悪役令嬢でしたわ
五月三十日に話を増やしました。
これは忘れもしない『ある物語』である
ただ語り継がれることを嫌い、表では無く裏の奥に隠された闇を纏う禁忌の物語
さあ、あなたが開く扉は光に包まれた物語になるでしょうか
●◯●
絢爛豪華な王宮の舞踏会で、輝く蜂蜜色の髪を持ち、星屑が煌めく紺の瞳を伏せて艶やかな淡いピンクのドレスを身にまとう私は王様から王太子様の婚約者になるようにとの王命を承けていた。
このことは、早くから決まっており小さい頃から教育を受けてきた。だからただの確認する為の儀式。
しかし、この事を待ち望んでいたのは確かで、やっと叶うことの嬉しさに顔がほころぶのを抑えきれない。
幼き頃から想いを寄せてきた、あの大好きな王子と正式に婚約する事が出来るのだ。
しかし、そんな中で私は嫌な予感がしだした。まるで身体が拒否するかのような頭痛が起こったのだ。
王の御言葉が終わるまでは耐えたが、終わった瞬間に身体の力が抜ける。
よろめく体を細く華奢なハイヒールが耐えられるはずもなく地面が近づく。
そして、世界が暗転した。
脳裏に浮かぶ数々の出来事。知らない世界の知識が頭を駆け巡る。
たった数秒の出来事だったはずなのに、私には十数年の時間が一気に過ぎ去ったかのように思えた。
そして再び瞳を開けたとき、今まで抱いていた感情が嘘のように収まった。あんなにも想い慕っていた王子にはどんな感情もわかず、艶やかなドレスは動きにくい服だとしか感じなくなった。
せめて王命がかかる前だったのならば抵抗も出来たというのに、何故今思い出してしまったの?
涙が零れそうになる。
今の現状を滑稽なお芝居だと思ってしまえばもう元の気持ちには戻れない。
そして、諦めたのだ。この目の前にいる王子様の妻になる事を………
●◯●
私は、クライアス・ナユールといいます。この国を創られた当初からある伯爵の一人娘であり、今、このサラミナ国の王子であられるユマール・サラミナ様との婚約者になった悪役令嬢でございます。
えっ、なぜ悪役令嬢だと分かるのかですかですって? それはご想像通りだと思いますが、転生者らしいのですよ。たった今思い出したので、確証がありませんが………
実はこの世界では転生者は珍しくはありません。しかし、あまり表に出ることを嫌い辺境で活躍なさることが多いみたいです。そして、有名な方々は数々の偉業を成し遂げた。
しかし私は、歴代の転生の皆様方みたいに知識の活用は出来ないです。それにもう過去の方達が伝えた数学や、日用品なども前世よりも魔法がありますので、私が元いた世界よりも発展しています。
また私が亡くなったのは学生の時らしく、十六歳程度で分かることも少なかったみたいですので………
勉強は嫌いであり、どちらかというとアウトドアが好きな少女だったみたいですわ。
まあ、今の私の状態は、性格が混ざり合ったりすることなく、過去を頭の中に知識として回収したと言う方が的確でしょう。亡くなられたときの状況を楽観的に感じられるのが証拠でしょうか?
それで私がなぜ王子を諦めるのかと申しますと、この世界は例に漏れず乙女ゲームの世界らしいのですわ。当たり前ですが、必然的に王子は攻略対称であらせられ、婚約者の私は悪役令嬢となりました。まあ、前世の言葉を使えば、『なんて、テンプレ』ですわね。
それにしても、今から王子の事を評価するとすれば、ただの甘えん坊のお坊ちゃまで王族だからといって自身が偉いかのように振る舞っている俺様ですわね。
きっと私のことも面倒くさいとでも思っているのでしょう。
しっかし、この婚姻は政治的な要因も関わっていますしこちらから破棄は難しいでしょうね~
それでもヒロインさんがいるのでしたら熨斗を付けて差し上げたいのですわ
受け取ってくれますかしら?
●◯●
記憶が甦ったからといってなにが変わることもなく穏やかな日々を送っております。どうやらゲームの世界の始まりは三年後の春からみたいです。丁度王立の学校に通う時期です。もちろん此処が現実なのはわかっておりますけどこの世界には神が確かに実在しているので、あの話とこの世界のこととは別だと考えてしまうと拙いのです。それにあまりにも似ていることが気にかかりますしね。もし関係ないとわかっても対策はしておいた方が絶対にいいですしね。
全く、私が関係ない部外者だとすれば楽しめましたのに………
まぁ、わかるとは思いますけどこのゲームにはまっていたのですわ。どうせならばヒロインになりたかったですのに。
そういえば、私が婚姻したユマール様はあの舞踏会から顔をあわせていませんわ。今までは鬱陶しいぐらい張り付いていましたが、もうそこまでの執着心もありませんしね。
どうやら、私は親に認めてもらいたい一心で王子にくっついていただけのようですわ。
まあ、恋ではなく義務としていた部分もあり記憶が甦ったことにより気持ちに余裕が出てきて視野が広がったことによってそんな焦りはなくなりました。
それにあまり近づきすぎるともしヒロインが現れたときに気まずくなってしまいますしね………
そう思っているのですか、最近王子からのお誘いの言葉がかかりそうです。
どうやら今までちょろちょろ周りにいた私が居なくなったことが寂しいらしく、わざとらしく私の部屋の側に出没するようになりました。
軽く鬱陶しいです。どれだけ私が鬱陶しかったかよくわかります。
しかし、最近は親とも良い距離を保てているためとくに王子は必要ないんですよね
それに、王子もなんだか無理をしているみたいでぎこちないんですよね
後三年の間に私の問題はすべて片づけておきたいですわ
上手くいけばバッドエンドだけでなく、王子との婚約も破棄できそうな予感がするんですよね……
まあ、出来る限りの事は手を抜かずにやろう
人生何とかなるときは何とかなると誰かが言ってた気がするしね~
●◯●
それから月日は流れ
あれから三年がたちました。
えっ? 早いですか?
まあ、私にとっても早い時間でした。あれから王子とは仲の良い友達ぐらいの距離で落ち着きました。なんと王子はすでに好きな方がいたのです。どうやらゲームの世界ではその方が病気で亡くなられてその落ち込んだ所をヒロインにつけ込まれたらしいですわ
まぁ、私の前世から病名がわかり大事には至りませんでした。それから、王子とは無事に婚約破棄する事が出来ました。
しかも、王子からだったため私の名前に傷が入ることはなく、王の力を使って誰とでも結婚出来る権利を貰いました。王命を取り消した代償は王族というバックアップということで話がつきました。
まあ、ここは私が好きだった世界ですから好き勝手にしたいですしね~
こうなってくると学校が楽しみで仕方がありません。
ヒロインもいるかな~
三年前はこんな気持ちにはなりませんでしたが、今はこんなにもわくわくしています。
さあ、新しい一歩目ですわ
そう思いながら大きな門に向かって歩き出した。その瞬間にどこかで感じた嫌な予感がした。
寒気がはしる。何か大切なことを忘れているという焦燥感がわきおこる。
駄目! 今意識を失ってはいけない。大切な事が思い出せない
それでも、体から力が抜ける。倒れることを回避できない。意識は闇に呑まれた
私は知らない。意識を失うまでの僅かな時間に流れた機械音の事を………
この世界の事実を………
『デレレレ! オメデトウゴザイマス。あなたは《ユマール殿下の受難》を上手くクリアー致しました。それでは新しいステージに変更いたします。どうぞ頑張って下さいませ』
これで一応終わりです。
お読みいただきありがとうございました