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ソウル ロンダリング(Soul laundering)

ソウル ロンダリング 外伝 ハートのありかと矢の行方

作者: 富田林 浩二
掲載日:2026/05/12

 ※漫画原作用にとシナリオ形式で書いたため、そのままで掲載いたします。※

 (ちなみに、某漫画家さんが廃業したため漫画化は頓挫しました)

 ソウル・ロンダリング2(裏導師) 饒舌な鏡 ~南大阪御伽草子~(仮)の『おまけ』の続きです。


 では、本編どうぞ。

 店内がめちゃめちゃになったメイド喫茶。

 従業員通用口の鍵を開け、ゼネコン社員で裏導師(彷徨う霊魂をあの世絵と送り出す人)である、長野(ながの) 玄宗(げんしゅう)が、ネクタイ・スーツ姿で、紙袋を持って鼻歌交じりに入って行く。

 それを電柱の影から、一人の老人がそっと見ている。


 玄宗さんは『従業員控室』と書かれたドアをノックし、中の様子をうかがう。

 休憩室の奥の隅で、7人のメイドさんと店長らしき男性が、ひとかたまりになって震えている。

 その従業員の一同の前を、半透明の人間、いわゆる幽霊がうろうろしている。

 その幽霊は、バンダナ鉢巻き、リュックに丸めたポスター二本挿し、という、一昔前のオタクの王道を行く姿だった。

幽霊「ねえ、ここにいるんでしょ?」

店長「だ、だ、誰がですか?」

幽霊「メイド界のカリスマアイドルユニット『Z小町』」

店長「彼女達は、去年引退して、もうここには…………」

幽霊「早く連れて来いよぉ。でないと、もっとお店滅茶苦茶にするよ?」

店長「今呼びに…………」

幽霊「本当かっ! いつまで待たせんっだよぉ!」

 と、幽霊が店長達に近づくと『バチッ』と、幽霊がはじかれる。

 店長さんやメイドさんには見えないが、大蛇が店長と幽霊の間にいて、一定以内の距離になると大蛇が尻尾で幽霊をはたく。

 ちなみに、幽霊にはこの大蛇が見えている。

玄宗「メイド~、いや、まいど~」

 と、ベタに玄宗さんドアを開けて入る。

玄宗「お待たせしました~、Z小町さんたち準備が整いました~」

幽霊「来たのか? 本当か?」

玄宗「はい、あなただけのために来ましたよ」

幽霊「そうか」

玄宗「はいこちらで~す、ど~ぞ~」

 と、幽霊はいそいそと玄宗さんの後につき従う。


 店内の一角だけ、壊れて散乱したテーブルや備品をどけてテーブルを整えて、そこに三人のメイドさんが幽霊と玄宗さんに背中を向けている。

 長身の一人は、キレイな黒髪のストレートに長めのスカート。

 もう一人は、茶髪のツインテールに短めのスカート。

 もう一人は、ショートボブに長めのスカート姿。

 そして三人は振り返る。

 長身黒髪は、ナイズバディーで派手な顔立ち。

 もう一人のツインテールは、おとなしそうなめがねっ子。

 もう一人のショートボブは、恥ずかしそうに下を向いている。


 三人「「「お帰りなさいませ、ご主人たま~」」」

 と、言いながら長身のメイドさんが、幽霊と腕を組んで席に案内する。

幽霊「本当? 本当に本物?」

般若「本当に本物ですよ~、ねっ、みんな」

 と、目元の六芒星型の付けぼくろが魅力的な般若さんが、かえでにウインク。

かえで「えっ、ええ、本当です、はい」

 と、かえでは、付けまつげをパチパチさせてどぎまぎ答える。

角成「 …………」

 角成は黙って下を向いている。

幽霊「こっちがロングヘアーでナイスバディーなカタミネさん。こっちのツインテールはドジっ子のナベさん。そして、こっちのショートボブが、ノニさん」

 とその時、幽霊が般若さんの胸元に手を伸ばす。

かえで「どらっしゃ~い」

 と、全力で幽霊をぶん殴り、幽霊が吹っ飛び、店の備品が飛び散る。

かえで「おのれ、カタミナ姉さんに、なにさらすんじゃい、あぁ?」

角成「ちょっと、かえでちゃん、じゃなかった、ナベさん」

 と、おろおろするノニさんの角成。

玄宗「ナベさんはドジっ子やから、うっかりしてすぐ腕力を行使する~。…………お客様大丈夫ですか? こういうお店では決してセクハラは許されません、ご存知でしょ?」

 と、幽霊を抱き起こしながら言う。

幽霊「でも、殴るって、メイドさんなのにヒドイじゃないか」

 と、幽霊さん涙目と鼻血。

かえで「うおりゃぁ」

 と、全速力で走って来てのとび蹴り。

幽霊「うぼはだっ」

 またしても幽霊吹っ飛び、店の備品吹っ飛び壊れる。

かえで「おのれは他人に失礼こいて、謝罪の言葉も反省の色もナシか? ああ? シカトぉ? 上等やんけ!」

 額に#マークつきでかえでが仁王立ち。

般若「玄ちゃ~ん、私この服装もう飽きたぁ、帰っていい?」

玄宗「ええっ、早ッッ!」

般若「着るまでは、すんごいかわいい~、って思ってたけど、実際に来たら鏡無いと普通、ということに気付いた。高級車乗ってる時、ショーウインドウとかに映るまで、豪華な内装とか、すぐに見飽きるのと、感覚としては同んなじやわ」

角成「あのぉすいません、僕も着替えていいですか? 僕、スカート初めてはいたけど、ムリです」

 と、赤面して言う。

幽霊「お前ら、今何て言った?」

 と、血まみれでボロボロになった幽霊。

玄宗「キミな、殴られた時点で気付けよ。一般人はお前に触われんやろが」

幽霊「そうか! お前ら俺を祓おうとして!」

玄宗「あ~あ、殴られてボロボロやん、かわいそうに。でもね、それは自意識過剰過ぎ~」

幽霊「なにぃぃっ!」

玄宗「こっちのお姉さんたちが、メイドさんの衣装を着たがってたのを、わざわざキミに付き合ってもらっただけ~」

 と言いながら、サラサラと短冊状の紙に呪文を書く。

幽霊「しかも一人は生粋の男って! お前ら人をなめるのも……」

玄宗「いや~、日本の産業の空洞化による人材不足って切実やね」

幽霊「てんめぇ~、ふざけやがってぇぇぇ」

玄宗「はいはい、付き合わせて悪かった悪かった。そんじゃぁ、お疲れ様でした~」

 そう言って書いたばかりのお札を丸め、予め用意した、直径が1センチにも満たない細い竹筒を幽霊に向ける。

幽霊「うおぉー、てめえらぁぁぁっ、せめてカタミナ姉さんと写メ……」

 と、竹筒に吸われながらも、必死にスマホを般若さんに向ける。

般若「往生際悪いとモテないぞ」

 と、ウインクすると、

かえで「うらぁ!」

 と、スマホごと顔面パンチ。

幽霊「だべどはっ」

 と、断末魔の叫びと共に竹筒に吸引され、丸めたおふだで栓をされる。

玄宗「よっしゃ、いっちょあがり。んじゃぁ帰りましょか、Z小町さんたち」

般若「は~い」

 とコスプレに満足げなカタミナ姉さんとナベさんは元気に、一方女装させられているノニさんは、

角成「でも、こういうのって…………」

 般若(ギロリ、と目が光りにらむ)

角成「何でもないで~す……」

 と、目を逸らす。

角成「でも玄宗さん、いいんですか? 幽霊騙しても?」

 と、歩きながらウエットティッシュでゴシゴシと、メイクを落としながら聞く。

玄宗「うん、悪霊相手やからね」

角成「今のが悪霊?」

玄宗「ふつうは霊って、一般の方には見えへんやん。それに、こんだけ暴れて物壊せば、じゅうぶん悪霊やろ」

 と玄宗さん店内を指差す。

般若(小声で)「気持ち『悪』い『霊』」

角成(小声で)「暴れるって、んじゃさっきのかえでちゃんがやった破壊を伴う暴力行為は……、玄宗さん、悪霊の定義ってなんですか?」

 と、かえでに首を軽く絞められながら、角成が聞く。

玄宗「普通の霊魂って物理的影響力ゼロやんか」

角成「はい、普通は見えない話せない触れない、ですよねぇ」

玄宗「でも、何かの拍子にそれができて、生前叶わんかった願いを実現しようとして、尚且つ、生きてる人間に悪影響を及ぼす。俺はそれが悪霊やと思てるけど?」

角成「なるほどぉ……」

玄宗「それと……」

 と、ジャケットを脱ぎながら、

玄宗「悪霊はウソつきや」

 と、言う。

角成心の声(うへ~、その悪霊にウソついたの? 僕たち)

 と、開いた口がふさがらない。

玄宗「『成仏する』っていうことに背く、それだけで、自然の摂理からすると、物凄い偽り」


『神様持ち』

 彼らは文字通り神様を常に連れている。

 ある者は、世襲で神様を引き継ぎ、

 またある者は、師匠から引き継ぎ、

 またある者は、気が付けば神様と共にいたり、

 またある者は、誰かから授けられる、など、始まりや経緯は人それぞれ。


 先程ジャケットを脱いだ、この男性は、長野 玄宗さん。

 母子のおキツネ様と宇賀神様(大蛇)を連れている。

 おキツネ様の力か、それとも特異体質なのか、玄宗さんはとにかく超人的にモテる。

 そして、武道全般に精通し、いざ戦闘になれば勘の良さもあり、無敵の強さをほこる。

 性格は、超が付くほどいいかげんで、無自覚、無計画、無鉄砲、で、無頼派。

 そして、神経が細やかで老若男女に優しい、すごくいい奴。


玄宗「悪霊がまたまたすんごい暴れて、店が滅茶苦茶になりましたねぇ」

 と、蝶ネクタイを外しながら、さわやかに笑顔で言う。

店長「さっき暴れてたの、そっちのお姉さんだけですやん」

 と、困り顔で突っ込む。

かえで「このメイド服すっごい気に入ったんですけどぉ」

 と、指をポキポキ鳴らしながら、額に#を付けて店長に迫る。

店長「はい、差し上げます」

 と、涙目。

般若「やったぁ、玄ちゃん、壊した物の修理代はいらないって」

店長「え?」

 と、目が点。

般若「よかったねぇ、やさしい店長さんで」

玄宗「それを言うなら気の弱、ウギャッ!」

 と、般若さんが玄宗さんの横っ腹を掴んで黙らせる。

般若「面白がって内側から火ぃ出すんは クソガキの悪ふざけやよねぇ、あぁん?」

 般若さんが、脇腹が痛こそばゆい玄宗さんの顔を、耳を引っ張りながら覗き込んで言い、涙目の玄宗さんがコクンコクンうなずき、

玄宗「ずいばぜん」

 と、謝る。


 この玄宗さんの耳を掴んでいる女性は、般若さん。

 この人は神様持ちではない。

 鬼である、……本人いわく。


店長「どうせ改装するけど、あなた方が壊したものは……」

 と、そこまで言って、かえでと目が合って黙る。

かえで「婿殿ぉ~、このメイド服、脇とスカートの横、もうほころびたぁ~。帰ったら縫ってまた着るけど、私婿殿以外にパンツ見せるの嫌やから、下に今日みたいなショーパンとレギンスにタイツ、みたいな厚着じゃなくって、おしゃれなジャージはくわ。攻撃行動に支障のない動きやすさ重視のダッボダボのやつ」


