表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/82

1-4



  ◆◇◆



 空が白む。明けの明星とも相応しい星の輝きが夜が終わっていく空に燦然と輝く。

 観光施設としてすでに機能していなかった遺跡一帯は一夜で、巨大な地盤沈下により大地に飲み込まれるようにその姿を変えている。

「……ん?」

 肌寒い風に身震いを一つしてからヒュウは眼を覚ます。

 どれくらい寝ていただろうか。

 全身が軋むように痛いなかでゆっくりと顔を起こしてヒュウは辺りを見渡す。

 地盤沈下を起こした場所から凡そ数メートル離れた草原の上だ。

 地平の彼方である草原の向こうからゆっくりと日が上ってくる。

「何してたん……そ、そうだ! 俺様のレイ・ドール!! ん?」

 思い出したように草の上から体を起こしたヒュウからカードが一枚こぼれる。

 それを拾い上げたヒュウはマジマジと見た。

 縦長のカードには黄金の枠縁に彩られたあのオリジンが一枚の絵としてそこに収まっている。

「レイ・カード……」

 レイ・ドールを所有するライダーが、自身の愛機であるレイ・ドールをカード化させたものだ。それはライダーならば例外なく持っている。

 そしてそれを持っていると言うことはヒュウもまたレイ・ドールを駆るライダーとなった証だ。

「よっしゃ! こいつが俺様のレイ・ドールだ!!」

 世界を照らす輝きを放つ太陽にカードを突きつけるようにしてヒュウは叫んだ。

「世界、見とけよ! こいつで冨も名声も手に入れて俺様の時代にしてやるからな!」

 今まで自分のしたいことがあっても、レイ・ドールが無いと言うだけで避けようのない壁がヒュウの前にあった。

 しかし、今は違う。

 その壁を越え、その先に行く手段が手の中にある。

 カードは日の光を浴び金色に輝く。



  ◆◇◆



 ヒース国の中央となるヒース城。巨大な庭園に囲まれた城の壁を音もなく蒼白の光が駆けあがり窓が開くと同時にその光は消える。

「一度ならず二度までも。

 勝手に出かけるなどこれっきりにしてくださいよ。もしもあなたの身になにかありましたらそれこそ大変なのですから」

 ヒース国最強のライダー、ジール=ストロイは溜息交じりの声で抱きかかえたリンダラッドをゆっくりと床へと降ろしたのちに蒼白に枠縁の彩られたレイ・カードを懐にしまう。

 豪奢な装飾品に囲まれた一室。ドアノブ一つ、コップ一つ。どれをとっても値がつけがたいほどの品物ばかりだ。

 ここにヒュウが居れば涎を垂らしながら喜ぶ姿が容易に想像できたリンダラッドは小さく笑ってみせた。

「いやー、申し訳ないね。まさかこんな危ない目にあうとは思わなんだな。でもジール、君が助けに来てくれてよかったよ。グッドタイミング」

 張りのない緩い声で親指をたててリンダラッドは笑みを浮かべるがジールの鬱蒼とした表情は晴れない。

「命令さえ頂ければいつでも私が遺跡探索をします。ですから──」

「わかってる。わかってる。でも君には大事な遠征があったじゃないか。そこに私事で横槍を入れるような真似を僕がしたらお父さんだって許してくれないからね」

 肩を竦めるようにしてリンダラッドは笑みを浮かべた。

 護国において最強の盾であり矛の存在であるジールを身勝手気ままに動かす事はできない。

「ですけど良かったのですか?」

「なにが?」

 小首を傾げたリンダラッドは神妙な顔つきのジールを見た。

「オリジンであるレイ・ドールをあのような下賤な者に預けてしまって。

 命知らずのヒュウ=ロイマン。

 仕事に信条や矜持などなくただ金のためだけに動く男。そのようなものにオリジンを渡しとくなど。なんならこの私が力ずくで奪ってきても──」

「でもオリジンが彼を選んだんだ。彼をライダーとして認めたんだ」

 八重歯を見せつけるようにリンダラッドは笑う。

 あの我儘で強欲で、金と宝のためならば己の命すらも平気で分の悪い方へと賭けてしまう男。その強欲なレイを選んだのは間違いなくあの遺跡で眠ったオリジンだ。

「君も知ってるだろ。オリジンは誰に扱えるものでもない。そしてオリジンが動いた。ならば持ち主に相応しいのは彼なんだよ。

 それにあの黄金の力を。。

 面白そうな逸材だよね」

 日が地平線の彼方から姿を現し、夜は朝に追いやられていく。

 城門の向こうにずっと広がっている未だ見ぬ世界を見るかのように、リンダラッドは窓際に立つ。その碧眼は煌々と輝く。

 新たな一日が迎え入れる世界で高揚感を抑えきれないリンダラッドは一層笑みを濃くした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