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イリエの情景~被災地さんぽめぐり~  作者: 今田ずんばあらず
石巻市篇
14/110

レトロフューチャー650円、ロマン500円

 一通り館内をめぐったあとで、三階にある展望喫茶〈ブルーゾーン〉で昼食をとることにした。


「鯨丼? そんなのやってるんだ」


 食券機の前で三ツ葉が言った。

 石巻は鯨が有名だ。

 それこそ、鯨の巨大缶詰が建つくらい。


「でも、売り切れみたいだね」

「やっぱ人気なのか。それじゃあこのカレーと009タマゴサンドにしようかな」


「カレーといったら黄レンジャーだね」

「あ、それは聞いたことがあるかも。黄レンジャーってカレー好きなんでしょ?」


 黄レンジャーのカレー、600円。

 人気ナンバーワンメニューと銘打ってある。

 黄レンジャー=カレー好きが周知されていることが窺える。

 009とタマゴサンド(230円)の関係性は謎だったけど。



「わたしは……あ、チキラーセット!」

「チキラー? それってチキンラーメン、だよね?」


 ミニライスと小鉢がセットで650円。

 なんだか三ツ葉が(いぶか)しむ目で見てくるけど、チキラーは単なるインスタントラーメンじゃない。


「そりゃ、スーパーで買ったら一袋100円とかそんくらいだけどさ、そうじゃないんだよ!

 先生がデビューしたての頃は大発明だったんだよ。

 魔法だったんだよ!


 『宇宙食と同じだ』

 『これからはあらゆるものがインスタントになるんだろうな』


 先生は作中でそう語ったくらい、未来の食べ物として受け容れられたんだよ!」


「レトロフューチャーに思いを馳せる650円ってことか」

「それから、このゴレンジャーかき氷、一緒に食べようよ」


 500円、特大サイズと書かれている。


「氷に500円って、高すぎない?」

「話題性とロマンが詰まってるからいいんじゃないかな。わたしかき氷好きだし」

「いいんじゃない? 私も見てみたい」


 それから店員に食券を渡した。


「あの、これ3、4人前サイズですけど、よろしいですか?」


 ゴレンジャーかき氷について、遠慮がちに訊かれた。

 わたしたちは一度顔を見合わせたけど、頼むことにした。



 展望喫茶という名の通り、眺めはとてもいい。

 展望席の右端に三ツ葉、その隣にわたしが座る。

 ここからだと萬画館が中州にあることがよくわかった。


 中州下流方面を展望できる。

 芝生の公園があって、遊具が見える。

 それからゆったり流れる川と、電波塔、奥には色の濃い丘があった。



 窓際に仮面ライダーのフィギュアがちょこんと並んでいる。

 一番近くのは仮面ライダー響鬼ヒビキ

 平成ライダーだ。


「仮面ライダーってあんなにいたんだね」


 三ツ葉が言った。

 常設展示室に1号から現在放送中のゴーストまでの仮面が展示されていた。


「ね。わたしV3タイプだなあ」

「クウガとディケイドかな、私は」


 最近の仮面ライダーは女性ファンも多い。

 いつだったか、ワイドショーで取り上げられていた。

 当初息子に便乗して観ていた母親がのめりこんでしまう、そんなパターンがあるらしい。

 演じる俳優が格好いいのだ。


 次枠のプリキュアでは、逆にお父さんがハマってしまうって話も聞いたことがある。



 キッチンから香辛料の香りが漂ってきた。

 これはもしかしなくてもカレーの香りだ。

 舌の裏側から唾液が出てきた。


 お腹のスペースはバッチリ空いている。



 昼食がやってきた。

 チキラーセット、カレー、そしてタマゴサンドだ。

 かき氷は食後持ってきてくれることになった。


 チキラーには白みがかったタマゴと青ネギが載っている。

 あの色と香りと、いつものちぢれ麺。


 いただきます。



「どう、チキンラーメン」

「うん……チキラーはチキラーだ」


 それは、かつて自宅で食べたときの味と変わりないものだった。

 良くも悪くもチキラーである。


 飾り気は一切ない、ちょっとかためのしょうゆ味。

 質素とも感じ得る。


 この味が当時は美味しいと感じ、驚きの味であったことに時代の流れを思い、

 また時代とともに肥えて贅沢になったわたし(たち)の舌を判然と思った。



 サラダドレッシングの売場にバジルドレッシング、

 パスタソースの売場にウニとトマトのクリームソース、

 世界中の味を知り、また手軽に食べられる。


 チキラー登場当時の感覚で語ると、そういったドレッシングやソースすら、

 作る手間を省略できるという意味で〈即席インスタント〉と言っていいのかもしれない。


 門扉の広い世の中になったもんだ。



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