恋愛革命87
祖母はお地蔵さんのように優しく、死ぬ間際には、日本人も朝鮮人も無いよと言っていましたねと、ホスト亭主は言った。
ワンレンの女子大生が尋ねる。
「失礼ですが、お母さんは?」
ホスト亭主が神妙な顔付きをしてから答えた。
「母は父と離婚して、既に亡くなりいません」
女子大生が同情を禁じ得ない目付きをしてから、敢えて尋ねた。
「何故夫婦別れしたのですか?」
ホスト亭主が遠くを見詰める目付きをしてから答えた。
「父がギャンブルに狂って浮気をし、母は逃げ、だから自分は祖母に育てられたのです」
女子大生が会釈してから言った。
「すいません。こんな事まで尋ねて良いか分かりませんが、お父さんとは今でも連絡とかは取っているのですか?」
ホスト亭主が答えた。
「いえ、縁を切りましたから、今何処にいるのかも分かりませんよ。ただ…」
「…ただ?」
ホスト亭主が答える。
「ただ、親父はどう考えているが分かりませんが、祖母は死ぬ間際には日本人を憎んではいませんでしたね。お地蔵さんのように優しく、日本人も朝鮮人も無いと言っていましたから。その影響で自分も日本人に対する差別意識は殆ど消えたのですが、母を失い寂しい少年時代を過ごした、根本原因である、世の中に蔓延する差別偏見、蔑視の構造意識を、自分は心から憎んでいるわけです」




