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イリエの情景~被災地さんぽめぐり~  作者: 今田ずんばあらず
気仙沼市篇
56/110

金港館号旧市街をゆく

 昨晩の雨が灼熱の日射しに焼かれ、

 気仙沼は蒸し暑い空気がもうもうと漂っていた。


 昨日歩いた道を辿るようにペダルを漕ぐ。

 ただでさえ久しぶりな自転車で、見知らぬまちを走ってみると、小さな発見があった。


 ハンドルとサドルから伝わる地面のデコボコを感じる。

 東浜街道は車道も歩道も狭い。

 巨大なトラックがすぐ脇を通り過ぎる。

 風圧に踊らされないよう身構える必要があった。



 タイヤの軌道に沿ってアスファルトが陥没している。

 路肩も唐突に出っ張ってるところがあって、注意しながら走らないと転びそうだった。


 歩道幅は1メートルもない。

 歩行者が肩を斜めにしてギリギリ入れ違えるくらいだ。


 たまにコンクリートの側溝蓋が割れていて、両端にカラーコーンが置かれている。

 疲弊しきった道路だけど、もっと優先されるべき場所があるんだろうと思った。



 市役所前の信号が赤だったので立ち止まる。

 運輸トラックの前に郵便のバイクが信号待ちをしている。

 市役所方面から買い物袋を持った中年の女性が横断歩道を渡る。


「あ、シズさん」


 いきなり誰かが声を出した。

 買い物帰りの女性は驚いて道の真ん中で立ち止まった。


「ああ、おはようございますう、久しぶりい!」


 そして、郵便配達の男性を見て顔を綻ばせる。


 話の内容まではわからなかった。

 軽い近況報告をしているみたいだったけど、わたしの知らない地名や行事や人の名前ばかりだった。


「あ、青」

「お元気でえ!」


 信号が変わると、あっさり会話は終了した。

 女性は何事もないように歩道を歩き、配達員は信号の先にある郵便局へ去っていった。


 なんというか、うちの地元じゃ見ない光景だったから、気になってしまった。

 視線は信号機にあるんだけど、視界のなかに二人を留めていた。



 コンビニに着く。

 念のためなかを確認してみたけど、日焼け止めは肌にやさしいものが一種類だけだったからここでは買わなかった。


 お茶を買って薬局へ向かう。



 女将の言う通り、駅前通りをぐうっと行って左側に小岩薬局はあった。

 意識してないと通り過ぎてしまいそうだった。


 うまく説明できないけど、商店と道路とが一体化してるように思えた。

 継ぎ目なく続く町屋は、きっとこの道と共に息し、このまちと共に生き続けたんだろう。


 たとえば道路が一方的に拡張したり、

 商店がショッピングモールのような画一化したりしては、

 あっという間に均衡が崩れてしまうような、そんな気がする。



 わたしの目には見えないけれど、地元の人には見える店がある。

 まるでおとぎ話みたいだけど、そんな店があっても信じられた。


 実際この薬局がそうだった。

 女将から聞かされてなかったら、わたしは「漢方の小岩薬局」の看板を見つけられなかった。



 店に入ると、50から60代の女性がレジ前で婦人雑誌を読んでいた。

 無言で見つめてくる。

 「何者だ」と言ってるような目だった。

 自分、客なんだけど、来ちゃ悪かったかな、とワケのわからないことを想像する。


 ふと郵便屋さんと女性の会話を思い出す。


「こ、こんにちは……」


 挨拶は基本。会釈をする。時間的におはようございますだけど、

 向こうも会釈を返してくれたからよしとしよう。



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