前
おじさんになった。
鏡の中にいるおれはおじさんである。もうお兄さんと呼べる時期は過ぎ去った。
人生はおじさんの季節が1番長い。おれはその1番長い季節に足を踏み入れていたのだ。
これからはおじさんの自覚を持って、人当たりを良くする意識を絶やさずに生きていこう。
バイクに乗って会社に向かう。
5,10日はトラックが増える。誰もがイライラしながら道を行く。
おれもすり抜けるタイミングを掴めずにいたが、環状道路と交差するアンダーパスに入るとき頭上に「この先、白バイ注意」という横断幕が見えて速度を緩めた。
その横断幕の横で私服のおじさんがアンダーパスを走るおれや他の車に手を振っている。
なんだか分からないが、おれは車列をすり抜け走行するのをやめてトロトロとバイクを走らせた。
そうやって大人しくトラックの後ろに並び排気ガスを浴びまくっているおれの傍を、一台の大型バイクが猛スピードで走り抜け……た瞬間に頭上で白バイのサイレンが響いた。
わざわざ親切なおじさんが教えてくれたのに、間抜けな野郎がいたものだ。おじさん、ありがとう。
アンダーパスを出た先で白バイに切符を切られたそいつを横目に職場に向かい、駐輪場にバイクを停めて缶コーヒーやらを求めてコンビニに入った。
入り口の自動ドアが開き、外の冷気と店内の温かい空気が混じる。ちょっと気持ちいい瞬間だ。
補充の時間なのか揚げものがジュワジュワと鳴っていて、だれかの注文したおでんや肉まんが香る。
思わずビールに手が伸びそうになった。……いや、学生の頃だったら間違いなくそうしていた。
大人とは裏切られた青年の姿である。自分と言う青年を裏切ったのは自分だ。
せめて今日の晩めしは自炊をやめてコンビニ飯にしようと心を決めて列に並ぶ。
するとレジの手前におじさんが立っているのが見えた。
「おはようございます、セルフレジご利用ありがとうございます。セルフレジご利用の方はアプリやカードなどを予めご用意してお待ちください」
そう声を掛けて和かに客を誘導しているが、おじさんは私服である。完全にインディーズの店員だ。
しかしおじさんがそう言ってくれるお陰でいつもは大混雑のセルフレジがスムーズに回転していた。おじさん様々である。




