恋愛革命125
徹底的な精査と言うか、シュミレートあるのみですねと、教授は言った。
講師が言う。
「ならば先生、大臣にそう答申すればよろしいのではありませんか?」
教授が逡巡する風情で首を振った。
「いや、世間の動向を窺いましょう」
講師が尋ねる。
「やはり予測不能のクレームをおもんばかっての事でしょうか?」
教授が頷き言った。
「この改訂概念が定着したのを予測しての社会科学的なシュミレートはコンピューターを以って幾通りにも繰り返しているわけです。でも…」
講師が訝る。
「でも?」
教授が答える。
「でも私が恐れているのはコンピューターで計算不能の第三概念の事なのです」
講師が怪訝な顔付きをする。
「第三概念ですか。何かオカルトじみていますが。心理学を含めた統計的社会科学はオカルトとは一線を画すものですよね?」
教授が頷いた。
「当然です。だから私が言わんとしている事はオカルトではないのです。社会科学的な意味での第三概念の存在ですね。それを記号膠着型の神ではないコンピューターには予測不能なのです」
講師が首を捻る。
「意味分かりません。具体的に言ってはくれませんか?」
教授が答える。
「具体的に言えば新種の思想ですね。例えばですよ、おいらんの純愛概念を尊重する、イコール現代純愛概念の否定という図式はコンピューターでは予測出来なかった新種の思想的発露であるわけです。それから演繹して、私は事を慎重に構え、徹底的な精査を繰り返しているわけです。はい」
講師が尋ねる。
「それによる混乱を恐れているのですか?」
「混乱もそうですが、人間の感性はコンピューターとは正に一線を画すわけですよ。その感性から抽出する新しい思想に出会った場合の事を想定すると、私は後悔したくないわけですよ」
講師が尋ねる。
「第三概念の思想台頭により、定着した史実改訂の意味がなくなる事を恐れているわけですか?」
教授が頷いた。
「そうですね。だから徹底的な精査と言うか、シュミレートあるのみなのです。はい」