 この女性は、天美 かえで。

 河内 角成の許婚から、この前、彼女に昇格? した。

 幼少期、呪いから守るために、と、角成のおばあちゃん、汐ノ宮 葛葉こと破魔子さんが、隼の神様を授ける。

 だが、それだけでは呪いを退けることはできず、先日命を落としそうになる、が、角成たちの懸命のはたらきで、呪いを解いてもらい助かった、という過去を持つ。

 角成より一歳年上だが、呪いでの体調不良による入院で出席日数が足らず留年し、角成が通う高校に、府県をまたいで引っ越しをして、無事転入している。

 また、呪いで自分がいつ亡くなるかわからない人生だったので、友達を、あえて作らず生きてきたため、人懐っこいのに、人付き合いがあまり得意でなく、物事をハッキリ言い過ぎる傾向にある。


角成「おしゃれなジャージのコーディネイト、別の機会の別の服、の方が絶対に良いと思う」


 かえでにまたしても笑顔で軽く首を絞められて身体をゆすられている青年、河内 角成は、祖母よりを引き継いだ大神様おおかみさま、物質的にはニホンオオカミの頭蓋骨なのだが、霊的に強大な力を持つ神様、を連れている。

 幼い頃からいじめにより友達がおらず、人付き合いが苦手で、空気が読めない。


 更衣室は女性専用なので、角成が部屋の隅で、着替えている(下半身はトランクス姿)

 角成心の声(さっきの幽霊さんにスカートめくられなくってよかった。 ……確実にトラウマ作っちゃうところだった)

 彼らはさまよう霊の、悩みを聞き、思いを遂げる手伝いをし、そして冥界へと送る。

角成「さっき霊から悩みも聞かずに、しかも騙してブッ飛ばさなかったっけ?」

 と、着替えながら小声でボソボソ。

玄宗「かっくん、さっきの幽霊、この竹筒に入ってるから持ってて」

 そう言って、竹筒を玄宗さんは角成に投げる。

 角成が受け取り損ね、手ではじく。

 横にいたかえでが、持ち前の反射神経と隼神様譲りの動体視力で、サッと竹筒を掴み、角成のズボンの後ろのポケットに、黙って刺して、更衣室に向かって歩いて行く。

角成「あっ、かえでちゃん、ありがとう」

 角成の電話が鳴っている。

角成「はい、あっ、若菜ねえちゃん」


 電話の相手、 松原 若菜。

 彼女は神様持ちではない。

 幼馴染で、忙しくしていた角成の両親のかわり、保護者のような存在。

 なので、優しく面倒見もよい。

 普段は介護の仕事をしている。

 霊感はないが、勘はかなりスルドく、子供の頃いじめを受けていた角成を助けるために武道を身に付け、かなり強い。


若菜「角成~、あのなぁ、〇〇っていう交差点に、お花供えてあるやんかぁ。あの辺りから川の土手の自転車歩行者専用道路にかけて、通るとな~んか肌寒いんよ。また通ることあったら、今度調べてみて」


 彼らが、裏導師幽玄会社、のメンバーである。

 名前を見てもわかるように、会社組織として何らかの団体や組織に登録・所属している訳ではなく、彼らが面白半分で勝手に名乗っているだけである。

 なので、文字通り『幽霊会社』である。




 夕暮れ。

 団地や住宅が立ち並ぶ地域を横を流れる一級河川。

 その土手の上は歩行者自転車専用道で、土手下外側は車が頻繁に行きかう道路。


 その河原の土手の斜面に座る、河内 角成は草むらを見ている。

 普通の人が見れば何気ない光景『風に草むらが揺れる』にしか見えない。

 だが、本当は違う。

 大神様がこの一帯の小さな成仏できない霊を一掃している。

 これらの霊は一体々々独立していればなんともない。

 だが、それらの霊たちが何らかの意思によって一つになり、そして人に取り憑いて悪さをすることがある。

 河原の草むらの上を白い大きな(体長三メートル以上)狼が飛び回る。

 大神様はネズミ・イタチ・ウサギ・タヌキ・カエル・魚等の成仏していない、いわゆる迷える小さな霊魂達を、草むらから追い立てては片っ端から吸い込むように食べている。

 このように。神様達は定期的に地域の迷える霊を吸収し、無害化・浄化しているのである。

 たとえると、霊的予防医学のようなもの、又は、転ばぬ先の杖的地域奉仕、みたいな感じであり、それは古来よりその土地々々の神様たちの重要な仕事であった。

 しかし、河原は護岸され、山にも野原にも人の手が入り、そして何より、神々への畏敬の念等が薄い現代において、神様に愛された土地は減る一方である。

 そういう場所に出張し、まだ小さい無害の段階で霊を吸収するのも、古より神様持ちの大事な役割であった。



 角成の横に半透明の老人(電柱の影から、玄宗さんを見ていた人)が座る。

老人「よっこらさと。キミの犬か? あの放し飼いにしてるのは」

角成「はぁ、まぁ、その、はい」

 と、角成は少しどぎまぎしながら答える。

角成心の声 (本当はオオカミなんだけど、ややこしいことになりそうだから黙ってよっと)

老人「立派やな、キミのワンちゃん」

角成「はぁ、ありがとうございます」

 と、老人は微笑み角成は注意されなかったことにホッとする。

老人「ちょっと頼みあるんやけど、良かったら聞いてくれる?」

 と、老人は角成の顔を覗き込むように言う。

角成「はぁ」

 と、狼狽気味に生返事。

老人「ちょっと探し物を手伝って欲しいんやけど」

角成「何を……、探せばいいんですか?」

老人「うん、ラブレターや。……恋文って言うた方が雰囲気出るか? 大事な恋文」

 と、あかね色に染まりつつある空を見上げて言う。

角成「う~んと、それじゃあ、まずはおじいさん……、ごめんなさい初対面の人に失礼しました、あなたのお名前を教えてもらえますか?」

 ごそごそと、メモ帳を取り出す。

老人「おじいさんでもジジイでも失礼ちゃうよ。本物のじいさんやから。……名前とか自分のことは……、なんでかわからんけど、全然思い出されへん……。ごめん」

 と、眉をひそめて地面の一点を見つめる。

角成「そうですか。んじゃ、何でもいいから覚えている事を話して下さい」

 と、角成が老人に微笑みかける。

玄宗「おっ、かっくんお客さん? こっちはあと三人送ったらおわりね。後で連絡するわ」

 と、土手の下の遊歩道で、しなだれかかる若いメイド姿の女性二人と腕を組む玄宗さんが角成に言う。

老人「あの人は?」

角成「僕のお師匠様みたいな、お兄さんみたいな……」

 と、角成はニッコリと答える。

老人「そうか、だったらそれでいいんだが……」

 と、老人何故か小首をかしげる。

角成「何か覚えていることないですか? 何でもいいですよ」

老人「う~ん」

角成「 ……う~ん」

 二人で苦しそうにうなる。

老人「あかんわ、……な~んも思いだせんわ」

 と、角成と老人はしょんぼりする。

老人「すまん、ラブレター、恋文を亡くしたこと、それだけしか……」

角成「恋文ですか……」

 と角成と老人は下を向く。


 と、そこに遊歩道にメイドさんを残した玄宗さんが土手を駆け上がり、そっと老人の脚を指差す。

 半透明の老人の膝から下がねじれ、足が前後逆さま向いている。

玄宗「じいちゃん事故に遭うたんか? この近くで?」

老人「それが……、よく覚えてなくって」

 と、老人は苦笑する。

玄宗「事故のショックで記憶が全部飛ぶって、別に珍しいこっちゃない。じいちゃん、色々調べてみる……」

 直後、

玄宗「かっくんが」

角成「え? やっぱりかぁ~」

 と、角成テヘヘと笑いながら言う。

玄宗「このじいちゃんはかっくんのお客さんや。横取りはせえへんから安心して」

 と、玄宗さんがスマホを操作し、

玄宗「救護班? 今、例の河原。……すぐ近く。半透明の怪我人一名。よろしく~」

 と、玄宗さんは電話を切る。

 突如堤防下の草がざわつき、巨大化したシベリアンハスキーのような大神様が、角成に向かって真っ直ぐに飛んで来る。

 老人が驚き、あわてて横に避けようとするが、足が折れているためよろめく。

般若「大丈夫ですか」

 と、駆け寄った般若さんが、老人を抱きとめる。

老人「えっと、……あぁ、……大丈夫、……やと思う」

 と、般若さんの美しさに、老人更に色々忘れたような顔になる。

般若「お怪我は……」

 と、般若さんは老人の足を見る。

般若「痛かったでしょうね、かわいそうに。すぐに治しますから」

老人「いや、それがよく覚えてなくって……」

 と、老人テレて頭を掻き、頬を若干赤くしながら土手に座る。

 般若さん、コキコキと老人の前後ろ逆だった半透明の足を戻す。

般若「さっ、これでもう大丈夫。歩けますか?」

 と、老人ゆっくり立ち上がる。

老人「おぉ、これで普通に歩ける。いやぁ、助かった。ありがとう」

 と、おじいさんは深々と般若さんに頭を下げ、そして土手から国道の方へ歩いて行く。


大神様[かっくん、私のお腹には、まだ若干の余裕がございます、状態やけど、あのおじいさんどないするつもり?]

