恋愛革命55
売春婦という言葉も、おいらんを汚す言葉だと私は思いますと、お下げの女子大生は言った。
講師が助言する。
「売春概念という言葉を使用した場合、その意味合いは広義となり、江戸期にも遡る形は窺えますね。それは否めない事実だと思います。逆に売春婦という言葉は遊女との区別化というニュアンスがあり、現代風だと思えますね」
サラリーマンが大きく相槌を打ち、言った。
「それ見ろ。売りという言葉は現代風の売春婦を指すんだ。愚か者め!」
講師がもう一度いなす。
「いや、でもそれは曖昧なニュアンスのそれで。明確ではないことを添えますが」
サラリーマンが憤る。
「おい、はっきりしろよ。あんただって所謂官僚崩れみたいなものなのだから、一般市民の味方な筈だろう?!」
講師が姿勢を正し尋ねる。
「一般市民とはどんな輩を指し示しているのですか?」
サラリーマンが即答する。
「善良なる市民さ」
ホスト亭主がすかさず物申す。
「善良だと錯覚している差別偏見の構造意識こそが、おいらんを汚した根源ですよね。ならば善良イコール蔑視の所作になりませんか?」
サラリーマンが言い切る。
「ならないね。そんなの、なる分けがないのさ。善良は善良じゃないか!」
ホスト亭主が言う。
「悪意としての善良ですか?」
サラリーマンが怒鳴る。
「だから、善良と錯覚していようが何だろうが、現代人は法で禁じられた売春を蔑んでいるんだ。それに広義の判断もへったくれも無いだろう。善良なる市民のそれが善意そのものなのだから。違うのか?!」
ホスト亭主が冷静に言う。
「それを正そうとしているのが、このセミナーの趣旨ですよね?」
講師が発言しないお下げの女子大生を促した。
「貴女はどう思いますか?」
女子大生が答えた。
「売春婦という言葉も、おいらんを汚す言葉だと私は思います」




