てを払いのける。

「誰だ! 俺様のモノを奪う奴は?」

 輝きが徐々に消えていく結晶体にヒュウは懐から骨董品よろしくのレイ式銃を取り出して問いかける。

 ──敵だ!

 帰ってくるはずもない問いかけにこたえのは天に燦然と煌めく黄金の輝きだった。



 ──誰かが俺様のモノを奪おうとしてる。

 朦朧とした意識のなかでヒュウは、黒のレイ・ドールが結晶体を齧る姿が見えた。

 意識せずとも血が滾る。わきでる感情がヒュウの全身を支配する。沸騰する津液(しんえき)が体中を駆け巡る。

 ──ソイツハテキダ!

 ──そうだ。敵だ!

 結晶体が闇に呑まれていくなかで、深い意識の底からヒュウの体にぼんやりと赤みを孕んだ金色の輝きが漏れる。

 誰かが自分のモノを奪おうとしている。その一点以外の情報は全てヒュウの頭に入ってこない。

 ──俺様のモノを奪う敵だ!

「そうだ! 敵だ!!!」

 歪な激情だけが、理性など吹き飛ばしヒュウを突き動かす。



「てめえ! 俺様のモノに手ぇ出すんじゃねえ!」

 あまりに一瞬のことに誰もが唖然とした。

 跳ね起きたゴールドキングが漆黒のレイ・ドールを蹴とばすまで、まるでコマ落ちしたかのように一瞬だった。

 派手な音を立て地に伏した黒のレイ・ドールを前にヒュウは懐から取り出したレイ式銃を空へと向けて投げる。

「喰らえ! そしてこいつを撃ち殺せ! ゴールドキング!」

 レイ式銃の落ちる先にはゴールドキングが巨大な口をあけて構えている。

 そしてそのまま落ちてきた銃を派手に噛み砕く。

 ──GGGGGGGGGGGGGGGRRRRRRRRRRRRRRWWWWWWW──────!!!

「……あれがオリジンか」

 禍々しい牙を開き、全身を覆う眩い黄金の輝き。まるで小さな太陽が目の前にあるかのようなその輝きにマッカは思わず声を漏らす。

 目くらましの用途で見せる幻の輝きの類とは違う。純然たるレイによる輝きの塊。

 無尽蔵にも近いレイがヒュウの体の至るところから吸い出され、ゴールドキングの右手に集約されていく。

 輝きは塊となり成形され、喰らった銃を生成していく。

 ──GGGGGGGGGGGGGWWWWWWWWWWWWWWWWOOOOOOOOOOOOOO!!!

 黄金の輝きを前に起き上がった黒のレイ・ドールも咆哮をあげる。

「俺様の真似事か?」

 ゴールドキング同様に咆哮をあげた漆黒のレイ・ドールから漏れる。

 黒の瘴気に包まれたレイ・ドールは、一切の色を含まない黒に僅かばかりの紫が浮かび上がる。そして吐き出した瘴気を粘土のように形を変え大鎌がその手に造り出される。

 ──紫黒の悪魔……

 不意にいつか聞いた単語がリンダラッドの脳裏によぎる。

 ──だからなんだっ!!

「てめえがくたばることには変わらねえよ!」

 際限のない欲望と共に噴き出す黄金のレイとともにヒュウは大口を開けて笑みを浮かべる。

 相手が誰であろうと関係ない。敵であり同じ宝を狙っている以上、ヒュウの頭にブレーキなどと言う概念はない。

 その先に死が待っていようと容赦なくアクセルを踏み込む。

「全員拙者の、示然丸の後ろにくるでござるよ!」

 いつの間にか意識を取り戻していた輪蔵がすぐさま全員をかばうように示然丸を三人の前に立たせる。

 ──目の前で黒煙の瘴気を纏い大鎌を構える『そいつ』は俺様の所有物に手を出した存在だ。

「吹き飛びやがれ!」

 ──GGGGGGGGGGGGGGGGRRRRRRRRRRRRRRRRRRRWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWW!!!