 と、大神様が前足を馴れ馴れしそうに角成の肩にかけ、恐ろしげな顔つきで言う。

角成「あの人のどこをどう見れば悪霊に見えるの?」

 と、怪訝そうに大神様を少し見上げて言う。

大神様[悪霊であろうがなかろうが何一つ問題ない。私にとって生き物の残骸とか幻影に、善も悪も関係ないし、必要もない]

角成「またそんなこと言って、もう充分暴れまわったでしょうに」

 と、角成は困り顔。

大神様[なんや、吸い込んだら、アカンの? ……それは残念]

 と、片頬?を挙げて邪悪に笑い、大神様は夕暮れに溶け込むように薄っすらと消えていく。

玄宗「さてと、俺は彼女たち送っていくからお後よろしく~」

 と、玄宗さん、振り返りもせず手だけフラフラ振って土手を降りて行き、女性にしなだれかかられて去る。

般若「送り狼は行ったね。こっちのオオカミさんたちはどうしますか?」

角成「どうしましょうか」

 と言って角成は笑う。

角成「それはそうと、さっきのおじいさん、事故死ですか?」

 と、角成上目遣いに聞く。

般若「うん、残念ながらそうみたい」

角成「そうですか、じゃ、おじいさんの後を追ってみます」

般若「わかってると思うけど、今日は満月やからね」

角成「はい、遅れないように行きます」

般若「うん、じゃ私はあっちでご飯の用意して待ってるわ」

角成「えっ? 食事! ありがと~」

 と、角成泣き出さんばかりに喜ぶ。

般若「頑張れ、食べ盛り!」

角成「うん、ありがと~」

 と、角成は止めてあった自転車を押して土手を降り、そして般若さんは憂いを含んだ微笑を浮かべ手を振る。



 角成、帰宅ラッシュの国道の歩道を、自転車を押して移動。

角成「……このあたりか」

 と、歩道脇に花やワンカップが供えてあるところで自転車を止める。

 あたりを見回すと、

 その近くの電柱に、

【○月 ×日 [黒いトラック] と [人] の、事故がありました。

 目撃された方は ○○警察 0000-00-0000まで】

 という警察が設置した看板を見つける。


 角成は、首に下げていたペンダント(ペンダントトップは狼の牙で出来た牙笛)を口に当てて吹く。

 すると、今まで見えなかった先ほどの老人が、半透明で所在無く道端にたたずんでいる姿が浮かぶ。


【牙笛】

 大神様の牙をくり貫いて作った笛。

 これを吹くと神の息吹きが再現できて、霊が見える。


 角成「もう一頑張りするか」

 そうつぶやき、自転車にまたがり警察署に向かう。


 角成、警察署に到着する。

 交通課でカウンターを挟み、婦警さんに、

角成「あのぉ、ちょっと教えて欲しいんですが」

 と聞くが、

 婦警さん無言で腕時計を確かめる。

 時計は五時五分前を指す。

 受付に座る婦警さんは顔も上げず、

婦警「はいなんでしょう」

 と、ぞんざいに答える。

角成「○○町の交差点で事故があったと思うんですけど、被害者の方の名前と住所を教えてもらえないですか?」

 と、上目遣いに聞く。

婦警「あのね、個人情報保護法って知ってる?」

 と、顔も上げず、けだるそうに言う。

角成「はい、聞いたことはあります」

婦警「こういうこともそれに抵触するから、ここでは教えられないのよ~」

角成「でも、おじいさん死んでるから個人情報も……」

 と、角成、カウンターを握る手に力を込めて身を乗り出し、必死に食い下がる。

婦警「被害者の方がお亡くなりになってもご遺族の方は全開で生きているし、同居してたらその人達の個人情報はどうなるの? だから保護されるの。はい、おしまい」

 と、婦警さんは角成の言葉にかぶせて言う。

角成「だったら、おじいさんの名前だけでも……」

 と角成、何とか食い下がるが、婦警さんは黙ったまま顔も上げない。

玄宗「じゃ、あなたの個人情報は?」

 と、突如、角成の横で掌を組み、カウンターに両腕を乗せた姿勢で玄宗さんが聞く。

 鬼のような形相で婦警さんが顔を上げる。

玄宗「お願い」

 と言いながら、掌を合わせて拝む。

 婦警さん、ポッと頬が赤くなり下を向き、ごそごそとなにかして、

婦警「じゃ、この用紙に必要事項を記入して下さい」

 と言い、車庫証明の申請用紙を出す。

 その車庫証明の申請用紙には、大きく「(ハートマーク)空きガレージあります(ハートマーク)」と書いてあり、しかもその用紙にはクリップで婦警さんの名刺(手書きの個人情報、携帯電話番号入り)が挟んである。

角成「ありがとうございます。あのぉ……」

玄宗「恋の暴走車を取り締まるのは、もう勤務時間外?」

 と、玄宗さんかぶせて言う。

 婦警さんが「フッ」と笑い、キャスター付きの椅子で『ツィーッ』と横にあるコンピューター端末に行き、何かをメモしてまた『ツィーッ』と戻ってきて、

 角成に二つ折りのメモを人差し指と中指に挟んで差し出す。

 角成が黙ってそれを取ろうと手を出すと、

婦警「一つだけ聞かせて、なぜあのおじいさんのことを知りたいの?」

 と、メモ用紙を自分の顔の横に手を上げて取らせず、じっと角成の目を見て言う。

角成「僕の、……朝のジョギングの時にちょくちょく見かけた人、そうそう、散歩仲間みたいな人だから、……お線香くらいあげたいなと……」

 と、角成は目を逸らしながら言う。

婦警「ふ~ん。まっ、そういう事にしておいてあげるか」

 と、角成の純粋さが伝わったのか、初めて眉を下げ微笑む。

玄宗「キミはなんて親切なんだ、お礼に、……はうっ」

 突然、玄宗さんカウンターの下にズルズル崩れ落ちる。

 玄宗さんが倒れた後ろに『#マーク』を額に付けた女性(松原 若菜、角成の年上の幼馴染)が正拳突きが決まったままのポーズで立っている。

若菜「あ~ら、ダーリン、最近見ないと思ったらここで逮捕でもされてたのぉ~?」

 と、小首を傾げて倒れた玄宗さんに向かって言う。

玄宗「そっ、それは誤解だハニー、俺はかっくんのお手伝いに来て……」

若菜「で。ここで恋の暴走車を転がしてたのね?」

 若菜が玄宗さんの胸倉をつかんで起き上がらせる。

若菜「うちのダーリンのことは、自損事故を目撃しただけとでも思って、お忘れ下さいませ。では失礼~」

 と言って、若菜は『#マーク』を付けたままにこやかに婦警さんへ名刺を『ツイ』と突き返し、玄宗さんの耳を引っ張って、

玄宗「いででででで」

 と、連れて行く。

角成「う~わ、恋のレッカー移動?」

婦警「だから私は民間委託反対なのよ!」

 と、カウンターに頬杖をついて婦警さんが憮然と言う。

婦警「一つ頼める?」

角成「あの暴走事故車のことですか?」

 婦警さん『クスッ』と笑いながら、

婦警「おじいさんのお墓でも仏壇でもいいから、あなたがお線香上げる時には、私の分も足して二本あげといて」

角成「わかりました、約束します」

婦警「うん、お願いね」

 と、角成、一礼して去る。

 が、婦警さんが立ち上がりカウンター越しに、

婦警「それと……」

 と言うと、角成が振り返り、

婦警「修理不能でも、私が下取りするからって、あの暴走車両に……」

 と、頬を紅くして下を向いた。

 角成、無言で婦警さんに微笑みだけ浮かべてペコリと頭を下げて、警察署を後にする。



 角成が自転車をコンビニ横の駐輪場に止める。

 そしてコンビニではなく、横の細い路地に入る。

 路地は旧市街の古い町並みに続く。

 古い町並みの中にいっそう古い商家が二軒ある。

 右側が薬局で左側が駄菓子屋。

 その間に路地の入り口がある。

 この薬局と駄菓子屋、 入り口のガラスの引き戸は、木製のサッシに磨りガラスが四段入り、一番下が板になっている。

 二軒とも表戸の木製サッシ四枚はピッタリと閉じられている。

 薬局と駄菓子屋の角に木の看板が静かに揺れている。

 『雷薬局』と『風菓子舗』書かれた看板。

 角成はその二軒の間の路地を入っていく。

 古びたコンクリートの細い側溝のある、道の端が苔むしたカビくさい土の道。

 両側は焼いた杉板の三メートルくらいはある高い板塀。

 幾度か曲がると、だだっ広い広場のようなところに出る。


 その広場に面して立っているお寺の山門のような入り口を持つ家。

 『玄宗』と書かれた小さな表札が門の右側の柱に上がっている。

 角成はその門の横の小さな入り口から敷地内に入る。

 屋敷の入り口は大きな木の引き戸が二枚入っている。

 引き戸をカラカラと開けて中に入って左側、そこは待合室になっていて三方の壁に、壁の長さのベンチが置かれている。

 入り口から入って右側すぐにはカウンターのようになっていて、今はカーテンが引かれて中は見えない。



般若「お帰りなさ~い。かえでちゃんはもう食事済ませてお風呂行ってるから、覗かんといたってな」

 と、おたま片手にエプロン姿でにこやかに迎える。

角成「ただいま~、おぉ、温ったかいごはん。……なんか人聞き悪いこと言われた気がするけど、気にしないでおきます~」

 と、注がれたお味噌汁に角成は顔を近付け匂いを嗅ぐ。

般若「あれっ? 玄ちゃんは?」

角成「警察で若菜姉ちゃんに連行されました~」

般若「ありゃま」

 と、般若さんが笑う。

玄宗「なんとか間に合った~」

 と、直後玄宗さんが疲れた表情で入ってくる。

般若「放免? それとも仮釈放?」

玄宗「残念ながら逃亡中」

 と、玄宗さんも「いただきます」を言ってお味噌汁をすする。

般若「それでも感心感心、ちゃんと来たね」

玄宗「他のことを忘れても、満月と新月の日にここに来ることと、あとマリリン・モンローの命日は絶対に忘れへんよ~。滅多に無いけどたま~に、来られへんこともあるけどね」

