君と犬
柔らかな昼間の日差しがひんやりとした冬の空気を暖める。きゃあきゃあとこの寒い中はしゃぎ回る子供達を横目に、僕は縮こまって鼻を啜った。
この誕生日の今日に、彼女に振られたとか、こんな不幸なんてない。ずうっと前から約束してた待ち合わせの時間にその場に行って"別れよう?"なんて言われるの、誰が想像できただろう。
平和な休日の公園で、じとじとと情けなく泣く僕に子供も大人も訝しげな目線を向けてくるけど、そんなもの気にすることも出来ないくらい僕の心はドン底だった。
「うぅ〜〜……」
幸せな日になる筈だったのに。またまたじわりと涙が溜まる。どうにも僕には止めようもない。
「――あ、危ない!」
「……へ」
大きな声に驚いて顔を上げた僕の目の前、黄色の何がポコーン、と軽やかな音をたててぶつかった。流石に涙なんか引っ込んで、僕は呆然とする。
「ごめんなさい!大丈夫ですか!?」
「あ、へ。だ、いじょぶ、です」
駆け寄ってきたジャージ姿の化粧っ気のない女の子とゴールデンレトリーバー。ひっつめ頭の女の子は僕の顔を見て一瞬目を丸くすると、不意にグッと僕の腕を引っ張って無理矢理立ち上がらせた。
「わ、わ、な、何?」
「遊びましょう!体を動かすと、嫌なことは忘れられますから!」
僕を見上げてその子は笑う。歯を出してにっこり、ちょっと悪戯っ子っぽく。
僕とその子の足元の周りをゴールデンレトリーバーはグルグルと回る。いつの間に拾ったのか、さっき僕にぶつかった黄色いボールを咥えて、尻尾は引き千切れんばかりに振り回されている。
「アレックスも君が気に入ったみたいです!さ、行きましょう!」
「え、待って、引っ張んないでよっ!」
見た目以上に力の強いその子に引っ張られてつんのめりながらも前に進まされる。
結局、僕はその日、犬と女の子に振り回されて誕生日を終えた。運動不足故の倦怠感は残ったものの、失恋の傷はカサブタになっていた。