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第一章:標の残像(8)


「……結衣さん」


 思わず声をかけてしまった。

 彼女は弾かれたように顔を上げ、僕を見ると、瞬時にいつもの柔らかな微笑みを作った。

 その切り替えの速さが、かえって僕の胸を痛くさせる。


「佐藤さん、どうしたんですか? 眠れませんか?」


「いえ、少し水が飲みたくて。……今の、大丈夫でしたか?」


 僕が医師の去った方向を指差すと、彼女は困ったように眉を下げ、自身の腕をさすった。


「お恥ずかしいところを見せちゃいましたね。よくあることなんです。お医者様と私たちは、見ている場所が少しだけ違うから」


「あんな言い方、ないですよ。結衣さんは患者さんのことを思って言ったのに」


 僕が憤ると、彼女はふっと視線を落とし、廊下の暗がりに向けて呟いた。


「ここはね、誰かの『悲しみ』や『苦しみ』を、バケツで受け止めるような仕事なんです。でも、私たちのバケツも、いつかは一杯になっちゃう。だから、誰かに八つ当たりをしたり、誰かを責めたりして、みんな自分のバケツを空にしようと必死なの」


 彼女は自嘲気味に笑い、自分の頭の上に手を置いた。


「同僚からも、よく言われるんですよ。『鈴木さんは真面目すぎる』『もっと適当に受け流せばいいのに』って。でも、受け流し方がわからなくて……」


 そう言った彼女の指先が、きつく結い上げられた髪の根元を強く押さえていた。

 髪をアップにしているのは、清潔感のためだけではないのだ。

 崩れそうな自分を、物理的に、そして精神的に縛り付けるための、必死の防衛手段なのだ。


「佐藤さん。私のことは気にしないで。私は、貴方を救う側の人なんですから」


 そう言って彼女は僕の背中を優しく押し、病室へと促した。

 けれど、その手のひらは、僕の記憶にあるどの手のひらよりも冷たかった。

 僕は、彼女が守ろうとしている「鈴木結衣」という存在そのものが、

 いつかその長い髪と一緒に、バラバラに崩れてしまうのではないかという予感に、

 背筋が凍るような思いがした。


この作品はAI40%、筆者60%で書きました。

原案100%筆者。

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