 と、玄宗さんは口いっぱいに頬張りしゃべる。

般若「おっとっと、もっとゆっくり遊んでいたいけど仕事仕事」

 と、般若さんは「!」っとなる。

般若「私は色々用意があるから、後片付けと洗い物は玄ちゃんお願いね」

 と、般若さんはエプロンを外してドアから出て行き、玄宗さんは口いっぱいで喋れないので『了解!』と頷き敬礼する。

角成「玄宗さん、さっきはありがとうございました」

玄宗「何が?」

角成「もしも僕一人だったら、カウンターの上で三年土下座しても、あのおじいさんの情報教えてもらえなかったですから」

玄宗「ああ、あれね。んじゃ、そのプチトマトくれる?」

角成「えっ? あっ、はい、どうぞ」

玄宗「よっしゃぁ、俺の大好物もらったから、これで貸し借りナシということで」

 と、玄宗さんがプチトマトを食べて、

玄宗「おいすぃ~」

 と、『じ~ん』と涙しながら言う。

角成心の声 (好きなもの最後に食べるクセ直そ……、でもいいか、玄宗さんあんなに幸せそうだし)

 と、玄宗さんを笑顔で見つめる。

かえで「あれ、婿殿来てたっ」

 かえでが嬉しそうに言う。

玄宗「おう、かえでちゃん、まいど。不本意やろうけど、俺もおるよ」

かえで「どうも、こんにちはこんばんは」

角成「かえでちゃん、もうちょっと愛想良く……」

玄宗「ええやん、かえでちゃんの思うようにしたら。ごちそうさまでしたっ」

 玄宗さんは笑顔で手を合わせて、食器をシンクに運ぶ。

かえで「私先に門開けときま~す」

 そう言って出て行く。


 玄宗さんが皿を洗い、角成が皿を拭きながら、

角成「でも、どうして玄宗さん、あんなにモテるんですか?」

玄宗「う~ん、自分ではモテてると、思てへんからなぁ」

角成「えっ? アレで?」

 その時二人の背後から声がかかる。

キク「玄宗さんは物凄くモテるけど、驚異的にニブいからね」

 と、二人の背後のカウンターの上で一匹のでっかい猫が二股に分かれた尻尾を一振りして言う。

角成「あっ、おキクさんこんばんは~」

玄宗「おっ、まいどっ! おキクさん、今日も美しいねっ!」

 と、挨拶する二人。

キク「玄宗さんはそれ以外のことなら、獣以上にスルドイのにね」

 と、おキクさんは顔を洗いながら言う。

角成「でも普通あれだけ女性が振り向けば、誰だって気付くでしょ?」

キク「 ……小さい時からずっとあんな感じだったら、……って言うよりも、あれがずっと続いてるんだったら、普通過ぎて意識しないだけなんじゃない?」

玄宗「ふ~ん、なるほど」

 と、他人事のように感心しながら食器棚に片付ける。

 と、玄宗さんのその姿を見て、

角成「意外と自分のことって知らないんですよね」

キク「あんたも自分の力まだ全然自覚してないじゃん」

 と言って、背中の毛づくろいを始めた。

玄宗「よし、後片付け完了! そろそろ行こか」

角成「はい」

 と二人は待合室に向かう。



 玄宗・角成・かえで・般若の四人は、満月の夜と新月の夜に死者の魂をここで見送る。

 満月の日には、思い残すことがなくなった魂が、

 新月の日には、思い残すことをそのままにしておく決心をした魂が、

 この者たちに送られてゆく。

 そして、お狐様と宇賀神様(大蛇)と大神様(ニホンオオカミ)と隼神様は、それまでに自分の中に蓄えた霊的存在を、それらの日に冥界へと送りに行くのである。



 般若さんが待合室横のカウンターに入り、「パチリ」とスイッチを入れる。

 短いLED蛍光灯を駆使してまじないの文様をかたどった、待合の電灯がいっせいに灯る。

 その蛍光灯の光を浴びて、そこにいた半透明の人達の姿が何もしなくてもハッキリ見えるようになる。


 そして霊たちはカウンターに向かって一列に並び始める。

 般若さんはカウンターの中から、改札のスタンプを押したチケットを、霊たちに渡していく。

 チケットをもらった霊たちは、そこから外の広場に止めてある乗り物に乗って、あの世へと旅立つ。


 その日その日で、あの世行きの乗り物は変わる。

 この日の乗り物は、新婚旅行中に事故で亡くなった夫婦の要望だった。

かえで「デカっ!」

玄宗「デカ過ぎやろ、これは」

角成「デカイですね、これは」

 三人は停泊しているタイタニック号を、見上げて言う。

 そこに改札を終えた般若さんが、船長さんの衣装で登場。

般若「じゃ、行ってきます」

 と、真剣な顔つきで、タラップの階段を登る。

 件の夫婦、船首で映画『タイタニック』で有名な、例のポーズをとる。

 そして、船はそのまま出航し、

 ……まっすぐ上空に昇って行く。

 船の後ろを、真紅の狐と濃蒼の大蛇、純白の狼と黄金の隼が、四つ巴のらせんを描きながら付き従う。


 そして夜空は静かに満月と星だけに戻り、地上に残った者たちの仕事は終了である。


 玄宗邸の門を閉めて、三人は邸内に入り手荷物をまとめる。

角成「うあっ!」

 と、ズボンの後ろポケットに手を入当て、素っ頓狂な大声を発する。

かえで「どうしたの? 婿殿」

角成「コレ忘れてました~」

 と、ポケットから、メイド喫茶でオタクさんを封印した細い竹筒を、玄宗さんに渡す。

玄宗「まあええやん、次に送ってもらえば。……はいこれ」

 と、自然な動作で、角成に返す。

角成「えっ? 何で僕が?」

玄宗「ええやん、持っててちょ。それに、そいつ待合室におったら、な~んか問題起こしそうやから、ずっと持ち歩かなあかんけど。……たった二週間か、四週間? かそこらやんか」

角成「ええ~っ、でも僕あんまし封印してある人の扱いに慣れてませんから」

玄宗「何事も経験経験、ポケットかどこかに入れといて。それに、いざとなりゃ大神様のお腹の中で保管してらえばええし」

 と、角成は玄宗さんのいい加減な発言にあきれる。

かえで「婿殿が持ってても、ホントに大丈夫なんでしょうね?」

玄宗「かっくんなら、あの程度の悪霊は何の問題も無い。 ……と、思うよ、たぶん」

かえで「まぁ、だったら、なんかあったら、その時は私も応戦しますから、婿殿。……何をどうするかは、私よくわからへんけど……。とりあえず、どついたら大人しくなると思うし」

 かえでも、それほど怖いとは思っていない様子。


 そして三人は薬局と駄菓子屋さんのあった路地に出て、それぞれ、

玄宗「んじゃっ!」

角成「失礼します」

かえで「さよなら」

 と、一人と二人に分かれて去って行く。


 角成とかえでが、自転車を止めたコンビニに着き、

 かえで「私、熱出して寝てるお父さんの好きな物、ちょっと買って帰る」

 と言って店に入って行く。

 角成が自転車を取りに、店舗横の駐輪スペースに行くと、数人の人相とガラの悪そうな男達がいる。

 よく見ると一人の青年にイチャモンを付けている。

不良A「どっしよっかなぁ」

不良B「金で解決できるんちゃう?」

不良C「そうやね、ここは穏便にぃ~」

 と、不良全員が「うひゃひゃひゃ」と下品に大声で笑う。

 その中の一人、モヒカン頭に鼻ピアスの不良Cが、角成の自転車に座っている。

角成(あ~あついてない、コンビ二の中に入って時間つぶそうかどうしようか……)

 と、モヒカン頭と角成の目が合う。

モヒカン「なんじゃこらぁ、なに見とんじゃお前ぇ~」

角成「いや~、僕の自転車があなたのお尻の下あたりに……」

モヒカン「ちょっと貸しとけや、かめへんやろがぁ?」

 モヒカン頭が角成に近寄ってくる。

 その向こうで、

不良A「今いくら持ってる? 正直に言うてみ?」

青年「すいません、今は全く持ち合わせが……」

不良B「んじゃ、これ預かっとくから、これ買い戻しに明日ここに来い」

 と言って、大人しそうな青年のスマホを取り上げようとするが、

青年「やめて下さい」

 と、青年が抵抗したためにボールチェーンが切れてストラップ(シャペンのコルク)を不良Bに取られる。

角成「なにやってるんですか、それって……」

 と言った角成の顔を斜めに覗き込みながら、

モヒカン「今なんか言うたか?」

角成「 ……だから、」

モヒカン「だからぁぁぁん?」

 と、角成の胸倉をつかんで言った瞬間、

モヒカン「ダハバー」

 と、顔がゆがみ、そして吹っ飛び、自転車が倒れる。

 若菜、飛び蹴りで登場。

若菜「私の弟になんか用?」

不良A「あっ、若菜さん、どもっ」

若菜「なんか用かって聞いとんねん、あぁっ!」

 と、無視して倒れているモヒカンに馬乗りになり数発殴る。

若菜「ふう、正当防衛一丁あがり。 次は誰?」

 モヒカンをKOして立ち上がり、不良たちに向かって行く。

不良達「すいませんでしたー」

 と、モヒカンに肩を貸して一目散に逃げる。

若菜「ケガなかった?」

角成「うん」

若菜「あんたじゃなくって、そっちの彼」

青年「あっ、はい、すいませんでした」

 と、ペコリと頭を下げる。

角成「でもさっき、携帯か何か取られたんじゃ…」

若菜「なんやとぉ! ちょっくら行って取り返して来る!」

 と、角成の自転車に前傾立ちこぎ全速前進で、不良たちを追って行く。

角成「ホントに大丈夫だった?」

青年「はい、ありがとうございました」

 (しーん)

 気まずい空気。

 初対面の大人しい高校生くらいの男の子同士に、共通の話題などない。

青年「頼もしい人ですね、お姉さんですか? いいなぁ、お姉さんがいるって」

角成「いやぁ、僕一人っ子であの人近所のお姉さん。だから、あの人と血のつながりとかは全くなくってえ……」

 (しーん)

 又しても気まずい空気。

 とその重い空気を引き裂くように、

「キキキキーーッ、ズシャァーーーーーッ」と角成の自転車に乗った若菜が戻る。

若菜「はぁはぁはぁ、あかんかった、ごめん。見失った」

青年「すいません、もういいです」

若菜「でも携帯盗られて使いまくられたら大変やよ。……なんとかPAYとかも入ってるやろうし」

青年「いや、あの、これ…」

 と、バツ悪そうにスマホをポケットから出す。

若菜「角成てんめぇ、ガセネタで人をコキ使いやがって」

 と、胸倉を片手でつかみ、角成を持ち上げる。

角成「いやっ、僕は、てっきり携帯を取られたと思って…」

 と、苦しそうに言う。

青年「取られたのはストラップで、 …ですけど形見だったりしますんで、追いかけてくれて本当に嬉しかったって言うか、……なんと言うか」

若菜「形見? それやったらやっぱ取り返さなぁ!」

 と、気色ばむ。

青年「あっ、いや、でもあれは形見だけど、形見は他にもまだ色々あるからいいです」

 若菜、イライラが限界に達するが深呼吸で気を取り直し、

若菜「角成~、おあとよろしく」

 と、額に#マークを付け、自転車を角成に押し付けるようにして帰る。

 (しーん)

