恋愛革命
失恋した直後、ホスト亭主はセミナーに召喚された。
純愛概念の史実変換、教科書改訂に関する諮問セミナーだ。
傷心に疼く心を何とか自己管理、整理してから、ホスト亭主はセミナーに臨んだ。
講師は文部科学省の諮問機関である教科書問題に関わる公益法人の局長。
他に民間から、アトランダムに選定された民間人が出席しており、人数は総勢五人の小規模セミナーとなっている。
セミナーが始まった。
講師が口火を切る。
「恋愛論の売春概念潜在化に関しては、あらかた証明済みであり、改訂教科書に記載される運びとはなっておりますが、記載する事項、語句に関しての議事を進めたく、よろしくお願い致します」
サラリーマンが挙手して、講師がどうぞと促した。
「語句とは、具体的に言って下さい?」
講師が答える。
「売春概念や所謂野卑な語句である売りと言う言葉ですね」
サラリーマンがひとしきり笑ってから言った。
「売りなんていう言葉は問題外でしょう。文部科学省にそんなの答申したら大問題でしょう?」
ワンレンの女子大生が挙手して、発言した。
「現実を生々しく捉えるならば、売りという言葉を教科書に載せるのはそれなりの意義があると思います」
サラリーマンが声を荒げて言った。
「そんなのナンセンスだ!」
ワンレンの女子大生が応じる。
「いえ、ナンセンスではないと思います。その言葉こそ、語句、言語に対する差別意識だと私は思います」
講師がもう一人のお下げ髪をした女子大生に質問した。
「あなたはどう思いますか?」
お下げの女子大生が答える。
「私は売りと言う言葉を教科書に記載することは意義があると思います。歴史はその時の生々しい世情を後世の人々に伝えるものならば、飾った意味合いではなく、生々しい方がより説得力があると、私は思います」
サラリーマンが強く否定する。
「教科書はドラマの台本じゃないんだ。生々しければいいという問題じゃないだろう?!」
講師がどう思いますかと、ホスト亭主を促した。
ホスト亭主が答える。
「僕は現行の純愛概念に潜在化している売春概念の蔑みを、より浮き彫りにするならば、売りという言葉をぶつける形式は妥当だと思います」
サラリーマンがむきになる。
「おい、勘弁してくれよ。改訂対象は教科書だぞ。エロ漫画の類じゃないんだ!」
ワンレンの女子大生が反論する。
「それは差別用語だと思います!」
サラリーマンが真っ向反対意見を述べ立てる。
「エロ漫画はエロ漫画じゃないか。エロ漫画をエロ漫画と言って、どこが悪いんだ!?」
お下げの女子大生が発言する。
「確かに教科書というジャンルと、エロ漫画というジャンルは違うものだと思います。そこには明らかに格差断層があるからこそ、それぞれの存在理由は成り立っているのも事実だと思います。でもその垣根を取り払ってしまえば、エロ漫画も教科書も、現代に確実にある現実問題であり、それは生々しい現象なのではありませんか。生々しければそれに格差をつけて差別化する方がナンセンスだと、私は思います」
ワンレンの女子大生が発言を添える。
「それは私も賛成です。私は様々な形の差別偏見の構造意識に毒され、鬱病になってしまった口ですから、尚更ですが」
講師が議事を進める。
「では、売りという言葉に対する賛成、反対意見の議題で話を進めましょう」