 鎌を振り上げた黒のレイ・ドール目掛けて叫んだヒュウの咆哮とゴールドキングの声が重なる。

 叫びにも近い咆哮とともに黄金の銃身から放たれた閃光が全員の視界を奪い、木々をなぎ倒す。轟音が耳を破壊する衝撃波となる駆け抜ける。

 黄金の閃光は振り上げられた大鎌を砕き、黒のレイ・ドールを貫く……姿を見る前にヒュウの意識が途絶える。



  ◆◇◆



「──────あっ! 起きた!」

 ぼんやりとした視界に真っ先に映ったのは少年とも少女とも中性的な顔だ。

 覗き込むようにぐっと顔を近づけた少女はヒュウの好みからはまるで外れてる。幼さの目立つ顔や成長途中の体はあと一〇年先を想像すれば期待もできるがそんな先までヒュウは待つほど悠長な性格ではない。

「やっとでござるか」

「いつまで寝てるのよ。もう二日も動けなかったのよ」

 少女の後ろから二人の呆れた顔が覗きこむ。

「…………」

 思考回路がまるで働かないヒュウは空を見上げた。

 見覚えのない布団の上だ。

 自分がなぜここにいるのかもわからない。

 ──なんでこんなところに……っ!!!

「そうだ! あの黒い野郎は! 俺様が吹き飛ばしたあの野郎は──ぐっ!」

 得体の知れない黒のレイ・ドールを思い出すとヒュウは慌てて起き上がるが、頭の奥に激しい痛みとともに体に力が入らず再び布団の上に倒れる。

「無理しないほうがいいよ。ただでさえレイ欠乏なんだから。一歩間違えたら死んでるよ」

 ヒュウの体内にあるレイを微塵と残さず奪ってゴールドキングが撃ちだした。

 その証拠にヒュウの目元には深い隈が出ている。

「あの黒いのならどっか飛んでいったわよ。ねっ」

「そうでござる。ヒュウ殿の弾の軌道をあの大鎌で逸らして半身吹き飛んだだけだったでござるよ。そのまま飛んで行ってしまったでござるよ」

「結晶体は!?」

「……これだけかな」

 リンダラッドがポケットから取り出したのはレイ石の結晶体の欠片だ。

「これっぽっちか!?」

 何もかも望む結果にならなかったヒュウは脱力して手足まで動けなくなるように再び布団に倒れる。およそ一〇秒ほどで握り拳を作り眉を吊り上げる。

「あの野郎! 次は絶対にぶっ壊してやる!」

 嘆く言葉なんて持ち合わせてない。ヒュウのなかにあるのは自分のモノを奪われたという最も許しがたい行為だ。

「あの黒いレイ・ドールの手足をもいで、生まれたことを一〇〇回後悔させてもまだ足りねえ!」

「おお、怖いでござるな」

「俺のぶっ殺すリストに一人加わったぜ!」

「一人……なのかな?」

「細かいことは良いんだよ。次は絶対にぶっっっっっ壊す!!!」

 レイ欠乏でろくに動かない……はずのヒュウは握り拳を思いっきり突き出して叫ぶ。

「これだけ元気ならもう明日には出発でござるな」



  ◆◇◆



 断崖絶壁の連なる深い山脈を東へ抜けるために一本通った街道。その先へと進み壁のように連なる山脈を抜けて真っ先に見えるのは巨大な城壁だ。

 連なる山脈と見紛うほど巨大な。

 その城壁に囲まれた極東の大国ベルデガーレ。その中心地に聳え立つベルデガーレ城に半壊した黒のレイ・ドールがその翼をたたみ降り立つと禍々しい牙を開いて喰らった結晶体を吐き出す。

「ずいぶんとボロボロになって帰ってきたじゃねえか」

 戻ってくるタイミングがわかっていたかのように城の奥から二人の男が出てくる。

 一人は錆びついたような赤褐色に身を纏った大男だ。

 顔面を直線で横断する派手な傷跡が、表情の動きに合わせて歪む。

 もう一人は病的なほどに肌が白く眼もとに深い隈を刻んだ小柄な男だ。

「俺のオリジン、ガーベラをここまで傷つけるライダーが蒼白の騎士以外にいるとは。戻れガーベラ」

 小柄な男は手を翳すと黒い瘴気とともにオリジンはカードへと戻る。

 枠縁は紫黒で染められたカード。

「……なるほどな」

 カードのなかでレイ・ドールの赫赫とした瞳が不気味に点滅を繰り返すと男が小さくうなずく。

「どうやら相手も俺たちと同様にオリジンみたいだ。

 蒼白でも万緑でもないとなると、俺たちがまだ発見してない残り二体のうちのどちらかってことになるな」

「面白え話しじゃねえか」

 大男は大きく腕を振り甲冑を鳴らす。

 筋骨隆々の体格は甲冑越しにもはっきりとわかる。

「とにもかくにもまずは相手を知ることだ。

 残りは白妙の賢人と黄金の猛獣か……となれば黄金の猛獣か。クックック……」

 紫黒のレイ・カードを握りしめると男は肩を震わせ笑みをこぼす。


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