 又々しても気まずい空気。

角成「じゃ、とりあえず僕も帰るけど、気をつけてね」

青年「あっ、はい、どうもすいませんでした」

 と、ぺこりと頭を下げる。

 そこにかえでが現れて

かえで「なんか騒がしかったけど、……婿殿は大丈夫そうやね?」

 そう言いながら、角成が怪我をしていないか、注意深く見ている。

角成「ありがとう、僕は大丈夫。若菜姉ちゃんが撃退してくれたから」

かえで「なんやぁ、若菜さんおったんかぁ、顔見たかったぁ」

角成「うん、若菜姉ちゃんアドレナリンぜんかいで帰ったから、また今度の機会で」

 そう言って角成は、かえでを送って行った。



 次の日

 角成は教えてもらった住所を頼りに、一人で老人の家を訪問する。

 デカくもなく小さくもない、庭付き一戸建てのごく標準的な家。

 角成は『浮孔』と書かれた門柱のインターホンに向かって喋る。

角成「突然すいません、先日事故で亡くなられたおじいさんに、お線香を上げさせてもらえないかなと……」

 玄関のドアが開き、

おばさん「はいはい、あれっ?」

角成「はい?」

 と、おばさんと角成が『?』をはさんで向かい合う。

おばさん「お義父さんのお友達やのに、あんまり若いからびっくりしてしもて」

 と、屈託なくほがらかに笑う。

角成「いや、そのぉ、まぁ、はい」

 と角成は言い訳を探す。

 と、おばさんの背後、家の中から昨日の青年が、

青年「お客さん? 誰?」

 今度は角成と昨夜の青年が『!』をはさんで

「あーッ」とお互いを指差して驚く。


 部屋にあるのは大きな仏壇と高級座卓のみ。

 仏壇には二本のお線香から煙が立ち昇り、角成は小さな声で般若心経を唱える。

おばさん「丁寧にありがとうね」

 と言ってお茶を出す。

青年「じゃ、俺用事があるからこれで」

 と、青年は席を外す。

おばさん「祐樹、ちょっとぉ……」

角成「突然ですが、おじいさんに生前ちょっとお話したことがありましてぇ……」

おばさん「はい」

角成「その時に、恋文がどうとかいう話になったりとかしましてぇ……」

おばさん「まぁ、あの堅ブツやったお義父さんが」

 と、嬉しそうに驚く。

角成「はい、……で、自分がもしもの時には、そのぉ……」

角成心の声(やっべ~、ちゃんと考えてなかった~、この先どうしよう……)

おばさん「お義父さん、あなたにそんなこと頼んでたの?」

 と、かなり訝しげな表情、

 ……から一転して明るい表情になり、

おばさん「それはごめんなさいね。歳は離れててもあなたとは男同士やから、私には話せない事とかも、色々聞いてたんでしょうねぇ」

角成「はぁ、まぁ」

 と、おばさんから目を逸らすために、下を向いて頭をかく。

おばさん「良かったらどんな事情か、そのあたりの事、話してもらえない?」

角成「えっ、いや、あのっ、そのっ」

 と、角成焦る。

おばさん「だって気になるやんかぁ。身内の人間が、どこの女性からラブレターもらったかとかぁ」

角成「いやぁ~、そう言われても~(本当に何んにも知らないから話せないんだよ~)」

 角成猛烈に焦る。

おばさん「そうやよね、ここで私に言っちゃぁ、男がすたる、か。おばさんが男と男の約束破らせたらアカンね。残念やけど」

 と、優しく微笑む。

角成「はぁ、すいません」

 と、角成はホッとする、が、ちょっと後ろめたい。

おばさん「お義父さんの部屋にあるん? その恋文?」

角成「いえ、何も聞いてなかったんですけど……、おじいさんがお亡くなりになった時にありませんでしたか? そういう……、なんて言うのか……」

おばさん「実はまだ整理してないんよ、お義父さんの部屋……」

 と、うつむき寂しそうに、

おばさん「突然やったから、 ……事故なんて、……ほんとにあっけない」

 と、少し涙ぐむ。

 角成も思わずもらい涙ぐむ。

おばさん「ごめんね、こんな話して……」

 と涙を拭きながら、

おばさん「一緒に探していいかなぁ? 読まへんから」

 と優しく微笑む。

角成「はい、お願いします」

 とお互い赤い鼻で微笑み合う。


 老人の部屋。

 畳の部屋に、家具は箪笥が一棹と文机と座椅子。

 文机の上にはノートパソコン、ノートパソコンの上には老眼鏡。

 それ以外は何もない。

おばさん「お義母さんが亡くなって、ちょうど十年か……」

 角成は、

(ひょっとして、おじいさんがもらったんじゃなくって、書いたのかも。それを人目に晒されるのがテレ臭いとかなのかもしれない)

 と考え、

角成「すいません、おじいさんは封筒とか便箋とか……」

おばさん「そう言われれば、手紙の類は、このご時世やしほとんど見たことないわぁ……」

 と聞いて、角成は考える。

角成「では、おじいさんがもらった手紙とかの郵便物は……」

おばさん「それやったら、押入れ収納の一番下に入れてたかな?」

 と、角成に押入れを開けて説明する。

 しばらく二人は捜索するが、携帯電話の明細や同窓会のお知らせ以外、何も見つからない。

角成「あとはパソコンの内部? ……メールでやり取り、とか……」

おばさん「これ? でも壊れてるみたいよ、ほら」

 と、おばさんはノートパソコンの電源スイッチをポチポチ押している。

角成「だったらお借りしていいですか? パソコンに詳しい人ちょっと知ってるんで」

おばさん「ええどうぞ。って言うか、良かったら使う? ってこれじゃ、ガラクタの処理料金逃れね」

 と、おばさんは明るく笑った。

角成「とりあえず僕に預からせて下さい」

 と、角成は笑顔を返す。


 角成が老人の家を出て、スマホを取り出し電話をかける。

角成「もしもし般若さん、ちょっとお願いが」

般若「な~に、またお化粧したくなった?」

角成「(キッパリ)いいえ、違います!」

般若「な~んや、残念。じゃ、なに?」

角成「パソコン直して欲しいんですが」

般若「いいよ~、持っといで~」

角成「ありがと~」

般若「ただし! 部品とか実費やけどいい?」

角成「う~ん、お金ないけどしょうがない。乗りかかったタイタニック号だから、お願いします」

般若「毎度あり~。って、氷山にぶつかるやん、沈むやん、引き裂かれるやん。んじゃ、安全運転でどこにも何にも、ブチ当たらずに、気を付けて持ってらっしゃい」


 角成、玄宗邸のダイニングキッチン。

 借りてきたノートパソコンをダイニングテーブルに置く。

角成「これなんですが……」

般若「どれどれ~」

 と、般若さんはかなり嬉しそう。

角成「どうですか? 動くようになりますか?」

般若「あれっ、これメーカー製ちゃうやん、BTO? それとも自作?」

角成「ズブのド素人に何をお望みでしょうか?」

 と、角成おどける。

般若「ふ~ん、で、CPUは何かなぁ~? それと、RAMはどれくらい積んでるかなぁ?」

 と、般若さんは全く意に介さずで、ノートパソコンの裏のねじを外しながら言っている。

角成「もしも~し、聞いてますか~、僕にはインテル入ってませ~ん」

般若「ほんまや。スイッチ押してもウンともスンとも言わへん。仕方ない、バラすか」

 と、般若さんバイザー型ヘッドルーペ装着。

角成「お~い、帰って来~い」

般若さん、PC裏のカバーをパカっと外す。

般若「おっと、これは!」

 と、驚きの声を上げる。

般若「壊れてないと思う、これ? たぶんやけど」

角成「故障してないんですか?」

 と、角成がのぞきこむ。

般若「この隠しボタンから出てる配線手繰っていくと、電源ボタンにつながってる。という事は、隠しボタン押しながらメインスイッチ押さないと電源が入らない構造なんだけど、それプラスもう一本の配線を手繰っていくと『キーになる何か』が必要みたい」

 と、般若さんは言うが、角成には全く通じない。

角成「えっとぉ、……とっ、とりあえず、お茶入れますか?」

般若「周辺機器とか外部記憶装置とかメディアとか、何でもいいから他に預かってない?」

 と、般若さんがヘッドルーペ越しに、でっかい目と長いまつげを角成に向ける。

角成「はぁ、全く何も。それだけです」

 般若さんがヘッドルーぺを外しながら、

般若「じゃ、今から行って他に何かないか聞いてきて」

角成「ハイッ、先生! ちょっといいですか?」

 と、角成が手を上げる。

般若「角成君、トイレなら休み時間に行っておきなさい、っていつも言ってるでしょ」

 と、般若さんが言う。

角成「ちがいます、先生、わかりません!」

般若「じゃ、廊下に立ってなさい」

角成「先生、トイレと廊下の前に、何をもらってくればいいのか、全くわかりません」

般若「キーにしてる可能性があるのは、一般的にUSB端子につなぐこんなやつね」

 と、般若さん愛用のUSBメモリーを出して見せる。

般若「それとSDとかのメモリーカード類ね。あとは外付けHDDと連動して起動させるタイプって聞いたことあったな、そういった外部記憶装置関係。それと本題であるラブレターのありかとしての可能性があるのは、CDとかDVDとかMO、ZIP。あと、それなりの時間の経過も考えて、念のためフロッピーディスクとかもあったらそれも」

