旅のしおり(既読)
依利江:三ツ葉、元気?
三ツ葉:久しぶり。元気だよ。
依利江:あ、ひさしぶり!
依利江:赤貝食べたい! 名取の!
三ツ葉:また?
依利江:いーじゃん、赤貝!
三ツ葉:この前も食べに行ってたよね? 私は仕事で行けなかったけどさ。
依利江:うん。でももう再発しちゃった
依利江:職場の飲みで刺身が出てさ、それが原因
依利江:フラッシュバック!
三ツ葉:というか赤貝の旬は12月~3月だ。
依利江:こりっこりで、最高じゃん!
依利江:あれ、赤貝、旬ってあるんだ・・・
依利江:ならセリ鍋! シャキシャキだよ!
三ツ葉:セリは春の七草なんだけど。
依利江:知らなかった
依利江:じゃあじゃあ海行こう、海!
三ツ葉:閖上海岸? 好きだねえ。
依利江:三ツ葉だって好きでしょ?
三ツ葉:否定はしないよ。
依利江、今印刷会社に勤めてるんだっけ?
依利江:うん。地元でヒイヒイ働いてるよ!
依利江:で季節が変わったら東北遊びに行くの
依利江:恒例行事? みたいな?
三ツ葉:もはや日課となりつつあるよね。
頑なに東北へ越さないところが依利江らしいよ。
依利江:東北遊びに行くために働く人になりつつある怖い
依利江:ま、毎度課長からのお小言を聞くハメになるんだけどね・・・。
依利江:頑張って働きます。
依利江:空いてる日ある?
三ツ葉:今ブラジルなんだけど。
依利江:マジ?
三ツ葉:マジ。
三ツ葉:リオだからすぐ戻れるけどね。
依利江:その距離間隔よくわかんないです
依利江:感覚だった
三ツ葉:来週日曜日の13時から19時20分までならいいよ。
依利江:これまた細かい時間指定を・・・
三ツ葉:日曜は朝から盛岡で舞台の打ち合わせなんだ。
翌日は早朝から名古屋を撮る。
20時8分名取発の電車に乗れば間に合うから。
依利江:そんな時間の電車で間に合うの?
三ツ葉:中央新幹線なら品川から40分で着ける。
依利江:文明の利器
三ツ葉:松実も誘いたいところだけどここしばらくは忙しい日が続くって。
依利江:そっかあ。
依利江:会いに行こうと思ったんだけどなあ
依利江:てか、三ツ葉と松実、ほんとなかよしよね。
依利江:この前も会ってなかった?
三ツ葉:仕事がらみで女川行くこと多いからね。
行ったら松実と会うくらいするさ。
依利江:いーなー
依利江:三ツ葉も忙しいんじゃない?
依利江:最近仕事の幅広げすぎな気がする・・・
三ツ葉:ありがたいことに方々から仕事の依頼が来ててね。
大事な時期なんだよ。
写真家、ライター、イベントプロデューサー、
地域振興サポーター他諸々。
名刺の肩書だけで三行使ってるの気づいたときは
さすがに自重すべきだと思った。
依利江:うわあ・・・
三ツ葉:多すぎる肩書は不審の種だからね。
依利江:あっ、三ツ葉今ブラジルって言ってたよね?
依利江:時差あるでしょ。今何時?
三ツ葉:時差12時間。今こっちは午前11時だよ。ブランチとってた。
依利江:ごめんね、長々と。
依利江:明日仕事だからそろそろ寝ます。
三ツ葉:おやすみ。次の日曜日ね。
依利江:楽しみにしてる! おやすみなさい!
φ
「さて、と」
タブレットをバッグに仕舞う。
そろそろ取材先の店へ挨拶しに行く時間だ。
サン・ジョゼー通りのカフェテラスで飲むエスプレッソは格別だ。
リオデジャネイロに来たら必ずここで一服することにしている。
モザイク模様の通りには、ブラジル特有の熱気と活気が溢れていた。
ブラジルから日本までは27時間もあれば辿りつける。
あっという間だ。
今や遠さの指標は物理的な距離ではなくインフラの充実度だろう。
来週の日曜日。
頭のなかでスケジュールを追加する。
依利江と会うのは何年振りだろう。
前回会ったのが遠い昔のように思える。
でも実際は半年ぶりくらいで、きっと再会した途端つい先日会ったような感覚を抱くのだろう。
私たちは大人になった。
依利江とは相変わらず仲良くやっている。