恋愛革命165
さようならと、ワンレンの女子大生は言った。
朝方の海辺。
潮風は冷たく、その風を避けるようにホスト亭主はワンレンの女子大生を車に誘った。
助手席に乗り込んだところで、女子大生が切り出した。
「私は差別偏見の構造意識に毒され、鬱病になり、その病んだ心を自分で治し、おいらんのような力強く美しい心を獲得する為に生きて来ました」
ホスト亭主が頷き言った。
「そうですね。その通りだと思います」
水平線に横にたなびくような雲がかかり、その雲が太陽を隠している分、日の出を直視出来る。
まるで太陽から茜色に染まる雲が出現し、たなびいているように見える、その景観は息を呑む程に美しい。
女子大生が続ける。
「そして私は社会性とかを度外視した階級意識から抜けた自分自身のプライド、力強い心を獲得する為に、新しい恋を探していたのです」
日の出を凝視しながらホスト亭主が頷いた。
「そうですね」
女子大生が日の出を見詰めながら続ける。
「そして私はセミナーに出席して、史実改訂を勝ち取り、差別偏見の構造意識に楔を打つ第一歩を踏み出しました」
ホスト亭主が恭しく頷く、その間を図るように女子大生が続ける。
「そして私はあなたに出会い恋に落ちました。でもその恋は差別偏見の構造意識が作り出した社会システムに裏打ちされた擬似恋愛だったのです。でも私はその擬似恋愛に溺れ、あなたを本当に愛してしまいました」
ホスト亭主が相槌を打ち、答える。
「そうですね。我々ホストが発信する擬似純愛も、おいらんを侮辱する概念は入っていますからね。欺瞞的であり詐欺的ですよね。それは認めるしかありませんね…」
女子大生が涙ぐむが、それを指先で拭い続ける。
「だから私はこの恋とお別れします。でも、それは史実改訂が成った、愛でたい門出でとしての別離であり、私の忌まわしい過去、病気との別離なのです」
ホスト亭主が目頭を濡らしながら相槌を打った。
女子大生が声を震わせて力強く言う。
「そして私は愛するあなたに、もう一言、私の秘め事を言いたいのですが、その言葉を言おうかどうか迷っているのです。その言葉を言うと、私の病気が再発する恐れがあり、私はそれが恐くて、迷っているのです…」
ホスト亭主が答える。
「病気が再発する恐れがあるのならば、言わない方がいいでしょう?」
女子大生が日の出を凝視し、もう一度滲む涙を拭ってから言った。
「でも私はあの力強く美しい日の出を見ていて、言おうと決意しました。私はあなたと別れ、このセミナー会場からも去ります。そして…」
ホスト亭主が小声で尋ねる。
「…そして?」
ワンレンの女子大生が言った。
「私は他のセミナー会場に行き、おいらんの意志を継ぐべく、差別偏見の構造意識と断固闘います。だから又どこかで、お会いした時には、同志として共に闘いましょう。どうか、その時はよろしくお願いします。そして私の言いたい一言は…」
朝焼けを見詰めなから、もう一度手の甲で涙を拭い、ワンレンの女子大生が言った。
「さようなら」
史実改訂を第一歩として、差別偏見の構造意識と闘い続ける男女の物語はまだまだ続きます。拙い筆でしたが、皆様有り難うございました。m(__)m