 般若さんはメモって角成に渡す。

角成「これらがあるかどうか聞いてくればいいんですね、先生」

 般若さんがパソコンから顔を上げ、角成の顔を見つめて、

般若「でもかっくん大丈夫? 対人恐怖症再発してない?」

角成「ありがと、般若先生。僕、大人の人とはちゃんと話ができるから大丈夫。 って言うか、僕は誰かと話したり会ったりは『基本的には』嫌いではないから、心配しないで」

般若「そっか、良かった。それじゃあ帰ってきたら、罰としてトイレ掃除です」

角成「ハイ先生! ってそれ何の罰?」

 と角成が笑う。


 角成、もう一度おじいさんの家に。

 インターホンを押し用件を言う。

おばさん「あれから私も色々探したんやけど、言うてた物って、これくらいしか……」

 そう言って音楽CDや映画のDVDをまとめて入れた箱を渡してくれた。

角成「わかりました。じゃ、これお預かりします」

 と、角成は踵を返す。


 角成が昨日、浮孔 祐樹と会ったコンビニの前を通りがかると、祐樹がいた。

 祐樹は何かを探しているようだ。

 そして祐樹は角成に気付き、何事もなかったかのようにその場を足早に去る。

 角成心の声(昨日かえでちゃんに『形見』がどうとか言ってたけど、それってやっぱりおじいさんの……)


 角成が玄宗邸の般若さんにCD・DVD等入った箱を渡し、

角成「ちょっと気になることがあるから……」

 と、先ほどのコンビニに戻る。

 祐樹はまだそこにいて、溝を覗き込んだりしている。

 そこに昨夜の不良のうちの一人が来て、祐樹の胸倉を掴む。

 角成、それを見て、

角成「ヤバイ!」

 と、走って行く。

 不良も角成に気付き、

不良「わかったな、絶対に来いよ」

 と、言って急いで逃げる。

 角成がそのまま駆け寄り、

角成「大丈夫だった?」

祐樹「あっ、うん……」

 と、またしても少し気まずい雰囲気。

 祐樹がキョロキョロ周りを見て、

祐樹「昨日の人は?」

角成「ああ、若菜姉ちゃん、今日はいないよ」

祐樹「そうか、そうなんだ」

 と、少し残念そう。

角成「さっきの人、来いって言ってたけど、ひょっとして昨日のことと関係ある?」

 祐樹、下を向いて、

祐樹「あると言えばあるし、ないと言えばない」

角成「ひょっとして、きみの、……祐樹君のおじいさんの形見のこと?」

 という角成の問いに、黙って祐樹がうなずく。

角成「昨日若菜姉ちゃんボコボコにやっちゃったから、あの人達怒ってるだろうね」

祐樹「 ……」

 と、無言で固まっている。

角成「僕も一緒に行こうか?」

 祐樹上目遣いに、

祐樹「 ……きみ、強いの?」

角成「ぜんぜん。これまで殴られたことならあるけど、人を殴ったことなんて一度もない」

 と、明るく笑って言う。

祐樹「だったらいいよ、迷惑だろうし…」

 と、また下を向く。

角成「昨日のこともあるから、僕も行くよ」

祐樹「 ……」

 またしても無言。

角成「ほら、あれだ。むこうに十発殴る体力があるとしたら、僕が半分受け持てば一人五発ずつで済むでしょ? それくらいのことしかできないけど…」

祐樹「昨日のお姉さん、……また来てくれないかな…」

 と、つぶやくように。

角成「仕事中じゃないかな? この時間だと」

祐樹「そっかぁ」

 顔がくもる。

祐樹「殴られるかお金取られるよ、行くと」

角成「そのことなら大丈夫。絶対にお金は取られないよ」

祐樹「?」

角成「今、一円も持ってない」

 と、その一言で二人の間の空気がほぐれ、お互いの表情も柔らかくなる。

祐樹「じゃ、お言葉に甘えて、一緒に来てもらえる?」

角成「うん、大船どころか、泥舟に乗ったつもり、程度だろうけどね」

 二人は微笑み合った。

角成「僕、河内 角成」

 と、遅ればせながらの自己紹介。

祐樹「あっ、僕は…」

角成「浮孔 祐樹クンでしょ。きみのお母さんがそう呼んでた」

祐樹「あっ、そっか」

 と、まだ少し微妙な空気のまま二人は歩き出す。

角成「取られた物『形見』って言ってたけど、おじいさんの?」

祐樹「うん」

 と下を向いたまま答える。

角成「どんなもの?」

祐樹「コルク」

角成「コルクって、あの、木みたいな?」

祐樹「そう、シャンペンの栓。キノコみたいな形の。 ……僕が病院に行った時、おじいちゃんが握ってた」

角成「 ……」

祐樹「僕が行くまで手の平が開かなかったのに、僕が手を握ったらすぐに開いてそれがシーツの上に落ちたんだ」

角成「うん」

祐樹「看護師さんが『おじい様はまるでキミを待ってたみたいね』って。僕もそう感じた」

角成「そっか。それは大事なものだね」

祐樹「うん…… 」

角成「何とかお願いして。返してもらわなきゃね」

祐樹「うっ、うん。 そっ、そうだけど……」

 と、かなり怖気づく。



 昨日角成が大神様と来た川原の少し下流にある橋。

 まばらに車が橋上を行きかう。

不良A「来たぞ」

 その橋の下に、昨日の不良と数人が待っている。

 不良たちが立ち上がり、バットや木刀を持っているヤツまでいた。

モヒカン「なんや、、昨日のヤツも一緒か? ちょうどええわ、借りは早いうちに返す主義やかららな」

 と、少し強がり気味に言う。

 不良B「お~い、財布持って来たか~。忘れたんやったら、ママのカードでもええぞぉ~」

 不良たちがウシャウシャと品なく笑う。

角成「すいませ~ん、うちのママもパパもグランマも、つい最近自己破産してブラックリスト入りしたばっかりなんで、カード作れないんですよぉ~」

祐樹「ちょっ!」

 と、角成の大胆な発言に焦る。

不良A「上等やんけ」

 と、『ブンッ!』とバットを一振り。

角成「うわっ、困ったなあ。バットで五発×六人かあ。これは想定の範囲外だわ」

祐樹「どっ、どうしよう……」

角成「う~ん、どっしよっか? とりあえず笑おうか?」

 と、角成は、

角成「はっはっはっはっ」

 と大声で笑った。

 その横で祐樹が不安そうに角成を見ている。

不良A「何笑ろとんねん、ソイツっ! ナメとんか? それか、頭おかしいんか?」

角成「そういう訳ではなく~、こっちにも色々都合とかありましてえ~」

 と、その言葉にモヒカンが反応し、

モヒカン「昨日のあの女が、また来るんちゃうか?」

 と、言って、不良達が緊迫する。

角成「今日はムリっぽいですよ、若菜姉ちゃんなら」

祐樹「あの、ちょっと、それを今言わなくても……」

 と、あまりにも空気を読まない角成に、祐樹はおろおろする。

 と、その時、モヒカンが前に出て角成の胸倉を掴み、

モヒカン「覚悟はできてるんやろなぁ、おい!」

 と、スゴみ、祐樹は後ずさる。

角成「う~~んとぉ、あんましできてないんですよね」

 と言った角成を、モヒカンは『ドン』と突き飛ばす。

 角成しりもちをつく。

 その時、角成のお尻のポケットから『ポキッ』と何かが折れた音がした。

オタク「いいよね、Z小町ってっていいよね~。おたくは誰推し?誰推し? 僕ずっとナベさん推しだったんだけど、一身上の都合でカタミナさん推し、でもやっぱり~……」

 と、折れた竹筒から突然オタクの霊が飛び出し、一方的に話し始める。

不良A「なっ、なんじゃ! おまえっ!」

 と、オタクさんに向けて木刀を一振り。

 だが、木刀はオタクさんを通り抜ける。

オタク「危ないなあ、何すんだよ。当たったら怪我するじゃないか」

 と、すり抜けた不良Aの木刀を掴み、あっさり取り上げる。

大神様[かっくん、しばらくはあのままにしとこ。アイツが不良の注意引き付けてくれる。もし面倒なことになったら、私が食うてまうから~、大丈夫よっ]

 と、大神様が角成の肩に前足の肘をかけて後ろ足を交差させて立っている。

角成(大丈夫? 絶対に取り逃がしたりしない? もしそんなことになったら僕、みんなに顔向けできないから……)

