帰り道
「ふざっ……けんな!」
閑静な住宅街の道に捨てられたごみ袋の山にボロボロの状態で埋もれるサングラスを掛けたチンピラのおじさん。
私は自分の手を見つめていた、さっき自分がやった行動が信じられなかった。
「くっ……あああああああ!」
おじさんが立ち上がって拳を向けて殴りかかってくるのが見える。
どうしてこんなことになったんだっけ?
事態はほんの数分前に遡る――
その日は部活が終わり普通に家に帰っていた筈だったのだ。
私が通る道は狭く、とっても暗い、それを知っていたのか先程のチンピラのおじさんが「嬢ちゃん、遊ぼうぜ?」と、言って私を何処かにつれていこうとした。
そうしたらこれだ。
自分でもよくわからないが私はそのおじさんの手を払い「おいおい、抵抗するのか?」と言われた瞬間おじさんの顔を殴ったような気がする、しかもグーで。
そのとき私は自分が自分じゃないような気がしていた、まるで別人格が乗り移ったように。
そうしておじさんはごみ袋の山へ、私はただ呆然としていた。
「くっ……あああああああ!」
拳を振り上げ殴りかかってくるおじさん。
動くものが全てスローモーションに見える。
私は一体どうしたのか、そんな事を考えている暇もなく私はおじさんの鳩尾目掛け拳を振り上げる。
もう少しと言うところで誰かがおじさんの後ろから鉄パイプを振り上げた。
バコッ。
嫌な音がしておじさんはうつ伏せに倒れた。
後ろから鉄パイプで殴った本人に視線を移すと、顔の整った茶髪の青年が冷たい目でおじさんを見下ろしている。
私の視線はその着崩した制服に移されていた。
その制服は、私と同じ学校の制服だ。
すると私の視線に気づいた青年は顔を上げて私の顔をじっと見つめてきた。
「七星兎月」
急に口を開いたかと思うと私の名前を呟く。
何故私の名前を知っているのかは知らない。
「えっと、何か」
とりあえず、何か答えなければならないと思って口を開いて出てきた言葉はこれだ。
すると彼は手を出して此方に来いとでも言うかのように手招きしてくる。
行かないと怒られるだろうか、と思いつつ彼が居る場所へ歩いていく。
「お前、能力を持って居るのか?」
小声で言われる、その言葉の意味はわからない。
「能力、とは?」
なんのことかわからないのでとりあえず聞いてみる、彼は急に顎に手を当てて考え込んだ。
暫くすると彼は顎から手を離し口を開いた。
「説明すると長くなる、明日の放課後放送室に来い」
そう言い放つとじゃあな、と手を振り闇へ消えていった。
彼の姿を見送ってから私も帰ることにした、チンピラのおじさんはとりあえず気絶しているだけなのでごみ袋の山へ寝かせておく。
鞄からスマートフォンを取り出してロック解除画面を見る、時刻は六時十三分を表示していた。
空を見上げると、満月が空に浮かんでいた。