恋愛革命52
所謂チクリですねと、ホスト亭主は言った。
ワンレンの女子大生が風邪で欠席した状態でセミナーが再開された。
講師が言う。
「こないだの続きと言う事で、後の二人に教科書への改訂記載事項を尋ねたかったのですが、一人欠席したので、その議題は次回に回す運びとしましょう。ですから本日も引き続き売りという語句が社会にもたらす影響とその背景について論じ合って下さい。よろしくお願いします」
サラリーマンが言う。
「売りという語句に賎しい響きがあるからこそ、人はそこに無意識なりとも、優越した感じを持ち、鷹揚に買いに回る現象が生じるのだから、それはセーフティー装置と同じく社会システムを支える絶対に必要な項目ではないか。俺はそう思うが、どうだ?」
ホスト亭主が空きの席を一瞥してから反論する。
「でもそれが差別用語として機能する場合、暴力誘発装置にもなるわけです」
サラリーマンが苛立ち言う。
「それは仕方ないではないか。売春や援交は犯罪なのだし、蔑まれて当然なのだから。違うか?」
ホスト亭主が反論を重ねる。
「その蔑みがエスカレートして、ネットなどで残忍な集団虐めの道具に使われ、悲惨な暴行事件に至り、死人も出ている現実があるわけです」
サラリーマンが喚く。
「何度も言うが、被害を被る奴はそれなりの罪を犯しているから、必然的にやられるのだろう。そこに至る罪を断罪しないで、加害者ばかり責めるのはおかしいと俺は言っているのさ!」
ホスト亭主が言う。
「逆差別の連鎖ならば、その連鎖を断ち切る事が肝要かと思いますが」
「そんなの出来るわけないだろう。怒り狂っているから喧嘩に発展するのだろう。違うのか?!」
ホスト亭主が冷静に言う。
「頭を冷やす第三者の視点を持てば、悲惨な事件は概ね回避出来ますよね?」
サラリーマンが目くじらを立てる。
「それが出来ないから暴行事件になるのだろう。綺麗事言うなよ。この世なんて差別偏見の構造意識しか無いのだから、それ以上のものを一般市民に望むなと言うんだよ。神じゃないのだから!」
ホスト亭主が言う。
「人間は神ではありませんが、でも組織立って動く事も可能な生き物でもあるわけです。その組織が、ある狙いの下に差別偏見の構造意識を利用して、個人を執拗に責め苛むネット中傷などを繰り返していたら事ですよね?」
サラリーマンが反論する。
「そんなのあるものか。ネットの集団虐めは個人単位のものばかりじゃないか!」
ホスト亭主が否定する。
「いえ、水商売にも隠然とありますが、店対店の足の引っ張り合いは絶対に存在していますよ。個人対個人の振りをしたネット中傷なのですが」
「それは何だ?!」
ホスト亭主が答える。
「ネットは司法に監視されている側面を利用した、所謂チクリですね。匿名の」