 と、大神様だけに聞こえるように心で言った角成に、

 大神様は人差し指(?)で橋上を指す。

 そこには玄宗さんが欄干から下に向けて、缶コーヒー(飲みかけ)をモヒカンに当てようと狙いを付けていた。

オタク「ちょっとこっちに来て語り合おうよ。ね、おたくも好きでしょZ小町?」

 と、恐怖に震える不良Aと肩を組むが、黙って不良A は走り、その後をオタクさんが、

オタク「お~~い、もうちょい語り合おうよ~」

 と、追いかける。

 その時、ボーゼンと見ていたモヒカンの頭に缶コーヒーが命中し、中身がモヒカンにかかる。

モヒカン「イッテェ。なんじゃっ? 誰やコラァ!」

 と、その時、 橋上から若菜が顔を出して、

若菜「スキンヘッドの方が似合うって言われたことない?」

 と、人差し指と中指を『チョキチョキ』しながら言った。

モヒカン「えっ?」

 と、目が点。

モヒカン「なんやねん、くっそぉ、嵌められた、やっぱし来たやんけ!」

 と、ヤケになり、

モヒカン「こんなもん、くそっ!」

 そう言って、祐樹の形見のシャンペンのコルクを、川に向かって投げる。


 コルクは偏芯して妙な軌道を描いて飛ぶ。


般若「玄ちゃん! アレは水に濡れたらアウト。なんとかして!」

 と突然現れた般若さんが言う。

若菜「ダーリン、男なら飛べ!」

 と若菜が、袖と襟首をつかみ、玄宗さんをコルクの方に向けて、

若菜「どりゃっ!」

 と、橋上から投げ飛ばす。

玄宗「くっそ~っ! やっぱりこうなるんかぁぁぁ~」

 と嘆きながら、玄宗さんは空中で体勢を立て直し、シャンペンのコルクを角成に向けて空中でボレーキック。

玄宗「あとは任せたっ!」

角成「よっしゃっ!」

 と一直線に向かって来たコルクを受けようと、両手を前につき出す。

 が、『スカッ』と両手すら合わず、コルクが角成の額に「ペシッ」っと当たり、ポトリと地面に落ちる。

 同時に玄宗さんが川に、バッシャーンと水柱を上げて落ちる。


般若「かっくん早くそれを拾って!」

 と、角成がシャンペンコルクを拾うためにかがむ。

 と、不良Cが角成を後ろから殴ろうと振った、木製バットが空を切る。

若菜「どぅぉりゃー!」

 と、若菜のとび蹴りで不良Cが吹っ飛ぶ。

 そして、不良Cのバットがクルクル回転して宙を舞い、『スチャッ』っと、若菜が右手でキャッチ。

若菜「バットで殴られたら痛いって、キミ知ってる?」

 と、言いながら若菜がバットを肩にかつぎ、蹴られて倒れた不良Cに向かってゆっくり近づく。

 不良Cは尻餅をついたまま、情けない顔で後ずさる。

 不良Cを助けようと不良Dが、護岸された川岸から二人に向かって駆け出そうとした瞬間、『ガッ!』と、足首を誰かに掴まれる。

不良D「なんだ?」

 と、不良Dが振り返って自分の足元を見て、驚き尻餅をつく。

 貞〇っぽい誰かが護岸から、不良Dの足首をつかんでいた。

不良D「ひぃぃぃぃ! さ○子ぉぉぉ!」

 と、持っていた木刀をブンブン振り回す。

 〇子もどきは「パシッ!」とその木刀を掴み、

玄宗「ァァァァァ!」

 と、長い髪のように頭についたアオミドロから水を滴らせ、〇だ子のように目玉をむき出しながら言う。

 不良Dあっけにとられる。

玄宗「なぁ、ヒドイと思わん? 普通、橋からダーリン呼ばわりする人間を投げ落とす? できる? キミできる?」

 とずぶ濡れで泣きながら言う玄宗さんに、不良Dはブルンブルン顔を横に振る。

 それを見た若菜、

若菜「あらダーリン、お早いお帰りで何より♪」

 バットをかついだまま軽く投げキッス。

玄宗「早よ帰らんと、地獄までノンストップ片道切符購入になるやんけ、なぁ」

 と、玄宗さんは涙目で不良Dに同意を求め、不良Dはブンブン、ガクンガクン頭を縦に振る。

 若菜が振り返って不良Cに、

若菜「さっ、お料理の時間です。ご希望は? たたきにする? それとも三枚におろす? それとも~」

 と言った直後、

 バットを「バキッ!」 と太ももで折り、

若菜「串に刺してB―B―Qとか?」

不良C「いえ、あのっ、そのっ……」

若菜「どうした? 男の子。 何か言いたいんなら、今ここで、ハッキリ言うてみ?」

不良C「すいませんでした~」

 と、平身低頭して若菜に謝る。

若菜「私に謝ってどうする! 謝る方向が全然違う!」

 と言って、不良Cの頭を軽く『ペシッ』と叩く。

不良C「ごめん、悪かった、許してくれ」

 と言って角成と祐樹に頭を下げる。

 角成と祐樹は、

祐樹・角成「はぁ、こちらこそすいませんでした」

 と、なんとなくぺこりと頭を下げる。

若菜「そういう訳で、文句ある人~」

 と若菜が言うと、不良達は首を横にブンブンふる。

 その横で、玄宗さんが、ゆっくりそっと、手を肩の高さまで上げたた時、若菜が無言で『ブンッ』と折れたバットを投げる。

『ズドッ』と玄宗さんの足元に、折れたバットが突き刺さる。

 玄宗「なんでもありません、なんでも……」

 と、静かに視線と共に、手がゆっくり下がっていく。

 周りの不良達も、そっと見ないフリをする。


 般若さんが角成と祐樹に近づき、

般若「あなたが祐樹クンね。おじい様のパソコンから、抹消されたデータが、ちょっとだけ復元できたんで、その報告に」

 と言って、般若さんはプリントアウトしたスクリーンショットを取り出す。

般若「復元データによると、おじいさんが祐樹クンへ渡したかったデータは、保存先がマイクロSD、ってことまでは何とかわかったんやけど、元のデータは何度も上書きされてたから復旧できへんかったんよ」

角成「じゃあ、諸々解除できて起動とか、できたんですか?」

般若「うん、それはでけへんかったから、SSD 取り出して、色々解除して、直接データ覗いた」

 と、説明を聞いても角成は「?」となっている。

般若「で、ちょっとそれ貸してくれる?」

 と、般若さんが祐樹の持つシャンペンのコルクを指差し、そして受け取る。

般若「ちょっと待ってね」

 と言って、般若さんが髪を止めていたヘアーピンを抜く。

 般若さんの長い黒髪が『バサァ』とうねる。

 般若さんは掌の上でシャンペンコルクを転がせて偏芯具合を確かめ、そして細いヘアピンを、コルクの裂け目を探し突っ込む。

 そして、コルクの中からマイクロSDを慎重に引っ掛けて取り出した。

般若「はい、どうぞ。おじい様が祐樹君に本当に渡したかった物って、実はこれやと思う」

角成「そんなところに、そんなものが入ってたなんて……」

祐樹「あっ、ありがとう」

 と、角成は驚き、祐樹が般若さんを見つめながらお礼を言う。

 早速祐樹はマイクロSDを自分のスマホに挿す。

 『コツコツ』という、独特の操作音だけがあたりに響く。

 画面に文字が並ぶ。


『祐樹へ

 ラブレターの代筆はそれこそ数十年ぶりなので、少し古臭い文章になっていてもそこは勘弁して下さい。

 メールでラブレターを送るのだけは、やめなさい。

 出来れば郵送よりも、手渡しの方が良いでしょう。

 だが、どうしても恥ずかしい時は、その人の友人に頼みなさい。

 がんばれ、祐樹』


祐樹「じいちゃん」

 と、祐樹は涙ぐむ。

 そして祐樹は涙を拭いて、

祐樹「ありがとうございました」

 と、般若さんと角成に頭を深々と下げた。

般若「どういたしまして。良かったね」

 そう言って、

般若「玄ちゃん、お風呂沸いてるよ。どうする?」

 と、振り返って玄宗さんに声をかける。

 玄宗さんはしくしくうなずく。

若菜「般若さん、悪いけどダーリンのこと頼むわ、まだ事務仕事残ってんねん」

般若「オッケ~」

 と般若さんがウインクする。

角成「家の近くまで送るよ」

 と、祐樹に言った。

不良D「じゃ、俺達も解散すっか?」

 と、その時、モヒカンが、

モヒカン「あのぉ、ちょっと……」

若菜「何? まだ文句あんの? よし、こっち来い、今から毛を一本ずつ抜いてスキンヘッドにしたる!」

モヒカン「違います。文句があるんじゃなくって……」

若菜「じゃあ何や? 早く言えっ!」

モヒカン「おい、お前ら」

 と帰りかけた角成と祐樹に、

モヒカン「ほんま、悪いことしたな、許してくれ」

角成「いえ、こちらこそ姉ちゃんが乱暴なことを」

モヒカン「それは、自業自得やから、気にせんとって……」

 と、小鼻の横をポリポリかきながら。

角成「じゃ、失礼します」

モヒカン「それから、そっちのヤツ、あのなぁ……」

 とモヒカン少し焦り気味に祐樹に向かって言う。

祐樹「はい? なんでしょ?」

モヒカン「お前も色々と、本当にすまなかったな」

祐樹「いいんです、もう。こちらこそすいませんでした」

若菜「感心感心。おいモヒカン、今度どっかで会ったら缶コーヒーおごったげる」

モヒカン「あ、どもっす」

 と、照れて頭をかくが、

若菜「その時血の味のするコーヒーかどうかは、お前次第やぁ~」

 と、にらむ。

 玄宗さん、モヒカンの肩を黙って『ぽんぽん』と叩き、二度三度と頷く。


 角成と祐樹が並んで土手の上を歩く。

角成「祐樹クンのおじいさんはどんな人だったの?」

祐樹「最高のじいちゃんだったよ」

角成「最高か、いいね。そんなにスゴかったんだ」

祐樹「うん、竹トンボの作り方からパソコンの修理とかセキュリティー。……ハイテク・ローテク問わず、聞けば何でも教えてくれたなぁ」

角成「それは本気でスゴイ」

祐樹「うん。それに色んあとこに連れて行ってくれたり。……うちはお父さんが長いこと単身赴任だったから、お父さんの変わりをしてくれてた……、と思う」

角成「ふ~ん」

祐樹「もう死んじゃったから、本当にそう思ってたのか、は確認できないけどね」

 と、祐樹は寂しそうに微笑む。


 と、二人は事故現場を通りかかる。

 どちらともなく立ち止まり手を合わせる。


 少し離れたところからスマホを手にして、モヒカンが角成達を見ている。

 じっとスマホを見つめたあと、

モヒカン「よしっ!」

 と言って、遠くから軽く手を合わせたあと、一人歩き出す。


 祐樹の家の近くまで来て、

角成「じゃ、僕はここで」

祐樹「今日は色々ありがとう」

角成「いやぁ、どっちかって言うと、僕サイドが撒いた種っぽいから、僕からはごめんなさいってことで」

 と、角成が笑う。

祐樹「あのぉ、一つだけ教えて欲しいんだけど……」

 と、祐樹が意を決したように言う。

角成「何?」

祐樹「あの若菜って人と玄さん? ……ダーリンって呼ばれてた人ってどういう関係……」

 と頬を赤くして祐樹が聞く。

角成「あぁ、あの二人なら、付き合ってるわけでもないし、まぁ、えっとぉ、健全な独身男性と独身女性、うん」

 と、角成は色々察して、色々控えめに小さな声で答える。

祐樹「そっか、ありがとう」

 と、祐樹の顔が『パアッ』っと明るくなり、角成の手を握ってブンブン上下に振る。


 祐樹を送った帰り道、角成は、

角成「なんか忘れてる気がする?」

 と、『?』を頭上に出しながら歩く。



 その頃、先ほどの橋から二キロほど下流の河原で。、

オタク「僕としては生足は論外でニーソかハイソなのよ。でもわかってないヤツ? もしくはにわかなヤツとかは、生足信仰にひたっちゃって、ほんとバカみたい、ってね。 それから……」

