恋愛革命31
それぞれの思惑を胸に、セミナーは再開された。
セミナーが再開された。
サラリーマンとお下げの女子大生の間にあるわだかまりは、当然誰の知る由もなく、ワンレンの女子大生がホスト亭主の店に行った事なども暗黙の了解で秘め事となっている中、セミナーは進行して行く。
講師が言った。
「興味深いところで売笑という語句に焦点を当てて論じてみて下さい」
ホスト亭主が先陣を切った。
「営業スマイルは商売人にとっては欠かす事の出来ない必須項目となるわけです。ある商品を売るのに真心を込めてその商品の良さをアピールする時、営業スマイルは絶対に欠かせないものであり、そのスマイルが取り引きを円滑にすると言っても過言ではないわけです。それを買い手が裏に回って売笑だという構図は正に遺憾であり、狂った差別偏見の構造意識としか言えないと、自分は思います」
サラリーマンがお下げの女子大生と視線を合わせないように注意を払いながら、反論する。
「でもその蔑みは仕方ないと俺は思う。買い手が売り手を蔑むのは優越と劣等の瞬間的な立場の隔たり認識であり、売り手は言わば頭を下げて、その劣等に甘んじて、儲けを掴むわけで、それが商人の腰が低い商人根性ならば、その商人は商品を売った事によって逆の意味での優越感を得るのだから、ある意味買い手のその蔑みは、両者の対等関係を示唆しているのではないのか?」
講師がサラリーマンを促す。
「もう少し簡潔に言って下さい?」
サラリーマンが答える。
「つまり両者は、売笑という形をとろうとも、それぞれが腹のうちでは優越者という事で、対等ならば、裏に回っての蔑みは仕方ないという事さ」
ホスト亭主が発言する。
「お互いに優越感を抱き、腹の内では双方共に蔑みの構図ならば、それは正に差別偏見の構造意識の縮図と言えますよね?」
サラリーマンが強く主張する。
「でもそれは仕方ない不可抗力だろう。商売には欠かせないしたたかな意味での現象なのだから。その差別偏見の構造意識が機能しているからこそ商売というのは成り立っているのだし、いい商品はその差別偏見の構造意識を流通経路にして流通するわけだから。違うのか?」
ホスト亭主が突っ込む。
「その流通システムを自分は糾弾しようとしているわけではなく、その蔑みの部分は余計なものだと申し上げている次第なのですが?」
サラリーマンが声を荒げる。
「そんなの仕方ないね。人間と言うのはそういう動物なのだから、変わりようがないじゃないか!」
ホスト亭主が告げる。
「双方共に相手の立場を尊重し合うという意識もあるわけで、それだけにはなりませんかね?」
サラリーマンが怒鳴る。
「ならないね。善意の裏側には悪意があるわけで、その蔑みこそが生きるバイタリティーになっているのだから!」
ホスト亭主が首を捻った。
「そうですかね。無意識に善意だけの人も一杯いますよ。売笑を蔑む方が特殊なのでは?」
サラリーマンがホスト亭主を睨み付け言う。
「あんた達水商売の人間が営業スマイルを売笑になり下げたのではないか。あんたの言っている事は本末転倒だと言うの!」
お下げの女子大生が挙手して発言した。
「でもたかが水商売と馬鹿にするお客さんにも、その責任はあると思いますが」
サラリーマンがお下げの女子大生を無視する素振りをしながら、怒鳴る。
「そんなのは無いね!」」
お下げの女子大生が断言する。
「そういう蔑みは絶対にあると思います!」




