はじまり
私は考えていた。
どうしたらこの数学をやらなくて済むだろうか。
いや、そんなのは簡単なことだ
世の中から数学をけしてしまえばいい
自然に帰る、それこそが真理。野生の姿に帰りましょう。それが一番よ。
数学なんてなくたって生きていける。私の偉大なる祖先がそれを証明してくれているわ。
生命の起こりからずーっと。ずーっと。数学なんてなかったのだから。
さて。
何をしているんだろう。私は。
今頃まじめに数学解いていれば、点数なんて簡単に取れるのに。
私は優秀なのだから。
生まれながらにして勝ち組。優秀な両親のもとに生まれ、何一つ不自由なく過ごしているわ。最高で、最愛の存在。
精神世界、シャルはいつだって春のやさしさが包み込むような、ご機嫌のセカイ。強固な基礎を持って、硬く、まっすぐに。
柔軟なシールドがあるイメージかな。どんな困難が突入してきても、ふんわりと流し受けできる。
そして認識し、私の全力を費やして処理するの、何があったって大丈夫だわ。
「琴乃さん」
何なのもう。せっかくシャルで楽しんでいたというのに。
「何?」
不機嫌に、そしてぶっきら棒に答えたい。シャルはそうしたがっている。
でも常識ある私のミールは微笑を崩さない。それこそが最強の処世術だってことをまなんでるから。
処世術って魔法みたいな響きね。案外魔法の一種といえるかもしれないわ。
魔法を使うことで人々の心証を操作する、まさに魔法そのものよ。そうね、私は魔法使いだったのね。
私の思考には整理された軌道なんてない。
気の向くままに考えを膨らませ、次々と思考を進める。それこそが私。
あほな凡人にはあきれたものね。彼らはすぐ私を病気扱いしてきた。
突発的に話題が飛ぶ、アスペルガーといったかな。
これを私は天才思考症候群と名付けたわ。知性の壁を突破した勇者にのみ与えられる名誉ある称号。凡人はこれにあこがれているの。
そもそも病気って何なのかしら。人と違うことが病気なら、セカイは死臭で腐ってしまうわ。シャルの許されざるセカイなんて桜の無い京都のようなものよ。
そして今私は何かを話しているわ。でもそんなものは私のシャルに影響しない。これこそがスペックの高さ。
話すと同時に頭の中ではまったく別のことを考える。そのうえシャルには優雅なクラシックまで流れているわ。
この凡人は世間話と愛想笑いが大好きなのね。面白くもないことにどうして声を上げて笑うのかしら。
心にもないことをいうの、何故?
沈黙を嫌うの、何故?
沈黙はシャルを呼び覚ます最高の儀式。私のシャルは力を得て飛揚するというのに。
「好きです!付き合ってください!」
また心にもないことを言ってる。凡人にはあきれたものね。
そんな内心とは裏腹に、ここでも笑顔を崩さない私のミール。
数秒の沈黙ののち、私はこう答えた。
「うん、よろしくお願いします」
その日は2月4日、クラシックは鳴りやまないまま、私が始まった。