不良A「 ……」

 オタクさんの隣に座って、黙って泣いてた。



 数日後


 於 玄宗邸。

 角成と般若さんが向かい合って、緑茶を飲んでいる。

玄宗「うお~っす」

角成「あっ、玄宗さんこんにちは」

 と玄宗さんが横歩きに、顔の右側だけを角成達に向けている。

玄宗「ひき逃げ犯、捕まったって~」

角成「……って言うと、あのおじいさんの?」

玄宗「うん、どうやら有力目撃証言が証拠と共に出たらしい」

般若「有力な証言と証拠?」

玄宗「うん、さっき免許証の更新に警察に行ったら、この前の婦警さんが教えてくれた」

般若「あ~あ、また若菜ちゃんにお仕置きされる」

玄宗「それなら安心して……」

 そこで玄宗さんくるっと反対を向く。

玄宗「さっき終わったから」

 と、腫れ上がった左まぶたを指差す。

般若「(小声で)アチャー」

玄宗「それが証言者っちゅのが、モヒカン頭やったらしい」

角成「ブーッ!」

 と、飲んでいたお茶を吹き出し玄宗さんの顔にかかる。

角成「ごめんなさい。……それって、本当ですか?」

玄宗「しみるねぇ、今日のお茶は……」

 と、般若さんが差し出したタオルで顔を拭きながら。

玄宗「うん、どうやらあのモヒカン君みたい。事故当日に近くのコンビニで、顔色真っ青なトラックの運ちゃん見て、その直後何気なくみんなで写メ撮ったらしい。そこに運ちゃんとトラックのナンバーもバッチリ写ってたって。それ突き付けたら運ちゃんがゲロったと」

角成「なるほど~、そうだったんですか~」

般若「良かったね」

 と、その時、角成のスマホが鳴る。

角成「祐樹君? 今話してたんだけど、なんて言うかそのぉ……」

祐樹「やっと捕まったみたいで、これで本当に一段落つきました」

角成「そうだね」

祐樹「ちょっとお願いがあるんですけど、時間ありますか?」

 角成はキュピーンと来て、

角成「うん、いいよ」

 と、うれしそうに答える。

祐樹「じゃ、例のコンビニの前に今からいいですか?」

角成「今から? オッケ~イ」

 電話を切った角成に、

般若「祐樹君と会うん?」

角成「はい」

般若「じゃあ、ちょっと待って」

 と言って般若さんが部屋を出て、そしてすぐに戻る。

般若「パソコン直ったから祐樹君に届けてくれる?」

角成「さすが般若さん、って言うか、祐樹君のお母さんから僕に『あげる』って言われたんですけど、そのパソコン……」

般若「それは『壊れてる』と思たからでしょ? でも、これは壊れてないどころか、おじいさんがパーツ買って自分で組立てて、まだ三か月も経ってない、新品同様やよ」

角成「……はぁ」

般若「それにね、かっくんが使おうと思たら、元々入っているデータを、消去したりするでしょ?」

角成「あっ、そうか……」

般若「このパソコンには、おじい様の大切なものが、たくさん詰まってた」

角成「 ……」

般若「大切なものの中にはね、祐樹君がいつ結婚しても、花束贈呈のバックで使えるようなスライドまであったんよ」

角成「はぁ」

般若「おじい様が大切だったものの本質って、祐樹君の存在、やったんやねぇ」

角成「 ……」

般若「そういうデータ全部消して、知らん顔して自分の物にできる?」

角成「すいません、それはできないです。 はい」

般若「だから元の持ち主、又は本来受け継ぐべき人に、返そっか」

角成「は~い」

 と、少しバツ悪そうに返事する。

般若「あっそうそう、それと、パスワードからなにからパソコン起動に関する関門は全部解除してあるから、もう普通にスイッチオンで即起動できるからね。それと、OSの最新アップデートもしといたし、……それから~…………」

角成「なんですか?」

 般若さんが角成の耳元に小声で、

般若「エッチな履歴もデータも全部消しといたから、未成年も安心してそのまま使い続けられる」

角成「えっ? それは、……はい」

 気を取り直し、

角成「どうやって調べたんですか? ……パスワードとか」

般若「さっき聞いたの、本人に」

角成「えっ? おじいさん思い出したんですか?」

般若「うん、マイクロSDをコルクの中に入れたこと=隠す、やから、知らず知らずのうちに記憶にロックかけてたのかもね。そのロックが外れて、色々思い出せたみたいやったから、ついでに聞いたの」

 と、般若さんは優しく『うふふ』と笑った。


 そして、

般若「あっ、そうや、私も思い出した!」

 と、真剣な顔になって言う。

玄宗・角成「なになに?」

般若「ちょっと二人に、真剣に話しせんといかん事があるんよ」

玄宗・角成「?」

般若「オタクさん覚えてる?」

玄宗・角成「あーーーっ!」

 と、お互いを指差しながら叫び、『ガタン』と椅子を鳴らし立ち上がる。

般若「あの人なら待合で、次の満月待ちしてるよ」

 と、玄宗さん・角成、共に『ホッ』と胸を撫で下ろす。

般若「たまたまあの時オタクさんにつかまった不良クン、あの子が実は、隠れZ小町ファンやったらしくって、超絶話が合ったらしいんよ」

 と、玄宗&角成『うんうん』と聴いている。

般若「で、あのオタクさんはソレ系のイベントに行く途中に、心臓麻痺で亡くなっちゃたから、誰かと、話したくて話したくて話したくて話したくて話したくてしかたなかったのね」

角成「でも、あの時の不良さん、オタクさんに捕まって泣いてませんでしたっけ?」

般若「あれはね、趣味とか興味が同じ人に、や~っと出会えた喜びと、その人が、既に亡くなっていた、という悲しみの涙、の混合やってんて。あの時にあの不良クンも泣いて喜ぶほど盛り上がったから、それで満足して成仏する気になったらしいんよ」

角成「あのぉ、本当にすいません。オタクさんのこと、完全に忘れてました」

般若「今回はたまたま結果オーライやったけど、私も忘れてたから、本当に注意しよね」

玄宗・角成「は~い、すいませんでした~」


 角成が祐樹に返すノートパソコンを包んだ梵字文様のふろしきを抱えて歩く。

 そこに玄宗さんが追いつく。

玄宗「俺、ヒマやから一緒に行くわ」

角成「えっ、でもぉ……」

玄宗「なんや? 困った顔して? 俺一緒やったら邪魔か?」

角成「いえ、邪魔ということはないけど……、ちょっと……」

角成心の声(今から『ラブレター配達=キューピッドするんですよ~』とか言えないしなぁ。どうしようかなぁ……)

玄宗「なんか色々事情ありそうやな。よっしゃ、俺はコンビニの中におるわ」

 と、空気の読める玄宗さんは、コンビニの店内に消え、角成、ホッとする。


 祐樹コンビニ前に現れ、角成を見つけペコリと頭を下げる。

角成「先にこっちの用件済ませていい?」

祐樹「何ですか?」

角成「預かってたコンピューター、修理終わったから返しとくね」

祐樹「でも、それ……」

角成「これ、僕は使えない。おじいさんが祐樹君の思い出を、いや、祐樹君への愛情を一生懸命詰め込んでた物だから」

祐樹「 ……そうですか。そういう物だったんですか」

角成「だからこれは、祐樹君が使うべきだと思うんだ」

祐樹「わかりました。ありがとう」

 と、祐樹は頭を下げる。

祐樹「それと、お願いがあるんですが……」

角成心の声 (そらきた)

祐樹「あのぉ……」

 と、祐樹は持っているワンショルダーのリュックから、手紙入り封筒を取り出す。

 宛名のところに『若菜さ……』まで見える。

 そこに、コンビ二の出入り口から、玄宗さんが来る。

祐樹「あっ……」

角成心の声(マズイ! 何とかしないと)

角成「玄宗さん、あのね、これは違うんだ」

 と、あわてる角成を『スッ』と追い越した祐樹が、玄宗さんと正面から対峙する形に向かい合う。

玄宗「おうっ、祐樹君まいどっ、飲む?」

 と、玄宗さんがコンビにで買ってきた、お茶のペットボトルを差し出す。

祐樹、下を向いたまま、

祐樹「ダーリンさん、いえ、玄宗さんっていうんですか? 名前」

玄宗「うん、だいたいみんなそう呼んでる」

祐樹「単刀直入に聞きます」

玄宗「はいよ、なんでもどうぞ」

祐樹「あの人、若菜さんって言いましたっけ? あの人とはどういう関係ですか?」

角成「あのね祐樹君、若菜姉ちゃんは……」

祐樹「角成くんは黙ってて下さい。僕は玄宗さんの口から、直接聞きたいんです」

 と、少し激しく言う。

玄宗「えっと、こう言うと若菜ちゃんにまたシバかれるけど。……現状で俺は、友達よりもっと大切な仲間、それ以上には思ってないんよ」

祐樹「本当ですか?」

 と玄宗さんの顔を覗き込んで言う。

玄宗「うん、今のところはね。この先どっちがどう心変わりするかはわからんけど」

祐樹「本当なんですね?」

 と玄宗さんの顔を、いっそう深く覗き込んで言う。

玄宗「うん、本当」

祐樹「よかったぁ~」

 と、パーッと表情が明るくなる。

祐樹「じゃ、改めて」

玄宗「んっ? 改めて?」

 と、玄宗さんは不思議そう。

祐樹「これお願いします」

 と、玄宗さんに手紙入り封筒を渡す。

玄宗「はいよ、これを渡せばええの?」

 と、笑顔で答える。

祐樹「いいえ、あなた宛てです。読んで下さい」

玄宗「?」

 笑顔固まる。

祐樹「で、……返事とかいただけるとうれしいな、とか」

玄宗「??」

 笑顔固まり、から、ゆっくり真顔になる。

祐樹「今すぐ、じゃなくてもいいんで」

玄宗「 ………………」

 そして封筒の宛名をよく見ると、


『若菜さんのダーリンさんへ』


祐樹「じゃ、連絡先は角成くんに聞いて下さい」

 と祐樹はボーゼンとする角成からパソコンを受け取り、

祐樹「~♪」

 と、走り去る。


角成「おっと、もうこんな時間」

 と、腕時計などしていない手首を見て、その場から逃げ去る。


 電柱の影で半透明の祐樹のおじいさんが、

老人「私、成仏できるん?」

般若「できるけど、う~ん、……この場合問題は、満月の日か、新月の日か、……かな?」

 その横でおじいさんの肩にそっと手を置いて、般若さんが一つ頷いた。

 そして、玄宗さんは、受け取った手紙を持ったまま、フリーズしている。


 そこにオタクに捕まった不良Aが、他の仲間と自転車で通りかかり、

不良A「あっ、ダーリンさん、ち~っす」

 と、固まる玄宗さんに、一方的に挨拶して通り過ぎる。

不良A「今度メイド喫茶行こうや?」

仲間「えっ? お前いつ趣味変わったん?」

不良A「カミングアウトって言うて、遠慮なく」

 そう話しながら通り過ぎる不良Aのスマホのケースには、

 『推し!』と書かれたZ小町のストラップが揺れていた。


 ハートのありかと矢の行方

              終

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